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カーボンクレジット市場の拡大に伴い、信頼性の高いカーボンクレジットプログラムの評価制度が求められています。そこで注目されているのがICVCMです。ICVCMはカーボンクレジットプログラムのガバナンスやGHG排出の影響、サステナビリティを総合的に評価することで、カーボンクレジットに関する世界標準の基準創設を目指して設立されました。
本記事では、カーボンクレジットの評価制度を管理する「ICVCM」の概要や評価原則や、カーボンクレジットプログラムの評価プロセスについて解説します。
目次
ICVCMとは?
ICVCM(The Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)は、カーボンクレジットプログラムの評価基準を設定し、維持・管理するための組織です。2021年に国際金融協会(IFF)が後援したTSVCM※1の提言によって設立されました。ICVCMは自主的炭素市場※2の信頼性や実効性を向上させるうえで、大きな役割を果たします。
※1 TSVCM(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Markets:自主的炭素市場拡大タスクフォース
※2 自主的炭素市場は温室効果ガスの排出を減らすため、企業や個人が自由に参加してクレジットを取引する市場
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ICVCMの役割
- 基準の評価と認証
- 利害関係者との連携促進
- カーボンクレジット市場への貢献
ICVCMの役割は大きく3つあります。まず、「基準の評価と認証」が挙げられます。ICVCMは、コアカーボン原則(CCPs※3)に基づいてカーボンクレジットプログラムを評価し、CCPラベル付きクレジット発行を認証します。なお、CCPsとクレジット発行プロセスについては「CCPsの10原則」、「ICVCMの評価プロセス」の章で詳細を解説します。
次に、「利害関係者(ステークホルダー)との連携促進」です。ICVCMは自主的炭素市場の実務者、政府、規制当局、先住民族、地域コミュニティなど、幅広い利害関係者の連携を促し、協力関係の構築に寄与します。
最後に、「カーボンクレジット市場への貢献」があります。ICVCMの評価制度によってクレジットへの信頼性が向上することで、カーボンクレジット市場自体の評価が高まります。市場への評価が高まることで、新たな参加者の増加も期待できます。
※3 CCPs(The Core Carbon Principles):ICVCMによって定められたカーボンクレジット要件を示した10の原則
VCMI、SBTiとの違いは?
項目 | ICVCM | VCMI | SBTi |
正式名称 | Integrity Council for the Voluntary Carbon Market | Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative | Science Based Targets initiative |
主な目的 | カーボンクレジットの品質基準設定・評価 | 企業のカーボンクレジット使用指針提供 | 企業のGHG削減目標設定支援 |
対象 | カーボンクレジット発行者 | カーボンクレジット使用企業 | ネットゼロを目指す企業 |
設立年 | 2021年 | 2021年 | 2015年 |
公式サイト | https://icvcm.org/ | https://vcmintegrity.org/ | https://sciencebasedtargets.org/ |
ICVCMと似た組織としてVCMIとSBTiが挙げられますが、これらは目的や対象に違いがあります。ICVCMはカーボンクレジット発行者を対象としているのに対し、VCMIはカーボンクレジットの使用者(企業)を対象としています。SBTiは企業のGHG排出削減に焦点を置いています。
一方で、気候変動対策の一環として、企業の脱炭素化を促進するという点では共通点があります。また、科学的根拠に基づいたアプローチを採用し、国際的な協力・協調を進めている点も類似しています。
【関連記事】 GHGとは?日本企業の温室効果ガス削減の取り組み事例を紹介 |
CCPsの10原則
カテゴリー | 原則 |
ガバナンス (Governance) | 1. 効果的なガバナンス(Effective governance) |
2. トラッキング(Tracking) | |
3. 透明性 (Transparency) | |
(Robust independent third-party validation and verification) | |
GHG排出の影響 (Emissions Impact) | 5. 追加性(Additionality) |
6. 永続性(Permanence) | |
(Robust quantification of emission reductions and removals) | |
8. 二重計上の禁止(No double counting) | |
持続可能な開発 (Sustainable Development) |
(Sustainable development benefits and safeguards) |
(Contribution to net zero transition) |
ICVCMの評価基準は、CCPsに基づいて設定されます。CCPsは10の原則から成り、ガバナンス、排出による影響、持続可能な開発の3つのカテゴリーに分けられます。
1.効果的なガバナンス
