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環境保護への取り組みが広がる中で、企業間の取引やリスク評価を行う重要な手法として環境デューデリジェンスが活用されています。環境デューデリジェンスでは、取引先に環境汚染のリスクがないか、また将来的な環境負債を抱える可能性があるかを詳細に調査します。加えて、近年では自社の環境保護活動に役立てるために活用するケースも増えています。
本記事では、環境デューデリジェンスの目的や調査プロセスを解説するとともに、国内外での取り組み事例も紹介します。企業の信頼性向上やリスク管理にお役立てください。
目次
環境デューデリジェンスとは
デューデリジェンスとは、企業の買収や合併に向けて買収価格を決定する際に、買い手側が対象企業の財務などの情報を入手し、それが正しいかどうかを調査するプロセスを指します。環境デューデリジェンスは、デューデリジェンスの中でも「企業が持つ環境リスクを買い手側で事前に調べる」ことを意味する言葉です。近年では、買収などに伴う場面以外でも、環境分野を含めて責任ある企業行動を行うため、現状課題の把握を目的として環境デューデリジェンスを行うケースも増えています。
環境デューデリジェンスの目的
環境デューデリジェンスは何のために行われるのでしょうか。世界各国で環境デューデリジェンスの基本方針として参考にされる「OECDガイダンス」を読み解くと、その目的がわかります。
OECD(経済協力開発機構)とは、1961年に創立した国際経済全般について協議することを目的とした国際機関です。日本語では経済協力開発機構と呼ばれ、日本は1964年に加盟しました。OECDは多国籍企業に対して責任ある行動を自主的にとるよう勧告する「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」を策定しており、2018年には「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を公表しています。日本を含めた数十か国が加盟するOECDでは、今も環境デューデリジェンスに関する議論が進められ、日本の環境省でもこの方針に則った情報公開を行っています。
環境に対する負の影響の種類を特定するため
環境デューデリジェンスを行う目的の一つは、企業が環境へどのような負の影響を与える可能性があるのか、その種類を特定することです。製造や輸送といった一部分のみに目を向けるのではなく、バリューチェーン全体に目を配った上で、企業がどのように環境と関わっているかを検討することが重要です。
OECDガイダンスでは現在、負の影響として以下を例に挙げています。
①気候変動
②生物多様性の損失
③陸、海洋及び淡水の生態系の劣化
④森林減少
⑤大気、水、土壌の汚染
⑥有害物質を含む廃棄物の不適切な管理
環境への負の影響の種類によっては、遵守すべき国内法が整っていない場合や、国際基準がまだ存在していない場合もあります。負の影響の深刻さ、そして発生の可能性と社会的要請などを踏まえ、自社とステークホルダーで話し合って妥当な水準で対策を練ることも重要です。
リスクへの適切な対応と優先順位付けをするため
環境に対する負の影響は、一つだけとは限りません。もし複数のリスクがある場合は、優先度をつけて影響が大きいものから対処する必要があります。またトップダウンで対応を決定するだけでなく、社員や取引先、消費者、地域社会、投資家などのステークホルダーの声を集め、協議することも求められます。
環境への負の影響を最大限予防・回復するため
環境デューデリジェンスでは、現在の目前にある課題だけでなく、将来にわたって発生し得る環境リスクを前提とした予防・回復の活動を行うことも重要です。企業が環境保護に向けた活動を継続的に実施し、必要に応じて追跡調査やステークホルダーの意見収集なども行いながら、負の影響を出し続けない努力が問われます。
環境デューデリジェンス調査のプロセス
OECDガイダンスでは、デューデリジェンスプロセスの5つの要素(①~⑤)と是正措置(⑥)の概要が示されています。これは環境デューデリジェンスにおいても共通の内容となるため、自社で実施する際には参考にしてください。
出典:責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス(OECD)
①責任ある企業行動を企業方針および経営システムに組み込む
・環境デューデリジェンスの実施計画を組み込んだ企業方針を立案・採択・周知する
・その方針を経営システムに組み込み、事業プロセスの一部として実施する
・方針について取引先やサプライヤーなどのステークホルダーと連携する
②企業の事業・製品・サービスに関連する環境への負の影響を特定・評価する
・重大なリスク領域を出発点とし、実際の影響と潜在的な負の影響の両方について調査する
・企業が環境への負の影響に対し「その原因となったか、または助長する活動を行ったか」について評価する
・優先的に措置を講じるべき重大なリスクや影響について判断し、すべてを同時に対処できない場合は優先順位付けを行う
③ 負の影響を停止・防止・軽減する
・②の評価に基づき、負の影響の原因や助長となった活動を停止する
・②の評価に基づき、ビジネス上の関係における負の影響の防止と軽減を図るための計画を策定、実施する
④実施状況および結果を追跡調査する
・負の影響の特定、防止、軽減の実施状況と有効性について、ステークホルダーも含め追跡調査する
・その結果を環境デューデリジェンスプロセスの改善に活用する
