CCS・CCUSとは?それぞれの違いや現状と課題、企業の取組事例まで解説

カーボンニュートラルを推進する技術の一つとしてCCS・CCUSが注目されています。CCUSとはCO2(二酸化炭素)を回収・貯留・有効活用するための技術です。

しかしCCSとCCUSは何が違うのか、さらにCO2を有効活用するとはどういうことなのか、具体的にはわからないという方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、CCSとCCUSの具体的な仕組みや違い、現状と実際の事例まで詳しく解説します。

CCS・CCUSとは

CCUSとは、CCSとCCUを合わせた用語です。そもそもCO2を分離や回収、貯留、活用する技術にはCCS・CCU・CCUSの3つがあります。ここではそれぞれの仕組みや違いを解説していきます。

CCUSとはCO2の回収・貯留・有効利用の技術

CCUSとは「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、発電所や施設、工場から排出される排気ガスの中からCO2を分離・回収し、活断層などが近くにない安定した地層に貯留、または資源として有効活用する技術のことです。

CCS・CCU・CCUSの違い

前述したようにCCUSとはCCUとCCSを組み合わせた用語です。それぞれの詳しい仕組みと違いは以下のようになります。

名称仕組み特徴
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)CO2を回収・貯留する技術で発電所や工場などから排出された排気ガスからCO2を分離し安定した地下深くに貯留する技術CO2を大気中に排出せずに回収し、貯留する
CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)回収したCO2を資源として製品やサービスに活用する技術で、CO2を化学的・生物学的に変化させない直接利用(非変換)と、有用な製品に変換する方法(変換)の2タイプがあるCO2を貯留するのではなく、有用な資源として活用する
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)発電所や工場などの排気ガス中のCO2を分離・回収し、資源として有効活用を行う、または安定した地下深くに貯留する技術CO2を回収・貯留し、さらに資源として活用する

CCS・CCUSが注目される背景

地球温暖化による気温上昇を抑止するために2016年にパリ協定が発効され、世界のカーボンニュートラル社会の実現への機運が高まりました。カーボンニュートラルとは、排出してしまったCO2を吸収または除去することにより排出量を実質ゼロにする取り組みで、2050年までの実現を目指しています。しかし産業分野によっては、CO2排出量の削減が困難だったり、吸収・除去しきれなかったりする可能性もあります。

CCSやCCUSは、削減しきれないCO2を貯留・回収・活用が可能な技術で、欧米諸国を中心に注目され、新規開発が急増しています。「グローバルCCSインスティチュート」によれば、2022年時点で世界では196件の大規模CCSプロジェクトが実施されています。

CCS・CCUSの意義

CCS・CCUSの意義は大きく分けて次の3点です。それぞれの視点から解説していきましょう。

CO2を削減できる

CCS・CCUSの大きな意義の一つにCO2の削減があげられます。IPCC 1.5℃特別報告書によれば、2050年カーボンニュートラル達成のために必要なCO2分離回収量は50~180億トンにものぼります。出力が80万キロワットの石炭火力発電所にCCS設備を導入した場合、年間約340万トンのCO2排出を防ぐことができるといわれています。今後大量のCO2の排出を防ぐために、CCS・CCUSの技術は重要となってくるでしょう。

カーボンリサイクルが可能

カーボンニュートラルを実現するためには、CO2を削減するだけではなく有効活用することも重要です。例えば、再生可能エネルギー由来の水素とCO2を反応させることでメタンなどの化学原料を生産できます。また、ごみの焼却とCCUを組み合わせることで、カーボンリサイクル(炭素の循環利用)が可能になり、貯留・回収したCO2を資源として活用することが可能です。

カーボンリサイクルについては次の記事もご参照ください。

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日本の産業競争力の向上

CCS・CCUSの技術は脱炭素化の推進にとどまりません。日本はエネルギーの自給率が11.3%(2020年時点)で、燃料のほとんどを海外に依存していますが、CCUSにおけるカーボンリサイクルの技術は輸入依存改善にもつながります。カーボンリサイクルの技術として現状限定的ではありますが、石油増進回収法(EOR1)やCO2 由来の化学品や燃料、コンクリートなどの鉱物の製造に関する開発も進んでいます。このようにCCS・CCUS 分野のイノベーション促進は日本の産業競争力向上や経済を活性化させます。

CCS・CCUSの現状と課題

世界で期待の高まっているCCS・CCUS技術ですが、課題も存在します。ここではCCS・CCUSの国内の現状と課題点を解説していきます。

CCS・CCUS国内の現状

日本は CCS・CCUSの技術開発に2010 年代前半から取り組んでいました。しかし実際に商用として稼働している CCS・CCUS は、2023年時点で1つもありません。政策としての優先度が必ずしも高くなかったため、商用化では欧米諸国のみならず、新興国にも遅れを取っているのが現状です。そのため政府はCCS・CCUSの長期ロードマップを策定し、商用化や社会実装に向けて技術革新のスタートアップの育成、事業環境整備など、課題を克服するための支援を行う方針です。

