EU-ETS(EU排出権取引制度)とは?仕組みや影響までわかりやすく解説 | 自然電力の脱炭素支援サービス – 自然電力グループ

EU-ETS(EU排出権取引制度)とは?仕組みや影響までわかりやすく解説

EU-ETSとは、EU(欧州連合)が取り組んでいるGHG(温室効果ガス)排出量に価格を付与し取引する制度です。

EU-ETSは世界で初めて導入された「排出権取引制度」であり、ESG投資にも大きな影響を及ぼしています。日本も例外ではありません。

今回はEU-ETSついて概要や目的、最新動向から日本への影響までわかりやすく解説します。

EU-ETSとは

EU-ETSとは「EU Emissions Trading System」の略であり、EUが導入している排出権取引制度のことです。EU-ETSは、EUの気候変動対策における重要なツールであり、GHG排出量を削減するための施策の一つです。さらにEU-ETSで取引対象となる施設のCO2排出量はEU域内のGHG排出量の45%をカバーし、世界における最大の炭素市場でもあります。炭素市場とはCO2排出削減量に価格を付け、クレジットとして取引する場です。

ここではEU-ETSについて概要や設立された背景を詳しく解説していきます。

EU-ETSは世界で初めて導入された排出権取引制度

EU-ETS(EU Emissions Trading System)は世界で初めて導入された排出権取引制度であり、カーボンプライシングの一つです。カーボンプライシングとは企業が排出するGHGに金銭的負担を課すことで、排出者にGHG削減の行動変容を促すための施策です。
EUはEU-ETSにおいて産業部門のGHG削減目標を2005年比で2020年に21%削減、2030年に43%削減と掲げています。

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設立された歴史と背景

1997年地球温暖化を抑止するためCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で採択された京都議定書を機に、加盟国の中でGHG削減の動きが起きました。そして欧州委員会は2000年EU-ETSに関する最初の施策案を発表します。

その後「欧州気候変動プログラム」において気候変動対策の一環として「排出権取引制度」が取り上げられます。2003年には温室効果ガス排出枠に関する制度を定める法令であるEU指令が承認され、2005 年からEU-ETSが実施されました。

世界のカーボンプライシング動向

EU-ETSを契機として、世界では産業界のカーボンプライシングの開発・導入が活発化しています。2023年時点、世界では73のカーボンプライシングが稼働しており、総GHG排出量の約23%をカバーしているといわれています。

排出量取引制度導入国

カーボンプライシングのうち排出権取引制度を導入している主な国や地域をまとめました。

国名導入年対象分野
EU2005年発電・製造・航空・建設・海運
日本(埼玉県)2011年原油換算した使用エネルギーが3年間連続で1,500kl以上の施設
韓国2015年制度対象者の直近3年間の平均排出量が

・125,000トン以上の事業者

・25,000トン以上の事業所

米国カリフォルニア州2013年GHG排出量年間25,000トン以上の施設
中国2021年発電・エネルギー消費量標準炭換算1万トン以上の施設

ETS(排出量取引制度)とは

すでに解説している通りETSとは日本では「排出権取引制度」と呼びます。排出権取引制度とは政府や自治体がGHG排出量の多い法人や組織に対して「排出枠」を策定し、排出枠を超える分に対して金銭的負担を課すことでGHG排出量を削減するための施策です。

ETSの目的

ETSの目的は、化石エネルギーを消費しGHGを大量排出する企業や組織に対して、カーボンニュートラルを促すことです。またGHGに価格をつけることで経済を活性化させESG投資へと繋げる狙いもあります。

ETSの仕組み

ETSにはキャップ&トレード方式とベースライン&クレジット方式の2タイプがあります。ここでは簡単にご紹介します。

キャップ&トレード方式

キャップ&トレード方式は、国や自治体が各企業に削減目標からキャップ(排出枠)を定め取引する仕組みです。もし企業が割り当てられた排出枠を超える量のGHGを排出した場合は、排出枠に余裕のあるほかの企業から排出枠を買い取り、トレードしなくてはいけません。
一方、排出枠の目標を上回った企業は余剰枠を価格取引できるため、超過削減を将来の投資等に活用することが可能です。(例えば、排出枠を100として、実際の排出量が60だった場合は40が余剰枠と考えられます。)

排出枠の割り当てはこれまでの企業のGHG排出量により決定されます。EU-ETSはこのキャップ&トレード方式で行われています。

ベースライン&クレジット方式

ベースライン&クレジット方式とは、排出権取引を実施しなかった場合のベースライン(基準値)を設けることで、実際に削減した場合の効果と比較する方式です。排出量を削減できた場合はその分をクレジットとして創出し売却することが可能です。

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EU-ETSの最新動向

EU-ETSには現在EU加盟国の他にもノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインが参加し合計30ヵ国が参加しています。

ここではEU-ETSの対象拡大や価格の動向について解説していきます。

EU-ETSの対象分野

これまでEU-ETSの規制対象は約12,000のエネルギーを大量に消費する発電所・鉄鋼業や紙業をはじめとする製造産業施設、航空便を発着させる航空事業者などでした。

しかし2021年の改正案において、新たに海運、道路輸送、火力発電による暖房を使用する建物にも適用が拡大される「ETS II」の導入が決定しました。今後も規制対象が広がる可能性は高く注視していく必要があります。

