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JEPXは、電力自由化の動きを受けて2003年に設立された、電気の取引市場です。聞き慣れない言葉ですが、実は企業活動になくてはならない電気料金とも密接な関係があります。本記事ではJEPXの概要と企業へもたらす影響について解説します。
目次
JEPXとは
JEPXとは、「Japan Electric Power Exchange」の略称で、日本語では「日本卸電力取引所」と訳されます。2003年に日本国内で唯一電気を取引できる市場として設立されました。取引を行うには会員になる必要があり、2024年6月末現在で305社、特別取引会員9社が参加しています。
JEPXの取引はどのような仕組み?
JEPXでは、発電事業者が電気を売りに出し、電気を買いたい小売事業者などが購入できます。電気の価格は入札によって決まる仕組みで、一般消費者は参加できず、以下の要件を満たして会員登録した場合のみ売買への参加が可能となります。また、純資産額1,000万円以上が必要など、資産上のいくつかの要件も満たす必要があります。
【JEPX会員要件】
(1)一般送配電事業者との間で接続供給契約を締結している者または締結の予定が確定している者(ただし,当該接続供給契約における契約者が複数の場合,代表契約者に限る。)ただし,旧一般電気事業者においては接続供給契約に準ずるもので代替することが出来る。
(2) 一般送配電事業者との間で発電量調整供給契約を締結している者または締結の予定が確定している者 ただし,旧一般電気事業者においては発電量調整供給契約に準ずるもので代替することが出来る。
(3) 一般送配電事業者との間で需要抑制量調整供給契約を締結している者または締結の予定が確定している者
(4) 前三号に該当する者から依頼を受けた者(ただし,依頼した者は取引会員であってはならない)
(5) 前各号のほか,本取引所が適格と認めた者
引用:一般社団法人日本卸電力取引所 取引会員規程 (JEPX)
JEPXによる取引が始まった背景
JEPXは電力自由化の動きを受けて2003年に設立されました。経済産業省の外局である資源エネルギー庁が2003年に開催した、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会報告「今後の望ましい電気事業制度の骨格について」では、以下の提言がなされています。
・2003年6月公布のエネルギー政策基本法を受けて、エネルギー安定供給の確保、環境への適合を考慮した経済構造改革を構築すべきである
・電気の供給に関して安定性・公平性を確保する仕組みの構築と、企業の自由な活動との調和が重要である
上記のことから、電気の取引におけるルールの策定や、意思決定機関としてJEPXが設立されました。
JEPXの取引市場の種類
JEPXの取引市場には、5つの種類があります。それぞれ詳しく解説します。
一日前市場(スポット市場)
一日前市場(スポット市場)では、翌日に受け渡す電気を取引します。1日を30分単位(毎時0分〜30分、30分〜60分)で分割して48個の商品として取引が行われ、必要な時間帯のみ電気を売買できます。価格が一意に決まる「シングルプライスオークション」を採用しているのも特徴です。これにより、近年は太陽光でたくさん発電できる日中の時間帯には、スポット市場価格が底値に張り付く現象が顕著になっています。一日前市場はJEPXの中で最も取引が多い市場です。
当日市場(時間前市場)
当日市場(時間前市場)は、当日の発電不調や気温変化などによる電気需要の調整の場です。一日前市場(スポット市場)で翌日に受け渡す電気が取引された後、受け渡しが実行されるまでの間に不測の発電不調が起きたり、需要の急増が発生する場合があります。当日市場はそういった不測の事態や需要の調整対応する目的で取引が行われています。
先渡市場
先渡市場では、1年間・1ヶ月間・1週間といった将来の特定の期間に受け渡す電気を取引します。スポット市場は30分ごとに電気の価格が決定しますが、先渡市場は一定期間にわたって価格の変動を固定化できる点が特徴です。
非化石価値取引市場
