EV100とは?概要や参加要件、日本企業の事例をまとめて解説

EV100は、脱炭素社会へ向けて、電気自動車(EV)の使用や環境整備促進を目指す国際イニシアティブ(企業集団)です。成長を続ける輸送業界による二酸化炭素排出は、気候変動の一因となっています。輸送手段をEV化することによって、輸送による大気汚染や騒音などの課題解決を目指しています。この記事では、EV100の概要や参加要件、EV化のメリット、EV100に参加している日本企業が実際に行っている取組について解説します。

EV車の導入による運輸の脱炭素化が求められる背景

日本では、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成すると宣言しています。世界を見ると、2021年11月時点で、154カ国と1地域が2050年などの年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しています。これらの国におけるCO2排出量は世界全体の79%に及びます。

カーボンニュートラルの実現は、全世界共通の目標といえるでしょう。

2021年度時点で、日本の二酸化炭素排出量(10億6,400万トン)のうち運輸部門からの排出量(1億8,500万トン)は17.4%と大きく、日本がカーボンニュートラルを実現する上では、運輸部門の中でも大きな割合を占める自動車をEV化することが重要です。

EV100とは?目的と運営組織について

EV100は国際非営利組織The Climate Groupが運営する国際企業イニシアティブで、2017年9月に発足しました。事業活動で使用する輸送手段の100%電化(ゼロエミッション化)を掲げ、投資や政策を促進することを目指しています。

EV100は企業単位で参加するもので、日本における窓口はJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)が行っています。2023年11月現在、日本企業でEV100に参加しているのは以下の7社です。

・イオンモール株式会社
・アスクル株式会社
・日本電信電話株式会社
・東京電力ホールディングス株式会社
・株式会社髙島屋
・株式会社関電工
・ニチコン株式会社
※参加順

RE100やEP100との違い

EV100と似たイニシアティブにRE100やEP100があります。EV100と同様にThe Climate Groupが運営しています。ここでは、簡単にそれぞれの特徴について説明します。

RE100とは

RE100は、事業で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで調達することを目指す国際企業イニシアティブです。ここでの再生可能エネルギーは、太陽光、風力、水力、バイオマス(バイオガスを含む)、地熱の5つを指します。電力の調達方法は、自家発電だけでなく購入も含まれます。どんなにEVが普及してもEVにチャージされる電気が化石燃料由来であれば、CO2排出量は減りません。この意味でも、その地域の再エネ電気の比率が高くなることには非常に大きな意味があり、RE100の取り組みは重要です。

なお、2023年11月現在、日本企業は84社がRE100に参加しています。

RE100については、以下の記事で詳しく取り上げているので、ぜひあわせてご覧ください。

【関連記事】

RE100とは?脱炭素担当者必見の基礎知識をわかりやすく解説

EP100とは

EP100とは、消費エネルギーあたりの経済生産性を2倍にすることを目標に掲げる国際企業イニシアティブです。利用するエネルギーを効率よく運用することで、エネルギー消費量の削減を目指しています。2023年11月現在、日本企業は4社がEP100に参加しています。

EV100参加にあたって満たすべき要件

輸送手段のEV化を掲げるEV100に参加するには、以下の要件を満たす必要があります。

社内でのEV化の推進が前提

前提条件となるのが、社用車のEV化、充電器の設置などによるEV化の推進です。使用する電気は再生可能エネルギーであることが推奨されています。EV100は企業単位で参加するものなので、自社内でEV化を推進することが前提となるのは当然といえます。

コミットする目標への期限設定が必要

社内でのEV化推進に加え、管理車両(所有またはリース)のEV化、サービス契約(タクシー、レンタルなど)におけるEV利用の要求、従業員のEV利用支援(全施設への充電器設置)、顧客のEV普及支援(全施設への充電器設置)の4つのうちいずれか1つ以上について2030年までを期限とする活動とし、パブリックコミットメントを公開することが求められます。

参加後も進捗報告が必要

参加後は1年以内に2030年までのロードマップを作成し、毎年進捗報告を実施することが求められます。また、ロードマップは最低5年ごとにEV市場の動向などを踏まえて見直しが必要になります。

EV化を進めることのメリット

EV化へ取り組むことでどんなメリットがあるのでしょうか。企業活動の一環として実施するためには、実利としてメリットがあることが参加をするかどうかの判断基準として重要になりますので、経営面を中心にとりあげます。

EV化を進めていくことのメリットは、大きく分けて以下の4つがあります。

燃料費が削減できる例)年間で5,000km走行する場合は22,500円、10,000km走行する場合は45,000円の節約に
新車購入への国からの補助金がある例)EV車で最大85万円、軽EVやプラグインハイブリッドカーで最大55万円
減税の対象に例)EV車なら環境性能割が非課税、自動車重量税は2回免除
投資家や顧客へのアピールに例)投資家や顧客は環境への配慮をしている企業を選択する傾向に

