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生物多様性とは、地球上の多様な生物やその生態系が互いに織りなす豊かなつながりを指します。この多様性は私たちの生活や経済活動に深く関わっており、多様性が損なわれるとさまざまな深刻な影響を及ぼす可能性があります。
今回は、生物多様性の基本的な概念と重要視される理由、そして経済にどのような影響を与えるのかをわかりやすく解説します。世界や国内で進められている保全の取り組みもあわせて紹介しますので、生物多様性について正しく理解するきっかけとしてください。
目次
生物多様性とは
生物多様性とは、陸上・海洋・淡水・大気中などすべての環境下の生き物の個性が多様であること、そしてそれらが属する生態系において複雑な相互作用・つながりがあることを指す言葉です。ここでは生物多様性が重視される理由と、生物多様性条約において示された生物多様性の3つのレベルについて詳しく解説します。
生物多様性の3つのレベル
1992年、国連環境開発会議(UNCED)において生物多様性条約が採択され、日本もこの翌年に条約を締結しました。この条約は、「生物多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」を目的としています。生物多様性条約では、生物多様性について3つのレベルで定義しています。
・生態系の多様性:森、里、川、海などさまざまな自然環境があること
・種の多様性:鳥、魚、植物などさまざまな種類の生物が存在すること
・遺伝子の多様性:同じ種の中でも個体ごとに違いがあること
豊かな自然の恵みを受け続けるためには、これら3つの多様性の保全が不可欠です。
生物多様性はなぜ重要なのか
水や空気、食料、薬の原料をはじめ、私たち人間はさまざまな生物多様性の恵みを受けながら生きています。産業・日常生活・文化、いずれをとっても自然の恵みがなければ成り立ちません。2005年に国連が公表したミレニアム生態系評価(MA)では、生態系サービスを以下4つに分類しています。
・供給サービス:農産物や森林資源など,生態系からの産物を直接的に利用すること
・調整サービス:気候緩和や水質・大気浄化,洪水防止といった生態系の機能
・文化サービス:生態系に文化的な価値を見いだしたり,教育・レクリエーションの場としての生態系の利用
・基盤サービス:植物の光合成や栄養塩循環,土壌形成といった生態系の基礎的な機能
引用:生態系サービスの評価の国際的動向
近年は生物多様性や生態系サービスの損失が進んでいることが指摘されており、これまで生態系サービスを享受してきた人間の過剰な利用に歯止めをかけ、改めて生物多様性の価値を認識したうえで生態系の保全につなげようという動きが世界中で進んでいます。
2021年6月には、イギリスで開催されたG7サミットにおいて「2030年自然協約」が締結されました。この協約をきっかけに世界の国々が「2030 年までに生物多様性の損失を止め、反転させる」という使命について確認し、ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め、回復へ向かわせるための取り組み)の考え方が世界中に広がっています。
【関連記事】 ネイチャーポジティブとは|企業に求められる対応と国内事例をわかりやすく解説 |
生物多様性が直面する危機とは
日本政府が2008年に施行した生物多様性基本法は、危機的状況にある日本の動植物の減少・絶滅を食い止めるために制定されました。この法律を根拠として策定された「生物多様性国家戦略2012-2020」では、生物多様性が直面する危機を以下の4つに分類しています。
第1の危機:開発など人間活動による危機
人間活動が自然に与える影響は多大です。これに含まれるのは、開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少などです。都市開発に伴う埋め立ては自然環境に劇的な変化をもたらし、多くの動植物の生育環境を悪化・損失させる原因となっています。また、鑑賞や商業利用を目的とした動植物の乱獲、過剰な採取も直接的に自然環境へ影響を及ぼします。
第2の危機:自然に対する働きかけの縮小による危機
生活様式と産業構造の変化により、都市部への人口集中や農林業の衰退が進んでいます。それに伴い、これまで人間の手入れによって維持されてきた里地・里山などの自然の質の低下が指摘されています。また狩猟で適切な個体数に保たれていたシカ・クマ・イノシシなどは、狩猟がなされなくなったことで数が増え、生態系バランスの崩れにつながっています。
第3の危機:人間により持ち込まれたものによる危機
外来種の持ち込みによる生態系のかく乱は、深刻な影響をもたらしています。外来種が日本古来の在来種を捕食したり、生息場所を奪ったりすることはもちろん、交配によって遺伝的なかく乱をもたらす可能性も見逃してはなりません。また人間が使用する化学物質の中には動植物への毒性を持つものもあり、生態系への影響を慎重に調査する必要があります。
第4の危機:地球環境の変化による危機
地球温暖化による影響は世界各国で顕在化しています。平均気温が1.5度〜2.5度上昇すると氷が溶け出す時期が早まったり、高山帯が縮小されたり、海面温度が上昇したりといったリスクについては広く知られています。これらの変化は生物多様性にも深刻な影響を及ぼします。動植物がこれまで生育していた環境が悪化すると生き延びられない種が多数存在する可能性があり、地球温暖化によって動植物の20~30%は絶滅のリスクが高まると言われています。
生物多様性保全のための取り組み
