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SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、廃棄物などを原料として作られる、環境負荷を軽減した持続可能な航空燃料です。従来のジェット燃料に比べ、CO2排出量を大幅に削減できる点で次世代の燃料として注目されています。
航空業界の脱炭素化を進めるため、今後ますます重要となるSAF。本記事では、SAFの概要と環境への影響、さらに国内外のSAFに関連する具体的な取り組みを紹介します。
目次
SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは
SAFとは、再生可能な材料や廃棄物を原料とするジェット燃料です。燃焼時にCO2排出量としてカウントされないバイオマスや、化石由来の廃プラスチックなども原料になる可能性があり、カーボンニュートラルに貢献する航空燃料として活用が期待されています。
航空機が環境へもたらす負荷
2020年10月に日本政府が2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言したことを受け、さまざまな産業でCO2排出量の削減が求められています。航空業界も例外ではなく、日本のCO2総排出量のうち運輸部門は18.5%を占めます。
そのうち航空機は5%のCO2を排出しており、全体で見ると少ない数値だと感じるかもしれません。しかし、日本全国で昼夜運航する鉄道は運輸部門全体で3.9%のCO2排出量に留まっており、航空機の方が環境負荷は高いという現状があります。
出典:航空分野におけるCO2削減の取組状況 p.3(国土交通省)
世界中で環境に優しいハイブリッド航空機の開発やCO2排出量の削減に関する取り組みが広がる中で、SAFの活用は航空業界にとって喫緊の課題となっているのです。
SAFの原料とは
SAFは、古着や家庭ごみ、使用済みの食用油などから作ることができます。現状で未利用の廃棄物(一般廃棄物は直接最終処分量、産業廃棄物は現状再生利用されていないもの)からは20万キロリットルのSAFが製造できる可能性があり、もしすべての廃棄物をSAF製造に振り向けた場合は、424万キロリットルのポテンシャルがあるとされています。
これらは、2019年における国内および外航エアラインで使用する国内給油量1,315万キロリットルに対して、20万キロリットルの場合は1.5%、424万キロリットルの場合は32%に相当する量です。ただし、一般廃棄物には不燃物が多く含まれており、その対策には課題が残ります。また、産業廃棄物の多くは廃プラスチックであることにも留意が必要です。
これまでの航空燃料とどう違う?
従来の原油から作られるジェット燃料と比べて、廃食油原料のSAFはCO2排出量を80%ほど減らせるとされています。これまでCO2排出量の削減が難しかった航空分野において、脱炭素化に向けた切り札としてSAFは大きな期待を集めています。
加えて、SAFの原料は化石燃料ではなく廃棄物由来のため、日本における国産化が可能です。つまり、現在の化石燃料を海外からの輸入に依存する状況から脱却できる可能性が示唆されているのです。今後、廃棄物の活用が進めばごみ処理問題の解決の糸口になることも期待できそうです。
SAFの現時点での課題
SAFは従来のジェット燃料に代わる次世代の燃料として注目されていますが、その活用にはいくつか課題が残されています。
①原料の収集に関する課題
SAFの原料となる廃棄油脂や食用油は海外への輸出が急増しています。SAFの製造工場がある国への輸出は年々増加傾向にあり、廃棄油脂は2021年夏には1kgあたり40円台で取引きされていましたが、1年後の2022年には120円台にまで価格が跳ね上がりました。すでに争奪戦が始まっている国内の廃棄油脂や食用油に対し、海外輸出に歯止めをかける対策が求められています。
②生産量不足
原料不足に加え、SAFの製造技術の確立や設備投資への支援なども課題となっています。国内航空会社の推計によると、2050年時点でSAF導入の目安は2,300万キロリットルです。しかし、実際の供給量は1,300万キロリットル程度と見込まれ、1,000万キロリットル以上の乖離を埋める施策が必要な状況です。
出典:我が国におけるSAFの普及促進に向けた課題・解決策(SAF官民協議会) p.13
今後は、藻類バイオマスや未利用の低質廃棄油脂、2050年にかけて増加が見込まれる水素などを原料とするSAFの製造拡大が重要な鍵となると想定されています。
③製造コストが高い
