省エネから脱炭素経営へ|企業が身近にできる対策・補助金・先進事例を紹介

近年の環境意識の高まりとともに、企業は省エネや脱炭素経営への対応を迫られています。本記事では、脱炭素経営やカーボンニュートラルに向けた取り組みの第一歩である省エネについて解説します。企業活動に取り入れやすい身近な対策に加え、先進的な省エネ事例、導入を後押しする補助金制度についても紹介します。

省エネとは

省エネとは、エネルギーの使用量を削減することを指します。省エネには、効率的にエネルギーを活用して無駄をなくすためのさまざまな取り組みが含まれます。以下では省エネの必要性や再生可能エネルギーとの関係性、そして企業が省エネに取り組む場合の進め方について解説します。

省エネはなぜ必要なのか

省エネは、石油・石炭・天然ガスなどの限りある資源の枯渇を防ぐために、エネルギーを効率よく使うことです。長きにわたってエネルギーの安定供給を確保することに加え、無駄なエネルギー由来の温室効果ガスを排出しないことで地球温暖化防止の対策としても重要な意味を持ちます。
近年、アジアを中心とした経済の発展により、世界規模でエネルギー需要が急増しています。国際エネルギー機関(IEA)は、2040年に世界のエネルギー需要が「2014年比で約1.3倍に増加する」と予測しました。一方で、世界のエネルギー資源が採掘できる年数(資源可採年数)は、現在の生産量を前提とした場合に「石油は約50年、天然ガスは約51年」と言われています。

出典:省エネって何?(経済産業省 資源エネルギー庁)

資源可採年数だけでなく、2022年以降のロシアのウクライナ侵攻に伴って発生した世界規模でのエネルギー価格の高騰により、エネルギー源を輸入に頼っている日本の産業は大きな影響を受けました。このことからも、エネルギーの効率利用は世界中で喫緊の課題といえます。今後は日本の企業にとっても、脱炭素化(CO2排出量削減)を意識した省エネを進めることが、事業活動にとってプラスの要素となるでしょう。

省エネと再生可能エネルギーの関係性

省エネ法とは、原油換算で年間1,500kl以上のエネルギーを使用する事業者に対し、エネルギーの使用状況を定期的に報告することを義務づけ、省エネ・非化石エネルギーへの転換といった計画の策定を促す法律です。
この省エネ法が2023年4月に改正され、従来は化石燃料のみを指していた「エネルギー」の定義を拡大し、非化石エネルギーを含むすべてのエネルギー使用の合理化を求める枠組みへと見直しが行われました。
一定規模以上のエネルギー使用者に対しては、今後ますます再生可能エネルギーへの転換を求める流れとなります。また、産業部門の大規模需要者に対しては、電気需要の最適化を求めています。
電気の需要側が再生可能エネルギーを使用する流れは世界中で広がっており、2030年の野心的な温室効果ガス削減目標の達成や2050年のカーボンニュートラル実現に向け、今後も省エネの機運は高まるとみられます。このことから、省エネと再生可能エネルギーの活用は引き続き企業にとって重要な課題であり、積極的な取り組みが求められるでしょう。

企業の省エネ対策の進め方

企業の省エネ対策は、次の3ステップで進めることが推奨されています。

①省エネの取り組み状況を整理する
自社が現状、どの程度省エネに取り組んでいるのかを整理します。業種によって電力消費量の用途は異なります。特定の条件を満たした中小企業は、経済産業省が所管する一般社団法人 環境共創イニシアチブによる「省エネクイック診断」を有料でが受けることができ、日常的に使っている空調・照明といった設備の省エネアドバイスを専門家から受けられるので必要に応じて活用してください。

②エネルギー管理を行う
省エネを行うには、エネルギー管理を適切に実施することが重要です。管理体制の見直しはもちろん、エネルギー使用量の見える化、設備機器の運転・保守方法の改善も効果的です。経営トップの意思表示や人材育成といった組織改善を行い、全社で省エネに取り組む必要があります。

③PDCAサイクルを回す
省エネは一度取り組んで完了ではなく、継続的なレベルアップを目指さなくてはなりません。定期的なチェックや計画の見直しといったPDCAサイクルを回し、エネルギー管理と省エネをさらに社内で加速させる取り組みを行いましょう。

企業におすすめの省エネ対策

多くの企業に共通して発生するエネルギーの一つに、オフィスの消費電力があります。経済産業省の調査によると、一般的なオフィスの電力需要は9時から18時の時間帯が最も高く、電力消費の内訳では空調・照明で合計70%以上を占めるとされています。
以下では、オフィスビルの省エネを例として省エネに取り組む場合の流れを紹介します。


出典:夏季の省エネメニュー・事業者の皆様(経済産業省 資源エネルギー庁)

企業が大きな設備投資をしなくても取り掛かることのできる対策としては、以下2つがあります。
・LED照明を導入する
・空調設備の見直し・メンテナンス

また、脱炭素化と電力コスト削減の観点の取り組みとしては以下が挙げられます。
・太陽光発電設備を導入する

上記3つについてそれぞれ詳しく解説します。

LED照明を導入する

蛍光灯をLED照明に交換すると、およそ50%の消費電力を削減できます。また、使用していない会議室・廊下や、窓際で自然採光ができるエリアはこまめに消灯する工夫も省エネには有効です。まずは身近にできる照明の使用方法の見直しから取り組んでみてください。

空調設備のメンテナンス・運用見直し

空調設備は、定期的なメンテナンスによって効率が大きく変わります。目詰まりしたフィルターを清掃したり、室外機周辺の障害物を取り除くなどの対策を行いましょう。使用していないエリアの空調オフはもちろん、日光を遮るブラインドやカーテンなどを活用すると、室内温度の上げすぎ・下げすぎを予防し省エネにつながるのでおすすめです。

