カーボンネガティブとは|意味・企業へのメリット・具体的な事例を解説

温室効果ガスの排出量を減らし、吸収量の増加を目指す「カーボンネガティブ」は、現在国内外で広く取り組みが始まっています。このアプローチは地球環境に多くのメリットを与えるだけでなく、企業の持続可能な事業活動を支えます。今回はカーボンネガティブの意味や注目される背景、先進企業の取り組み事例について紹介します。

カーボンネガティブとは

カーボンネガティブとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量よりも吸収量の方が上回っている状態を意味する言葉です。近年、世界中でカーボンネガティブのための取り組みが加速し、企業も迅速な対応が求められています。ここではカーボンネガティブの基礎知識を解説します。

カーボンネガティブの仕組み

カーボンネガティブは、CO2排出量をネガティブ(マイナス)にすることを目標としています。CO2排出は企業の事業活動や人々の生活を通して日常的に行われていますが、まずは省エネの実践・再生可能エネルギーの利用や、低炭素燃料への切り替えなどを行うことでCO2排出量を削減するのが第一段階です。その上で、植林や海洋資源保護といった取り組みを実施してCO2の吸収量を高め、全体として温室効果ガスの排出をゼロ以下にすることでカーボンネガティブを達成します。

カーボンニュートラル・カーボンポジティブとの違い

カーボンネガティブとよく似た言葉に「カーボンニュートラル」があります。カーボンニュートラルとは、CO2排出量と吸収量の差が実質ゼロになった状態です。つまり、企業の事業活動などで排出されたCO2が、何らかの方法ですべて吸収された「排出量=吸収量」の状態を示します。カーボンネガティブは「排出量<吸収量」という概念なので、カーボンニュートラルからさらに一歩進んだ状態といえます。

一方で、もう一つ似た言葉である「カーボンポジティブ」は、植林などの活動によってCO2吸収量がポジティブ(プラス)の状態のことで、カーボンネガティブと同じく「排出量<吸収量」を示します。CO2排出量の削減という視点から見れば「CO2排出量が減る=ネガティブ」と言えますし、CO2吸収量の増加という視点で見ると「CO2吸収量が増える=ポジティブ」と表現できます。つまり、カーボンネガティブとカーボンポジティブは一つの物事を見る視点が異なるだけで、意味としては同じです。

カーボンネガティブが注目される背景

2015年に採択されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことを世界の共通目標に掲げ、日本を含む多くの国が賛同しています。

パリ協定に賛同する国は、それぞれ具体的な温室効果ガスの排出削減目標の提示と、定期的な進捗報告が求められます。日本は2020年、当時の菅総理大臣が所信表明演説において「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という2050年カーボンニュートラル宣言を表明しました。

この高い目標を達成するには、企業の事業活動上どうしても排出されてしまうCO2を吸収する「カーボンネガティブ」の取り組みが欠かせません。国内でも、後述するカーボンネガティブを実現する技術の開発・実践が徐々に進んでいます。

カーボンネガティブを実現するための技術

カーボンネガティブを実現するための技術はいくつかの種類があります。「自然プロセスの人為的加速」としての植林・再生林、風化促進、ブルーカーボン。加えて、「工学的プロセス」としてのBECCSとDACCSの大きく分けて2分類が存在します。ここではそれぞれの技術について詳細をご紹介します。

植林・再生林

植林とは、これまで木が生えていなかった新しいエリアを森林化することを指します。そして再生林は、様々な要因で減少してしまった森林の再生および回復を図る取り組みです。樹木の成長という自然の営みに任せた手法であることから、低コストかつ少ないエネルギー消費量で実践できるメリットがあります。一方で、地域の気候や土壌に適した品種の選択をしないと、森林が育たない・CO2固定化の効果が得られないという難しさもあります。

風化促進

風化促進は、玄武岩などの岩石を砕いて散布することにより、千年〜万年スケールで起こる大気中のCO2の自然風化・吸収を人工的に促進する技術です。CO2固定量あたりの必要面積が比較的少なく、日本での実施も十分可能だと考えられています。しかし、玄武岩の輸送や粉砕・散布にコストがかかることと、まだまだ未検証の部分が多い技術であり、実用化まではリスク評価やシミュレーションが必要だと言われています。

ブルーカーボン

ブルーカーボンとは、マングローブ・塩性湿地・海草の3つを活用してCO2の吸収を促進する手法です。日本を含む多くの国で大型の海藻によるブルーカーボンが注目を集め、欧米ではすでに海藻の利活用が進んでいます。国内ではブルーカーボンをクレジット化した「J-ブルークレジット」の取引が始まっており、日本の海岸線の長さや世界6位を誇る排他的経済水域の広さを活かせる技術として期待が高まっています。

