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2050年カーボンニュートラルの実現、再生可能エネルギーなどの電源を長期安定的に確保・促進する制度として「長期脱炭素電源オークション」が注目されています。この制度では、落札された事業者に対して最大20年間の容量収入が保証されます。
本記事では、制度の概要や対象となる電源、そして発電事業者にとってのメリットについて、最新の公募動向や検討会資料をもとにわかりやすく解説します。
目次
長期脱炭素電源オークションとは?

長期脱炭素電源オークションは、水素・アンモニア・再生可能エネルギーなどの脱炭素電源の新設を支援するための制度です。経済産業省・資源エネルギー庁の主導で、2023年度に創設され、すでに2024年1月からオークションは開催されています。オークションの実施、落札電源・落札価格の決定、契約管理などの運営全般を担っているのは電力広域的運営推進機関(OCCTO)です。
このオークションでは、発電事業者が提案する脱炭素電源の建設計画が国によって落札されます。落札された電源計画の発電事業者には、電力小売事業者が負担する容量拠出金から原則20年間にわたり容量収入が支払われます。
【容量拠出金について】
容量拠出金は小売電気事業者が「電力広域的運営推進機関(OCCTO)」に対して支払う費用です。
【容量収入について】
容量収入(容量確保契約金額)は、発電設備が将来的に電力システムに貢献することに対して支払われる報酬のことです。長期脱炭素電源オークションでは、発電実績に関係なく、落札時に確定した発電事業者の供給力(kW)に基づき算定されます。
制度が作られた背景
長期脱炭素電源オークション導入の背景には、2050年カーボンニュートラル実現に向けて脱炭素電源が不足していることがあげられます。新たな電源の建設には、莫大な初期投資が必要ですが、将来の収益が見通せないと事業者はなかなか投資に踏み切れません。そこで、政府は長期脱炭素電源オークション制度を通して、長期的な投資回収の予見可能性を付与することで、企業の脱炭素電源への新規投資を促し、供給力を増やしていくことを目的としています。
オークションの仕組み
長期脱炭素電源オークションの仕組みを、以下の5つのステップで解説します。応札から誰が応募し、どのように落札されてといった部分を順番に確認していきましょう。
ステップ①:OCCTOがオークションを公表
OCCTOが、オークションの実施概要(容量規模、対象年度、応募条件、スケジュールなど)を公表します。
ステップ②:発電事業者が応札
公表内容を受け、発電事業者が新設またはリプレースを予定する脱炭素電源について、供給容量(kW)と希望価格(円/kW/年)を提示して応募します。計画段階の案件でも参加可能です。
ステップ③:OCCTOが落札事業者を選定
OCCTOは、応札された案件を価格の低い順に並べ、募集量に達するまで落札を進めます。募集量は年度によって異なります。2023年度の脱炭素電源の募集量は400万kWでした。
ステップ④:契約締結と容量支払いの開始
落札した発電事業者は、OCCTOと容量確保契約を締結します。この契約に基づき、設備の運転開始後、OCCTOから発電事業者に対して、年ごとに定額の容量支払い(円/kW/年)が行われます。
オークションの関係者
| 関係者 | 主な役割 | 具体例(該当事業者など) |
| 発電事業者 | 脱炭素電源の新設・リプレースを計画 オークションに応札 | JERA、関西電力 |
| 電力広域的運営推進機関 (OCCTO) | オークションの運営、落札選定、 契約管理、容量拠出金の集金・分配 | ― |
| 小売電気事業者 | 電力を販売し、容量拠出金をOCCTOに支払う | 東京ガス、ENEOS 楽天エナジー、Looop |
| 一般送配電事業者 配電事業者 | 地域の送電・配電を担い、容量拠出金を負担 | 東電PG、関西電力送配電 中部電力PG |
| 電気利用者(消費者) | 電気料金を通じて容量拠出金を間接的に負担 | 一般家庭、企業など |
長期脱炭素電源オークションには、発電事業者やOCCTOをはじめ、さまざまな関係者が関与しています。実際に電源をつくる発電事業者だけでなく、小売電気事業者や送配電事業者など、電力の流通に関わる広い範囲の事業者が、制度の運営や費用負担に参加しています。
また、最終的には私たち一般の電気利用者も、電気料金を通じて間接的に制度を支えています。
長期脱炭素電源オークション参加のメリット
発電事業者が長期脱炭素電源オークションに参加し落札されることで、収益の安定化や採算性向上、対外的な評価の向上といったメリットがあります。
長期安定収入の確保と採算性向上
