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近年注目を集める「削減貢献量」または「Scope4」と呼ばれる考え方は、企業がグリーン製品・サービスの普及を通じて、社会全体の温室効果ガスの削減に貢献した度合いを評価する考え方です。この記事では、これまで重視されてきたScope1からScope3(サプライチェーン排出量)を振り返りながら、新しい概念である削減貢献量(Scope4)が注目される背景と企業への影響について解説します。
目次
削減貢献量とScope4とは
削減貢献量とは、これまで使⽤されていた製品・サービスを温室効果ガスの削減を促進する⾃社製品・サービスに代替することで、サプライチェーン上の「温室効果ガス削減量」に対する貢献度を定量化する考え⽅です。 企業は⾃社の製品・サービスによって温室効果ガス削減に貢献することをアピールできます。
Scopeの意味
Scopeとは、温室効果ガスの排出量を算定する際に用いられる区分のことです。国際基準のGHGプロトコルでは、Scope1からScope3における排出量の合計でサプライチェーン排出量を求める方法が定められています。以下で従来のScope3までの詳しい意味を整理しつつ、関連する考え方である削減貢献量についても説明します。
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope1は、企業が事業活動において排出する温室効果ガスの量です。燃料の使用(木炭・石炭・石油・ガスなど)や、セメント・鉄の製造といった⼯業プロセスに伴って排出される温室効果ガスがこれに当てはまります。
Scope2:他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope2は、工場や事務所で電気・熱・蒸気などのエネルギー使用時に排出する温室効果ガスの量です。企業は多くの場合、他社から供給を受けて各種エネルギーを使用していますが、エネルギーの生成段階で発生する温室効果ガスは、エネルギーを「作った側」ではなくエネルギーを「使った側」の排出量として算定する必要があります。
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出
Scope3は、Scope1・Scope2以外で企業活動に関連した温室効果ガスの排出量です。原料の調達・製造や、物流・販売、廃棄までのサプライチェーン全体の活動に加え、従業員の通勤や出張などの移動、製品の使用時に排出される温室効果ガスも含みます。
サプライチェーン排出量の「Scope」については、温室効果ガス(GHG)の国際的な算定・報告基準であるGHGプロトコルで定義されています。その中でもScope3は15のカテゴリに分類され、より細かい温室効果ガス排出量の算出が求められます。
【関連記事】 GHGプロトコルとは?Scope1~3や取り組むメリットを解説 |
削減貢献量(Avoided Emissions)
削減貢献量とは、企業がグリーン製品・サービスの普及を通じて社会全体の温室効果ガス削減に貢献した度合いを定量化して評価する考え方です。これまで使⽤していた製品やサービスを置き換えることによって実現する「温室効果ガスの削減」に着目し、より省エネ性能の高い製品の使用・開発を後押しします。
削減貢献量は幅広い企業で活用が期待されています。例えば、建材メーカーが⾼断熱住宅へのリフォームを行い、冷暖房の使⽤が減ると温室効果ガス排出量も削減できます。また、ソフトウェア会社が提供するテレビ会議システムが普及することで、導入した企業の従業員が電⾞で移動しなくなれば、温室効果ガスの削減に貢献したといえます。このように、企業自身の新たな製品やサービスの活用によって排出を抑えることのできた温室効果ガスの量が削減貢献量であり、Scope4とも呼ばれています。
削減貢献量はなぜ注目されている?