生物多様性を保全するための取り組みは、国内外で実施されています。以下では日本政府や海外の生物多様性保全を取り巻く状況についてまとめます。
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択
2022年12月、カナダで開催された生物多様性条約COP15において、2030年までの新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。この中では2030年までのミッションとして「自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め反転させる(ネイチャーポジティブ)ための緊急の行動をとる」ことを掲げています。
「種・遺伝子の保全」「汚染防止・削減」「ビジネスの影響評価・開示」といった23のターゲットが設定され、各国の合意のもとに持続可能かつ自然と共生する世界を目指すことを目的としています。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の設立
TNFDとは、企業や団体の経済活動が自然環境とどう関わっているか、生物多様性へどのようなリスクや影響をもたらすかを評価し、情報開示するための枠組みです。2023年9月に正式な提言の公表とともに本格導入が開始され、「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「測定指標とターゲット」の4つの柱と、これに付随する14の開示推奨事項が示されました。
TNFDは「世界経済フォーラムにおいて、気候変動リスク・環境リスクは世界の経営陣が対峙する今後10年間で最も重大なリスクと認識しているにもかかわらず、未だほとんどの企業が自然環境に対するリスク・機会を把握できていない」と、各国企業の環境保護への取り組みが発展途上であることを指摘しています。
リスク開示を通じて企業の経済活動が自然へもたらす影響を再認識し、ネイチャーポジティブな経済への移行を促すうえで、TNFD開示提言がその一助となることが期待されています。
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日本では「生物多様性国家戦略2023-2030」がスタート
生物多様性国家戦略とは、国連の生物多様性条約および日本の生物多様性基本法に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な計画を定めたものです。1995年に最初の戦略が策定され、現在までに5回の見直しが行われました。以下5つの基本戦略と、それぞれに対応した行動目標を設定しています。
1. 生態系の健全性の回復
2. 自然を活用した社会課題の解決
3. ネイチャーポジティブ経済の実現
4. 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動
5. 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進
この戦略は「昆明・モントリオール生物多様性枠組」にも対応した内容であり、2030年ネイチャーポジティブの実現を後押しする目的もあります。
企業が生物多様性保全に取り組まない場合のリスク
気候変動をはじめ、企業の環境問題への取り組み状況を開示するための国際的な組織であるCDP(Carbon Disclosure Project)によると、生物多様性条約COP15における「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択後、CDPへの生物多様性に関する報告は43%増加しました。
また、世界の株式市場の33%を占める企業がCDPへ水に関するデータを報告するなど、企業の情報開示は徐々に広がりつつあります。しかし、生物多様性の損失が世界経済に年間4〜20兆米ドルの損害を与えると推定されているにもかかわらず、ビジネス上の生物多様性への依存を評価している企業は「10社に1社未満」とされており、自然が経済に及ぼす影響についての理解は未だ不十分といえます。
同じく自然環境や生物多様性が企業に与える影響や、財務上のリスク・機会について情報開示を行うTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)も、ESG投資で重視される傾向があります。環境保護やネイチャーポジティブを「企業の社会的責任」ととらえる現在の潮流において、生物多様性の保全に企業が取り組まない場合、自社が享受している自然資本についての将来的な事業リスク・事業機会が十分に開示されていないと見なされることにつながります。投資家や金融機関からの資金調達が難しくなれば、将来的な事業活動の継続・発展へのマイナス要素となる可能性があります。
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まとめ
生物多様性は、私たちの生活・経済活動はもちろん、地球環境そのものを支える重要な基盤です。生物多様性が損なわれると、自然災害のリスク増加や食糧・水資源の不足、ひいては経済活動の停滞などさまざまな問題を引き起こします。
近年、世界中の企業がCDPやTNFDを通してネイチャーポジティブへの取り組みを公表する事例が増えています。日本企業も積極的にそれらの枠組みを活用し、自社の環境へ対するリスク評価を行ったうえで具体的な一歩を踏み出すべきです。まずは自社の経済活動が生物多様性にもたらす影響の把握から始め、徐々に実効性のあるアクションへと深めていきましょう。
【参考】 |