FIP制度とは?FITとの違いやメリット、最新動向までわかりやすく解説

FIP制度とは再生可能エネルギー(以下再エネ)で発電した電力を、FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、一定の補助額(プレミアム)を付与する制度です。2022年4月から開始されており、発電事業者の投資を促し、再エネ導入を拡大することが目的です。

本記事ではFIP制度の目的と仕組みやFIT制度との違い、そしてメリットから活用事例、さらには最新動向までわかりやすく解説します。

FIP(Feed-in Premium)制度とは

FIP制度の目的や背景、FIT制度との違いを解説します。

FIP制度の目的

FIPとは正式には「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」と呼ばれます。市場で電力を販売するときに、予め決められた基準となる価格と市場価格の価格差を、プレミアム(補助額)として付与する制度です。プレミアム価格をつけることで発電事業者の投資を促し、再エネをさらに普及させ、独立した電源として電力市場に統合することが目的です。

FIP制度導入の背景

なぜ、日本はさらなる再エネの普及を目指すのでしょうか。政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。そのため2021年閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」で、CO2排出量を最小限に抑えることのできる再エネの導入を最大限増やすことを掲げています。2030年の電源構成(エネルギーミックス)においては、再エネの比率を36~38%まで増やす見込みです。


出典:再生可能エネルギー – FIT・FIP制度 ガイドブック(P.2)

FIP制度の対象

FIP制度では、2024 年度以降に対象となる再エネを次のように拡大していく予定です。

エネルギー種類出力
太陽光発電250㎾以上
風力発電(陸上・着床式洋上含む)50㎾
地熱発電1,000㎾
中小水力発電1,000㎾
バイオマス(液体燃料)50㎾

FIT制度とFIP制度の違い

FIT制度は「固定価格買取制度」とも呼ばれ、再エネ電力を一定期間一定価格で電力会社が買い取ることを国が保証し、それにより再エネ普及を支援する制度です。FIT制度では再エネの買取費用の一部を賦課金という形で国民が負担しており、需要と供給の関係によって価格が決まる電力市場の原理からは切り離された制度でした。

しかし再エネを主力電源とするためにはこのような国民の負担を軽減し、電気の需要と供給のバランスを意識した自立発電にする必要があります。それらをカバーし、より再エネの導入を拡大するために開始されたのがFIP制度です。

FIT制度とFIP制度の違いを具体的にあげると次のようになります。

名称売電収入インセンティブ
FIT制度一定価格でいつ発電しても変わらない市場価格が高いときに供給量を増やすインセンティブなし
FIP制度事業者が得られるであろう売電単価(基準価格)は一定だが、プレミアム価格は市場に連動する市場価格が高いときに蓄電池の活用などで供給量を増やすインセンティブあり

FIP制度の仕組み

ここでは算定方法や価格についてFIP制度の仕組みを解説します。

プレミアム単価の算定方法

FIP制度を利用して売電する場合の価格算定方法は以下のようになります。

  • FIP価格(基準価格) = 参照価格(売電収入) + プレミアム単価(補助額)

次に算定方法に使用される「基準価格」と「参照価格」について解説していきます。

基準価格

プレミアム単価を決定するのに重要なのが「基準価格」です。「基準価格」は再エネで発電される電力が効率的に供給される場合、再エネ設置や運用に必要とする費用を回収可能であるという基準を想定して設定されます。

  • 基準価格-参照価格=プレミアム単価 (※)

参照価格

参照価格は、市場の取引によって得られることが期待できる収入です。取引市場や卸電力市場の価格に連動し、1ヶ月単位の見直しがあります。以下が参照価格の一般的な算定方法です。

  • 卸電力市場の価格に連動して算出された価格 + 非化石価値取引市場の価格に連動して算出された価格-バランシングコスト=参照価格(市場取引などの期待収入)


出典:再生可能エネルギー – FIT・FIP制度 ガイドブック(P.3)

※プレミアム単価の詳細な算出方法は「FIP制度における基準価格とプレミアム(出典:資源エネルギー庁)」をご確認ください。

バランシングコスト

FIP制度では、計画値と実績値が一致しなかった場合に発生する「バランシングコスト」を支払わなくてはいけません。FIT制度ではバランシングコストは免除されていましたが、FIP制度ではペナルティとして発生します。しかし以下のように、バランシングコストの移行は緩やかに行われるように配慮されています。

  • 制度開始:1.0円/kWhその後3年間は0.05円/kWhずつ低減→4年目以降は0.1円/kWhずつ低減

FIP制度のメリットと課題


FIT制度と比較してFIP制度には、多くのメリットがあります。しかし課題がないわけではありません。ここではメリットと課題をそれぞれ解説します。

3つのメリット

FIP制度の大きなメリットとして次の3つがあげられます。

  • 再エネ導入が拡大
  • 新たなビジネスチャンス獲得
  • 非化石証書の直接取引の拡大

再エネ導入が拡大

燃料のほとんどを海外に依存している日本は、FIP制度に移行し再エネが普及拡大すればエネルギー自給率が向上し、電力の安定供給に繋がります。またFIP制度は市場と連動した売電価格のため、発電事業者はニーズに応じてより多く収入を得られる可能性が高まります。需要家においては、アグリゲーターや蓄電池関連の市場の拡大で、ニーズに応じた商品やサービスを選択することができます。

