アワリーマッチングとは?関連する「24/7 CFE」や概要、企業対策まで解説

GHGプロトコルは、電力の脱炭素化推進による課題対策として、Scope1・2・3のガイダンスの一体的な改訂作業を進めており、2026年に発表予定です。なかでもScope2ガイダンスの改訂の論点となっているのは、再生可能エネルギー由来の電力需給を1時間単位で一致させるアワリーマッチング (hourly matching)という手法です。もしアワリーマッチングが導入されれば、今後の電力調達やシステムに大きな影響を与えることが予測されます。

今回はアワリーマッチングの概要から、導入された場合企業はどのような対策が必要なのかまで解説します。

アワリーマッチングとは

「アワリーマッチング」とは、再生可能エネルギー(以下再エネ)由来の電力需給を1時間単位で一致させる手法のことで、「24/7カーボンフリー電力(以下24/7 CFE)」に付随する考え方です。ここでは、24/7 CFEとアワリーマッチングの概念を解説します。

24/7 CFE

24/7 CFEとは、24時間365日、電力供給網にカーボンフリー(CO2排出量ゼロ)電力を供給し、リアルタイムで消費を行うという、グーグルが2018年に提唱した概念です。つまり全ての時間帯で、カーボンフリー電力の需給マッチングを行うことで、CO2をより削減するという考え方です。2021年には国連が国際イニシアティブ「24/7 Carbon Free Energy Compact」を立ち上げ、世界的に注目されるようになりました。

アワリーマッチングの概念

アワリーマッチングとは、時間毎の電力のCO2排出量を確実に把握するため、電力需要がカーボンフリー電力供給と完全に一致しているのかを算定する手法です。24/7 CFEとおなじくグーグルが提唱した概念で、これにより24/7 CFEの取り組みを促進します。

なおCO2排出量の少ないカーボンフリー電力とは、主に再エネ電力であるため、以下再エネ電力と記載します。

アワリーマッチングが注目されている背景

なぜアワリーマッチングの考え方が注目されているのでしょうか。現在の再エネ調達の国際基準では、再エネ発電と電力消費を1時間単位で一致させる必要はありません。そのため企業や組織は、年間電力消費量に相当するだけの再エネ電力を調達すれば、自社の脱炭素化を謳えます。

これまで企業は再エネ調達において、年度単位で設定された利用期限の範囲内であれば非化石証書などを活用し、調達した電力を再エネ電力として扱うことが可能でした。しかしこのような方法で、実際にCO2排出量削減に効果があるのか疑問の声もあがっていました。

GHGプロトコルの改訂

GHGプロトコルとは、温室効果ガス排出量の算定・報告をする際に用いられるグローバルスタンダードです。特にScope 1・2・3の考え方による、温室効果ガス排出量算定・報告には世界の多くの企業が取り組んでいます。しかし前述したような疑問に対する課題を解決するために、GHGプロトコルはこの枠組みを定めるガイダンスの改訂を検討しています。

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マーケット基準の要件の見直し

GHGプロトコルのなかでも検討が重要視されている項目は、ロケーション基準とマーケット基準を今後も併用するかどうかです。ロケーション基準とマーケット基準とは、Scope2を算定するための異なる2つのルールのことです。

Scope2

他社から供給される電気や熱エネルギー使用時の間接的排出量

ロケーション基準

Scope2の排出量を、特定の地域の平均の排出原単位に基づいて算出

マーケット基準

Scope2排出量を企業が契約した電力メニューの排出原単位に基づいて算出

上記のマーケット基準に対し、以下のような問題点を指摘する声が上がっており、GHGプロトコルでは、要件を厳格化する見直しを開始しています。

  • 要件の電力の消費に伴う排出量が正確に反映されていない。
  • 再エネ電力調達方法によっては削減効果に違いがある。
  • 時間や場所などの排出量の算定に関する要件が緩やかすぎる。

算定期間・単位の厳格化

温室効果ガス排出量の算定・報告への改訂が進めば、企業は1時間単位で電力消費が再エネ電力供給と完全に一致していることを求められる可能性が高まります。また電力消費がなされる地域に、より相応しい排出係数の利用が必須となるでしょう。また残余ミックスもこの時間的・地理的粒度に整合したものを利用しなくてはならない可能性があります。残余ミックスとは、特定の地域境界内のエネルギー製造から、需要家や小売等が主張する発電源、燃料の種類などの情報を除いた属性のない電気をミックスしたもののことです。

再エネ証書の活用の行方

Scope2のマーケット基準で証書活用は認められないとなった場合、これまで非化石証書などで、脱炭素化推進をしてきた企業にとって影響は小さくありません。日本のみならず世界の多くの企業は、非化石証書などの証書を介して再エネ価値を調達してきました。証書が使用できなくなった場合は、電力需要家の再エネ調達自体が困難になり、再エネ推進が停滞する恐れがあります。