長期脱炭素電源オークションで落札されると、発電事業者は20年間に渡り、毎年一定額の容量収入を得ることができます。これは発電の有無に関わらず支払われるため、卸電力市場の価格変動による収益の不安定リスクの回避につながります。
また、水素やアンモニア火力、大規模再エネなど、投資コストが高く採算確保が難しい電源でも、長期の固定収入を前提とした事業計画が立てやすくなります。
脱炭素経営・ESG評価の向上
オークションを通じた脱炭素電源の整備実績は、単なる発電事業としての評価にとどまらず、ESG投資家や自治体、取引先などへの強力なアピール材料となります。特に、GXやカーボンニュートラルが重視される今、制度参加は脱炭素経営の実績となり、企業価値や信頼性の向上が期待できます。
オークション対象となる電源
| 区分 | 対象電源 | 施設条件 |
| 再エネ | 太陽光、風力(陸上・洋上) | 新設・リプレース |
| 蓄電 | 大規模蓄電池 | 充放電制御が可能なもの |
| 水力 | 既設揚水の大規模改修 | オーバーホールで主要設備全更新 |
| 地熱 | 地熱発電 | 新設・リプレース |
| 火力(脱炭素) | 水素、アンモニア混焼火力、CCS付火力 | 新設・リプレースまたは大規模改修 |
| 原子力 | 既設原発の安全対策投資 | 主要設備の更新含む |
長期脱炭素電源オークションの対象となる電源は、資源エネルギー庁が設置する「容量市場の在り方に関する検討会」における議論を通じて決定されます。検討会には有識者や産業界の代表が参加し、対象電源の種類や応札条件、上限価格などが整理されます。上記表は2025年の募集要綱(検討中)の対象電力をまとめたものです。正確な情報は各応札年度の募集要綱を確認する必要があります。
最新の検討資料(長期脱炭素電源オークション:2025年6月23日公表)では、水素・アンモニア火力、CCS火力、大型再エネ、原子力のリプレースなどが候補として議論されています。こうした議論結果は後にOCCTOによる公募要綱に反映されるため、応募を計画する事業者にとっては有力な情報源となります。
オークションの参加条件
| 区分 | 内容 |
| 応札対象者 | 国内で発電事業を行う者(新設・リプレースを含む) |
| 対象電源 | 再エネ、水素・アンモニア火力、CCS火力、原子力など |
| 応札容量 | 対象電源ごとに決定 |
| 運開時期 | 募集要項に指定された期間(例:2030〜2033年度) |
| 技術的要件 | 計画の具体性、環境アセス進捗、系統連系見通しなど |
| 価格要件 | 上限価格内での応札必須 |
| 制度併用制限 | FIT・FIP等の支援制度との重複不可 |
長期脱炭素電源オークションへの参加条件も、容量市場の在り方に関する検討会での議論を踏まえ、最終的にOCCTOが公募要項に明記する形で決定されます。検討会では、応募可能な要件や応札容量の下限、制度併用の可否などが議論されます。上記表は2024年度に実際に公表されたOCCTOの募集要項情報をまとめたものです。
制度に参加できるのは、電気事業法上の供給事業者など、一定の資格を持つ事業者に限られます。さらに、脱炭素ロードマップや設備計画などの詳細な書類の提出も求められます。
長期脱炭素電源オークションの展望と課題

制度開始からまだ日が浅い長期脱炭素電源オークションですが、容量市場の在り方に関する検討会の中で今後の展望と制度上の課題も議論されています。特に「コスト分担の見直し」と「投資促進と導入拡大」は、制度の持続可能性と事業者の参入促進にとって重要な論点です。
コスト分担の見直し
長期脱炭素電源オークション制度では、事業者が20年間の容量収入を得られる一方、施設建設期間中の資金負担といったコストは依然として事業者側に偏っています。経産省の検討会資料では、建設リードタイムの事業リスクが指摘されています。電源施設稼働までのコストフォローについてもこれからは議論が進むことが予想されます。
投資促進と導入拡大
投資促進と導入拡大も積極的に進めていく必要があります。最新の検討資料(長期脱炭素電源オークション2025年6月23日)では、上限価格の設定や、インフレ・金利変動への補償、費用増加への対応といったリスク低減策が検討されています。また、事業期間中の収益変動に備えるセーフティネットの導入や、市場退出ペナルティの特例、同時落札条件付き入札と議論にも注目です。
まとめ
長期脱炭素電源オークションは、将来の電力安定供給と脱炭素化の両立を図る制度です。オークションに参加する事業者は20年間に渡る容量収入が期待でき、投資回収の計画が立てやすくなります。また、水素・アンモニアなどの先進技術による発電事業に挑戦する企業にとっては、新たなビジネスチャンスとしても注目です。
| 【参考】 |