SAFは、従来のジェット燃料の2倍から16倍の製造コストがかかります。現状の製造コストは、SAFが1リットルあたり200円〜1,600円なのに対し、従来のジェット燃料は1リットルあたり100円程度です。メーカーがSAFの量産に踏み切るには、技術革新などによる大幅なコスト削減が不可欠だといえます。
SAFを活用するメリット
SAFを活用するメリットは、主に3つあります。
・カーボンニュートラルへの第一歩となる
・機体の改修が不要
・廃棄物の削減につながる
それぞれ詳しくみていきましょう。
カーボンニュートラルへの第一歩となる
SAFは燃焼時にCO2排出量としてカウントされないバイオマスなどを原料として使用しており、航空機のCO2排出量を削減しカーボンニュートラル達成に近づける燃料として期待されています。
導入するSAFのCO2削減率にもよりますが、現在のSAF混合率※の場合、CO2削減率50〜80%のSAFを使用すると、通常のジェット燃料に比べておよそ20〜30%程度のCO2削減が可能となります。
※SAFは従来のジェット燃料と混合して使用が可能です。混合率とはジェット燃料とSAFの混合割合で最大50%まで混合できます。
機体の改修が不要
SAFは従来の飛行機を改修することなく、そのままSAF燃料を入れて飛行できるメリットがあります。現在では、従来のジェット燃料と最大50%程度まで混合してSAFの使用が可能となっています。将来的にはSAF燃料の割合100%に対応した飛行機も開発されるとみられています。
廃棄物の削減につながる
家庭ごみや廃棄された食品・食用油などから作ることができるSAFは、廃棄物の再利用に貢献する燃料です。国内では廃棄物などのバイオマスを用いた省CO2型ジェット燃料製造の実証実験や、微生物を活用して可燃性ごみをエタノールに変換する技術の実証実験が始まっています。特にエタノールは、プラスチックやSAFの原料としての利用が期待されています。
国内外のSAFへの取り組み状況
SAFの製造・活用に関する取り組みは、すでに国内外で始まっています。以下では日本の航空業界と政府の取り組みに加え、世界の状況についても解説します。
国内航空業界の取り組み
2022年3月、国産SAFの普及に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」が設立されました。全日本空輸株式会社や日本航空株式会社、プラント建設の日揮ホールディングス株式会社のほか、原料となる廃油を提供する日清食品ホールディングスなど、2022年3月時点で16社がこの団体に参加しています。
2021年には、日本航空が東京羽田ー札幌新千歳間で初めて国産SAFを使用したフライトを成功させ、注目されました。今後も日本でSAFを製造・販売するうえでの事業性調査を国内企業と共同で実施し、さらなる国産SAFの普及とCO2排出量削減に取り組むとしています。
日本政府の取り組み
2022年4月、政府はSAFの導入加速に向けた技術的・経済的な課題や解決策を官民で協議する「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会(SAF官⺠協議会)」を設立しました。
これは、国内の航空会社やエネルギー関係の民間企業と、各省庁や関連団体で構成される会です。SAFの製造・供給・流通に関するワーキンググループが開催され、SAFのサプライチェーン構築や原料の確保などにおける課題解決を目指しています。「2030年に国内エアラインによる燃料使用量のうちSAFを10%利⽤する」という航空脱炭素化推進基本⽅針の実現に向けた活動が引き続き行われる予定です。
世界各国の取り組み
2023年6月のG7三重・伊勢志摩交通⼤⾂会合では、SAF導⼊促進のため協働することへの合意がなされました。国際民間航空機関(ICAO)が定める、国際航空のための炭素オフセットと削減のための枠組み(CORSIA)では、SAFのGHG排出量の削減基準を石油由来のジェット燃料比で「10%以上削減すること」を求めています。
しかし、アメリカやEUではGHG排出量の削減基準について「50%以上」という高い基準が掲げられており、今後はこれが世界の一つの基準となることが見込まれます。日本ではSAFの原料を輸⼊に頼らざるを得ない可能性もある中で、原料の安定的な調達やSAFの製造設備の整備などが課題として残っています。
まとめ
SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)は、従来の化石燃料に代わる持続可能な選択肢として、航空業界の脱炭素化に大きな役割を果たすことが期待されています。カーボンニュートラルへの貢献はもちろん、ごみ処理問題への解決にも役立つ可能性があります。
すでにSAFの普及に向けたグローバルな動向も始まっており、今後は航空業界におけるSAFの重要性がさらに高まり、企業にとっても大きなビジネスチャンスが広がります。ぜひ今後も最新情報を積極的にチェックしましょう。