グリーン成長戦略とは?14の重点分野を理解して脱炭素経営への一歩を踏み出そう

グリーン成長戦略は、環境に配慮しつつ経済成長を目指すための方針として、2021年に策定されました。グリーン成長戦略は難しい概念ではなく、しっかりと枠組みを理解すれば企業が取るべき具体的な施策も見えてきます。自社の事業拡大と環境保護を両立させ、カーボンニュートラル社会の実現に向けて一歩を踏み出しましょう。

グリーン成長戦略とは

グリーン成長戦略とは、日本政府が目指す「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、産業の成長と環境保護を両立させようという方針です。地球温暖化対策を経済成長の足かせとしてとらえるのではなく、企業にとって重要な成長の機会として考え、これまでのビジネスモデルを転換し脱炭素経営を後押しすることを目的としています。

グリーン成長戦略が生まれた背景

日本政府は2050年までにカーボンニュートラル社会を実現するにあたり、以下のような目標を掲げています。

「2030年度における我が国の温室効果ガスの排出を、2013年度比で46%削減を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける。」

その達成には、産業界のCO2排出量を削減することは避けて通れません。税制支援制度や各種補助金などを支給し、省エネの推進や再生可能エネルギー・原子力の活用などを通して、民間企業が脱炭素経営を実行しやすい環境づくりを行っています。

グリーン成長戦略の枠組み

グリーン成長戦略では以下の8項目の政策を実行し、企業の取り組みをバックアップします。

  1. 予算:グリーンイノベーション基金の実施など
  2. 税制:カーボンニュートラル投資促進税制など
  3. 金融:TCFD等に基づく開示の質と量の充実など
  4. 規制改革・標準化:新技術に対応する規制改革、市場形成を見据えた標準化など
  5. 国際連携:日米・日EU間の技術協力、アジア諸国との連携など
  6. 大学における取組の推進等:大学等における人材育成など
  7. 2025年日本国際博覧会:革新的イノベーション技術の実証の場
  8. 若手ワーキンググループ:2050年時点での現役世代からの提言

 

出典:グリーン成長戦略(概要)(経済産業省 )

それぞれの政策について意欲的な目標を設定し、企業がCO2排出量削減に向けて設備投資しやすくなることを目指しています。これにより日本の産業界の技術がより進歩するだけでなく、国民の生活の利便性も向上し、国全体として多くのメリットが得られるのではと期待されています。

グリーン成長戦略と関連する取り組み

グリーン成長戦略と関連した取り組みとして、内閣官房が主導する「GX 実行会議 」や経済産業省が取りまとめる「クリーンエネルギー戦略 」なども挙げられます。

GX実行会議は、自然災害や国際情勢に伴って需要のひっ迫・価格高騰などの大きな影響を受けるエネルギー分野について、日本のエネルギー供給を今一度見直し、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を通じて産業構造および社会構造の変革を図る、つまりGX(グリーントランスフォーメーション)を実行する目的で開催されています。

クリーンエネルギー戦略は、GX実行会議でも触れられているエネルギーの転換をより具体化させるため、成長が期待される産業ごとの具体的な道筋を示し、エネルギーの安定供給により経済界の土台を整えようという施策です。

どちらもクリーンエネルギーの普及に向けた取り組みが中心となっていますが、広い視野で見るとグリーン成長戦略の実現にもつながるため、今後の動向を注視する必要があります。

グリーン成長戦略の14の重点分野とは

グリーン成長戦略では、重点項目として14分野を定めています。以下ではそれぞれの分野で計画されている施策もあわせて解説しますので、自社の事業に当てはまるものをしっかりと確認しましょう。

エネルギー関連産業

【1 洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)】

洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)洋上風力
  • 2040年までに3,000~4,500万kWの国内外の投資を呼び込む
  • 国内調達比率の増加や発電コスト低減目標の設定 など
太陽光
  • 2030年までに広く普及する段階へとステップアップ
  • 発電コストを14円/kWhにすること、世界市場5兆円の取り込みも視野に入れる
地熱産業
  • 次世代型地熱発電技術の開発を推進
  • 国内での市場規模1兆円以上を目指す
  • 自然公園法や温泉法の運用見直しにより、開発を加速

【2 水素・燃料アンモニア産業】

水素・燃料アンモニア産業水素
  • 2030年までに国内の水素導入量を最大300万トンにする
  • 早期商用化とコスト低減を目指す
燃料アンモニア
  • 火力混焼用の発電バーナーに関する技術開発を進める
  • 安価な燃料アンモニアを供給するため、技術開発・ファイナンス支援を強化

【3 次世代熱エネルギー産業】

次世代熱エネルギー産業
  • 2050年までに都市ガスをカーボンニュートラル化することを目指す
  • 2030年には既存インフラに合成メタンを1%注入、2050年には合成メタンを既存インフラに90%注入する
  • 合成メタンの安価な供給を実現する

【4 原子力産業】

原子力産業
  • 欧米諸国と連携し、高速炉の開発を加速させる
  • 2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造の技術開発を確立する

輸送・製造関連産業

【5 自動車・蓄電池産業】

自動車
  • 2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現
  • 公共の充電インフラを整備し、2030年までにガソリン車並みの利便性を目指す
蓄電池
  • 2030年までに国内の車載用蓄電池の製造能力を100GWhまで高める