カーボンクレジットプログラムは、透明性を確保して説明責任を果たす必要があります。また、継続的なプログラム改善も重要な評価要素です。そのためには、プログラムを効果的に管理できるガバナンスが重要になります。
2.トラッキング
発行されるカーボンクレジットのトレーサビリティが評価されます。カーボンクレジットの固有ナンバーの付与、改ざんに耐性のある登録簿システムの構築、保有や償却情報の共有など、具体的な取り組みが大切です。
3.透明性
カーボンクレジットの対象となるGHGの削減活動情報はオープンにし、多くの人からアクセスできるようにすることが重要です。クレジット情報をわかりやすくまとめ、インターネットでも観覧できるようにすることで透明性は高まります。
4.独立した第三者による検証と認証
発行されるクレジットは、独立した第三者による検証と認証を受けなければなりません。第三者による客観的な評価によりクレジットの信頼性が高まり、カーボンクレジット市場の健全性につながります。
5.追加性
追加性はクレジット収益によって、新たなカーボンクレジット計画が進むといった好循環を意味します。追加性があるプログラムのクレジットは、新たなGHG排出削減や吸収をもたらす期待ができるため、高品質なクレジットとして評価されます。
6.永続性
GHGの削減や吸収が長期的に維持されることが重要です。プログラムで長期的なモニタリングが為されているか、対象地域の法律対応が進んでいるかなどを評価します。また、クレジット対象への補償制度も重視されます。
7.GHG排出削減・除去の定量化
GHG排出削減量や吸収量を、科学的で信頼できる方法で正確に測定することが求められます。また測定の際は、時間の経過とともに変化する可能性のある要因を考慮します。これは、クレジット評価を長期的に維持することにつながります。
8.二重計上の禁止
同一のGHG削減・吸収事項に対して複数のクレジットが発行されることを禁止します。また、複数の団体・組織が同じクレジットを計上することも禁止です。一度使用したクレジットを別の年に使用することも許されません。
9.持続可能な開発の利益とセーフガード
カーボンクレジットプログラムでは環境保護だけでなく、社会的利益の追求も重要です。地域社会の支持を得ることで、プログラムの長期的な成功につながります。
10.ネットゼロ移行への貢献
長期的に、カーボンクレジットクレジットプログラムがネットゼロ※4を目指すことを評価します。短期的なGHG排出削減だけでなく、長期的な気候変動対策の一環としてプログラムが機能していることが重要です。
※4 ネットゼロ(Net Zero):GHGの排出と除去が均衡している状態
ICVCMの評価プロセス
ICVCMの評価プロセスを4つの段階で解説します。審査されるカーボンクレジットプログラムはCCP適格とCCP承認を経て、CCPラベル付きクレジットを発行できます。
なお、すでにCORSIA※5の認定を受けているプログラムに対しては、簡略化したプロセスで審査が進みます。審査機関の目安としては、CORSIA認定プログラムの場合で約2ヶ月、CORSIA未認証プログラムの場合は約4ヶ月です。
※5 CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)は民間航空のカーボンオフセット、CO2削減を管理するための制度
1.カーボンクレジットプログラムの申請
ICVCMに審査申請を行います。申請フォーマットはAssessment Frameworkを用いて作成します。また、審査の進捗状況は「Assessment Status」で確認できます。
2.ガバナンスCCPsの要件確認
まず申請されたプログラムは、ガバナンスに関するCCPsを満たしているかを審査されます。プログラムが要件を満たしている場合、審査会が「CCP適格(CCP-Eligible)」として承認します。
3.カーボンクレジット方法の評価
カーボンクレジットの方法がCCPsに適合しているかを評価します。CCPsに適合されていると評価された場合、理事会によって承認され、審査ステータスは「CCP承認(CCP-Approved)」となります。
4.CCPラベル付きクレジットの認証
「CCP適格」と「CCP承認」の両方が付与された後、プログラムはCCPラベル付きクレジットを発行することができます。
ICVCMの課題
ICVCMの評価制度を広く普及していくためには、評価基準の正当性や透明性の確保が課題となります。また、他市場との競合にも対応していく必要があります。
1. 評価基準の正当性
評価基準の正当性を確保するには、最新の科学的根拠に基づき実用性のある基準を設定していく必要があります。時代のニーズや技術進歩、ステークホルダーの声もフィードバックとしてしっかり掌握し、多くの人に正当性を認められる評価基準を目指す取り組みが重要です。
2. 透明性の確保
審査には透明性が求められます。特にCCP適格とCCP承認付与のプロセスをオープンにすることで、信頼性の獲得につながります。現在、審査完了や進捗状況は「Assessment Status」で確認できます。引き続き、さまざまなアプローチでの情報公開が求められます。
3. 他評価制度との競合
カーボンクレジットプログラムは、いくつもの評価制度を併用することで、信頼性や権威性が上がる場合があります。しかし、各評価制度は信頼性や権威性といった面で、比較され選抜されていきます。これからもICVCMは他制度と異なるアドバンテージを追求していくことが重要です。
まとめ
以上、カーボンクレジットの評価制度を管理する「ICVCM」の概要や評価原則、カーボンクレジットプログラムの評価プロセスについて解説をしました。
ICVCMによる評価制度が普及することで、信頼性の高いカーボンクレジットが市場に多く流通し、より活発な取引が期待できます。