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地球温暖化や気候変動が深刻化する中で、カーボンニュートラルを実現するための新たなエネルギー源として「e-fuel(合成燃料)」が注目を集めています。日本政府もクリーン燃料であるe-fuelを推進し、従来の化石燃料からの脱却を目指しています。
本記事では、e-fuelの概要と国内の動きに加え、活用のメリットと今後の課題もわかりやすく解説します。環境負荷を軽減しながらエネルギー供給の安定化を図る、e-fuelの可能性について知識を深めましょう。
目次
e-fuel(合成燃料)とは
e-fuelとは、CO2と再生可能エネルギー由来のH2(水素)を合成して製造される液体の合成燃料を指します。現在、CO2は工場や発電所などから排出されたものを利用していますが、将来的には大気中のCO2を分離して回収する「DAC技術」を使い、CO2の再利用をすることを目指して技術の開発が進んでいます。
またH2は、再生可能エネルギーによって作られた電力を使い、水から水素を生成する「水電解」を行って調達します。再生可能エネルギーを使用しているため、e-fuelは製造過程でCO2が排出されない、環境負荷が低い燃料として普及が期待されています。
e-fuelが注目される理由
e-fuelの大きな特徴は、化石燃料と同等の高いエネルギー密度を有し、既存の燃料インフラ(タンクローリー、ガソリンスタンドなど)がそのまま活用可能な点です。エネルギー密度とは燃料に含まれているエネルギー量を指し、エネルギー密度が高いものほど少量で多くのエネルギーを作り出します。例えば飛行機に従来の液体燃料と電気・水素エネルギーを使用する場合、同じ距離を移動するには液体燃料に比べて大量の電気・水素が必要となります。それは電気・水素のエネルギー密度が低いためです。その点、e-fuelは従来の燃料と同じ量で同じ距離を移動できるため、活用の可能性が注目されているのです。日本政府は2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(令和3年6月18日経済産業省策定)において、2040年までにe-fuelの商用化を目指すとしています。e-fuelを国内に広く普及させるため、グリーンイノベーション基金などを通じて、高効率かつ大規模な製造プロセスを確立するための技術開発を推進しています。
出典:合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 中間とりまとめ(案)(経済産業省 資源エネルギー庁)
e-fuelにまつわる国内の動き
経済産業省・環境省・国土交通省は、2022年9月「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会」を設立しました。合成燃料の導入促進に向けたさまざまな課題について専門的な議論を行う場として、「商用化推進WG」「環境整備WG」をそれぞれ設置し、議論を続けています。
また、2023年には国内で6年ぶりに「水素基本戦略」が改定されました。この戦略では、主に水素の産業競争力強化に向けた方針と、水素の安全な利活用に向けた方針の2つが示されています。国内における水素サプライチェーンの構築・強化、そして水素を原料として生成されるe-fuelの研究開発の推進・供給の強化・需要創出に関する言及がなされ、水素社会実現に向けた具体的な検討が進んでいます。
e-fuel(合成燃料)のメリット
e-fuelを活用するメリットは、主に以下の4つです。それぞれ詳しく解説します。
従来の設備が利用できる
e-fuelは、従来の自動車・航空機のエンジンや発電所などの内燃機関を変える必要がなく、燃料だけ入れ替えて利用できるという大きなメリットがあります。すでに広く普及している設備を開発し直す手間がないことから、大規模なインフラ整備や導入コストを抑えられ、市場への導入もスムーズに進むでしょう。
特に自動車・航空機・船舶のCO2排出量を削減することは、今後の喫緊の課題です。EVの普及がまだ進まない日本国内では、e-fuelをガソリンに代わる燃料として利用することを模索しています。現在、航空機ではバイオジェット燃料や合成燃料、船舶では水素・アンモニアなどの代替燃料の技術開発が進められています。
すでにバイオジェット燃料が商用化されている一方で、今後は原料の不足も懸念されることから、持続可能なエネルギー源としてCO2と水素から大量生産できるe-fuelへの期待がますます高まっているのです。
エネルギー密度が高い