【6 半導体・情報通信産業】

半導体
  • 次世代パワー半導体やグリーンデータセンターなどの研究開発を支援し、2040年のカーボンニュートラル実現を目指す
情報通信
  • データセンターの国内立地を見直し最適化を図る

【7 船舶産業】

船舶産業
  • 水素燃料船や排出CO2回収船などの「ゼロエミッション船」の実用化に向け開発を加速
  • 2025年までにゼロエミッション船の実証事業を開始、商業運航を目指す

【8 物流・人流・土木インフラ産業】

物流
  • ドローン物流の本格的な実用化・商用化を推進
人流
  • 高速道路を利用する電動車にインセンティブを与え、さらなる普及を促進
土木インフラ
  • 電気、水素、バイオなどで動く革新的な建設機械の認定制度を作り、現場への導入を促進

【9 食料・農林水産業】

食料
  • 2040年までに次世代有機農業技術を確立
  • 2050年までに耕地面積に占める有機農業面積の割合を25%(100万ha)に拡大
農林水産
  • 農林業で使用する機械や漁船について、電化・水素化の技術を2040年までに確立

 【10 航空機産業】

航空機産業
  • 航空機の電動化を確立するため、2030年以降に電池・モーターなどの動力技術を段階的に搭載する
  • 水素航空機の実現に向けて、コア技術の研究開発などを推進する

【11 カーボンリサイクル・マテリアル産業】

カーボンリサイクル
  • 低価格で高性能なCO2吸収型コンクリート、 CO2回収型のセメント製造技術を開発
  • CO2と水素を反応させて製造するカーボンフリー合成燃料を2040年までに商用化する
マテリアル
  • CO2排出量ゼロで作られた鉄「ゼロカーボン・スチール」の実現に向け、技術開発を加速する

家庭・オフィス関連産業

【12 住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業】

住宅
  • 省エネ基準適合率を向上させるため、規制措置の導入をさらに検討する
建築物
  • 非住宅、中高層建築物の木造化を促進する
次世代電力マネジメント
  • 太陽光や風力などの変動性が大きい再エネと、EVや蓄電池を組み合わせた、電力需給の最適化を図る

【13 資源循環関連産業】

資源循環関連産業
  • バイオマス素材の高機能化、用途の拡大、低コスト化に向けた技術開発を推進
  • 2030年までに、植物由来のプラスチック(バイオプラスチック)を約200万トン導入

【14 ライフスタイル関連産業】

ライフスタイル関連産業
  • 地球規模から市町村単位まで温室効果ガスの排出分布を観測できるモデリング技術を高め、ビッグデータの利活用を推進
  • 各地域の脱炭素化を推進し、その事例を他の地域や国に展開する

グリーン成長戦略の実現に向け企業が活用できる補助金

企業がグリーン成長戦略に向けて具体的な取り組みをしようとする場合、活用できる補助金は主に3つあります。それぞれの要点について解説します。

グリーンイノベーション基金

グリーンイノベーション基金では、企業がグリーン成長戦略の実現に向けておこなう取り組みについて、10年間にわたり研究開発・実証・社会への実装までを継続支援します。国が定める14分野に当てはまるもの、かつ社会実装までに長期間の支援が必要な領域を対象としています。応募時は企業の長期的な経営戦略の提出が必要で、定期的に取り組み状況を報告するマネジメントシートの記載も求められます。自社だけの力ではなかなか実現できなかった計画も、国から長い期間にわたって支援を受けられることから、実現に向けた大きな足がかりとなり得る補助金です。

事業再構築補助金の「グリーン成長枠」

事業再構築補助金は、新市場への進出や業種転換、事業再編などに挑戦する中小企業を支援するものです。その中に新設されたグリーン成長枠では、研究・開発・人材育成を実施しつつ、グリーン成長戦略を見据えた取り組みを行う企業を支援しています。補助の上限は中小企業で1億円、中堅企業では1.5億円で、通常の補助枠に比べて優遇されるのが特徴です。CO2排出量削減の取り組みを総合的に加速させたい企業にとって、メリットの多い補助金です。

ものづくり補助金の「グリーン枠」

ものづくり補助金とは、工場の機械やシステムなどの設備投資を通して事業を発展させたいと考える企業が対象となる補助金です。応募の際には、設備投資によって「どんな革新的な製品・サービスを生み出すのか」「どのように生産プロセスを改善していくのか」という視点で経営計画を立てる必要があります。グリーン枠ではさらに「設備投資後の新たな取り組みで、CO2排出量がどれくらい減らせるのか」という観点も加わります。「環境問題に取り組みながら事業の成長を実現したいが、資金面で不安がある」という企業は、補助率や補助金額が優遇されるグリーン枠を目指すのもいいでしょう。

 まとめ

グリーン成長戦略は、企業活動において環境へ配慮することはもちろん、新たなビジネスチャンスの発見、投資家との信頼関係構築、法的規制への適合など、ビジネスの競争力強化と持続可能な経営にも密接に結びついています。

グリーン成長戦略の実現には、14の重点分野を理解し自社の状況に合わせたアクションプランの策定が不可欠です。実行の際には各種補助金や税制優遇も活用できます。国の最新の取り組みについて定期的に情報収集し、脱炭素経営の取り組みを加速させるための知識を身につけましょう。