30by30とは|意味・国内の取り組み状況と企業への影響を解説

30by30とは、国際会議で採択された環境保全目標で、2030年までに地球上の陸地および海域の30%に対する保全を目指すというものです。この目標は、生物多様性が失われることを防ぎ、持続可能な環境を実現するための重要なステップとされています。すでに日本国内でも政府・自治体・企業による積極的な取り組みが始まっています。今回は30by30の意味や背景、国内の具体的な取り組み状況、企業が実践すべきことについて詳しく解説します。

30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは

30by30は、2030年までに地球の陸・海それぞれの30%以上を自然環境エリアとして保全するための目標です。30by30を取り巻く背景や日本の取り組み状況、30by30に関連して語られることの多い「OECM」との関係性についてわかりやすく説明します。

30by30が注目される理由

30by30が注目されるようになったきっかけは、2021年6月に英国で開催されたG7サミットで、コミュニケ(公式な場での声明書)の付属文書として「G7 2030年 自然協約(G7 2030 Nature Compact)」が合意されたことにあります。この文書の中では、2030年までに生物多様性の損失を食い止め反転させる「ネイチャーポジティブ」の重要性について述べられています。ネイチャーポジティブの達成に向け、G7各国は自国の陸・海の30%以上の自然環境を保全・保護することを約束しました。

出典:OECMの設定・管理に関するこれまでの成果について(環境省)

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30by30の日本国内の取り組み状況

日本では現在、陸域20.5%と海域13.3%を保護地域として保全しています。国立公園などの保護地区を拡張し、環境保護の質の向上も同時に取り組みながら、徐々に保護地域を広げている状況です。
30by30は、気候変動問題といった社会課題の解決にもつながる考え方です。森林・湿地などの保全・回復によって、温暖化を2℃未満に安定させられることや、自然環境の保全によりハチなどの花粉媒介者が活発になり、作物の実りがより豊かになる効果もあると指摘されています。
日本の保護地域を30%まで効果的に拡大できれば、生物の絶滅リスクが3割減少するという見込みもあり、今後も国内で保護地域の拡大や保護の質向上の取り組みはますます加速すると考えられます。

30by30とOECMの関係性

OECM(Other Effective area-based Conservation Measures:その他の効果的な地域をベースとする保全手段)とは、国の管理ではなく地域や企業の慣習や自発的な取り組みによって守られている場所です。日本国内では、企業が管理する水源や森林、地域が管理する里山などが当てはまります。
2023年度からは、企業や地域が管理する土地をOECMとして認定する「自然共生サイト」の仕組みが開始されました。土地の管理者が申請を出し、管理主体の環境省によって生物多様性保全が図られていると認められれば、OECMの国際データベースに登録されます。30by30の目標達成には、民間が管理する環境保護地区を積極的にOECMとして登録し、国内の環境保護エリアを拡大する取り組みが求められます。
2024年4月には「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案」が可決され、「自然共生サイト」を法制化する動きが始まっています。今後も国をあげて30by30の達成を後押しする活動が活性化すると見られます。

30by30達成に向けたロードマップ

2023年3月「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されました。この戦略は、2030年のネイチャーポジティブ実現を目指し、生物多様性・自然資本を保護し活用することを目指しています。この中で定められた30by30の目標達成に向けたロードマップと具体策について詳しく解説します。

保護地域の拡張と管理の質の向上

日本ではすでに陸の20.5%、海の13.3%を保護地域として保全が完了していますが、今後は国立公園の拡張を実施し、保護地区の割合を増やすことを計画しています。国立・国定公園を新たに指定したり、公園の点検事業をフォローアップすることで、さらなる保全活動の普及を図ります。あわせて希少種の保全といった管理体制の充実も予定しています。

OECMの設定・管理

30by30目標を達成するためには、国立公園の拡張だけでなく、生物多様性が保全されている民間の管理地域を「自然共生サイト」として国が認定する活動も欠かせません。企業が管理する水源地や森、整備された里山、企業の敷地内や都市にある緑地、研究・教育に利用されている自然環境などが対象となり得ます。「自然共生サイト」への認定と同時にOECM国際データベースに登録することで、国際的にも我が国の生態系の多様さを表現する狙いがあります。

