欧州(EU)電池規則とは|内容・日本企業への影響をわかりやすく解説

2023年8月に施行された欧州電池規則(EUバッテリー規則)が注目を集めています。これは電池による環境への負荷を軽減するため、製品のライフサイクル全体を規定する取り決めです。今回は、欧州電池規則(EUバッテリー規則)の意味と具体的な内容、日本に与える影響について解説します。

欧州(EU)電池規則とは

欧州電池規則はどのような製品を対象とし、何を目的とした施策なのでしょうか。ここでは欧州電池規則の目的と、EUが近年取り組む環境保護目標「欧州グリーン・ディール」との関係性についてまとめます。

欧州電池規則の目的

EUは2020年12月に欧州電池規則の草案を発表しました。これは前身となる「バッテリー指令(2006年発効)」を改正したものです。その後、少しずつ内容が追加されて2023年8月に正式施行となりました。欧州電池規則の目的は、EU内で販売される電池の原材料の調達・製造からリサイクルまでの流れを規制し、サステナブルな製品供給を可能とすることです。対象となる製品は、自動車用・産業用・携帯用などのEU域内で販売される全てのバッテリーで、電池だけでなく蓄電池も含まれます。リサイクル済みの原材料の活用を推進したり、使い終わったバッテリーを回収したりする取り組みを通じて、電池を製造する際に発生する環境負荷を極限まで減らすことを目指しています。

アメリカでは、すでにインフレ抑制法(IRA)においてEV産業を国内に囲い込む動きが強まっています。欧州電池規則も含め、それぞれの市場優位性を守りながら自国の雇用創出および脱化石燃料を実現するため、サプライチェーンや資源の囲い込みは今後も加速するでしょう。

欧州電池規則の具体的な内容

欧州電池規則(EUバッテリー規則)で具体的に定められている取り組み内容は、以下の通りです。

  • カーボンフットプリントの申告義務
  • リサイクル済み原材料の使用割合の最低値導入
  • 廃棄された携帯型バッテリーの回収率
  • 原材料別再資源化率の目標値導入
  • 責任ある原材料調達

それぞれ詳しく解説します。

カーボンフットプリントの申告義務

カーボンフットプリントとは、商品やサービスのライフサイクルで排出された温室効果ガス(GHG)の排出量をCO2排出量に換算して表示し、環境への影響を評価する手法です。製品のライフサイクル全体で排出されるCO2から、吸収・除去量を除いた数値を指します。地球温暖化対策に対する意識の高まりから、カーボンフットプリントから算定されるCO2排出量をいかに低く抑えるかが注目されています。欧州電池規則では、このカーボンフットプリントを各企業が申告することが求められます。また、カーボンフットプリントの情報はWEBサイトへの掲載に加え、今後は製品のラベルに印字する必要もあり、バッテリー製品のCO2排出量の開示がますます進むと考えられます。

リサイクル済み原材料の使用割合の最低値導入

欧州電池規則では、バッテリーのリサイクルについても規定されています。EU内でバッテリー関連製品を販売する企業は、使用済みバッテリーの分別・回収の割合やリサイクルの効率、材料のリカバリーレベルについてWEBサイトで少なくとも毎年公表しなければなりません。バッテリーの原材料であるコバルト・鉛・リチウム・ニッケルなどがリサイクルされた製品には、製造工場や年度、電池の型式ごとに文書を添付する必要があります。

廃棄された携帯型バッテリーの回収率

欧州電池規則では、廃棄された携帯型バッテリーの回収率について、2027年末までに63%、2030年末までに73%の目標を定めています。バッテリー製造元は、製品を作るだけでなく使用後の回収についても積極的に取り組むことが求められます。

原材料別再資源化率の目標値導入

原材料別の再資源化率については、リチウムの再資源化率を2027年までに50%、2031年までに80%を目指すと目標設定しています。EUでは、当初2025年までに35%、2030年までに70%と設定していたため、より野心的な数値へと引き上げられました。電気自動車の普及により、今後もリチウムの需要が増す可能性が高いことから、欧州電池規則では原材料を資源として再利用するバッテリー製品の普及を目指しています。

