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カーボンバジェットとは、「炭素予算」とも呼ばれ、気温上昇を1.5℃までに留めるために残されたCO2排出量の上限を意味します。カーボンバジェットの考え方は、地球温暖化の抑制に重要です。
本記事では、カーボンバジェットの基礎的な知識から、世界や日本のCO2累積排出量、CO2削減の取り組み事例まで網羅して解説します。カーボンバジェットの知見を深めたい方は、ぜひご一読ください。
目次
カーボンバジェットとは残されたCO2排出量のこと
カーボンバジェット(carbon budget)のバジェットとは、「予算」や「経費」を意味する英語で、直訳すると「炭素予算」ということになります。ここではカーボンバジェットの考え方や、注目される背景について解説します。
カーボンバジェットの考え方
カーボンバジェットとは、気温上昇を一定のレベルまでに抑えようとする場合、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量+これからの排出量)の上限が決まるという考え方です。加速する地球温暖化の気温上昇を抑制するためには、CO2排出量を一定の水準に留めるために、CO2累積排出量の上限を把握する必要があります。カーボンバジェットは、科学的な手法に基づき、過去のCO2排出量と気温上昇率から、将来的な許容排出量が算定されます。パリ協定で掲げられた「1.5℃目標」を実現するための根拠となります。
カーボンバジェットはなぜ注目されるのか
地球温暖化による気温上昇の原因として、人為的に排出される大量の温室効果ガスが挙げられます。 2021年から2023年にかけて公表した気候変動に関するIPCC第6次評価報告書によれば、地球温暖化による気温上昇は、CO2累積排出量にほぼ比例することが判明しています。2023年の世界のCO2換算した温室効果ガスの排出量は、571億トンにものぼり、過去最多となりました。2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定において世界が定めた目標は、「温暖化を1.5℃以下に抑える」です。そのためには2030年までの排出量を330億トンに抑える必要があります。
しかしこのままのペースでは、2070年までに約7.5度の上昇が見込まれるとも言われており、その影響で異常気象が頻発する可能性が強まっています。これ以上の気温上昇を抑制し、将来的な世界全体での脱炭素社会の構築推進には、累積排出量の観点を踏まえるカーボンバジェットの考え方が重要です。
カーボンバジェットの現状と課題
地球温暖化抑制は、カーボンニュートラル達成までのCO2累積排出量と、2020年から2030年までの10年のCO2削減量の水準によって決まると言われています。ここでは残されたカーボンバジェットはどれくらいなのか、そして課題である排出ギャップについて解説します。
残されたカーボンバジェットは
IPCC第6次報告書によれば、気温上昇を1.5℃に抑えるために残されたカーボンバジェットは5,000億トンであり、2℃の場合は1兆1,500億トンです。世界の年間CO2排出量は、2023年で約500億トンにものぼったため、このままでは10年ほどでカーボンバジェットの残りを使い切る計算になります。このまま追加的な削減対策を打ち立てず化石エネルギーを使用し続ければ、CO2排出量は1.5℃の場合、残余カーボンバジェットを超えるといわれています。
排出ギャップ
パリ協定後、気候変動緩和・適応のための対策・政策には幅広い進展が見られました。しかし、低所得者層が多く開発上の制約も大きい途上国では、排出ギャップが多いことがわかっています。排出ギャップとは、地球温暖化抑制のために必要な削減レベルと、各国が掲げている削減目標との隔たりのことです。排出ギャップの原因はさまざまですが、各国間の排出量の不平等問題や算定方法の違いが主な原因として挙げられます。
1.5℃を実現するためには、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに2013年度比で4割削減し、2050年代初頭には、実質ゼロにしなくてはなりません。たとえ各国すべてが目標を実現した場合でも、ギャップは60~110億トンにも及ぶといわれています。そのため各国に2030年目標の「再検討と強化」を求めていますが、現状の進捗は極めて不十分です。
世界と日本の累積排出量と削減状況
世界と日本のCO2累積排出量の現状と、削減目標について解説していきます。
海外各国の累積排出量
世界の1850年から2019年までの累積CO2排出量は約2兆3,900億トンに及びます。また2021年度のCO2排出量最多国は中国の30%、そしてアメリカが約15%、次いでインドが約8%、EUは約7%でした。しかしこれまでいかにCO2を排出してきたか、という「累積排出量」の観点で行くと、最多はアメリカであり全体の約30%、EUは約20%、中国が約17%です。
