蓄電池とは?仕組みや特徴から企業へのメリット、最新動向まで解説

蓄電池の需要が増加しているのをご存じですか。

蓄電池は太陽光発電システムと併用することで、電気の自給自足や脱炭素促進などのメリットが得られ、企業による導入も増加しています。国内のエネルギー政策においても、企業の蓄電池導入支援が盛り込まれるなど、注目されています。

今回は蓄電池の基礎的知識から、注目されている背景、蓄電池の最新動向までわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。

蓄電池とは

蓄電池とは、電気エネルギーを貯蔵し、必要なときに放出できる電池のことです。充電することで何度も使用可能な電池であり、乾電池のような一度放電してしまうと充電できない一次電池と区別して、二次電池とも呼称します。身近なところでいうとスマホのバッテリーも蓄電池です。容量(サイズ)や用途によって、家庭用と産業用に分かれます。

蓄電池の仕組み

蓄電池の構造は、基本的には一次電池と同様、プラス極とマイナス極から成り立ちます。ただし、蓄電池ではプラス極とマイナス極に性質の異なる物質を使用しており、2つの極は電解質中に浸されています。それらの化学反応を用いてプラス極とマイナス極の間を電子が動くことで電流を生産し内部に蓄えます。

蓄電池の特徴

蓄電池の特徴はさまざまですが、ここでは産業用蓄電池について解説します。産業用蓄電池の最大の特徴は容量が大きいことです。一般的に家庭用蓄電池の容量は5kWh〜10kWhであるの対して、産業用蓄電池は最小10~20kWhであり、最大は50kWh〜100kWhにも上ります。また複数の蓄電池を併設することでさらに容量を増加することも可能です。

蓄電池の種類

蓄電池にはさまざまな種類があり、代表的な例とその特徴を紹介します。

種類特徴
鉛蓄電池

(例:自動車用バッテリー、非常用で電源)

  • 安価である
  • リサイクルが可能な鉛を使用している
  • 長時間で放電させても比較的安定した性能を持つ
ニッケル水素電池

(例:ハイブリッドカー、コードレス掃除機)

  • 自己放電率が低い
  • 水溶性の電解物質を使用しているため安全性が高い
  • 低温から高温まで幅広い環境下で使用できる
リチウムイオン電池

(例:モバイルバッテリー)

  • エネルギー密度や電圧が高い
  • 小型・軽量である
  • 充放電を繰り返しても劣化しにくい
  • 急速な充放電が可能
NAS電池(ナトリウム硫黄電池)

(例:非常時のバックアップ電源用)

  • 高エネルギー密度である
  • 長寿命、耐久性に優れている
  • 充放電効率が高い
 レドックスフロー電池

(例:再生可能エネルギーの発電量の変動を調整)

  • 電極や電解液の劣化が少なく、長寿命
  • 発火性の材料を用いていないことや常温運転が可能なことから安全性が高い

蓄電池が注目される背景

ここでは蓄電池が注目されている背景を解説していきます。

カーボンニュートラルにおける蓄電池の重要性

世界はパリ協定にて策定された「1.5℃目標」やカーボンニュートラルの達成に向けて、再生可能エネルギーの主電源化普及を目指す方向に舵を切っています。そのため再生可能エネルギーの利用割合を増やすことと、電化(化石燃料を燃焼する熱源や動力源から電気式にシフトすること)が重要です。2023年の世界の再エネ発電設備容量は、2022年度から50%増加し、約510GW(推定)に到達しました。増加傾向はさらに続き、2028年には7,300GWにまで達すると予測されています。

蓄電池は電化社会のエネルギー貯蔵の有効な手段であり、再生可能エネルギー利用と、熱エネルギー熱源転換による電力化に大きな役割を果たします。
特に世界で導入が進んでいる太陽光発電および風力発電は「変動性再生可能エネルギー(VRE)」と呼ばれ、天候により出力が左右されます。需給バランスを維持し、安定的に電力を供給するためには、再生可能エネルギー設備の導入だけでなく、蓄電池のような充放電できる調整力インフラが同時に導入されることが非常に重要です。