責任ある原材料調達

責任ある原材料調達とは、バッテリーの資源となるコバルト・ニッケル・リチウム・黒鉛などの資源採掘を行う際の環境負荷と労働環境について、リスクを把握し適切な対処を行うことです。このような資源の採掘の際には、大気・水・土壌・生物多様性への影響、また労働者の健康被害や人権問題、周辺の地域コミュニティへの影響に配慮する必要がありま。日本でも、それらの課題を電池メーカー・サプライヤー・製錬業者へのアンケート調査で情報収集する動きが経済産業省の主導で始まっています。

欧州電池規則と「欧州グリーン・ディール」の関係性

欧州グリーン・ディールとは、EUが経済的成長を実現しつつ、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目標として掲げた環境政策です。2030年に向けてEUの気候変動対策を引き上げたり、関連規制の見直しを行ったりといった行動計画を取りまとめています。欧州グリーン・ディールは環境政策であると同時に、エネルギー・産業・運輸・農業などの幅広い分野を対象とし、EU経済の構造転換を図る成長戦略ともいわれています。

中でも、EUではバッテリーの開発・生産拡大がカーボンニュートラルの達成に不可欠なものだと考えられています。今後もさまざまな領域で需要が高まるバッテリーを環境に配慮した方法で製造・回収し、製品のライフサイクル全体で高い環境配慮性を実現することをルール化することで、市場優位性の確立を目指すのが欧州電池規則の狙いです。つまり、「EUとして経済的成長を実現しつつ、2050年までにカーボンニュートラルを目指す」という欧州グリーン・ディールの達成には、欧州電池規則が欠かせないといえます。

欧州(EU)電池規則が日本に与える影響

欧州電池規則はEU領域内で販売されるバッテリーを対象とした内容ですが、ビジネスのグローバル化が進む現在、日本企業でもEUの取り決めに準拠した製品の開発が急がれています。現在国内で行われている、欧州電池規則にまつわる動きについて解説します。

国内で研究会が発足、今後の動きに注目

EUの動きを受け、国内でも蓄電池のサプライチェーン構築を目指して経済産業省による「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」が発足しました。この研究会では、以下の4つの観点から蓄電池の製造・流通・廃棄過程について検討しています。

  1. 電池のライフサイクルでのGHG排出量の見える化
  2. 蓄電池のリユース・リサイクルの促進
  3. 材料の倫理的調達の担保
  4. これらを実現するためのデータ流通

また、世界各国の蓄電池産業の取り組みにも着目し、日系企業が蓄電池分野で競争力を向上するために必要な技術や要素についてまとめています。今後も随時新たな情報が公開されると考えられます。

日本企業への影響とは

欧州電池規則が日本企業に最も影響すると考えられる分野は、自動車産業です。近年は電気自動車の広がりから車載用電池の需要が増しており、国内自動車メーカーおよび車載電池メーカーは特にグローバル基準への対応が求められるでしょう。

経済産業省の「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」では、蓄電池のカーボンフットプリント試行事業が始まりました。自動車OEMや電池メーカー、部素材メーカーなど約50社を対象に、車載用電池の原材料調達から製造・流通・使用、そして使用後の処理に至るまでのカーボンフットプリントを算出・評価しています。

この試行事業で得た数値をもとに、算出手法の見直しや他業種への適用などが検討されると考えられます。今後、ますます幅広い分野のバッテリーで世界中の国が欧州電池規則に則った方針を示す可能性が高いことから、日本企業も情報の注視と対応が必要だといえます。

まとめ

欧州電池規則(EUバッテリー規則)が本格的に開始すると、EUや周辺諸国だけでなく日本企業にもさまざまな影響が発生すると考えられます。今から徐々に情報を集め、いざという時に流れに乗り遅れない対策が必要です。世界で戦える日本企業を目指すためにも、今回紹介した欧州電池規則(EUバッテリー規則)の概要をしっかりと理解し、経営判断に反映しましょう。

【参考】