それぞれ詳しく見ていきましょう。

燃料費が削減できる

ガソリン車とEV車を比較すると、同じ距離を走る場合EV車の方が燃料費が安くなります。

環境省の試算によれば、EVをすべて家庭の電力で充電する場合でも、年間で5,000km走行する場合は22,500円、10,000km走行する場合は45,000円が節約できます。

補助金が受けられる

EV車の新車購入には国と地方自治体で補助金が設けられています。国が設立している「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」では、EV車で最大85万円、軽EVやプラグインハイブリッドカーで最大55万円が補助されます(2023年度の場合)。

自治体からの補助金は自治体ごとに上限額や交付条件が異なりますので、ホームページなどを確認してください。

減税や特例の対象に

EV車を購入する場合、補助金が受けられるだけでなく、減税制度が利用できるメリットもあります。環境負荷が少ない自動車ほど税率や税額が低くなるので、ガソリン車と比べるとランニングコストが下げられます。

EV車の場合は、環境性能割(旧自動車取得税)という取得価額に対して課税される税金が非課税になりますし、車の重量に応じて課される自動車重量税は、購入時と2回目の車検時にかかる自動車重量税が免税されます。

また、毎年4月1日時点で自動車を所有している人に課される自動車税は、車両の使用目的と総排気量によって算出されるのですが、EV車は排気量がゼロなので、自動車税は一番安い区分となります。

投資家や顧客へのPRになる

近年投資家が投資先の価値を見極める際、財務状況だけでなく環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮するESG投資が盛んに行われています。EV導入をきっかけに脱炭素経営を推進することは、そのまま投資家や顧客へのPRにもなるのです。

なお、上述した通り、EV車の導入を進めるEV100でも使用する電気は再生可能エネルギー由来であることが推奨されていますので、使用する電気の選択も含めて検討する必要があることを念頭におくことが重要です。

EV化の課題と対応策

EV化には様々なメリットがある一方で、実行にあたっては課題もあります。

導入費用がかかる

EV車はガソリン車と比べて市場での流通量が少なく、スタンダードなモデルでも300~600万円程度と高価です。補助金や税制上の優遇などはあるものの、導入費用が高くなる点は課題に挙げられます。

航続距離が比較的短い

EV車がフル充電でどのくらいの距離を走れるかは、バッテリー容量によって左右されます。バッテリー容量が大きいものだと航続距離は400~500kmとなりますが、その分価格も上がってしまいます。

バッテリー容量が小さいものだと航続距離は200kmほどとなるため、使用用途によっては少し不安に感じることもあるでしょう。一方、日常の買い物など、比較的距離の短い範囲での走行や、通勤などおおむね走行ルートが固定されているような利用シーンでは十分な航続距離といえます。

充電スポットが少ない

EV化にあたっては、どこで充電を行うかも考慮しなければなりません。車種にもよりますが、EV車の充電には普通充電器で8時間ほど、急速充電器でも30~60分ほどはかかります。充電スポットも年々増加していて、2022年には全国2万9000基の公共充電器が設置されているものの、業務中に出先でタイミングよく充電できるとは限らないため、自社で充電設備を設けるなどの対策が必要になります。なお、2021年に策定されたグリーン成長戦略では、ガソリン車と同じ程度の利便性を目指して、2030年までに15万基の設置を目標としています。

EV100に参加にしている企業とその取り組み

EV化を推進するにあたって、既にEV100に参加している企業が具体的にどのような取り組みをしているのかを知ることは大いに参考になります。

ここでは3社の事例を紹介します。

イオンモール株式会社

イオンモール株式会社は、2017年に日本企業として初めてEV100に参加しています。2021年2月時点で国内外の153施設に合計2,418基のEV充電器を設置しています。また企業としては、2025年までにイオンモール全店舗の使用電力を100%再生可能エネルギーにすることを目標に掲げています。

アスクル株式会社

アスクル株式会社は、2030年までに子会社が所有またはリースする顧客の最寄りの物流センターから、顧客の事業所や自宅までの配送(ラストワンマイル)に使用する車両をすべてEV化することをゴールに掲げています。企業としては、2030年までにグループ会社を含むすべての事業所と物流センターで使用する電力を再生可能エネルギーにすることを目指しています。

日本電信電話株式会社(NTT)

日本電信電話株式会社は、NTTグループが保有している一般車両約1.1万台のうち、2025年までに50%をEV化、2030年までに100%のEV化を目標に掲げています。

3社のうちイオンモール株式会社とアスクル株式会社はEV100に加えてRE100に、日本電信電話株式会社はEP100に参加しています。

まとめ

EV化の推進は導入コスト面の課題があるものの、ランニングコストや税金面など、長期的視野で考えるとメリットが大きいものです。そしてなにより、カーボンニュートラルという世界共通の目標達成に対しては、企業単位での取り組みが欠かせません。輸送手段の電化を目指すEV100は、企業として参加しやすいものだともいえるでしょう。環境に配慮する企業は、投資家からの評価も得やすく、PRにもつながります。

社内でのEV化の推進やEV100への参加をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。