ISSBとは?開示基準と動向から日本企業への影響までわかりやすく解説

ISSB(国際サステナビリティ基準審査会)は、企業のサステナビリティ情報開示の基準を策定するため、IFRS(国際会計基準)によって設立されました。ESG投資の拡大とともに、重要性を増している企業の非財務情報を、より高品質に開示するための国際的な共通基準です。

本記事ではISSBの概要から開示基準(S1・S2)、日本企業への影響まで詳しく解説しますので、ぜひご一読ください。

ISSBとは

ISSBは、2021年 COP26においてIFRS財団評議員会により設立されました。ISSBの正式名称は「International Sustainability Standards Board」であり、日本語では「国際サステナビリティ基準審議会」と呼称されます。

ISSBは投資家と金融市場のニーズに特化し、透明度が高く包括的なグローバルベースとなるサステナビリティ基準を開発する組織です。

ISSB設立の背景

気候変動問題をはじめとして、世界は環境に関する課題を多く抱えています。企業は脱炭素や環境活動を経営基盤に据えることはもはや当然であり、非財務情報の開示は従来以上に強く求められています。

しかし世界には、400以上の非財務情報開示基準が乱立し統一された基準は存在せず、投資家だけでなく企業もどの開示基準を参考にすればいいのか判断が困難でした。このような状況を踏まえ、IFRS財団はこれまでの実績や専門知識を活かし、基準審議会を設立し、サステナビリティ報告の世界共通基準を策定することにしたのです。

IFRS(国際会計基準)とは

ISSBを設立したのはIFRS財団です。IFRS財団は2001年、「国際会計基準委員会(IASC)」に代わる機関として設立されました。世界の金融市場に透明性や効率性を生むIFRS基準を開発し、グローバル経済に長期的な金融安定と信頼をもたらすことで、公共の利益に貢献することが目的の機関です。

ISSBと他組織との関連

ここではISSBとTCFDの関連性と、組織体制について解説します。

TCFD:気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース

TCFDは気候変動が経済に及ぼす財務的影響を、定量的に分析し情報開示を行う気候関連開示のグローバルスタンダードともいえる機関です。

しかしTCFDを運営する「金融安定理事会(FSB)」は、TCFDを2024年度中に解散し、企業開示のモニタリングをISSBに移管すると発表しました。TCFDに代わり、ISSBがサステナビリティ開示のグローバルベースラインを提供することになったのです。そのため、ISSBの気候・サステナビ リティ情報開示の基準はTCFDの勧告に基づいています。

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ISSBは複数の組織が統合

2022年6月には、IFRS財団は、CDPの取り組みを行っている「CDSB(気候変動開示基準委員会)」及び、統合報告フレームワークとSASB基準を提供している「VRF(価値報告財団))を統合しています。
さらに「ESRS (欧州サステナビリティ報告基準)」や「GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)」との連携も強化し、複数機関が協同する組織体制になっています。

IFRSサステナビリティ開示基準

ISSBが策定し公表した最初のサステナビリティ開示基準、「IFRS S1」「IFRS S2」について具体的に解説していきます。

IFRS S1:サステナビリティ関連財務情報全般に対して

サステナビリティ関連財務情報は、企業のサステナビリティ関連財務情報開示の主たる利用者である投資家や融資者、債権者に向けて情報を開示します。

IFRS S1の目的

IFRS S1の目的は、一般目的財務報告書の利用者が資源提供において意思決定を行うにあたり、企業に対してサステナビリティ関連のリスクや機会の情報開示を求めるものです。

IFRS S1の範囲

企業は、IFRSサステナビリティ開示基準に従い、サステナビリティ関連財務開示を作成します。ただし企業の見通しに影響を与える(affect)と、合理的に見込み得ないサステナビリティ関連のリスク及び機会は、開示基準の範囲外となります。

IFRS S1の概念的基礎

サステナビリティ関連財務情報が有効活用されるためには、関連性と忠実性が求められます。これらは有用なサステナビリティ関連財務情報の基本的な質的特性です。そのために次の4つのポイントが重要になります。

  • 適正な表示
    企業の見通しに影響を与える(affect)と合理的に見通される全サステナビリティ関連のリスク及び機会を、適正に表示する必要がある。
  • 重要性(materiality)
    企業は、企業の見通しに影響を与える(affect)と合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会に関して重要性がある(material)情報を開示しなければならない。
  • 報告企業
    企業のサステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告企業に関するものでなくてはならない。
  • つながりのある情報である
    企業は、一般目的財務報告書の利用者が、さまざまなサステナビリティ関連のリスク及び機会の間のつながりを理解できるようにする情報を提供する必要がある。