太陽光発電設備を導入する

脱炭素経営の実現と電力調達コスト削減のためには、太陽光発電の導入も有効な手段です。一般的に自社で太陽光発電設備を用意すると、初期コストが大きくかかる点が懸念事項となりがちです。しかし、オンサイトPPAやリースなどで初期コストをかけずに導入する方法もあります。
特にオンサイトPPAでは、発電事業者(PPA事業者)と契約を交わして太陽光発電設備の設置スペースさえ提供すれば、発電設備の運用・保守・管理まで一括してPPA事業者が担います。需要家は発電した電力と再エネ発電により発生する環境価値を購入する必要がありますが、初期投資なしで長期にわたって再エネ電力を購入できます。

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また、自社の屋根上や敷地内に十分なスペースがない場合は、距離が離れた発電設備からオフサイトPPAとして電力を購入する契約方法もあります。

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自社の事業活動のうち、特にエネルギーを利用しているカテゴリでの省エネが進められることがベターですが、一方、主力事業の活動に関わる場合は短期的な省エネ対策が難しい場合もあるでしょう。エネルギー利用量の大きさと実行のしやすさのバランスを見て、実現可能な部分から対策するとよいでしょう。

先進的な省エネ事例

オーケー株式会社(町田小川店)

オーケー株式会社は、東京近郊に150店以上を展開するスーパーマーケットです。東京の町田小川店では、更新時期を迎えた冷凍ケース26台について、補助金を活用して従来の冷凍機別置型ショーケースから冷凍機内蔵型へ変更しました。その結果、省エネルギー率71.9%を達成。補助金によってイニシャルコスト・ランニングコストの削減も実現しました。

東京ガス株式会社

東京ガス株式会社は、2019年より栃木県宇都宮市において「清原工業団地スマエネ事業」を展開しています。これは、カルビー・キヤノン・久光製薬の3社(計7事業所)と東京ガス・東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社(TGES)が合同となり、1か所に集約したガスコージェネレーションシステムからの電力と熱を利用する取り組みです。一つの事業所だけでは実現が難しい大規模な実践により、およそ20%の省エネ・省CO2を達成しました。

株式会社リコー

株式会社リコーは、工場に廃熱回収ヒートポンプを導入しました。従来は大気に放出していた廃熱を利用することで、脱溶剤工程で使用している65℃の温水を生成します。蒸気の使用量をおよそ60%低減できる見込みで、コストはもちろんCO2排出量を年間最大540トン削減できます。この取り組みが評価され、省エネ大賞2023を受賞しました。

企業の省エネ対策で活用できる補助金・支援事業

企業が省エネ対策に踏み出すには初期投資が必要な場合が多く、それが障壁となって「なかなか自社の省エネが進まない」とお悩みの方も多いでしょう。以下では企業が活用できる省エネ補助金や支援事業について紹介します。

省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金

省エネ設備への更新を促進する目的で実施されているこの補助金では、事業者の使用目的・用途に合わせて設計や製造が必要な設備や、先進型設備などの導入を支援しています。さらに、化石燃料からCO2排出量の少ない燃料への転換や電化などの設備導入にも活用でき、事業内容に応じて以下の4種類があります。
(Ⅰ)工場・事業場型
(Ⅱ)電化・脱炭素燃転型
(Ⅲ)設備単位型
(Ⅳ)エネルギー需要最適化型

それぞれ募集要件や応募時期が異なるため、詳細は経済産業省のページをご覧ください。
各種支援制度(資源エネルギー庁)

省エネルギー設備投資利子補給金助成事業費

省エネ設備を新たに導入・増設する場合や、省エネのモデルケースとなり得る事業に対して支援を行う助成金です。
・新設事業所における省エネ設備の新設
・既設事業所における省エネ設備の新設・増設
・物流拠点の集約化に係る設備導入
・エネルギーマネジメントシステム導入など等によるソフト面での省エネ取組
上記のような取り組みを行う事業者が民間金融機関など等から融資を受ける場合に、利子の補給を行うことで「資金調達がネックとなって省エネ化が進まない」と悩む事業者の省エネ投資を促進しています。

中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費

中小企業のエネルギー使用状況の把握から、省エネ計画の策定・実施・見直しまで、経営状況も踏まえた取り組みを一貫してバックアップします。省エネルギー診断や省エネ相談地域プラットフォームの構築など、中小企業の省エネを推進するきめ細かな支援が特徴です。省エネ診断には以下の3つの種類があります。
①省エネクイック診断
②省エネ最適化診断
③省エネお助け隊
他にもエネルギー最適化診断や講師派遣など、幅広く企業の省エネ化をサポートする取り組みがあります。「省エネは何から実践すればいいのかわからない」という中小企業の強い味方です。

まとめ

エネルギーの使用量削減に加え、効率的なエネルギーの活用を行う省エネは、多くの企業にとって避けて通れない課題です。企業の身近な省エネ対策としては、LED照明の設置や空調設備の見直し、太陽光発電設備の導入などを挙げました。国や自治体が提供する補助金制度を活用すれば、初期投資の負担を軽減しながら省エネや脱炭素経営を推進できます。省エネの取り組みを実践することで、企業は環境負荷の軽減に貢献するだけでなく、コスト削減やブランド価値の向上といったメリットも享受できます。今回の記事を参考に、持続可能な未来を目指してぜひ省エネへの一歩を踏み出しましょう。

【参考】