保全活動の効果を見える化

政府は2024年を目途に、陸域全域の生物多様性の現状や保全上効果的な地域を可視化したマップの提供を目指しています。身近な里山や都市部の生物多様性が豊かな場所の確保を視野に入れ、国内に蓄積された生物の分布情報をもとに、マクロ生態学やデジタル技術を活用して保全活動の効果の見える化を推進します。今後はシステム開発やモニタリング機能・マップとの連携も予定しており、保全活動の効果が随時把握できる仕組みを構築する計画です。

生態系が健全に機能するための取り組み

自然環境を維持し、生態系を健全に機能させるためには、すでに保全された地域だけでなくその周辺地域においても自然環境の質を高める必要があります。「自然共生サイト」に認定されたOECMの成功事例を情報公開し、新たにOECM認定を目指す企業へマニュアルとして提供することや、外来種対策・希少種の保護といった保護管理体制の充実を図ります。

関連施策との連携

30by30の活動を行政のみに留めるのではなく、地域レベルで行われている各施策と連携することで、さらに実現への道筋を作ります。脱炭素・地域循環共生圏・有機農業・都市における緑地、河川等の生態系ネットワークなどに取り組む事例について、環境保全活動を先行して実施している地域や、今後新たにOECM認定を目指す企業へ向けて積極的な情報発信を行い、さらに広範囲での実践を加速させます。

30by30の実現に向けて企業ができること

30by30を達成するには、政府だけでなく民間もその重要性を理解し、具体的な取り組みを行う必要があります。ここでは企業ができることについて紹介します。

自社が保有する土地のOECM申請を検討する

企業活動を行う際は生物多様性へ最大限の配慮をしながら、企業が自ら管理・所有する土地について、OECMへ申請できる可能性がないか積極的に検討しましょう。実際に企業や団体等が申請したOECMには、以下のような事例があります。

・つくばこどもの森保育園(社会福祉法人花畑福祉会/茨城県):保育及び環境教育のための水田ビオトープ
・三井住友海上駿河台ビル及び駿河台新館(三井住友海上火災保険株式会社/東京都):ビルの屋上緑地及び壁面緑化、植栽、街路樹
・日本製紙 鳳凰社有林(日本製紙株式会社/山梨県):高山植物等が生息する環境林分

出典:資料1 OECMの設定・管理に関するこれまでの成果について(環境省)

30by30を経営へ組み込むための仕組み構築

企業が30by30に関する取り組みを行う際は、適切な目標設定と実行が重要です。30by30をさらに実現に近づけるため、2022年に政府は自治体・企業・団体等の有志連合である「生物多様性のための30by30アライアンス」を設置しました。参加要件は、以下のいずれか一つに取り組むこととしています。

・所有地や所管地の国際OECMデータベース登録を目指す
・保護地域の拡大を目指す、拡大を支援する
・保護地域、及び国際OECMデータベース登録を受けた(受ける見込みの)エリアの管理を支援する
・自治体の戦略に30by30目標を取り込み、保護地域の拡大、国際OECMデータベース登録及びその管理の支援を推奨する
出典:生物多様性のための 30by30アライアンスの発足について(環境省)

また国は、30by30目標に積極的に取り組む企業について、金融機関に対してサステナブルファイナンスを推進することも求めています。

30by30の取り組みについて情報発信する

30by30について、企業から取引先・投資家・顧客などのステークホルダーへと広く情報発信を行うことも重要です。30by30目標に貢献する製品やサービスを取り扱い、環境配慮型の消費を社会に促すことや、30by30目標やOECMに関連する取り組みが国内外で適切に評価されるよう、積極的に情報発信を行いましょう。

まとめ

30by30は、生物多様性を守り持続可能な未来を実現するために重要な役割を果たします。日本国内においても、政府・自治体・企業がこの目標に向けた取り組みとして具体的な保護活動や政策を実施しています。企業にとって30by30は、環境保護への責任を果たすだけでなく、持続可能なビジネスモデルの構築や企業価値の向上・競争力強化にもつながるテーマです。今後の企業活動では環境保全を考慮した戦略が求められるため、ぜひ自社でできる範囲から実践を始めましょう。

【参考】