CBAMとは|本格適用はいつから?対象製品や影響まで具体的に解説

CBAM(炭素国境調整措置)とはEU(欧州連合)が、EU域外から域内への国境をまたぐ特定の輸入品に対してEU域内と域外の炭素価格の差額を支払うことを義務付けた制度です。現在対象となる想定の製品は限定的ですが将来的に拡大されることが予想されます。

事業活動のサプライチェーンがグローバルに拡大される時代、EUの政策を予め自社のビジネスに影響するのかどうか把握しておくことは重要です。

本記事ではCBAMの概要から対象製品、本格適用される2026年までにどのように備えておけばいいのかを具体的に解説していきます。

 CBAMとは

CBAMの正式名称は「Carbon Border Adjustment Mechanism」であり、日本語では「炭素国境調整措置」と訳されています。CBAMは国境では特定の輸入品に対して発生する炭素対価を支払う仕組みで、炭素とはGHG(温室効果ガス)の主にCO2(二酸化炭素)を指します。

EUは「カーボンリーケージ(炭素漏出)」(詳細は次のセクションで解説)対策として、2026年からCBAMの適用開始を発表しました。CBAM本格適用後、輸入事業者はGHG排出量に見合った価格を支払い、「認可CBAM申告者」としての認可を受けた輸入事業者のみが、対象製品をEUに輸入できます。

EU のCBAM導入背景と目的

EU-ETSとは、経済と気候変動対策を両立させるためにEUが策定した世界初のカーボンプライシングの一つで「EU排出権取引制度」とも呼称されます。排出権取引とはGHG排出量に金銭的負担を課すことで企業に脱炭素化を促すための制度です。

EU-ETSではカーボンリーケージの可能性の高い鉄鋼・アルミニウム・化学などの分野に対して、これまで排出枠の無償割当(※)を行っていました。

しかしEUは2019年「欧州グリーンディール政策」において気候変動対策加速を掲げ、2050年までにGHG排出量実質ゼロの目標を打ち立てました。そして2030年の排出量削減を1990年比55%以上へ引き上げ、EU-ETS政策の強化を発表しました。

それに伴い2021年には、一部分野の排出枠無償割当を段階的に廃止する「Fit for 55」を策定し、その一環としてCBAMを提案したのです。

※無償割当とは、業種や製品ごとにふさわしい排出原単位に基づき排出枠を設定する「ベンチマーク方式」と、過去の排出実績によって排出枠を設定する「グランドファザリング方式」を指す。

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カーボンリーケージ防止

EU-ETSへの強化対策は、同時にカーボンリーケージの可能性を高めました。カーボンリーケージとはGHG排出規制の緩やかな国に排出量の多い企業が基盤を移すことで、結果的に排出量が増加することです。EU域内でGHG排出量が削減されても、カーボンリーケージが発生すれば世界全体の排出量はむしろ増加する恐れがあります。

そのためEUは域外からの輸入品に対して、EU-ETSに相当する排出量の対価を義務付けました。それによりカーボンリーケージを阻止することがCBAM導入の狙いです。

CBAMの仕組み

CBAM は、WTO(世界貿易機構)ルールとの整合性を保つよう設計されています。制度の基本的な仕組みは次のようになります。

  1. CBAM当初の対象はカーボンリーケージリスクの高い特定製品のみ
  2. CBAMはEU域外からの輸入対象製品の生産時のGHG排出量、すなわち体化排出量に適用される
  3. 対象製品をEU域外から輸入するEU域内事業者は、製品輸入量と体化排出量を記載した「CBAM 申告書」を「CBAM 登録簿」に年 1 回提出する(なお移行期間中は四半期ごとの提出)
  4. 輸入事業者は、体化排出量の検証を認定検証者に依頼し、検証報告書を取得する
  5. 輸入事業者は認定検証者による対象製品の検証報告書を取得する必要がある。EU域内の輸入事業者は対象製品の排出量に応じた対価の支払いを、「CBAM 証書」を購入し納付することで行う。なお証書価格は、EU-ETS 排出枠価格に相当する
  6. EU域外の生産者がすでに域外において対象製品のGHG排出量に応じた対価の支払いをしている場合は、相応の費用をCBAM 証書を納付する負担から控除可能である
  7. CBAMには2023年10月から2025年末までの移行期間が存在し、本格適用は 2026年1月からである。移行期間中は規定確定のための情報収集がメインとなる。輸入する事業者の義務は対象製品の体化排出量などの報告のみとなり、排出量の対価に応じた支払いは生じない

参考:EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

GHG排出量の定義

CBAMのGHG排出量は「体化排出量」で表されます。体化排出量とは「直接排出+間接排出」で定義されたもので、対象製品ごとにカウントされます。従来のサプライチェーン排出量(Scope1.2.3)とは異なるため注意が必要です。

【直接排出量】
対象製品の生産過程から生じる排出量のことで、生産過程で消費される温冷熱の生産時に排出されるものも含まれる

【間接排出】
対象製品の生産過程で消費される電力の発電時に排出されるもの。ただし消費される電力の発電の場所は問われない

なお実際の排出量を算出できない場合は、デフォルト値を使用して計算することができます。

対象事業者と対象製品一覧

CBAMの対象事業者は、EU域外から対象製品を輸入する EU域内の事業者です。輸入事業者は、対象製品の輸入前に「認可CBAM申告者(認可申告者)」となるための申請をしなくてはいけません。EU域外の生産者はEU域内で輸入事業を行わない限り、CBAMの対象とはなりません。

