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カーボンニュートラル実現のための、ネガティブエミッション技術には多様な方法が存在し、なかでも工学的プロセスを活用するDACCS・BECCSの開発が進んでいます。
本記事ではネガティブエミッション技術の基礎を網羅しつつ、DACCS・BECCSについて概要や手法を具体的に解説します。海外や国内での動向や重要性、企業の開発事例まで知見を深めることが可能ですので、ぜひご一読ください。
目次
ネガティブエミッション技術であるDACCS・BECC
DACCS・BECCSの開発するためのネガティブエミッション技術の基礎について、解説していきます。
ネガティブエミッション技術とは
ネガティブエミッションとは、生物的または化学的にCO2(二酸化炭素)を貯留または固定化する技術を組み合わせることにより、大気中のCO2を回収・吸収し、排出量を実質マイナスにする取り組みです。狭義な意味では、自然のCO2吸収・固定化の過程に、人為的な工程を加えることで加速させる技術やプロセスを指します。
ネガティブエミッション技術が注目される背景
ネガティブエミッション技術が注目される背景には、カーボンネガティブの推進が挙げられます。2015年に採択されたパリ協定の「1.5℃目標」を達成するためには、温室効果ガスを削減するカーボンニュートラルと、カーボンネガティブへの取り組みが欠かせません。カーボンネガティブとは、温室効果ガスの排出量よりも吸収量が上回る状態で、カーボンニュートラルとともに実現が期待されています。そのためカーボンネガティブを推進するネガティブエミッション技術の開発が世界的に進んでいます。
CO2は、陸上の植物や海中の海藻・植物プランクトンの光合成などによって吸収されるほか、海水中に溶け込むなど、多様な自然界のプロセスを通じて常時固定化されています。ネガティブエミッション技術には、この自然界のプロセスを森林の再生やCO2を多く吸収する植物の植林などで人為的に加速させる手法や、人工的に大気中のCO2を化学的または物理的に分離・貯留したりする手法があります。
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炭素を回収・貯留するBECCS・DACCSとは
ここからはDACCS・BECCSについて、CO2を貯留するCCSも含めてどのような技術なのか詳しく解説していきます。
CCSとは
CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略です。工場などから排出された排気ガスからCO2を回収・分離し、安定した地下深くに貯留する技術です。他にもCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)や、CCSとCCUを組み合わせたCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)があります。CO2削減が困難な産業分野でのCO2を貯留・回収・活用が可能な技術のため、世界的に注目され開発が急増しています。2022年時点で世界では、196件の大規模CCSプロジェクトが実施されています。
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バイオマス発電とCCS とを組み合わせたBECCS
BECCS(ベックス)は「Bioenergy with Carbon Capture and Storage」の略であり、バイオマス発電とCCSを組み合わせた技術です。バイオマス発電とは、木材や動植物などの生物資源(バイオマス)をエネルギー源として発電するシステムです。木くずや建築廃材による木質燃料、農業で野菜を収穫した後に残った茎や葉などの食品残渣から生み出すバイオエタノール、牛などの動物のフンから生み出すバイオガスなどが挙げられます。バイオマスの生成過程で大気中のCO2は吸収されますが、通常、バイオマスの燃焼後にまたCO2は大気中に放出されます。BECCSでは、バイオマスの燃焼後に発生するCO2を回収・貯留して固定することで、大気に戻ることなく長期間にわたって保管が可能です。他にもバイオマスからの水素製造やバイオプロセスで発生するCO2を対象としたり、炭酸塩化との組み合わせで固定化したりする場合も、BECCSに含まれることがあります。
BECCSは、ほぼ完成された技術であり、永久貯留が可能で除去効果の検証が容易である点が評価されています。さらに持続可能なエネルギーの供給とネガティブエミッションの両立が可能です。そのためBECCSは、脱炭素推進が困難な産業分野に対して活用することで、持続可能なエネルギー供給とCO2削減効果の双方の効果向上の期待が高まっています。一方で、かかるコストや日本での貯留ポテンシャル、バイオマスをどのように入手するかなどの課題があります。
炭素を大気から直接回収・貯留するDACCS
DACCS(ダックス) は「Direct Air Capture with Carbon Storage」の略であり、DACとCCSを組み合わせた技術のことを言います。DACとは「Direct Air Capture」の略で、大気中のCO2を物理的または化学的に分離・濃縮する技術のことです。大気のある場所なら限定的な土地でも活用でき、回収したCO2は燃料、化学品、セメントなどに利用可能というメリットがあります。DACには、化学吸収、化学吸着のほかに膜分離や電気化学などさまざまな手法があります。
