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SBTi(Science Based Targets initiative)は、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標を設定・公表するための国際的なイニシアティブです。その中でもFLAG(Forest, Land and Agriculture)は、森林・土地・農業セクターに特化した新たな目標設定基準として、2022年に導入されました。
これまでの排出量削減目標ではカバーしきれなかった、土地利用による温室効果ガス排出を含んだ目標で、農業・食品・林業・繊維産業などの企業にとってFLAG対応が不可欠となっています。
本記事では、SBTi FLAGの基本的な知識と混同されやすい関連キーワード、対象企業および求められる目標、先行事例までわかりやすく解説します。自社の脱炭素戦略にSBTi FLAGが必要かどうか判断するためにも、ぜひご一読ください。
目次
SBTi FLAGとは

SBTi FLAGとは、SBT(Science Based Target/企業に求められる、パリ協定と整合した温室効果ガス削減目標)の一部であり、農業・林業・土地利用による自然環境の損失を食い止めるためのガイダンスです。その背景や詳しい内容、SBTと関連するフレームワークについてまとめます。
SBTiとは
SBTi(Science Based Target initiative)とは、最新の気候科学に沿った温室効果ガス排出削減目標(SBT)を企業が設定できるように後押しする、グローバルな組織です。2030年までに温室効果ガス排出量を半減すること、2050年までにネットゼロを達成することを目指し、世界中の企業の活動を加速させるための支援をしています。このイニシアティブは、CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4組織の連携によって運営されています。
SBTでは、企業に対してパリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標を立てることに加え、サプライチェーン排出量(事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量)の削減が求められます。企業がSBTに参加するメリットは、投資家・顧客・サプライヤー・社員などのステークホルダーに対し、持続可能な企業であることをアピールしつつ、評価の向上やリスク低減・ビジネスチャンスの獲得につなげられることが挙げられます。
FLAGはSBTiの分野別目標の一つ
SBTiの中でFLAG(Forest, Land and Agriculture)は、森林・土地・農業分野の資源を活用したビジネスを行う企業に対して、温室効果ガス排出量の削減目標を最短5年間、最長10年の期間で定めてSBTiに提出するためのフレームワークです。
全世界の温室効果ガス排出量の20%以上は農業・林業・土地利用によるものであることがわかっています。SBTiはWWFの支援を受けて、FLAG関連セクターに特化した「SBTi FLAGガイダンス」を2022年9月に発表しました。
土地利用とは、企業が事業活動で使用する土地において、何らかの変化をもたらすことを指します。例えば自然林を伐採して牧草地や農地に変えると、自然林が吸収していたCO2は除去されず、温室効果ガス排出量が土地変化前と比べて増加することとなります。
FLAG分野に関連する温室効果ガスの排出と除去には、農業、土地利用・変化、林業を含む土地管理が含まれており、パリ協定の「地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑える」に合わせた目標を掲げる必要があります。
SBTi FLAGの背景
2022年9月にSBTi FLAGガイダンスが発表される以前は、企業が森林伐採をして農業を行ったり、事業用地として使用したりする際の温室効果ガス排出量を考慮・算定できる指標がありませんでした。
GHGプロトコル農業ガイダンスは存在していたものの、あくまでも農業関連企業が中心で、林業や土地利用を行う企業までを含めたガイダンスではないという課題があり、今回FLAGガイダンスが検討されるに至りました。
全世界の温室効果ガス排出量の20%以上が農業・林業・土地利用によるものであることから、世界の温室効果ガス排出量を抑制しパリ協定の目標を達成するためには、FLAG分野の排出を把握し縮減させることが重要だという考えに則っています。
SBT関連の目標・フレームワークの関係性
SBT関連の目標やフレームワークには、さまざまなものがあります。混同してしまいがちなSBT、SBTi、SBTN、SBTi FLAGについて、以下でわかりやすく解説します。

出典:SBT(Science Based Targets)について(環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ)、SBTI 企業ネットゼロ基準(環境省)、SBTi FLAGセクターガイダンス・目標設定の動向(CDP)をもとに弊社作成
| SBT(Science Based Target) | 科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標 |
| SBTi(Science Based Target initiative) | 企業がSBTの設定をスムーズに行えるよう支援するイニシアティブ。CDP、UNGC、WRI、WWFの4団体によって構成される |
| SBTi FLAG(Science Based Target for Forest, Land and Agriculture) | 農業・林業・土地利用に関する温室効果ガス排出削減目標 |
| SBTN(Science Based Target Networks) | 自然環境保全および環境負荷低減のため、科学的な目標設定や方法論を提唱する、NGO・研究機関・国際機関などが連携したネットワーク |
| SBTs for Nature | 水・生物多様性・土地・海洋などの自然資本への影響を数値化し、目標設定・分析・情報開示などに役立てるための削減目標設定フレームワーク |
SBTN(Science Based Target Networks)は、SBTiへの機運の高まりを受け、地球システム全体に関連した目標設定への需要に応じる形で2019年に設置されました。世界45以上の組織で構成されています。
SBTNによって設定されたSBTs for Natureでは、企業のバリューチェーンにおいて、水・生物多様性・土地・海洋などの自然資本への影響を数値化し、目標設定や分析、情報開示を行うためのフレームワークを示しています。
科学的根拠に基づいて目標設定がなされる点はFLAGと同じですが、自然環境の損失を食い止めることや、水・生物多様性・土地・海洋などの保全に注目しているのがSBTNです。一方でSBTiは温室効果ガス排出量に着目しており、具体的にどのように排出削減をするのかを示唆している点が異なっています。
| 【関連記事】 SBTs for Natureとは?自然資本フレームワークの意義やガイダンス、事例も解説 |
SBTi FLAGで企業に求められる目標