ただし製品を域内に輸出する場合は、認可申告者であるEU域内の輸入事業者からGHG排出量のデータを求められる可能性があります。

【対象製品一覧】
CBAMの対象製品は現時点で生産時にGHG排出量が多いとされる、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電気、水素などです。日本は対EU輸出量では、自動車を含む輸送用機器が28.2%、一般機械は21.4%、電子機器は15.8%にも及びます。これらの製品を扱う事業者はCBAM制度をしっかりと把握しておく必要があります。

分類対象製品
鉄鋼鋼矢板(穴や組み合わせの有無はなし)、および溶接形鋼・鉄鋼製の貯蔵タンク、その他これに類する容器・凝結鉄鉱石・フェロアロイ類・鉄鋼製ネジ・ボルト・ナットなど
アルミニウムアルミニウムの塊・アルミニウムのフレーク・アルミニウム製の管・アルミニウムの粉・アルミニウム製のドラム、樽、缶、箱など
肥料硝酸および硫硝酸・無水アンモニア・アンモニア水・硝酸カリウム・窒素肥料(鉱物性肥料や化学肥料)・肥料成分(窒素、りん、カリウム)のうち 2つ以上を含有する肥料(鉱物性 肥料および化学肥料)など
セメントカオリン系粘土・セメントクリンカー

・白色ポートランドセメント(人工着色の有無はなし)・ポートランドセメント・アルミナセメント・水硬性セメント

電力電気エネルギー
化学水素

CBAM本格適用は2026年から

2023年10月から2025年末まで移行期間となり、CBAM の本格適用は2026年からです。おおよその流れは次のようになります。

  • 2024年12月末、欧州委員会は報告書を欧州議会と EU 理事会に提出する。さらに対象製品を使用する川下製品のうち CBAM 規則の対象に追加検討すべき製品の特定が必要である。
  • 2025年1月、輸入事業者による認可申告者の申請および管轄当局による認可開始。
  • 2025年末まで、CBAM 規則の適用に関して適用範囲の拡大などの見直しが実施され、さらにCBAM 規則の改正案や影響評価を提示する可能性もある。
  • 2025年には移行期間を終了。
  • 2026年1月以降からはEU-ETS無償排出割当が徐々に削減されていき、CBAMの本格適用が開始。
  • 2034年EU ETS の無償割当が完全に廃止され、CBAMに完全移行する

参考:EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

CBAM移行期間中6つのポイント

CBAMの移行期間中、輸入事業者には対象製品に対して報告義務が課されます。注意しておくべき6つのポイントをまとめました。

ポイント内容
1.対象者EU域内への輸入者、またはその間接通関代理人が実施
2.報告内容報告者や生産者の情報、対象製品の輸入量、直接・間接排出総量や算定方法、原産国でのGHG価格など
3. 報告時期2023年10月1日に始まる四半期から四半期ごとの1カ月後までに報告する必要がある
4.報告場所「CBAM移行期登録簿」に提出
5 .報告理由EUは本格適用前に情報収集をしておく必要があるため。報告をしなければ罰金を払わなければならない
6.報告方法対象製品の生産過程の直接排出量や電力消費による間接排出量を把握しておく。すでに生産国でGHG価格を支払った場合はその価格を四半期ごとに報告する

参考:EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に備える(JETRO)

対象製品に求められる排出量の違い

本格適用後はCBAM制度上の定義に従った算出方法になり、対象製品に求められる排出量はそれぞれ以下のようになりますので注意が必要です。

  • 鉄鋼:直接排出量
  • アルミニウム:直接排出量
  • 肥料:直接・間接量
  • セメント:直接・間接量
  • 電力:直接・間接量
  • 化学:直接排出量

CBAM本格適用後の影響とは

CBAM適用が開始されたら企業としてはどのように対応すべきでしょうか。適用開始後の
日本への影響と対応策について解説します。

日本企業への影響

CBAMの日本への影響は現時点では限定的と考えられています。しかし経済がグローバル化するにつれ、産業活動は複数の国のサプライチェーンが複雑に絡み合っているのが現状です。

そのため国外の拠点で生産しても、対象製品をEUに輸出する場合は影響がないとはいえません。またEU向けに輸出していた安価な製品が国内に向かうことで、競争が激化する可能性も生まれます。

また今後、有機化学品など、日本からEUへの輸出量が多い品目や、鋼材加工品まで適用が拡大した場合は影響がより大きくなること予想されます。大企業のみならず中小企業にまで影響を及ぼす可能性は小さくないでしょう。

脱炭素化推進のチャンス

CBAMが本格適用される以前から、企業は脱炭素経営を検討していくことが何より重要です。気候変動対策を経営戦略に組み込むことはすでに世界の潮流であり、国内でも脱炭素促進のための施策が次々に打ち出されています。

日本政府は2026年度から「GX-ETS(排出量取引)」を本格導入する予定です。いざというときに慌てることのないように社内で脱炭素・低炭素推進のチャンスと捉え、取り組みを検討していく必要があります。

まとめ:国際的な脱炭素化推進への対策を進めよう

EUが気候変動対策として2026年に本格適を開始するCBAMについてわかりやすく解説しました。

CBAMの本格適用が世界の気候変動対策に影響を及ぼすことを踏まえ、企業はいち早く自社への影響の把握と、必要に応じた対策を早期に検討することが重要です。ぜひ本記事を参考に世界の潮流を機会とし、自社の脱炭素経営を推進してください。

 

【参考】