BECCS

BECCSとは、バイオマス発電(Bioenergy)とCO2を回収し地中に貯めておく技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)を組み合わせたものです。バイオマス発電では、農林業系の産業廃棄物(家畜の排泄物や間伐材)などを燃焼して得られる熱エネルギーを電気エネルギーに転換します。このとき排出されるCO2についてCCS技術を使って回収し、エネルギーとして活用したり地中に貯留することでカーボンネガティブを達成します。

DACCS

DACCSとは、大気中のCO2を回収する技術であるDAC(Direct Air Capture、直接空気回収技術)とCCSを組み合わせた取り組みです。排出されるCO2をそのまま回収できる直接的な解決策ではありますが、CO2の回収には熱や電気などの多くのエネルギーを消費します。そのコストやエネルギー消費量の観点では、未だCO2削減効果を検証する必要があるとされています。

国のJ-クレジット制度運営委員会では、BECCS・DACCSもJ-クレジット制度の対象とする検討が進んでおり、今後の動向に注視が必要です。

企業がカーボンネガティブに取り組むメリット

企業がカーボンネガティブに取り組むと、次の3つのメリットがあると考えられます。

  • 企業の脱炭素経営をアピールできる
  • 社内外の環境意識が高まる
  • 国内の環境技術の発展を後押しする

それぞれ詳しくみていきましょう。

企業の脱炭素経営をアピールできる

パリ協定などの動きに伴い、地球温暖化対策は世界共通の課題として広く認識されています。その中で企業がどのように環境保護へ貢献し、いかに経営戦略に沿って実行力ある取り組みができるかについては多くの人が注目しています。企業として、カーボンニュートラルより更に野心的な目標であるカーボンネガティブを目標に掲げ、環境への取り組みを実行に移していけば、自社のブランド価値向上や顧客・投資家からの支持獲得につながるでしょう。

社内外の環境意識が高まる

企業が環境に対する社会的責任に応えることは、社員の環境へのモラルや企業文化を向上させることにつながります。「CO2排出量を実質ゼロにする=カーボンニュートラル」という視点だけではなく、「CO2吸収量を増やし、排出量をマイナスにする=カーボンネガティブ」も視野に入れることで、社内外のステークホルダーがより環境保護を意識するようになります。カーボンネガティブは1社1社が地道に取り組むことで活動が活性化し、脱炭素社会の実現に向けた強い推進力になっていきます。

国内の環境技術の発展を後押しする

カーボンネガティブの実現を目指し、国内外ではこれまでになかった新たな環境技術の開発・研究が進んでいます。それらの技術を積極的に導入したり、研究への支援を行ったりすることを通して、国内の環境産業の発展に寄与できるでしょう。

カーボンネガティブに取り組む企業の事例

日本国内では、すでにカーボンネガティブに向けて取り組みを実施している企業があります。ここではカーボンネガティブ技術を開発している株式会社クボタと川崎重工株式会社、さまざまな脱炭素施策を通してカーボンネガティブ達成を目指す花王株式会社の3社の事例を紹介します。

株式会社クボタ

株式会社クボタは、農業の過程で出る廃棄物(稲わら・もみ殻など)を高温ガス化し、炭素固定とエネルギーとして再利用する技術を開発中です。農業における温室効果ガスの排出削減が難しいプロセスについて、この技術を活用することで将来的にカーボンニュートラル・カーボンネガティブへとつなげていけるのではと期待されています。今後は日本のみならずアジア地域への展開を視野に入れ、資源循環型農業の実現を目指すと表明しています。

川崎重工株式会社

川崎重工株式会社では、およそ40年前から潜水艦・宇宙船など閉鎖空間のCO2除去技術を開発しています。独自の固体吸収材を使用し、DAC(大気中のCO2を回収する技術)を実現しました。CO2を分離回収するこの技術は、現在のところ1日につき5kgのCO2を回収でき、その純度は95%を誇っています。

花王株式会社

2021年5月に2040年のカーボンゼロ(CO2排出実質ゼロ)と2050年のカーボンネガティブを目標として設定した花王株式会社は、2023年4月に発電事業者と電力購入契約を直接結ぶコーポレートPPAの一種である「バーチャルPPA」を締結。締結先が新設する太陽光発電所から「再生可能エネルギーによる発電の環境価値(CO2削減効果)」を購入し、墨田区のオフィスで使用する電力を100%再エネ化します。さらに自社のCO2排出に価格を付け、設備投資の際の判断基準とする「社内炭素価格」を推進するなど、カーボンネガティブ達成への取り組みを加速させています。

まとめ

カーボンネガティブは、企業の脱炭素経営をさらに一歩進めるために欠かせない概念です。世界経済の発達によって、温室効果ガスの排出とそれに起因する地球温暖化は今後も進行することが予想されます。企業としていち早く対策を講じることで、自社はもちろん業界や日本の経済全体の脱炭素化にも貢献できるでしょう。ぜひ今回解説したカーボンネガティブの意味や背景・メリットを理解し、自社の環境活動にお役立てください。

【参考】