SBTi FLAGの対象となるのは、具体的にどのような事業を行う企業なのでしょうか。ここでは目標設定が求められる企業と目標の概要、SBTi FLAG設定時のポイントについて紹介します。
対象企業
SBTi FLAGの目標設定が必要とされる企業は、以下の通りです。
| SBTiにおける指定業種(セクター)の企業 | ・木材 ・パルプおよび紙 ・ゴム ・木材または紙の二次加工 ・農業または動物資源からの食料生産 ・食料および飲料の加工 ・食料サービス、並びに食料および食料品のリテール |
| FLAG関連の排出量が多い企業 ※サプライチェーン排出量 (スコープ1~3)のうち、20%以上がFLAG関連の排出量の場合 | ・小売業 ・たばこ ・ホテル、レジャー、観光 ・織物 ・化粧品 ・その他、FLAG関連の排出量が多いセクターまたは企業 |
2023年4月以降、以下に当てはまる企業はSBT目標とあわせてFLAGの目標も同時に設定する必要があります。
・すでにSBT認定を受けている企業で、FLAG目標を設定していない場合
・これから新たにSBT認定を受けて目標設定する場合
企業に求められる目標設定の概要
SBTi FLAGの目標設定においては、企業の事業活動のうち以下3つすべてを含めなけれなりません。
| 土地利用変化(LUC/Land use change) | 森林減少や森林劣化に関連する土地利用変化によるCO2排出量(家畜の飼料に関連するものを含む) |
| 土地管理(非LUC排出) | 土地管理からの排出(主に亜酸化窒素、メタン、CO2) |
| 炭素除去・貯留 | 事業用地内での森林再生、森林管理の改善、植林や土壌有機炭素を活用した炭素貯留など |
加えて、事業活動の中でも以下の範囲にわたって報告することが義務付けられています。
①FLAG分野に関連するサプライチェーン排出量のうち、スコープ1(自社が直接的に排出するGHG)およびスコープ2(間接的に排出するGHG)排出量の95%以上
②スコープ3(スコープ1・2以外のGHG)排出量の67%以上をカバーするものでなければならない
事前にしっかりと把握し、目標設定に漏れがないようにしましょう。
SBTi FLAGの目標設定時のポイント
SBTiの目標設定では、FLAGとFLAG以外のエネルギー・産業分野で目標や集計を分ける必要があります。以下では、SBTi FLAGの目標設定でポイントとなる部分を解説します。
基準年を選択する
企業が目標を設定する際は、効果的に実績を追跡できるようにまず基準年を定めます。基準年を選択するうえでのポイントは以下の通りです。
①スコープ1、2、3の排出量データが正確かつ検証可能である
②基準年の排出量は、企業の典型的なGHGプロファイルを表すべき
③基準年は、目標が十分な前向きの水準を持つように選択されるべき
④基準年が2015年より以前である
すでに短期SBTの認定を受けている企業は、長期SBTに対しても同じ基準年を使用しなければならない決まりがあります。
森林減少根絶の宣言をする
SBTi FLAG目標を設定する企業は、すべてのGHG排出範囲において森林減少を行わないことを公的に約束しなければなりません。宣言の文言は、SBTの目標文言とともにSBTiのウェブサイトに掲載されます。
【宣言内容の掲載の例】
【企業名】は、森林減少に関連する主要な商品について、【遅くとも2025年12月31日まで】に森林減少を止めることを約束します。
SBTi FLAGの国内での取得事例
アサヒグループホールディングス株式会社
アサヒグループホールディングス株式会社は、FLAG分野を含む温室効果ガス排出量削減の短期・長期目標においてSBT認定を取得しました。従来からFLAG排出量の削減に向けて活動を続けてきたアサヒグループですが、今後は2040年までにサプライチェーン排出量ネットゼロを目指しています。業界全体でCO2排出量を削減するため、サプライヤーとの協業をますます強化して取り組みを加速させる予定です。
住友林業株式会社
住友林業株式会社は、バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を2050年までにネットゼロにする目標を策定し、SBT認定を取得しました。同時に役員報酬制度を一部改訂し、SBTイニシアチブに基づいて定めた目標が達成できなかった場合、報酬が減額される仕組みとしました。
SBT目標達成に向けて強いインセンティブが働く社内制度の改革とあわせ、FLAGで求められる森林減少根絶宣言にも対応し、SDGsをはじめとする社会の期待に応えながら企業価値向上への動きを進めています。
サッポロホールディングス株式会社
サッポロホールディングス株式会社は、「サッポログループ環境ビジョン2050」に従い、グループ全体で省エネルギーの徹底や再生可能エネルギーの導入拡大を進めてきました。2050年の温室効果ガス排出量のネットゼロを目指し、FLAG分野では2030年までにスコープ1およびスコープ3において、2022年度比で31%の削減を実現すると発表しました。今後も原料農産物の農業における温室効果ガス排出削減へ積極的に取り組む姿勢を示しています。
まとめ
SBTi FLAGは、森林・土地・農業分野に関わる企業に対し、より具体的かつ科学的な温室効果ガス排出削減目標の設定を求める枠組みです。温室効果ガス排出量を世界中で抑制し、パリ協定の目標を達成するためには、企業によるFLAG目標設定が不可欠です。
特に、木材や食料サービス、農業・林業・繊維産業などはFLAG目標の設定が必須であり、早期の対応が求められます。今回ご紹介した国内の先進事例を参考にしながら、自社の温室効果ガス排出実態を把握し、透明性と信頼性のある目標策定を進めましょう。
| 【参考】 |




