Fit for 55(FF55)とは|主な方針と日本を含む各国への影響を解説 | 自然電力の脱炭素支援サービス – 自然電力グループ

Fit for 55(FF55)とは|主な方針と日本を含む各国への影響を解説

Fit for 55は、EUで策定された気候変動政策パッケージです。2030年までにEUの温室効果ガス排出量を55%削減するため、エネルギー・交通などの各分野における制度改革を掲げています。EU内のみならず、日本を含む世界各国の環境政策やビジネス戦略に大きな影響を与えるFit for 55について解説します。

Fit for 55とは

Fit for 55とは、EUで2021年に掲げられた「2030年までのGHG排出を55%削減する」という目標を実現するための関連法案です。FF55と略称で呼ばれることもあります。以下では欧州グリーンディールとの関係性や、EU内から寄せられる意見についてまとめます。

Fit for 55と欧州グリーンディール

Fit for 55は、欧州グリーンディールが定める「2030年までに、1990年比で温室効果ガス排出量を55%削減する」という目標を実現するために提案された、EUのGHG削減政策パッケージです。EUはこれまで気候変動問題に対して、持続可能な経済を創り出すためにさまざまな施策を打ち出してきました。Fit for 55は、その中で最も野心的なものであるといわれています。
エネルギー・気候・輸送・課税といった広範囲な政策分野が対象となっており、2030年のEUのエネルギーミックスにおける再エネの導入目標を40%にすることや、船舶輸送と航空機に対する免税措置の廃止といったエネルギー課税の改正など、温室効果ガスの排出量削減に向けた取り組みが打ち出されています。2021年に発表されたFit for 55ですが、現在も既存規制の改正や新しい目標・評価手法の見直しなどが随時行われています。

Fit for 55に寄せられたEU内の声

Fit for 55については、EUの産業界などから賛否両論が寄せられています。EUROFER(欧州鉄鋼連盟)は、Fit for 55について「人為的に炭素価格を引き上げ、CO2排出削減への取り組みに必要な資金を減らす可能性がある。低炭素関連事業への投資を妨げるリスクがあるため、不十分な取り組みだ」と不満を示しました。
一方でCefic(欧州化学工業連盟)は、EUの政策執行機関である欧州委員会がクリーン水素の利用を促したことについて歓迎するとともに、「今後も革新的な技術開発への投資を促すため、EU ETS(EU排出量取引制度/詳細は次のセクションで解説)のオークション収入などの収益全てを温室効果ガス削減につながる経済活動に還元する必要がある」と指摘し、Fit for 55がEU ETSの収益を利用する基金のさらなる拡充を提案したことを歓迎しました。

Fit for 55が掲げる主な方針

Fit for 55ではさまざまな気候変動政策が掲げられています。以下では、その中でも特に報道などで触れられることが多い代表的なものを紹介します。

EU排出量取引制度(EU Emission Trading System)

EU排出量取引制度は、発電・航空・輸送などのエネルギーを多く消費する産業や温室効果ガスを多量に排出する産業を対象に、温室効果ガスの排出枠を割り当てる「キャップアンドトレードシステム」に基づく排出枠の取引市場です。各企業は温室効果ガスの排出量を規定内に収める努力が求められますが、もし排出枠を超えてしまった場合は他社から排出枠を購入できます。つまり、排出削減への努力をしている企業ほど市場でメリットが得られるシステムです。
EU排出量取引制度では、これまで各企業に無償で配布されていた排出枠をオークションによって有償配布することを始めています。オークションはEU加盟国の政府がそれぞれ実施し、そこで得た収益は各加盟国に配分されます。各国ではオークション収入を一般財政に組み入れたうえで、森林保護やエネルギー関連などの気候変動対策に資金が投入され、EU全体の脱炭素の推進を後押しする仕組みとなっています。

社会気候基金(Social Climate Fund)

社会気候基金は、EU排出量取引制度の対象分野が建物や道路輸送にまで広がることを受け、一般消費者に与える影響を考慮し、市民や零細企業を支援するために設置されました。基金は2026年から2032年まで設置される予定で、EU排出量取引制度によるオークション収入を主な原資とします。EU加盟国はこの基金を利用して、建物のエネルギー効率を改善する改装や、低排出車の導入促進に向けた措置などを提供することができます。

EU炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism)

EU炭素国境調整メカニズムとは、EU枠内の事業者が対象製品をEU域内へ輸入する際、課徴金を徴収する仕組みのことです。EU域内に比べて規制が緩やかなEU域外に企業の製造拠点などを移転し、結果として世界の温室効果ガス排出量が増えてしまう「カーボンリーゲージ」への対策を目的としています。EU域内の事業者が対象製品を域外から輸入する場合は、域内で製造した場合に課される炭素価格に対応した課徴金の支払いを義務付けます。

Fit for 55がもたらす世界各国への影響

Fit for 55はEU域内の産業や企業を対象とした政策ですが、世界各国にはどのような影響をもたらすのでしょうか。以下では今後考え得る世界へのインパクトについて解説します。

対象5品目の輸出入への影響

Fit for 55のパッケージに含まれるEU炭素国境調整メカニズムでは、セメント・電力・肥料・鉄鋼・アルミニウムの5品目を課徴金の対象と定めています。これらの品目をEUと取引しているのは主にロシアとその近隣諸国で、これらの国々にはFit for 55の影響が大きいと考えられます。日本は対象品目をEUに輸出する割合が少ないため、影響も小さいと思われますが、Fit for 55の関連法案は毎年見直されています。今後の変更内容によっては日本の産業にも大きな影響を与える可能性があるため、最新情報への注視が必要でしょう。

自動車業界に与えるインパクト

Fit for 55では、乗用車・小型商用車(バン)のCO2排出基準について、2035年までに「全ての新車をゼロエミッション化」する法案が可決されました。今後は欧州委員会が2026年に進捗評価を行い、プラグインハイブリッド技術の開発状況などを考慮したうえで規則の見直しがなされる可能性があります。日本では現在ハイブリッド車が広く普及していますが、EUでは内燃機関(ガソリンなどの燃料から原動力を得るエンジン)が搭載された車の生産は2035年以降は実質禁止となります。このことから、日本の自動車業界においても電気自動車などの開発が急がれています。

まとめ

Fit for 55は、EUがネットゼロ社会を達成するための政策パッケージです。エネルギー産業や運輸などの分野で、温室効果ガス排出量削減や再生可能エネルギー利用の具体策が示されています。この方針は自然環境への負荷軽減はもちろん、持続可能な未来を目指す世界的な取り組みの一つとして注目されています。日本もFit for 55から学ぶべきことは多く、今後は国内の気候変動対策や産業構造の見直しに影響を与える可能性もあるため、最新情報を常に把握しておくことが重要です。

 

【参考】