IFRS S2:気候変動関連

IFRS S2では、TCFDと同様に将来の気候変動の影響を評価するための「シナリオ分析」が必要です。また企業のバリューチェーン内で発生する他のすべての間接排出(Scope3)として、温室効果ガス排出量を明確化することが求められています。

IFRS S2の目的

一般目的財務報告書の利用者が、資源提供において意思決定を行うにあたり、企業に対して、気候関連のリスクや機会の情報を開示することを要求することです。

IFRS S2の範囲

企業が直面している気候関連の物理的リスクや気候関連の移行リスク及び、企業が利用可能な気候関連の機会に適用されます。

IFRS S1.2の4つのコア・コンテンツ

IFRS S1.2の4つのコア・コンテンツは、TCFD提言における4つの柱に基づき策定されています。それぞれを簡潔に解説します。

ガバナンス

ガバナンスに関する目的は、企業がサステナビリティや気候関連のリスクと機会をモニタリング及び、管理するために用いるプロセス、統制および手続きに関して理解できるよう各種情報を開示することです。

戦略

戦略に関する非財務開示の目的は、一般目的財務報告書の利用者が、サステナビリティや気候関連のリスク及び、機会を管理する企業の戦略を理解できるようにすることです。

リスク管理

企業は、一般目的財務報告書の利用者が、企業の見通しに影響を与える(affect)と合理的見込みのある気候関連のリスク及び、機会を理解できるようにする情報を開示する必要があります。

指標と目標

サステナビリティ関連財務開示の目的は、一般目的財務報 告書の利用者が、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関連する企業指標及び目標(ターゲット)に関する情報を理解できるようにすることです。

業界ごとの開示指標「SASB基準」

ISSBでは業界ごとの開示指標については、「SASB基準」の適用検討を求めています。
SASBとは「Sustainability Accounting Standards Board」の略であり、日本語で「サステナビリティ会計基準審議会」と呼称されます。米国サンフランシスコを拠点にした非営利団体で2011年に設立されました。

業種ごとの開示基準を公表しており、ISSBはSASB基準から、自社のサステナビリティ課題を探し開示指標を選定することを進めています。

ISSBの今後の動向と日本企業への影響

ISSBのこれまでの動向と、日本企業への影響はどのようなものなのか解説します。

 ISSBこれまでの経緯

2021年11月:ISSB設立 CDSBとVRF統合、報告基準プロトタイプを公表
2022年3月:ESG情報の開示基準について2つの草案を公表(IFRS S1・S2)
2022年5月:ISSBは国際統合報告フレームワークの今後の利用方法に関する方針を提示
2023年6月:コンサルテーションから得たフィードバックを踏まえて基準を最終化
2024年1月:本格適用開始

また2024年から2026年までのワークプランでは、「生物多様性・エコシステム・エコシステムサービス」「人的資本に関する新たなリサーチプロジェクトを促進すること」を発表しています。

日本企業への影響

ISSBが日本企業に及ぼす影響としては、世界で非財務関連情報開示が促進されることで拡大するESG投資や脱炭素経営があげられます。IFRS S2では、バリューチェーン内での温室効果ガス排出量測定も求められるため、中小企業に対しても脱炭素推進が必須となります。

バリューチェーンや経営基盤がグローバルに複雑化する時代、日本企業はいち早く国際的な基準に対応できるよう備えておかねばなりません。

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の設立

ISSB設立をうけ、日本も2022年7月「公益財団法人財務会計基準機構(FASF)」内に、「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」を設立し、日本での適用に向けて国内基準の策定を進めています。SSBJの役割は主に次の2点になります。

  • 日本基準の開発
    日本は資本市場への信認確保の視点から、高品質で国際的な基準と整合性のある日本基準の開発を実施する。
  • 国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献
    SSBJは、国際的なサステナビリティ開示基準の質向上に貢献することを目標としています。ISSBの公開草案及び情報要請などに対してコメント・レター提出や、国際会議においての意見発信などを積極的に実施します。

SSBJ基準については、金融庁が有価証券報告書でのサステナビリティ開示基準にすることを検討しており、2027年3月期から義務化する案が出ています。東京証券取引所プライム市場の上場企業を対象に、時価総額3兆円以上の企業から適用を開始します。2028年3月期には、1兆円以上の企業に対象を広げる見込みです。

まとめ:自社のサステナビリティ関連リスクを検討しておくことが重要

国際的なサステナビリティ開示基準であるISSB基準について解説しました。地球上のさまざまな環境課題が深刻化するなか、企業におけるサステナビリティ情報の開示はますます重要となっています。

ぜひ本記事でISSBについての知見を深め、いざというときにはすぐに対応できるよう自社の環境経営の一助としてください。

【参考】