DACCSには、貯留・固定化・利用場所への隣接が可能・必要面積が比較的少ない・永久貯留・除去効果の検証が容易・世界市場展開の可能性など多くのメリットが存在します。しかし一方でCO2の回収に多くの熱や電気などのエネルギーを必要とするため、低コスト化およびエネルギー消費削減への課題があります。
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BECCSとDACCSの違い
BECCSとDACCSは、どちらも工学的プロセスを活用したネガティブエミッション技術です。違いや特徴を比較すると以下の通りです。
名称 | 違い | メリット | デメリット |
BECCS | バイオマス発電から発生するCO2を回収・貯留する |
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DACCS | 大気から直接CO2を分離・吸収し、地中に貯留する |
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世界と日本のネガティブエミッション技術の動向
ここからは世界と日本のDACCS・BECCSの開発を含めたネガティブエミッション技術の動向を解説していきます。
各国のネガティブエミッション政策
主要国の温暖化対策の長期シナリオでは、温室効果ガス削減を促進するネガティブエミッション技術の決め手として、DACCS・BECCSの役割に期待が高まっています。またネガティブエミッション技術を対象としたボランタリークレジット市場が形成され、取引が行われています。将来的にはネガティブエミッション技術の導入量は、2050年時点で、5.74GtCO2/年、DACCSの導入量は最大1.88GtCO2/年と予測されています。
アメリカ
アメリカでは既存の石炭やフラッキング産業を新エネルギー化推進と共に転換を図る狙いです。採掘跡のCCS転用と化石燃料の将来の有効活用を実施します。国のプロジェクトとしてDACCS・BECCS、海藻類炭素固定を推進し、2021年のインフラ投資法案において、DACCS・CCUS関連の建設や検査、標準化を対象に含め出資を開始しました。
中国
中国は、中央政府による強力な政策推進を実施しています。風化促進を含むCCUSや海洋におけるネガティブエミッションを推進し、2016年よりブルーカーボンのプロジェクトを開始しました。CO2鉱物化や、CCUS技術のイノベーションの推進も計画しています。
イギリス
英国の気候変動目標達成のため、英国ビジネスエネルギー・産業戦略省は2021年、気候変動目標達成と6万件の雇用創出に向け、日本円で、約260億円の大規模助成プログラムを開始しました。DACCS・BECCSによって、2050年までに2020年と比較して、温室効果ガス総排出量の12%にあたるCO2を除去する計画です。
日本の動向
CCUSを2025年までに社会実装することを目指し、大規模な実証試験事業や貯留適地の調査事業を実施しています。 2019年には目標である30万トンのCO2の圧入に成功しています。また政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、成長が期待される14の重要分野についての実行計画を示しています。その一つである「カーボンリサイクル・マテリアル産業」において、ネガティブエミッション(炭素除去)に必要なCO2分離回収技術の開発・実証が不可欠であること、さらに革新的環境イノベーション戦略では、DAC技術を追求することを明記しています。
企業事例
企業のDACCS・BECCSなど、ネガティブエミッション技術の事例をご紹介します。
東芝・中国電力・日揮グローバル・住友重機
東芝エネルギーシステムズ株式会社、中国電力株式会社、日揮グローバル株式会社、住友重機械工業株式会社の4社は、2024年BECCSの国内初となる大規模な商用実装に向け、設計・検討に着手しました。中国電力グループのエネルギア・パワー山口株式会社が運営する防府バイオマス発電所でのCO2分離回収・液化・貯蔵を含めたCCS設備の設計・検討に着手しています。
三菱重工業・エベロ
三菱重工業株式会社は、英国のバイオマス発電事業会社であるエベロ(Evero Energy Group Limited)と、バイオマス発電所から排出されるCO2を回収・貯留するBECCSプロジェクトで技術提携することを2023年に発表しました。CO2回収技術には、三菱重工と関西電力株式会社が共同開発を進めていた化学吸収法が用いられる予定です。
川崎重工業
川崎重工業は、40年前から潜水艦や宇宙船など閉鎖空間における呼気由来のCO2除去技術として固体吸収材を用いたCO2分離回収技術を開発、DACCS関連の取り組みを実施しています。長年培った技術を活かし、DACの早期実現に向けた研究・開発・ 実証を促進しています。
まとめ
ネガティブエミッション技術であるDACCS・BECCSについて、仕組みや特徴を具体的に解説しました。カーボンニュートラル達成やカーボンネガティブ推進に有用なDACCS・BECCSの技術は世界的に開発が拡大しており、それにともないネガティブエミッション技術の市場の拡大も予測されます。
本記事でDACCS・BECCSについての知見を深め、ぜひ自社のネガティブエミッション技術の取り組みの参考としてください。