これまでのサプライチェーン全体の排出量を算定するGHGプロトコルの考え方(Scope1からScope3)は、企業の排出削減を促進する目的で整備されてきました。しかし、温室効果ガスの排出削減につながる新しい製品・サービスを開発・普及したとしても、今までのGHGプロトコルの考え方では「製品を作るほどに企業の温室効果ガス排出量が増えてしまう」という逆説的な状況が起きていました。そこで、温室効果ガスの排出削減につながる新製品やサービスの開発・普及を行った企業について、その「削減貢献量」を評価すべきだという議論が持ち上がりました。
サプライチェーン排出量(Scope1からScope3)においてネットゼロを目指すことは世界のスタンダードになりつつあり、今後はさらに一歩踏み込んだ削減貢献量への取り組みが広まる可能性があります。Scope3までのサプライチェーン排出量だけでは評価できなかった「削減にどれだけ貢献しているか」という指標は、企業の省エネ製品開発やイノベーションをますます促進することが期待されています。
ただし、削減貢献量の算定方法は未だ確立されていません。世界的な議論や日本政府の方針などの動きを注視しながら取り組みを進める必要があります。
削減貢献量をめぐる世界の動き
削減貢献量をめぐっては、世界中で検討が進んでいます。以下では世界と日本のそれぞれの動向についてまとめます。
WBCSDがガイダンスを公表
日本政府は、2022年からWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)と共同で削減貢献量に関する仕組みづくりを開始しました。同年に開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)においても、WBCSDとともにイベントを行い、削減貢献量の考え方について理解を促進する活動を実施しています。
2023年、WBCSDが公表したガイダンスの中では以下の点に触れています。
- 削減貢献量の取り組みは「グリーンウォッシュではないか」と誤解される懸念もある
- 削減貢献量だけをアピールするのではなく、Scope1から3までをしっかりと取り組んだうえで、削減貢献量の取り組みへと進むべき
- 企業が削減貢献量に取り組むと、ビジネスモデルの変革やイノベーションにつながるメリットがある
今後も新たな示唆が発表される可能性があるため、引き続き注目しましょう。
G7札幌・気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明で言及
削減貢献量については、G7(主要国首脳会議)でも言及されました。2021年から開始した「G7産業脱炭素化アジェンダ(IDA)」において、優先事項の一つとして削減貢献量の評価に関する項目が挙げられています。削減貢献量がグリーン製品・サービスへの投資を活性化させる可能性や、それを受けて脱炭素ソリューション・温室効果ガスの排出が少ない製品の発展が期待できるといった、プラスの側面に着目しています。
削減貢献量(Scope4)の算定に取り組む企業の事例
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業株式会社では、2018年「ダイキン環境ビジョン2050」を掲げ、安心で健康な空気空間の提供と、実質カーボンニュートラルの両立を目指しています。省エネ製品の開発・提供はもちろん、エネルギーマネジメントなどのソリューション提供、特許の無償開放による技術支援など、自社だけでなく産業界全体で削減貢献量増加を実現するための施策に積極的に取り組んでいます。
東レ株式会社
東レ株式会社では、「カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブ、全てにおいて存在感のある企業を目指す」という高い目標のもと、独自の算出方法を用いてScope4の見える化に挑戦しています。燃焼時にCO2を排出しない水素の製造・輸送・貯蔵を叶える基幹素材の開発や、プラスチック製品を再利用するマテリアルリサイクル、特殊なろ過技術で高い水質を維持するといった取り組みで、幅広い環境課題の解決を視野に入れています。
双日株式会社
双日株式会社では、グループ全体で定めた脱炭素対応方針・目標のもと、CO2の削減貢献量をScope4として開示しています。サプライチェーン排出量の中でも特に温室効果ガスの排出が多い事業を特定し、その脱炭素化に向けたロードマップの作成と実行を繰り返すとともに、有価証券報告書などで随時公表する取り組みです。脱炭素社会に向けた移行を自社の成長機会ととらえ、今後もScope4を率先して算定・開示する挑戦を続けるとしています。
まとめ
脱炭素社会に向けた取り組みがますます加速する中で、企業が温室効果ガス排出量をいかに削減できるかが大きな鍵となります。削減貢献量の概念を正しく理解することは、企業が持続可能なビジネス戦略を策定し、環境負荷の軽減につなげるために不可欠です。削減貢献量は今後の企業活動において温室効果ガス削減を加速するような新たな製品・サービスの開発やイノベーションを促進するという意味において重要性を増すため、積極的に情報収集して自社の取り組みに取り入れてみてはいかがでしょうか。