現在、世界各国で、大容量の系統用蓄電池(蓄電所)が開発されつつあります。また、IoT技術やデジタル技術を活用し、家庭用蓄電池やEV用蓄電池のような一つひとつは小さい容量の蓄電池を、あたかも1つの大きな蓄電池のように見なして充放電制御を行う「仮想発電所(バーチャルパワープラント:VPP)」のような高度な制御による調整力技術も開発されつつあります。

昨今、データーセンターや半導体工場といった大容量かつ安定的な再生可能エネルギーを求める施設からの需要が高まっており、これまでの需要を脱炭素化するだけでなく、さらに新しい需要であるデジタル産業の基盤を支える重要なインフラとして、不可欠な設備となることが予測されます。

世界的な市場の拡大

蓄電池市場は2022年度、110億米ドルを記録しました。今後、2023~2035年の年平均成長率は最大28%で推移し、2035年末までに2,128億ドルに成長すると予測されています。蓄電池を使用したエネルギー貯蔵システムは、気象条件に発電量が左右される再エネ電源をより安定的に活用できる効果があるため化石燃料の削減や温室効果ガス排出量削減が可能です。

世界は脱炭素に向けて大きなうねりを起こしており、各国は脱炭素政策とインセンティブを実施しています。再エネを促進し脱炭素施策の重要な要素として、今後も蓄電池市場は拡大していくことが見込まれます。

産業用蓄電池による企業のメリット

ここでは産業用蓄電池により、企業が得られるメリットについて解説していきます。

エネルギーマネジメントに取り組むことが可能

産業用蓄電池を導入することで、企業は「エネルギー管理システム(Energy Management System:EMS)」に取り組むことが可能です。EMSとは、デマンド監視や電力データの視覚化・設備機器の制御機能などが可能なシステムのことで、商用ビル向けの「BEMS(Building EMS)」と、工場向けの「FEMS(Factory EMS)」などがあります。BEMSやFEMSが可能になれば、自社のエネルギーの省力化や最適化に繋がり、有効活用できます。

コスト削減とCO2排出量削減の両立

自家消費型の再エネ発電設備と蓄電池を併用することにより、日々の電力に再生可能エネルギー由来の電力を活用して、CO2排出量の削減を図ることができます。
工場などの産業用施設の電力プランは、最も使用電力の多いピーク時の使用電力量に合わせて設定されています。太陽光発電や蓄電池による電力をピーク時の電力として利用(ピークカット・ピークシフト)することで、自家消費電力の活用のみならず、購入している電力プランからの電気代の削減にもつながります。

近年、「24時間365日、100%リアルタイム再エネ電力」を掲げる24/7CFE(24/7 Carbon Free Energy)という概念が世界的に普及しつつあります。全ての時間帯でCO2を排出しない電力の需給を合わせること、またはそれを目指した取り組みです。将来的には、今後の企業の再エネ調達において蓄電池を活用しながら同時同量を実現し、事業活動のカーボンニュートラル化を実現する機運が高まっています。
日本は燃料のほとんどを海外に依存しているため、先般のウクライナ侵攻時による国際的なエネルギー価格上昇のような、国際情勢の不安定化からエネルギー価格が高騰するリスクにさらされています。再エネと蓄電池を導入し、平常時からエネルギーの化石依存度を下げておくことが、いざというときの電気代高騰から自社の事業を守ることにつながるでしょう。

産業用蓄電池の課題

太陽光発電と蓄電池を併用する場合には、以下のような課題もあります。それぞれを解説します。

初期導入コストと管理コストがかかる

蓄電池導入には初期費用も含め、長期に渡るメンテナンスや維持にコストが多くかかります。ただし、初期費用をかけずに蓄電池導入が行えるPPAモデルを使用するという方法もあります。PPAモデルとは再エネ電源を所有している発電事業者が、電力を購入する需要家と直接的に売電契約を結ぶことで近年活用が拡大しています。

また、企業が蓄電池を導入するにあたり、環境省や経済産業省をはじめとした各省庁が実施している蓄電池導入推進の補助金活用が可能です。蓄電池導入を検討している企業は、活用することでコストを低減できます。

設置後の監視・メンテナンスが必要

蓄電池は非常にエネルギー密度が高い状態が生じるため、一定以上の出力を有する蓄電池は電気事業法および消防法により規制されています。故障や不適切な使用の場合、火災につながる恐れがあります。
そのため、メーカーや、有資格者、専門的な資格・知識を有する保守サービス事業者による適切な監視と点検が必要になります。