新たなビジネスチャンス獲得

FIP制度移行により新たなビジネスチャンスが生まれます。ビジネスモデルには次のようなものが挙げられます。

  • 市場取引型モデル:蓄電池活用で卸電力市場の収益を上げる
    蓄電池活用では、スポット市場の単価が0.01円の時間帯は蓄電池に充電し、市場価格の高い時間帯に供給をシフトするなど収益増加を見込めます。FIP制度移行+蓄電池併設の新たなビジネスモデルとしての確立が期待できます。
  • 相対取引型モデル:特定の小売電気事業者(需要家)と相対取引を実施して長期安定的に再エネ電気を供給
    小規模電源などにおけるFIP制度への移行では、電源の需給調整を行うアグリゲータープレーヤーの役割が重要となるためアグリケーション・ビジネスの発展も見込めます。

非化石証書の直接取引の拡大

FIP制度は、再エネ発電事業者が自ら環境価値を販売する仕組みでもあるため、業者が非FIT非化石証書を売却しやすくなるというメリットがあります。 これまで非FIT非化石証書は、原則として高度化法義務達成市場において小売電気事業者により購入されるものでした。

しかし需要家のニーズによりFITからFIP電源に移行した場合(※)は、発電事業者と需要家の間での直接取引が認められることになりました。そのためFIP制度を活用したVPPA(バーチャルPPA)による追加性のある非FIT非化石証書の直接取引が拡大しています。

※新設FIP電源、または2022年度以降に営業運転を開始したFIT電源がFIP電源に移行した場合

【関連記事】

バーチャルPPAとは|仕組みと企業に与えるメリットをわかりやすく解説

FIP制度の課題

FIP制度の課題として、売電価格が予測不能であることが挙げられます。FIP制度は市場価格と連動しており、買取価格が1カ月ごとに変動します。買取価格が固定されていたFIT制度と比較すると、長期的な収益予想を立てることは困難です。バランシングコストの調整は簡単ではなく、発電事業者は市場の動向をよく見極めることが大切です。

FIP制度の最新動向

ここからはFIP制度の最新動向を活用事例も含めて解説していきます。

「FIT→FIP」制度変更案とは

これまでは再エネ電源の出力制御(※)順番は、FITとFIP電源を区別せずに、「バイオマス発電→太陽光・風力」でした。国はFIP電源に対する出力制御を減少させ、さらにFIPの発電予測と蓄電池を併設する取り組みを支援するために、出力制御に関わる「優先給電ルール」の議論を開始しています。早ければ2026年度中には、「バイオマス発電(FIT電源→FIP電源)→太陽光・風力(FIT電源→FIP電源)」という順番に変更し、FIP制度の出力制御を大幅に減らしたい考えです。

※出力制御とは、電気使用量と発電量(需要と供給)を合致させるために、発電量(供給)を制御することで、「需給バランス制約による出力制御」と、「送電容量制約による出力制御」の2つがある。

再エネ特措法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)

再エネ導入促進とともに多様な事業規模の新規事業者の参入が増え、地域の安全や防災、景観や環境への配慮などの不安材料も増えています。そのため、それらに関する措置を盛り込んだ「GX脱炭素電源法」が成立しました。この法律に基づき、「地域と共生した再エネの最大限の導入促進」、「安全確保を大前提とした原子力の活用」に向けて、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)」などの関連する法律が改正されています。

FIP制度の先行的な活用事例

2023年10月時点のFIP導入量は、全電源の合計で、275件・約986MWとなっています。太陽光発電の導入量が最も多く、そのほか新規認定では水力発電、移行認定ではバイオマス発電の利用件数が多い傾向にあります。

次にFIT制度の具体的な企業導入事例をご紹介します。

東芝ネクストクラフトベルケ

データを活用した高度な予測、最適取引、制御によって発電事業者の収益安定化と小売・需要家には安定した再エネ電源の供給を実現。FIP活用による収益をあげています。アグリゲーターが参照価格で買い取り、インバランスリスクを負担することにより、擬似的なFITスキームを構築することを可能としました。

住友商事

住友商事は、FIP制度を活用した風力発電所によるコーポレートPPAを開始しています。住友グループの風力発電所で発電した再エ電力の一部を、住友商事グループの株式会社サミットエナジーを経由して株式会社JR中央線コミュニティデザインが運営する商業施設へ供給し、不足分は非化石証書を活用しています。これまでのFIT制度では、実現できなかった需要家のニーズに合わせた再エネ由来電力の供給を可能としています。

まとめ

再エネの導入を加速しカーボンニュートラル実現のために必要とされるFIP制度について解説しました。再エネを主力電源とすることは世界的な潮流であり、資源の少ない日本にとってはエネルギー自給率を高めるための有効な手段のひとつです。

本記事でFIP制度についての知見を深め、より有益な再エネの導入をぜひ検討してください。

【参考】