4つのフェーズ

EU-ETSの適用期間は次の4つのフェーズに分かれています。

フェーズ実施内容
第1フェーズ:パイロット段階

2005年~2007年

・各国別割当計画策定。

・過去の排出実績に基づく無償割当(※1)  

がほぼ100%。

第2フェーズ:本格稼働開始

2008年~2012年

・対象国や部門を拡大。

・生産量あたりの排出量指標をベンチマークとした無償割当や、オークションによる有償割当(※2)を一部の国で導入。

・2009年以降、景気低迷のため排出枠価格が下落する。

第3フェーズ:削減目標設定】

2013年~2020年

・各国別の割当を廃止し、EU全体での排出枠を策定。

・2020年の総排出枠が2005年と比較して21%削減を目指す。

・発電分野を中心としてオークションによる有償割当を段階的に導入。

・排出枠余剰の状況を踏まえ制度内容を改正していく。

第4フェーズ:改正法実施

2021年~2030年

・既存のETSにおける目標水準の引き上げと対象拡大。

・排出枠の割当は有償オークション方式を原則とする。

・道路輸送と建物の暖房を新たな規制対象とする。

・オークション収入を活用した低炭素化への支援を実施。

※1. 無償割当…業種や製品ごとに望ましい排出原単位に基づき排出枠を設定する「ベンチマーク方式」と、過去の排出実績によって排出枠を設定する「グランドファザリング方式」を指す
※2. 有償割当…排出枠を競売によって配分する「オークション方式」を指す

EU-ETSの価格動向

EU-ETSの価格は2009 年の景気低迷後下落しましたが、近年は上昇傾向にあります。2012年にはEUの2020年目標達成に向けて削減目標を設定したオークション配分量の見直しを行いました。また2019年には「市場安定化リザーブ」を導入するなど、排出枠余剰の状況を踏まえ、制度内容の改定を実施しています。
EU-ETSの価格動向のポイントは以下です。

  • EU-ETS価格はCO2排出源により大きく変動する
  • 欧州域内に限らずグローバルで取引されるエネルギー価格の影響を受ける
  • 国際状況・制度変更・政権交等による政治的リスクが高い
  • 価格の下落・上昇はあっても気候変動対策への要求が緩和される可能性は低い
  • 新規事業者の参入により需要増はあっても離脱による需要減の可能性は低い
  • GHG排出量削減に対する新たなイノベーションによる価格の下落の可能性がある

EU-ETSによる影響とは

EU-ETSの動向は世界や日本にどのような影響を及ぼすのでしょうか。ここではEUが2026年から本格適用を開始するCBAMとの関連、日本企業への影響を解説していきます。

CBAMとの関連性

EUは2050年までにGHG排出量実質ゼロの目標を打ち立てた「欧州グリーンディール政策」の一環としてEU -ETS政策の強化を行います。また政策を強化することでEU域内からGHG排出規制の緩い国へと事業者が流出すること(カーボンリーケージ)を防ぐためにCBAM導入も発表されました。

CBAMとは「国境では特定の輸入品に対して発生する炭素対価を支払う仕組み」です。本格適用されれば輸入事業者は、特定の製品に対してEUのGHG排出量と相当する対価を支払うことが義務付けられます。

日本への影響

EU-ETSやEU域内で適用される施策のため、EU域内に製造基盤を持つ日本企業も対象となります。またグローバルにサプライチェーンが複雑化する時代、いつ自社の製品が規制対象となるかは常に考慮する必要があります。

また日本でも2023年度から排出量取引制度が試行的に導入され、2026年度からは「GX-ETS(排出量取引)」が、本格運用される予定です。そのため世界最大の市場であるEU-ETSは、日本の排出権取引制度導入に対して大きな影響を与える可能性があります。

企業はどう対応すべきか

国内でも排出権取引制度が開始されることが決まった以上、企業はいち早く脱炭素化への戦略を検討していくことが重要です。

ここでは次の2点にポイントを置いて対応策を解説します。

①脱炭素化を推進

排出権取引制度をはじめとしたカーボンプライシングが世界で拡大していくことは間違いないでしょう。脱炭素化戦略を打ち立てGHG削減を推進することは、自社の環境価値を高め、ESG投資を呼び込むことにも繋がります。

脱炭素化はすでに経済活動の足かせではなく、大いなるビジネスチャンスとして受けとめる時代が到来しています。企業は積極的にカーボンプライシング導入や再生可能エネルギー利用を推進する必要があります。

②脱炭素支援サービスの活用

脱炭素経営の確立は持続可能な企業として存続するためには、いまや重要な要素といえます。しかし脱炭素化推進は専門的な知識が必要なため、自社のみで行うのが困難という場合もあるのではないでしょうか。

その場合は、脱炭素支援サービスに相談することも有効な手立てです。

まとめ:世界の脱炭素施策を理解し、自社の脱炭素化に活かそう

世界初の排出権取引制度EU-ETSについて、さまざまな角度からわかりやすく解説しました。

2026年から日本でも排出権取引制度が本格始動します。本記事でEU-ETSについての知見を深め、ぜひ自社の脱炭素経営を推進してください。

【参考】