非化石価値取引市場では、発電時にCO2を排出しない環境価値(非化石価値)を取引します。従来の石油・石炭・天然ガスなどを使用した発電方法は化石電源と呼ばれますが、風力・太陽光・バイオマスなどの再生可能エネルギーや原子力といった方法で発電するものが非化石電源です。この非化石電源による発電のうち、系統流入した分の価値を取引するのが非化石価値取引市場です。購入した非化石価値は、「非化石証書」として発行され、企業活動で使用する電気のCO2排出量削減などに活用できます。
ベースロード市場
ベースロード市場では、ベースロード電源(石炭・火力・原子力・水力・地熱発電など)を使用した電力を取引します。ベースロード電源は季節や時間帯、天候を問わずに、継続して安定的に一定量の電力を供給できる電源を指します。ベースロード電源を所有しているのは主に大手電力会社のため、大手がベースロード市場での売り手となります。新規参入した小売電力会社が買い手としてベースロード電源を使用した電力を仕入れることで、安定的に電気を供給できる体制を整えています。
JEPXを取り巻く状況と企業活動への影響
JEPXの取引状況は、世の中の動きや世界情勢などに応じて日々変化しています。ここではJEPX市場の動向と企業への影響についてまとめます。
近年のJEPX取引市場の動向
2020年12月、火力発電の燃料であるLNG(液化天然ガス)のと需要がもともと高まっていたところに、産出国の供給設備トラブルなどの要因が重なり、LNGの価格が高い水準へと変動したことで電力需要がひっ迫しました。また、コロナ禍突入によって自宅で過ごす人が増えたことや厳しい冬の冷え込みも電力価格が高騰した一つの要因と考えられます。しかし、その後の各電力会社による対応や政府の働きかけにより、翌年1月中旬には市場価格は落ち着きを見せました。
太陽光発電は世界でも近年導入量が増加しており、日本は世界有数の導入量を持っています。太陽光発電は、日中に発電が集中するために日中の取引価格が底値の0.01円/kWh程度で取引される日が多く出る一方で、家庭での電力需要が集中する朝・夕は価格単価が上がる状況が続いています。
太陽光発電を自立した電源へと変化させるため、政府はFIP制度を2022年にスタートさせました。この制度は、再エネ発電事業者が市場で電力を販売した際、その価格に応じて一定の補助額を上乗せするもので、プレミアムとも呼ばれます。底値(0.01円/kWh)の取引時間帯の販売時はこのプレミアムは支払われず、その一方、取引価格が高い朝・夕時間帯の販売は底値(0.01円/kWh)時間帯のプレミアム部分が上乗せされて支払われます。事業者としては、蓄電池の導入により売買する時間帯をずらすなど、売買の工夫をすることで価格差による新たなビジネスモデルが考えられます。
これによって、より電力需要がある時間帯での電力売買を促しながら、再エネ導入の促進を図っています。
企業が支払う電気料金への影響は?
近年のウクライナ情勢などを受け、世界の化石燃料の価格は高騰しつつあります。その流れによって、化石燃料の中でもCO2排出量が比較的少ないLNGに需要が集中する可能性も示唆されています。電気代の価格の見直しが各社でされていますので、ニュースを定期的にチェックすることが重要です。
また、各電力会社では市場価格に連動して電気料金が決まるプランや、非化石証書を利用した再エネプランなど多様なプランを導入する事例も増えてきました。
今後、料金プラン体系によっては企業の電気料金の負担が増える可能性があります。改めて自社の電気使用量と契約プランを確認してみましょう。
電力を調達する方法の多様化
また、最近ではPPAを利用して電気代を個別に契約して決定したり、自家消費で太陽光発電設備自体を導入するなど、電気の調達方法も多様化しています。
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まとめ
JEPX(日本卸電力取引所)は、日本の電力市場における取引の中心的な存在です。電力の需要と供給を調整し、透明かつ公正な電力取引を担う重要なプラットフォームです。本記事を通じて、JEPXの仕組みと企業に与える影響への理解を深め、自社の電力調達について改めて考えるきっかけとなれば幸いです。