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大気からCO2(二酸化炭素)を直接分離・回収する仕組みDAC(Direct Air Capture)をご存じでしょうか。DACとは、日本語で「直接空気回収技術」と呼称されるカーボンニュートラル促進の技術です。
本記事では、DACについて仕組みや種類、意義について詳しく解説します。また国内での開発動向や世界の市場規模など、脱炭素化に有効なDACについての知見を深めることが可能ですので、ぜひご一読ください。
目次
DAC(直接空気回収技術)とは
DACの正式名称は「Direct Air Capture(ダイレクトエアキャプチャー)」であり、日本語で「直接空気回収技術」の意味です。簡単にいうと大気中からCO2を取り除き固定化する技術です。ここではDACの仕組みや種類、またCO2を排気ガスなどから分離し、回収して地中に貯留するCCSとの違いを解説していきます。
DACはCO2を直接分離・回収する技術
DACは大気中からCO2を直接回収するネガティブエミッション技術の一つで、大気中のCO2を物理的または化学的に分離・濃縮する技術です。DACは、空気のある場所ならたとえ限られた土地でも活用が可能で、森林によるCO2吸収の土地面積と比較すると圧倒的に小面積ですむという特徴があります。
DACの仕組みと種類
DAC技術にはさまざまな種類があります。代表的な種類と方法をご紹介します。
種類 | 方法 |
化学吸収法 | アミンなどの溶剤を用いてCO2を吸収・分離し、加熱などによってCO2を回収する |
化学吸着法 | 空気を吸着剤に通し、CO2 を吸着・分離し、加熱・減圧・加湿操作などによりCO2を回収する |
膜分離法 | 空気を分離膜に通し、CO2を分離・回収する |
電気化学法 | 電極を用いて電気化学的作用で CO2 を回収する |
物理吸着法 | 空気を吸着剤に接触させ、物理的にCO2を吸着させ、減圧または加熱によりCO2を回収する |
物理吸収法 | 空気を吸収液に接触させ、物理的に CO2 を吸収させ、減圧または加熱によりCO2 を回収する |
深冷分離法 | 極低温下で液化し沸点の違いを用いて分離する |
つまりDACを構成する技術は、「固体を使う方法」「液体を使う方法」「膜を使う方法」があるといえます。そのためサプライチェーンのさまざまな場面で活用が可能です。
DACとCCSの違い
CCSは、火力発電所などで化石燃料を使った際に排出される濃度の高いCO2を分離し回収して、地下深くに貯留します。一方、DACはCO2濃度が0.04%しかない大気からCO2を回収可能です。そしてDACとCCSを組み合わせた技術をDACCSと呼びます。
それぞれの違いは以下の表のようになります。
名称 | 違い |
DAC(Direct Air Capture) | 大気中の低濃度のCO2を物理的または化学的に分離・濃縮して永続的に除去する技術 |
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage) | 発電所や工場などから排出された排気ガスから高濃度のCO2を回収・分離し、安定した地下深くに貯留する技術 |
DACCS | 大気中から回収したCO2を地下に貯留する技術 |
DACが注目されている背景
カーボンニュートラルを実現するためには地球温暖化の要因となるCO2をメインとした温室効果ガスを削減しなくてはなりません。しかしCO2削減は容易ではないため、大気中のCO2を除去しようという考えから生まれたのがDACであり、以下のような点からも注目されています。
ネガティブエミッションの促進
ネガティブエミッションとは、植林や農耕方法の転換、バイオエネルギー利用を含めたCO2の回収・貯留・活用する技術の総称です。DACに限らずCCU、CCUSなど、最終的にCO2を貯留するものはすべて当てはまります。DACは限られた土地や空間でCO2を固定化可能なため、ネガティブエミッションの推進に大きく寄与するといわれています。
国内DAC産業の将来性の高さ
DAC産業には触媒や基材、プラント設計・建設など、多くのプレイヤーが存在し、サプライチェーン全体が関わる事業です。DACの産業は日本のカーボンニュートラル達成に大きく貢献するとともに、新たなビジネスの創出や技術革新など、日本経済にも好影響を与える可能性があります。そのためにも海外での実証などから得られた知見を活用しながら、DAC産業全体を自国で育成・確保していくことが重要です。
DACの意義
DACの持つ意義について次の3つの視点から解説していきます。
国内技術の国際競争力を促進
DACのメインとなるCO2分離回収技術については、日本の技術は世界トップレベルにあります。一方で活発な先行投資による海外での大規模実証・実装が先行しているのが現状です。DAC産業を促進することは、国内技術や国際競争力を向上させ、経済活性化にもつながるでしょう。
永続性・測定やモニタリング確実性・拡張性の高さ
