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世界中で地球環境の保護への取り組みが強化される中で、EUは森林破壊を防止するための新たな規制「EUDR(欧州森林破壊防止規則)」を導入しました。EUDRは、欧州市場に供給される製品が森林破壊に関与していないことを証明するための制度です。本記事では、EUDRの概要や背景を解説することに加え、日本企業がどのような対応を求められる可能性があるのかについても紹介します。
目次
EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは
EUDRは、EUで2023年6月29日に公表された、森林破壊と森林劣化を予防するための規則です。2024年12月30日から大企業に(中小事業者は2025年6月30日から)適用される予定のEUDRについて、基礎知識や対象となる製品、もし違反した場合のペナルティについてもわかりやすく解説します。
EUDRの概要
EUDRはEU市場で販売される製品、もしくはEU市場から輸出される製品が森林破壊に関わっていないことを証明するための規則です。森林破壊防止を目的としており、EU域内で流通する特定の製品に対して、その生産過程で森林破壊を引き起こしていないことの確認(森林デューデリジェンス)を企業へ義務化しています。対象となる企業はEUで製品を提供する事業者です。日本から輸出する場合は、EU市場で当該の輸出製品を最初に扱う輸入事業者がEUDRの証明を行う必要があります。
EUDRの対象製品
EUDRの対象となる特定の品目は、EU域内で流通する以下の7品目およびその関連製品です。
・牛
・カカオ
・コーヒー
・パーム油
・ゴム
・大豆
・木材
・上記7項目の関連製品(牛肉、チョコレート、タイヤ、木製の家具、印刷紙など)
出典:EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要 p.4(EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局)
当該製品が森林破壊を引き起こさないことに加えて、生産国の関連法規に従って生産されていることを書面によって証明できない場合、EU域内での流通はできない決まりとなっています。
もしEUDRに違反したら?
もしEUDRに違反してしまったら、どのようなペナルティを受けるのでしょうか。EU加盟国によって罰則の内容は異なりますが、罰金が科されるほか、対象製品の没収や最大12ヶ月間の入札・補助金支援を受けられないなどの厳しいペナルティがあります。繰り返し違反したり、違反内容が重大と見なされた場合は、EU市場で一時的にビジネスができなくなる可能性もあります。知らず知らずのうちに違反していた、という事態を避けるためにも、あらかじめ規則を正しく把握しておく必要があるでしょう。
出典:EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要 p.19(EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局)
EUDR発効の背景にある森林にまつわる課題
森林減少は昨今、世界の深刻な課題となっています。国連食糧農業機関(FAO)の2022年の報告書をもとに農林水産省がまとめたところによると、1990年以来、4億2千万haの森林が減少しています。2000年から2018年に発生した森林減少の要因のうち、およそ90%は農業利用のための転換です。耕作用の畑地への転換がおよそ50%、畜産用の牧草地への転換がおよそ38%を占めていることが報告されました。
さらに経済協力開発機構(OECD)が2023年に示した「多国籍企業行動指針」では、森林減少は企業が対処すべき環境課題の一つとして位置づけています。企業が扱う製品やサービスのライフサイクル全体にわたって、リスクに基づくデューデリジェンスの実施や環境影響の特定・評価、それを克服するための戦略の策定といった情報開示を通じて、環境への影響を適切に管理する体制を構築すべきだと提言しています。
これらの流れを受けて、世界中で森林減少・森林劣化を防ぐ持続可能なサプライチェーンが求められる中で、EUDRは公表されました。
森林破壊フリー製品を示すデューデリジェンスの手順
森林破壊を引き起こさない(森林破壊フリー)製品としてEUに届け出をするためには、主に3つのステップが必要です。ここではデューデリジェンスの手順について詳しく解説します。
①情報収集
EUDRの対象製品について、企業はまず生産国・地理情報(商品の生産・加工などに使用された土地の情報)と、対象製品が生産国の法規にのっとって生産されたことを示す情報などを明らかにしなければなりません。生産場所と加工する場所が異なる製品、例えば牛肉の場合では、牛が飼育されているすべての施設の情報や加工場施設の情報が必要となります。
出典:EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要 p.11(EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局)
②リスク評価
製品に関する必要情報を明らかにしたあと、対象製品がEUDRで不適合になるリスクがあるかどうかを評価します。生産国における森林破壊・森林劣化の蔓延状況などもあわせて必要となり、幅広い範囲での評価が求められます。加えて、EUだけでなく自国の法令もあわせて確認する必要があり、最低でも年1回のリスク評価結果の文書化とレビューを受けることが定められています。
③リスク緩和措置
リスク評価を行った結果、リスクが限りなくゼロに近い場合を除いて、追加情報の調査や第三者による監査を実施します。この作業は、監査において「リスクなし」と判断されるまで繰り返し実施しなければなりません。また、企業内でコンプライアンス管理などの内部統制を整備し、正しくリスク緩和措置が継続されるよう、組織体系の定期的な監査も行います。
日本企業への影響とEUDRの今後
EU内で流通する製品が対象となるEUDRにおいて、日本企業にはどのような影響があるのでしょうか。具体的な規則の適用は2024年12月30日から(中小事業者は2025年6月30日から)ですが、デューデリジェンスを提出する場合は調査や監査にかなり時間がかかると予想されます。あらかじめ自社への影響を把握し、今後に備えることが重要です。
EUでビジネスをする日本企業はEUDRの対象となる
EU市場において対象品目を販売・流通させる大企業や中小企業は、製品の市場流通量に関係なく、すべての企業がEUDRの対象となります。EUの取り決めでは「EUで製品を提供する事業者」がEUDRの対象となり、日本から輸出する場合はEU市場で当該製品を最初に取り扱う(市場に流通させる)輸入事業者がこれに当てはまります。EUを商圏としている企業は、自社はどこまで対応が必要なのかをしっかり把握しておき、今後の最新情報に注意しておくと良いでしょう。
森林破壊リスクのレベル分けが予定されている
2024年末までに、EUでは「ベンチマークシステム」を用いて、EU内外の国や地域ごとに森林破壊・森林劣化に関するリスクをレベル分けすることを予定しています。レベルには高・標準・低の3つがあり、2023年6月時点ではすべての国が「標準」に設定されています。今後の流れとしては、「森林破壊・森林劣化の高リスク国」は監視を強化し、「低リスク国」はデューディリジェンスを簡略化するなどの措置を検討しているようです。
まとめ
EUDR(欧州森林破壊防止規則)は、持続可能な森林資源の利用と環境保護を目的として、EU市場に供給される製品が「森林破壊・森林劣化を引き起こしていない」ことを証明するための規則です。EUDRは木材や大豆・パーム油・牛肉といった、森林伐採のリスクが高いとされる製品を取り扱う企業に大きな影響を与えます。
EUDRのデューデリジェンスにおいて「森林破壊リスクフリー(なし)」と認定されるためには、企業はサプライチェーンの透明性向上や地球環境にやさしい原材料調達方法の確立といった対策が求められます。EUDRへの適切な対応を行うことは、企業のEU市場でのビジネス成長において大きな意味を持ちます。今後、新たな情報が公表される可能性があるEUDRの動向をしっかりチェックしましょう。
【参考】 |