海外と国内における蓄電池の動向

蓄電池に対する海外の動向や、日本の支援策に関して解説していきます。

米国「世界銀行グループ」

米国では2023年世界銀行グループが、「エネルギー移行の加速:太陽光発電+蓄電池プロジェクト計画のためのガイドライン」を発表。大規模な太陽光発電と電池エネルギー貯蔵を組み合わせたプロジェクトを実施する途上国のために、プロジェクトのの遂行を網羅する枠組みの概要を示しました。新興国における、従来の化石燃料を使用した発電から、よりクリーンで安定的かつ安価な「太陽光発電+蓄電池」システムへの移行の加速を目指します。

韓国「次世代二次電池官民協議体」

業績好調のLGエナジーソリューション、サムスンSDI、SKオンのいわゆるKバッテリー3社が参加し、官民共同の協議体で「2030年に次世代電池で世界1位」を目指し、「次世代二次電池官民協議体」が発足しました。韓国政府は「半導体」「ディスプレー」「二次電池」を研究開発の3大主力分野に指定、今後5年間に官民合わせて160兆ウォンを投資する計画です。

欧州「欧州電池規則(欧州バッテリー規則)」

欧州委員会は、2023年に「欧州電池規則」を施行しました。欧州電池規則の目的は、EU市場での電池の製造・リユース・リサイクルまでのライフサイクル全体を規則し、サステナブルな電池製造・安全性・競争力を確保することです。今後、日本企業にも影響が及ぶことが考えられます。

欧州(EU)電池規則とは|内容・日本企業への影響をわかりやすく解説

日本の蓄電池に対する支援策や導入例

国内の蓄電池に関する支援策には次のようなものがあります。

支援策名具体的な支援内容
民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業(環境省民間企業などによる自家消費型・地産地消型の再エネ導入を促進し、再エネ主力化とレジリエンス強化を支援
浄化槽システムの脱炭素化推進事業(環境省浄化槽システムの脱炭素化に向けて、エネルギー効率の低い既設中大型浄化槽への先進的省エネ型浄化槽や再エネ設備の導入を支援
需要家主導型太陽光発電・再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業費補助金(資源エネルギー庁需要家主導による新たな太陽 光発電の導入モデルの実現を通じて、再生可能エネルギーの自立的な導入 拡大を促進
ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業(環境省)初期費用ゼロでの自家消費型の太陽光発電設備・蓄電池の導入支援などを通じて、主に蓄電池の価格低減を促進しながらスト レージパリティを達成し、我が国の再エネの最大限の活用と防災性強化を図る

※なお公募はすでに終了しているものもあります。

日本の蓄電池産業戦略

国内の蓄電池製造基盤拡充のため、さまざまな政策パッケージが計画されています。グローバルアライアンスとグローバルスタンダードの戦略的形成や、次世代技術の開発、国内市場の創出、人材育成・確保の強化など。さらに2030年のグローバルシェア20%の製造基盤確立に向けて、引き続き海外投資も促進が検討されています。

また、政府が進めるグリーン成長戦略では、成長が期待される14の産業分野には、エネルギー関連産業として、洋上風力・太陽光・地熱などの再エネ支援が含まれています。

蓄電池併設型オフサイトPPA事例紹介

東京メトロは「メトロCO2ゼロチャレンジ2050」において、東京メトログループ全事業のCO2排出量を2030年度に2013年度比で50%削減、2050年度に実質ゼロを目標に掲げています。2024年には、ENEOSリニューアブル・エナジーと、蓄電池を併設した太陽光発電所を対象としたバーチャル型オフサイトPPAを締結しました。蓄電池併設型太陽光発電所を用いたバーチャルPPAは、国内の鉄道業界で初の取り組みです。

まとめ

再エネ導入とともに注目されている蓄電池は、今後ますます需要が拡大し、エネルギーシステムに不可欠となっていくことが予想されます。自社の安定したエネルギー供給や有効活用のためにも、再エネ導入と併せて蓄電池導入をぜひ検討してみてください。

【参考記事】