DACとCCSを組み合わせたDACCSはCO2を永続的に除去できるという特徴に加えて、測定やモニタリングの確実性、大規模スケール化が可能な点が大きなメリットです。また炭素除去市場としてクレジットの創出・販売など、脱炭素ビジネスを牽引できる存在としても大きな意義があります。
「除去系クレジット」の創出が可能
カーボンニュートラルを実現するためにも、炭素除去による取り組みの重要性が世界的に増加しています。DACCSやBECCSといった炭素除去の取り組みは、現行のJ-クレジット制度の評価対象になりません。そこで日本はさらなる推進のため、J-クレジット制度の対象を拡大することを検討しています。
DACの持つ課題
ネガティブエミッションを大きく推進する点からも有効なDACですが課題も存在します。ここではDACの課題を解説していきます。
コストがかかる
DAC技術には、CO2回収プロセスにおいて多量のエネルギーを必要とし、さらに設備や建設費用など初期投資に多くのコストが必要です。現在DACによるCO2回収コストは1トン当たり400~1,000ドルかかるといわれています。
CO2の貯留地が乏しい
DAC自体は限られた土地でも利用することが可能ですが、日本の場合は回収したCO2を貯留する土地が乏しいことが難点です。DACはどのような土地でも実施できるからこそ、CO2貯留地に関しては今後さらなる探索や研究開発が求められます。
実用化に向けた課題
世界では大規模なDACの実証実験が次々と進んでいます。しかし国内では試作段階にとどまっているのが現状です。また海外で実施したDAC技術の価値移転手段がないため、国内排出削減に活用できず産業創出に結びつけることができないなど、複数の課題があります。早期の技術実証・商用化を目指し、課題を克服する必要があります。
DACの動向と市場規模
ここではDACの動向と市場規模を解説していきます。
DAC市場規模予測
IEA(国際エネルギー機関)によれば2050年のカーボンニュートラル達成には2030年に年間約400億ドル、2050年には年間約1,200億ドルの DAC投資が必要と推測されています。また世界全体で2030年には年間9千万トン、2050年には年間9.8億トンのDACによるCO2回収が必要と報告されており、将来的に投資と市場は大きく拡大すると見込まれています。
海外のDACビジネス動向
欧米や英国を中心に制度整備が加速し、世界的に炭素除去市場が急成長しています。将来的な市場はさらに拡大が見込まれており、米国のテキサス州では2025年半ばから年間50万トンを回収するDAC事業が開始される予定です。世界の炭素除去市場は削減量をクレジット化、売却収入で事業採算の確保を目指しており、脱炭素ビジネスとしてDACの存在感はますます高まる可能性があります。
日本のDACの市場拡大戦略
日本ではベンチ・ラボスケールでの実証実験規模に留まることから、短期的市場戦略として海外への技術展開を見据え、大規模化がすでに進んでいる海外DACCSプロジェクトへ早期参入を検討しています。また、DACCSの商用化に向けては再生可能エネルギーなどの非化石エネルギーとCO2貯留地を必要とすることから、これらが豊富に存在する地域での実施を検討すべきとしています。その一方で、海外でDACCSプロジェクトが実現した場合、日本国内にその価値を移転する手段が現在ないため、二か国間クレジット(JCM)の枠組みを通じて、国内の脱炭素に活用できないか制度の見直しが望まれます。
DAC技術事例集
国内ではさまざまなDAC事業が開始されています。企業のDAC技術事例をご紹介します。
日本ガイシ
日本ガイシは自動車排ガス浄化用セラミックスで培ったセラミック製ハニカム構造体の技術を応用し、DAC装置向けセラミックスの開発を行っています。また、2023年には本社地区にDAC開発エリアを整備し、2030年の量産体制の確立を目指しています。
川崎重工業
川崎重工はCO2 の吸収に最適な多孔質材料とアミン化合物から成る固体吸収材によって、大気中の CO2を分離・回収するDAC技術を開発しています。2024年7月より鹿島建設と協力し、カーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM」製造のための共同研究を開始しました。
日揮ホールディングス
LNGの未利用冷熱をDACに活用し、高純度かつ高圧CO2の回収を可能とする技術の確立を目指しています。これまでは年間1トンのCO2を分離回収する技術の詳細設計や、要件定義を実施しており、今後は年間50トンのCO2を回収するパイロット装置の開発を進め、2029年度末に商用プラントの概念設計が完了する計画です。
まとめ
ネガティブエミッションを促進し、カーボンニュートラル達成に大いに貢献すると期待されているDAC技術について解説しました。
炭素除去市場は世界的に拡大する見通しであり、今後DAC産業は日本のカーボンニュートラル実現と市場獲得に大きく寄与する可能性があります。ぜひ本記事でDAC技術について知見を深め、世界の脱炭素推進の潮流を見極める一助としてください。