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カーボンニュートラルに関するNDC(国別削減目標)という言葉を聞いたことはないでしょうか。
NDCとは、自国の温室効果ガスの排出削減目標のことです。世界がカーボンニュートラルを実現するために欠かせないNDCについて知見を得ることは、脱炭素推進に対する意識を深めるためにも重要です。
今回はNDCについて概要から、世界の取り組み動向までわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
NDC(国別削減目標)とは
NDC(国別削減目標)は、正式名称が「Nationally Determined Contribution」であり、「国が決定する貢献」という意味です。NDCはパリ協定で掲げられた温室効果ガス削減の長期目標達成のために、各国の排出量削減と気候変動対策への努力を具体化したものです。
NDCとは「温室効果ガスの国別排出量削減目標」
2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べ2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑えるよう努力を続けること」という、脱炭素化推進の重要な枠組みが明文化されました。
そして、各締約国に対し、長期目標達成のための自国の温室効果ガス排出削減を決定するNDCを継続的に作成し、伝達・維持することを義務付けました。つまり各締約国が、自国でどのくらい温室効果ガス削減を実現し、国際目標に貢献できるのかを定めたものがNDCです。
「グローバル・ストックテイク(GST)」の実施
パリ協定で掲げられた目標に対して各国の進捗を評価するためのシステムが、「グローバル・ストックテイク(Global Stocktake)」、略してGSTと呼称されます。GSTは5年ごとの実施で、2023年のCOP28にて初めて実施されました。GSTの評価結果は、各国の削減対策を更新・強化するための情報や、国際協力を促進するために活用されます。
NDCの重要性と世界の動向
世界気象機関(WMO)は、2023年は観測史上最も暑い年を記録し平均気温が産業革命以前に比べ1.45℃上昇したと報告しました。また世界の海のほぼ3分の1が海洋熱波に見舞われ、重要な生態系と食料システムに損害を与えたとも述べています。各国がパリ協定に整合した削減目標に取り組むことは喫緊の課題であり、NDCの重要性は増しています。
ここでは主要国の削減目標とグローバル・バリューチェーンを通じた排出削減の必要性について解説します。
主要国の削減目標
主要国の削減目標は非常に高い水準を目指しており、日本の目標はパリ協定の1.5℃目標と整合するためは低いという指摘もあります。しかし各国の基準年や目標達成年などには、外交上の戦略性が込められているため、国益を含めた思惑が絡んでいないとはいえません。
国名 | 削減内容 |
日本 | 2013年比で46%削減 |
米国 | 2005年比で50~52%削減 |
EU | 1990年比で55%以上削減 |
英国 | 1990年比で68%以上削減 |
グローバル・バリューチェーンを通じた排出削減の必要性
世界全体で温室効果ガスを削減するためには、各国がグローバル・バリューチェーンにおいて特性に応じた温室効果ガス削減対策を進めることが重要です。グローバル・バリューチェーンとは、複数国に張り巡らされた生産工程のことをいいます。
例えば海外から原料などを調達している製品やサービスは、製造や消費などライフサイクルの各段階で、グローバル・バリューチェーン全体を通して温室効果ガスが排出されます。そのためバリューチェーン上の温室効果ガス削減が重要となります。
また世界全体の温室効果ガス排出量の3分の2は新興国などが占めているという事実があります。先進国で着実に温室効果ガス削減が進んでも、新興国の排出削減なくしてパリ協定の目標の達成はあり得ません。そのためグローバル・バリューチェーンに関わる新興国においても温室効果ガス削減を促進することが求められます。
海外の取り組み
ここでは2024年現時点の世界各国の温室効果ガス削減の取り組みについてご紹介します。
国名 | 取り組み内容 |
アメリカ | 電力部門の2035年脱炭素化、産業分野は電化を促進。新築・既築建物や家電の省エネを進めるとともに、世界全体でメタンを2030年に少なくとも30%削減し、CO2除去技術についても促進していく。 |
EU | 2050年と2030年の温室効果ガス削減目標に関する「欧州気候法案」制定。政策パッケージ「Fit for 55」を提案し、排出量取引の強化や炭素国境調整メカニズム適用による産業部門への無償割当の段階的な削減、再エネの導入目標引上げなどのさまざまな施策を実施する。 |
英国 | 2050年カーボンニュートラルに至る道程として、2035年までに1990年比78%削減を含むカーボンバジェットを設定し、10月に長期戦略を国連に提出。EV化、省エネの推進、低炭素燃料への転換、CO2回収・固定技術などに取り組む。 |
フランス | 電力部門について、2030年までに化石燃料消費を40%削減する一方、再エネの利用を全体の33%まで拡大するなどの目標を決定。 |
中国 | 2020年習近平国家主席が国連総会で「2060年までにカーボンニュートラル達成に努力する」と表明。2021年「第14次5カ年計画工業のグリーン発展計画」を発表し、2025年までに鉄鋼、建材などの産業でCO2の排出量を減らし、脱炭素化を後押しする具体的な計画を示す。 |
日本の温暖化対策の現状
それでは日本の温暖化対策の現状はどのようなものでしょうか。具体的な削減目標や世界に向けたメッセージからみてみましょう。
日本の排出量削減目標
日本は、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度において、温室効果ガスを 2013年度から46%削減することを目指しています。さらに50%の高みに向け、挑戦を続けていくことを宣言しています。
日本の2021年度の温室効果ガスの排出・吸収量は、11億2,200万トンで、2020年度比で2.0%の増加、2013年度比では20.3%減少しました。2021年度の吸収量は4,760万トン。4年ぶりに増加し、着実に削減を実現しています。