1900年代の排出量の90% 以上がヨーロッパと米国で、1950年にいたっても年間排出量の85%以上を占めていました。一方、20世紀後半にはアジア全域、特に中国での排出量が大幅に増加しました。現在、米国とヨーロッパの排出量は全体の3分の1未満です。
また、全世界の一人当たりの排出量に関しても不平等が存在します。1人当たりのCO2排出量が最多なのは中東の石油生産国ですが、比較的人口が少ないため年間総排出量は低くなっています。人口の多い国で1人当たりの排出量が多く、総排出量も高いのは米国、オーストラリア、カナダで、平均排出量は世界平均の約3倍です。
NDC(国が決定する貢献)
NDC(国が決定する貢献)とは、「1.5℃目標」達成のために各国が掲げた「温室効果ガスの国別排出量削減目標」のことです。温室効果ガス削減の長期目標達成のために、各国の排出量削減と気候変動対策への努力を具体化したもので、継続的に作成し、伝達・維持することが義務付けられています。
【各国のNDC】
- 米国
2005年比で50~52%削減 - 中国
2030年までに排出量を削減に転じる - EU
1990年比で55%以上削減 - 英国
1990年比で68%以上削減 - インド
GDP当たり排出量を45%(2005年比)削減 - 南アフリカ
2026年~2030年の排出量を3.5~4.2億トンまで削減 - 日本
2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)、さらに50%の高みを目指す
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日本のCO2削減目標と累積排出量
日本は「2050カーボンニュートラル宣言」を発信しており、温室効果ガス削減においては、2013年度と比較して「-46%削減」が目標です。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく意向を示しています。
2013年から2022年までの日本のCO2排出量の推移は次のようになります。
【日本のCO2排出量の推移】
年代 | 総CO2排出量(百万トン) | 一人当たりの排出量(トン) |
2013年 | 約13.1億 | 10.34 |
2014年 | 約12.6億 | 9.95 |
2015年 | 約12.2億 | 9.64 |
2016年 | 約12億 | 9.49 |
2017年 | 約11.8億 | 9.38 |
2018年 | 約11,4億 | 9.05 |
2019年 | 約11億 | 8.77 |
2020年 | 約10.4億 | 8.26 |
2021年 | 約10.6億 | 8.48 |
2022年 | 約10.3億 | 8.30 |
CO2削減に向けた国内の取組と企業事例
ここではCO2削減に向けて日本がどのような取り組みをしているのか、企業事例も含めて詳しく解説していきます。
脱炭素先行地域
脱炭素先行地域とは、民生部門や運輸部門、そのほか熱利用を含め、地域特性に応じた温室効果ガス排出削減を目指す地域のことです。政府は「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、2025年度までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を選定し、地域特性を活かした先行的な取り組みを2030年度までに実行する計画です。
再生可能エネルギーの導入促進
2050年カーボンニュートラル実現に向け、地域や自然と共生しながら、再エネの最大限導入促進を目指します。再生可能エネルギーを活用することで、地域発のグリーントランスフォーメーション(GX)や経済活性化を促進。再エネ代表の太陽光発電では、次世代型太陽光や初期費用ゼロ型などのイノベーションを支援し、公共施設、ビル、工場などの屋根や壁面などへの導入拡大に重点を置く予定です。
カーボンフットプリント(CFP)の普及
カーボンフットプリントとは、製品やサービスのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量をCO2に換算し、可視化する手法で、経済産業省と環境省により実践ガイドラインが定められています。欧州連合(EU)では、2024年からCFPの申告義務を含む欧州電池規則(欧州バッテリー規則)を適用予定のため、CFPへの取り組みは今後ますます重要になります。
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まとめ
パリ協定の目標を達成するために必要なカーボンバジェットの考え方を、さまざまな角度から解説しました。温室効果ガス排出量削減には世界的な協調が求められます。世界全体での脱炭素社会推進には、累積排出量の観点を踏まえるカーボンバジェットの考え方をしっかり把握し、有効な取り組みを行うことが重要な時代を迎えています。