CCS・CCUSの 課題

CCS・CCUSの主な課題は以下の3つです。

コストがかかる

CCS・CCUSの技術開発にはCO2回収や運搬、地下貯留など専門的技術と設備が必須なため、初期投資や維持運用に多くのコストがかかります。しかし将来的には技術開発促進とともに、コストの低減が見込まれています。「公益財団法人地球環境産業技術研究機構」がCCSコストの低減見込みの試算結果は次のようなものでした。


出典:参考資料 CCS(内閣官房)

貯留場所の問題

CCSとCCUS導入にはCO2の貯留地が必要になります。しかし貯留に適した条件は「CO2を貯留するすき間のある地層があり、その上がCO2を通さない地層でおおわれている」場所です。そのため適正地を選定することが困難という課題があります。

法制整備の課題

CCSやCCUS事業においては、地下や海底下では土地の所有権や鉱業権が関わるため、新たに権利とのバッティングを回避するための法整備が必要です。また事業者の法的責任の明確化や、貯留層の適正な管理についても法整備を進めなくてはならないという課題があります。

CCS・CCUSの国内外の動向

CCS・CCUSについて世界や国内の動向を具体的に解説していきます。

経済産業省のロードマップ

CCS についてイノベーション促進・コスト低減、適地開発や事業化に向けた環境整備に係る長期のロードマップが、2021年にエネルギー基本計画として策定されました。鉄鋼など、製造過程で不可避的にCO2を排出せざるを得ない産業分野において、CCSや CCU技術を最大限活用する必要性を掲げています。

北海道・苫小牧での大規模実証実験

北海道苫小牧市では、国家プロジェクトとして日本初となるCCSの大規模実証試験が実施されています。2012年度から2015年度は、実証試験設備の設計・建設・試運転などが行われ、2016年度から地中へのCO2圧入が開始されました。2019年には累計30万トンのCO2圧入が達成され、現在は圧入を停止しモニタリングが行われています。

海外の政策動向

ここでは海外におけるCCS・CCUSの政策動向についてご紹介します。

EU

EUは、年間5000万トンのCO2貯留を有する技術を2030年までに開発することを2022年に発表しました。2040年時点で年間2.8億トンまで大幅に貯留能力を増加させる必要があると言及しています。

米国

2022年インフレ抑制法にて、税額控除の拡大・延長によるCCUS支援を加速させます。インフラ投資・雇用促進法は2026年までにCCUSバリューチェーン全体に約120億米ドルを提供。また2023年の世界経済フォーラムにて参加国計12億トンのCO2を2030年までに貯留する目標をとりまとめました。

カナダ

2030年までに年間1,500万トンCCS施設を開発すると言及しており、2022~2030年までのCO2回収プロジェクトの最大50%をカバーする投資税額控除策を発表しています。

英国

英国はグリーン産業革命で掲げた10項目計画(2020)とネットゼロ戦略(2021)にて、2030年までに最大10億ポンドを投資して、4つの産業クラスターでCCUSハブ設立の支援を掲げています。

CCS・CCUSの海外国内企業事例

CCS・CCUSの海外と国内の代表的な事例をご紹介します。

日本:東ソー株式会社

独自開発したアミン系の回収剤にてCO2を回収し、 原料として使用する設備を2024年に山口県の南陽事業所に設置することを予定しています。 年間約4万トンのCO2を燃焼ガスから回収し、自社製品の原料として使用する計画です。

日本:JFEエンジニアリング株式会社

CO2を高濃度に分離・回収する「GX-Marble」を開発し、ガスエンジン発電機の燃焼排ガスを用いた実証試験を開始しています。ハイブリッド型技術により、回収CO₂濃度99.5%を目標としています。2024年度中に販売開始を予定しています。

英国:NetZero Teeside

「NetZero Teeside」では、港湾周辺の産業施設から排出されたCO2を、パイプラインを通じて北海に貯留する計画を立て、2026年稼働予定で年間200万トンのCO2回収を見込んでいます。

アイスランド:Carbon Recycling International

二酸化炭素と水素を、年間4000トンの再生炭素メタノールに変換し商品化しています。2022年には、世界初となる年間11万トンの生産能力を持つ再生炭素メタノール生産工場の稼働を開始しました。さらに中国企業にも技術提供を行っています。

まとめ

カーボンニュートラルを達成するための技術として注目されているCCS・CCUSについて、さまざまな視点から具体的に解説しました。

脱炭素化にはイノベーション促進が重要です。CO2を回収・貯留し、さらに資源として活用可能なCCS・CCUSにかかる期待は、今後ますます高まることが予想されます。

【参考】