⑤対処方法について伝える
・方針、プロセス、活動の成果について公開する
⑥是正措置を行う
・企業が環境に対する負の影響の原因、または助長したことが判明した場合は、是正措置を実施する
・必要に応じてステークホルダーは企業に苦情を申し立てることができる
環境デューデリジェンスを取り巻く国内外の動向
環境デューデリジェンスについては、今もOECDや世界各国で議論が続けられています。ここでは直近の国内外の動向についてまとめます。
日本では「第六次環境基本計画」がスタート
2024年5月に閣議決定された「第六次環境基本計画」は、環境基本法に基づいて環境保全に関する統合的・長期的な施策の大綱などを定めたものです。これまで約6年ごとに計画の見直しが行われてきました。2018年の「第五次環境基本計画」では、地域資源を持続可能な形で活用し、自立・分散型の社会を形成しつつ地域間で支え合う「地域循環共生圏」の創造を目指す方針が発表されました。
「第六次環境基本計画」では、環境保全を通じた国民のウェルビーイング向上を目的に掲げ、環境デューデリジェンスの重要性についても言及されています。適切に環境デューデリジェンスを行わない場合、日本企業が世界で信頼性・競争力を失うリスクについてもあわせて指摘しています。
多国籍企業に対するデューデリジェンス推進の取り組み
OECDは2018年、「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を公表しました。多国籍企業に対して、責任ある企業行動を自主的にとり、リスクに基づくデューデリジェンスを行うべきだと規定しています。
これを受けて2023年には、「OECD多国籍企業行動指針」の改訂が行われました。顕在的・潜在的な環境への悪影響を特定・防止・緩和するためには、企業のリスク管理システムをデューデリジェンスに基づいて適切に実行すべきだとしています。
人権デューデリジェンスの考え方も広がっている
国連で2011年6月に開催された国連人権理事会において「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されたことをきっかけに、企業が人権尊重のために取り組むべき責任についての考え方が世界に広がりました。
EU理事会では2024年5月、企業サステナビリティ・デューデリジェンス法案(CSDDD)が採択され、2027年以降の順次適用が決定しています。これは、企業活動が人権や環境へ与える悪影響を予防・是正する義務を企業に課す取り組みです。
日本でもこの流れを受けて「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」を2020年10月に策定しました。今後の政府の政策や、企業活動においても人権デューデリジェンス導入・促進を通して人権尊重への対応が広がることが期待されています。
環境デューデリジェンスの取り組み事例
日本国内でも、各企業が独自に環境デューデリジェンスの取り組みを進めています。以下では3社の実践内容についてご紹介します。
積水ハウス株式会社
積水ハウス株式会社は、サプライチェーンにおける環境保護対策として「CSR調達ガイドライン」を定めました。一次サプライヤーに対し、国際的な環境課題を与える因子を特定・管理し、各国・地域での環境法令の順守と、環境負荷軽減に関する目標設定と取り組みの実施などを求めています。サプライヤーとの密な情報と認識の共有を通じて、ガイドラインの遵守および積水ハウスとサプライヤー双方の企業価値の最大化も目指しています。
アサヒグループホールディングス株式会社
アサヒグループホールディングス株式会社は、各事業の原料を生産する世界36カ国の生産地の環境リスク・人権リスクを評価しています。また気候変動・水資源・生物多様性の3つのリスクについて、サプライヤー自身が対策を行うための支援も充実させています。例えばビールの原料であるホップの生産地・チェコでは、渇水による収穫量減や品質低下が生じていました。Microsoft社などとの連携により、土壌や苗に取り付けたセンサーで降水量・湿度などのデータを収集し、水の使用量を最適化するモバイルアプリを開発する取り組みを進めています。
三井物産株式会社
三井物産株式会社では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関連したリスク領域を事業ごとに評価する、実効的なリスク管理体制を構築しています。独自の「ESGデューデリジェンスチェックリスト」を活用し、気候変動や環境汚染の予防、生態系保護、水ストレスといった環境・人権・労働安全衛生などに関するESG影響評価を実施。ESGに関するリスクが高い事業については、取締役会などで今後の対応や事業推進の可否を判断するなど、経営システムへの組み込みが行われています。
まとめ
環境デューデリジェンスは、企業間取引やプロジェクト遂行における環境リスクを事前に把握し、適切な対応策を講じるために重要なものです。従来は企業買収の場面で活用されてきたデューデリジェンスですが、近年では買収以外の場面でも環境分野を含めた責任ある企業行動のためにデューデリジェンスの実施が求められるようになりました。
デューデリジェンスを適切に実施すれば、規制遵守だけでなく、負の影響を積極的に回避または対処し、企業価値の向上につながります。今回ご紹介した環境デューデリジェンスの目的や調査プロセス、国内外の具体的な取り組みを参考にして、自社の活動が環境に与える影響を正しく把握し、ステークホルダーの評価を高めるとともに持続可能な経営を実現しましょう。