アワリーマッチングの動向

ここからはアワリーマッチングにおける世界の動向を解説していきます。

国連が主導する24/7 CFE Compact

国連は2015年に採択されたSDGsの目標7で、クリーンエネルギーの取り組みを推進してきました。24/7 CFEの実現・普及に向け、国連が主導する国際イニシアティブ「24/7 CFE Compact」では、次の5つの基本方針が掲げられています。

  1. 再エネ電力の厳格な同時同量(Time-matched procurement)
    時間ごとの電力消費と再エネ発電をマッチングすることで、再エネ電力の購入と電力消費を結び付ける。
  2. 同一系統内での再エネ電力調達(Local procurement)
    電力消費が発生する地元や地域の電力網から再エネ電力を調達することで、地域の消費者の責任による温室効果ガス削減を推進することが可能。
  3. 技術包括性(Technology-inclusive)
    迅速に再エネ電力システムを構築する必要性と、すべてのカーボンフリーエネルギー技術が、持続可能な未来の実現に貢献することを認識する。
  4. 新規再エネ発電の実現(Enable New Generation)
    脱炭素化を推進するために、新規の再エネ電力発電の実現に重点が置かれている。
  5. 電力システムの影響を最大化(Maximize System Impact)
    化石燃料が多く使用される時間帯の電力消費に対処し、電力システムの影響を最大化することでCO2排出削減につなげる。

イギリスでの標準化の動き

2022年3月イギリスの非営利団体「エネルギータグ」は、再エネ電源による発電を1時間単位で証明する「グラニュラー証明書」の技術標準を公開しました。これにマイクロソフトやグーグルなどが賛同しており、今後はサプライヤーに対して1時間単位の証明書を求めてくる可能性あります。

アメリカのアワリーマッチング提唱機関

アメリカではアワリーマッチングを推進するために、多くの提唱機関が取り組みを開始しています。

  • アメリカ政府(EPA(環境保護庁))によるアワリーマッチング手法の啓発
    さまざまな環境問題に対して科学的、技術的な知見を提供し、環境法の施行を監督する役割を担うアメリカのEPA(環境保護庁)は、アワリーマッチング手法を啓発している。
  • グーグルの主導するアワリーマッチング導入
    グーグルは世界中にあるデータセンターやオフィスにおいて、24時間365日再生可能エネルギー由来の電力で、カーボンフリーを実現することを目指している。

日本企業や経済への影響は

実際にアワリーマッチングが導入されたら、日本のグローバル企業の再エネ調達やサプライチェーン全体への影響は多大です。日本の法規制とは別に国際標準の利用が求められ、Scope 3における上流・下流業者に対して、アワリーマッチングの手法で再エネ調達の報告を要求される可能性があります。

特に日本の製造業の生産活動によるCO2排出量は、約7割が電力消費によるものです。アワリーマッチングでの報告が必要となった場合は、再エネ調達方法の抜本的な見直しを余儀なくされるかもしれません。また日本の再エネ電力は太陽光発電が中心のため、アワリーマッチングに対応するには、日中に生産した電力を貯蓄し、夜にも活用可能な蓄電池が必須となるでしょう。

アワリーマッチングへの企業対応策

今後アワリーマッチングが導入された場合の可能性を考えて、企業はいまから次のような対策を行うことが望まれます。

コーポレートPPAの活用

アワリーマッチングが導入された場合、電力を同時同量で企業に供給するオフサイトコーポレートPPAのひとつである「フィジカルPPA」の手法が有効です。フィジカルPPAでは、30分や1時間ごとの同時同量を担保する必要があるため、企業の時間単位での電力需要データを分析できます。年間を通じて、どの時間帯でも再エネの供給と企業の電力需要のマッチングを設定すれば、アワリーマッチングに対応が可能です。

太陽光発電だけでは夜間の電力まで賄えませんが、段階的にアワリーマッチングを進めるという観点から、将来的にコーポレートPPAモデルがより盛り上がっていく可能性は高いと言えます。

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国際イニシアティブ「24/7 Carbon Free Energy Compact」加盟

前述した国連主導の「24/7 Carbon Free Energy Compact」に加盟するという方法もあります。2024年時点、参加企業は167にも上り、国内の企業では「大阪ガス株式会社」、「株式会社エナリス」、「株式会社UPDATER」、「三菱電機株式会社」などが挙げられます。

まとめ

24/7 CFEの普及により再エネ調達にアワリーマッチングの手法が取り入れられ、企業の再エネ電力調達は、今後新たな局面を迎える可能性があります。本記事でアワリーマッチングについて知見を深め、ぜひ企業の有効な脱炭素推進やリスク管理の一助としてください。

【参考】