出典:2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要(環境省)
GX実現に向けた取組
日本はGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けて約2兆円のグリーンイノベーション基金を設立し、エネルギーの地産地消による地域経済循環や、GX製品・サービスに対する需要喚起をおこないます。
さらにバリューチェーン全体の脱炭素化や優れた脱炭素技術の国際展開という観点から、予算だけでなく制度面でもGX実現に対応していく計画です。具体的には、地球温暖化対策推進法の一部改正法案として以下があげられます。
- 再エネ促進区域の積極的な設定
⇒ 地域共生型再エネを活用した地域活力の創生 - 二国間クレジット制度(JCM)の実施体制強化
⇒ 優れた脱炭素技術の国際展開による市場創出、アジアゼロエミッション共同体(AZEC)への貢献 - 排出削減に資するライフスタイルの転換
⇒ 「デコ活」等を通じたGX製品・サービスに対する需要喚起、行動変容の促進
引用:2050年ネットゼロ実現に向けた国内・国際動向(環境省)
NDCによる企業への影響
日本政府はパリ協定に基づいたNDCの確実な達成に向けて地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正し、次の措置を2025年4月1日から施行する予定です。
- 二国間クレジット制度(JCM)の着実な実施を確保するための実施体制強化
- 地域共生型再エネの導入促進に向けた地域脱炭素化促進事業制度の拡充 など
その他にも日常生活における排出削減を促進するため、ライフサイクル全体の排出量が少ない製品などの選択の促進や、排出削減に資するライフスタイル転換の促進などが計画されています。
これらの政策は、あらゆる事業活動において影響を及ぼしていくことが予測されます。今後企業の脱炭素化への取り組みの重要性はますます高まるでしょう。
脱炭素化を組み込む
では、企業はこのような国の政策に対してどのような取り組みを行っていけばいいのでしょうか。
国や自治体は、企業の脱炭素化を進めるため、様々な政策の実行や助成金・補助金等の支援により脱炭素経営に向けた活動の切り替えを促しています。脱炭素経営を推進し、企業競争力を高めるためにこれらの仕組みを活用できます。
以下に4つのポイントをご紹介します。
- 脱炭素経営に向けた基礎をつくる
脱炭素化を進めるには、部署を超えた全社的な取り組みが必要です。取り組みをスムーズに推進するため、なぜ「脱炭素が必要なのか」という従業員へのリスキリング研修を通じて、全社で理解を深めるプログラムやサービスが各社から提供されています。また、環境省が認定するGXテーマの検定を受講することもよいでしょう。 - 自社の温室効果ガス排出量を把握する
CO2排出量算定し把握することで、取り組みへの道筋が見えてきます。自社のCO2排出状況をまず把握し、どういった優先順位で削減していくのか、事業影響とバランスさせながら削減計画を策定していきます。CO2排出量の算定については、専用ツールの活用や算定トレーニング研修、コンサルティングサービスが各社から提供されています。 - 省エネ、創エネ、設備の電化など削減ソリューションを活用する
省エネ、創エネ(再生可能エネルギーの導入)、電力プランの切り替えや環境証書・カーボンクレジットの活用といったステップで、自社のCO2排出量を減らしていくことが可能です。需要(利用者)側でのCO2排出量削減に有効な手段として上げられるのが「省エネ機器への転換」「電化」「創エネ」です。電化を例にあげると、住宅やオフィスで利用している石油ストーブ・ガス給湯器といった熱源を、化石燃料燃焼からエアコン・エコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯機)などの電気熱源に切り替えること(熱源転換)でCO2排出量の削減につながります。また、ディーゼル自動車からハイブリット車などの電気自動車への切り替えも、電化の取組の一つです。電化をすることで、その制御をデジタル化し、無駄を減らすことがでいることもメリットの一つでしょう。
このような設備導入は、国・自治体からの補助金が設定されていることが多く、積極的に活用しましょう。大規模な設備投資が必要なケースではトランジションボンドのような転換のためのファイナンス手法も活発に利用されています。 - CO2排出量削減の取組を対外的に発信する
金融機関にとって気候変動は将来の事業リスクを高め、不確実性を高める要因です。そのため、金融機関も気候危機による変化に対して、企業が事業の強靭性を高め、持続可能な経営を確保するよう促す姿勢を取っています。企業が気候危機対策に取り組み、事業リスクを予見し、先んじて対策を講じることは、金融機関や投資家へのアピールにつながります。また、そのような対策を講じていることを公表するよう市場が求める動きにつながっています。対外的に自社の対策の進捗を発信することが重要です。
自然電力株式会社では、CO2排出算定や環境証書・カーボンクレジットによるカーボンオフセット施策のご提案、イニシアティブに沿った報告・情報開示のサポートなど企業の脱炭素化の取り組みをトータルでご支援します。詳細は「自然電力の脱炭素支援サービス」をご参照ください。
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業界の取り組み事例
日本では産業界による自主的な温暖化対策も進んでおり、115業種(2020年3月末時点)が業界ごとに「低炭素社会実行計画」を策定しています。
日本経済団体連合会(経団連)
2019年12月に「チャレンジ ネット・ゼロカーボン イノベーション」構想を発表し、トランジション技術を含むネット・ゼロカーボン技術のイノベーションなどに関する企業の取組を集約・整理し、国内外に発信していくことを発表しました。
東京ガスグループ
2030年までに事業活動全体でCO2ネットゼロを目指すことを2019年11月の中期経営計画に盛り込むなどの動きを開始しています。
まとめ
脱炭素政策における各国のNDC(国別削減目標)について、重要性から世界の取り組み動向まで具体的に解説しました。
今後NDCに基づく温暖化対策は国内外で加速していくことが予測されます。企業は脱炭素化にどう取り組んでいくか、経営方針をしっかりと見直していくことが必要です。