商用車やトラック、飛行機・船舶は長距離を移動する乗り物であるという理由で、これまで電動化は難しいと考えられてきました。現在開発されている蓄電池の性能がまだ長距離の移動に適していない点が大きな理由です。
その点、e-fuelは液体燃料と同等の高いエネルギー密度を有しています。従来の液体燃料と同等の移動距離をキープでき、エンジンなどの内燃機関を作り変えなくて良いことから、e-fuelは長距離移動にも適した燃料だと言われています。
化石燃料資源国以外でも製造できる
日本はエネルギー調達において、海外から輸入する石油・石炭・天然ガス(LNG)などの化石燃料に大きく依存しています。東日本大震災後は化石燃料への依存度が高まり、2022年度の化石燃料依存度は83.5%まで上昇しました。
出典:2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)(経済産業省 資源エネルギー庁)
これまで、化石燃料資源がない国は資源国である中東や北米からの輸入に頼らざるを得ませんでした。しかし、e-fuelならばCO2とH2(水素)さえあればどこでも製造できる可能性が示唆されています。原料が枯渇するリスクも低く、日本でも燃料を製造し輸出できる未来が実現するかもしれません。
環境負荷を抑えられる
e-fuelは工場などから排出されたCO2(将来的には大気中のCO2)と、再生可能エネルギーを用いて作られたH2(水素)を原料としているため、製造過程で環境にやさしい燃料であるといえます。また、従来の原油に比べて硫黄や重金属のような不純物が含まれないため、燃焼時にも環境負荷を抑えることができます。
さらにe-fuelは、製品の原材料調達・製造販売・消費・廃棄に至るまでのサプライチェーンで排出される温室効果ガスの量(Scope3)の削減にも貢献します。製品の輸送時に使用するトラックの燃料をe-fuelに置き換えるなどの活用方法が検討されています。
e-fuel(合成燃料)活用における課題
e-fuelの活用においては、まだ多くの課題が残されています。ここではe-fuelの普及に向けて乗り越えるべき壁と、未来の展望についてまとめます。
製造技術の確立
e-fuelの製造技術確立においては、早期供給を目指す国産プロジェクトの組成や、海外プロジェクト参画への支援がすでに始まっています。日本政府も早期の社会実装と商用化に向けて、サプライヤーの技術開発を補助金などで支援しています。
ENEOSホールディングスは2024年9月、合成燃料を原料から一貫して製造する試験的な施設を国内で初めて開設しました。水を電気分解して作ったH2と、大気中や工場から排出されたCO2を原料としており、1日あたり約160リットルの燃料を製造する計画です。ここで作られたe-fuelの一部は、2025年4月からの大阪・関西万博において大型車両の運行に活用される予定です。
製造コストと輸送コストの問題
現在、e-fuelのコストは水素の価格に大きく依存している状況です。経済産業省 資源エネルギー庁の試算によると、1リットルあたり約300円〜700円ほどの製造コストが必要であり、従来のエネルギー源に比べるとかなり高額です。海外でe-fuelを製造して輸送する、または原料のみを輸入する場合のコストと比較するなど、低コスト化についてはまだ検討が続くでしょう。
情報発信プラットフォームの整備
日本政府はe-fuelに関する情報発信プラットフォームの整備を進めています。
・共同ワークショップなどを通じた各国との連携の実施
・国際的な認知と環境価値(CO2の削減効果)の扱いについての理解を得る
・企業間の連携や情報収集・発信につながるプラットフォーム機能をつくる
これらの取り組みを通して、e-fuelの認知度向上はもちろん、e-fuelの国際実証に関する検討や導入促進に向けた協力体制の構築を目指しています。諸外国との政策対話などを通じて各国との連携を図り、国内外での普及を促進する動きは今後もさらに活発化すると考えられます。
まとめ
e-fuel(合成燃料)は、CO2の再利用と再生可能エネルギー由来のH2(水素)から作られ、化石燃料に代わる次世代のクリーンエネルギーとして活用の道が模索されています。e-fuelの導入は、カーボンニュートラルを目指す企業や国にとって、脱炭素社会に向けた大きな一歩となるでしょう。
特に自動車・航空機・船舶などの運輸業界の温室効果ガス削減に貢献する可能性は大きく期待を集める分野です。今後、技術開発やインフラ整備が進めば、e-fuelのコスト削減とさらなる普及が進む可能性があります。脱炭素化に向けた持続可能なエネルギーとして、e-fuelの今後の展開に注目です。