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BBNJとは、国家の管轄を超える海域(公海・深海底など)における海洋生物多様性の保全と、持続可能な利用を目的とした国際的な取り組みです。海洋生態系の保護は、環境面だけでなく企業活動にも大きな影響を与える重要なテーマです。
本記事ではBBNJの概要と、その背景にある海洋生物多様性の重要性、そして企業活動との関係性をわかりやすく解説します。海洋資源を活用する企業にとっては、BBNJが与える影響や対応策を知ることは必要不可欠です。BBNJを正しく理解し、海洋保全と企業活動の両立を目指しましょう。
目次
BBNJとは
BBNJとは「Marine Biological Diversity of Areas beyond National Jurisdiction」の略称で、日本語では「国家管轄権外区域における海洋生物多様性」を意味します。国家管轄権外区域とは、公海及び深海底を意味しています。
海洋生物の多様性を守るためには、それぞれの国に近い海域だけでなく、国家の管轄外の区域でも広く保全活動を行う必要性があります。このことから、国際的な法整備も含めてその必要性が叫ばれ、注目されるようになりました。
2023年採択のBBNJ協定とは
公海と深海底の生物多様性に関する新しい国際ルールであるBBNJ協定は、2023年6月に国連で採択され、2025年に発効を目指している協定です。BBNJ協定の正式名称は「国家管轄権外区域の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下での協定」です。
世界各国はすでに管轄下の海域における保全活動や持続可能な利用に対して責任を負っていますが、それ以外の公海や深海底でも汚染や持続不可能な漁業活動などを抑制し、海の環境を保護すべきという考え方がもととなっています。
BBNJ協定の目的は国連海洋法条約を補完すること
BBNJ協定は、1982年に採択された国連海洋法条約(UNCLOS)を補完するために定められました。国連海洋法条約とは、海洋環境を保護・管理し、責任ある利用を促すとともに海洋生態系の完全性を維持し、海洋生物多様性固有の価値を保護することを目的としています。
国家管轄権を超えた区域における海洋生物多様性の保全と、持続可能な利用に対する世界各国の共同コミットメントの証として、今後はBBNJ協定が実効性あるものとなることが期待されています。
海洋生物の多様性と企業活動の関係
海洋生物の多様性を守ることと、私たちの経済活動がどのように結びついているのかイメージがわかないという方も多いでしょう。以下では産業と海洋との関わりや、産業の発展に伴って発生している海洋汚染の状況についてまとめます。
幅広い産業と関わりがある海の資源
海洋生物の多様性は、漁業や養殖業といった水産業だけでなく、海運・エネルギー・観光・医療などのさまざまな業界にとって重要な関連性があります。二酸化炭素の吸収源や、高潮対策としてはサンゴ礁が海の災害を抑止しています。サンゴ礁が破壊されると、大きな災害が起きやすくなる可能性もあります。
また、海中の生態系は光合成によって海水に溶け込んだ二酸化炭素を吸収・固定したり、固定した炭素を海底などに長期間蓄える役割を持ちます。これをブルーカーボンと呼び、企業の脱炭素化の新たな手法として、また企業の社会的責任を果たすために海草・海藻・湿地・マングローブ林などの保全活動が近年盛んに行われています。
【関連記事】 ブルーカーボンとは?グリーンカーボンと比較してわかりやすく解説 |
海の生態系が破壊され、海洋から取れる原材料の価格上昇が起きると企業の製品は値上げせざるを得ない状況になります。また、観光資源が失われたり魚や貝が収穫できなくなると、地元の事業者は経営を続けられなくなるかもしれません。
海の汚染や環境破壊は年々進行している
現在、世界全体では毎年およそ800万トンのプラスチックごみが海洋に流出していると言われています。このまま何も対策をしない場合、2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えるとの試算もあります。
海洋プラスチックごみといえば、マイクロプラスチックを思い浮かべる方も多いでしょう。5mm以下のマイクロプラスチックは、洗顔料や歯磨き粉にスクラブ剤に含まれるほか、通常のプラスチックごみが紫外線や海の波によって小さく分解されることで発生します。
またごみ問題以外にも、漁業による生物の乱獲も世界中で問題視されています。さらに温室効果ガス排出による海水温の上昇や、海流の変化・海洋酸性化といった悪影響も指摘されることから、自社の経済活動が直接的・間接的にどのように海洋へ影響を与えているかを把握することから始める必要があります。
海洋生物多様性保全のための日本の取り組み
海洋生物の多様性を守るため、日本ではすでに数々の取り組みが始まっています。以下では、その中でも代表的な3つについて解説します。
海洋生物多様性保全戦略
「海洋生物多様性保全戦略」は、海のめぐみを長きにわたって利用できるよう、環境省が2011年3月に策定した戦略です。2008年5月に成立した生物多様性基本法による生物多様性国家戦略2010(2010年3月閣議決定)に基づいて、国際的な目標なども踏まえながら策定されました。
主に排他的経済水域までの我が国が管轄権を行使できる海域に対して、海洋生物の多様性保全と、持続可能な利用について以下5つの視点を示しています。
①海洋生物多様性の重要性の認識
②海洋の総合的管理
③我が国周辺の海域の特性に応じた対策
④地域の知恵や技術を活かした効果的な取組
⑤海洋保護区に関する考え方の整理
人為的な影響による海洋生物多様性の劣化が懸念される昨今、再び豊かな海洋環境を取り戻すための施策が続けられています。
大阪ブルー・オーシャン・ビジョン
2019年開催のG20大阪サミットにて、海洋プラスチックごみに関して2050年までに追加的な汚染をゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」がG20首脳間で共有されました。このビジョンには、2020年3月末時点で59カ国が賛同しています。
これを受けて日本政府は「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げ、以下4つのポイントに焦点を当てて世界全体の実効的な海洋プラスチックごみ対策を後押しする
こととしました。
(1)廃棄物管理(Management of Wastes)
(2)(海洋ごみの)回収(Recovery)
(3)イノベーション(Innovation)
(4)(途上国の)能力強化(Empowerment)
出典:大阪ブルー・オーシャン・ビジョン実現のための 日本の「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」(外務省)
途上国に対する廃棄物管理の法整備支援や、海洋ごみに対する国別行動計画の策定、リサイクル施設・廃棄物処理施設といった質の高い環境インフラ導入を目指した人材育成支援などを含めた、国際協力の強化に向けた取り組みを実施しています。
30by30
「30by30」とは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全するための目標です。2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」における、2030年グローバルターゲットの1つです。
2030年までにネイチャーポジティブ(自然を回復軌道に乗せて生物多様性の損失を止め、反転させること)の実現に向けた目標の一つとして、30by30目標が設定されました。日本ではすでに陸域20.5%と海域13.3%の保全が進んでいます。
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まとめ
BBNJ(国家管轄権外区域における海洋生物多様性)は、地球上の広い範囲の海洋資源を守り、海の動植物から長きにわたって恵みを受けられる海洋環境を実現するための重要な取り組みです。
企業がBBNJの概要を知ることは、環境保護への社会的責任を果たすだけでなく、持続可能な事業運営を行う上でも大きな意味を持ちます。特に、海洋資源を利用する産業やグローバル市場で活動する企業にとっては、環境への配慮をビジネスの中核に据える対応が信頼の構築や競争優位性を高めることにつながるでしょう。ぜひこの機会に自社の活動が海洋生物多様性に与える影響を見直し、BBNJに即した持続可能な取り組みを進めてください。
【参考】 |