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SDGsなどの観点から、現在CO2を排出せず、エネルギー源が枯渇しない発電方法の需要が高まっています。そのうち一つが太陽光発電です。日本政府も太陽光発電の普及を進めており、2021年6月には国や自治体の公共施設に太陽光発電パネルの設置が義務化されました。この記事では太陽光発電義務化の目的や実践方法、課題などについて解説していきます。
目次
公共施設の太陽光発電の義務化?
2021年6月に、国や地方自治体が所有する公共施設の建物や土地に対し太陽光パネルの設置が義務づけられました。日本政府は、2030年までに公共施設の50%に太陽光パネルを設置し、さらに2040年までには、この割合を100%にすることを目標にしていると発表しています。
2021年4月の時点では、国は公共施設だけでなく民間の新規住宅にも太陽光パネルの設置を義務づける考えを述べていました。しかし太陽光パネル設置にかかる費用やメンテナンスなどの面から慎重な意見が相次ぎ、2022年の段階では一般住宅への義務は見送りになりました。とはいえ、脱炭素に向けた目標達成などを考えると、今後一般住宅に太陽光パネルの設置が義務づけられる可能性は低くありません。2030年には、新築一戸建て住宅の60%に太陽光パネルを導入するのが目標にもなっていることからも、一般住宅に対する動きは今後も注意が必要です。
公共施設の太陽光発電義務化となった背景と目的
公共施設や一般住宅に対し太陽光パネル設置の義務化が検討される背景には、日本におけるCO2排出量があります。現在、世界の国々がCO2の排出を減らしていこうとしており、日本も例外ではありません。そのような中、日本におけるCO2排出量の3割は住宅や建築物から排出されています。ちなみに産業部門、は4割弱、運輸は2割です。つまり日本から排出されるCO2を減らすためには、住宅や建築物から排出されるCO2も減らしていかなければならないのです。
日本政府が太陽光発電に力を入れている理由は他にもあります。世界的な脱炭素の流れや、日本のエネルギー安全保障、災害時におけるリジリエンスの確保などです。それぞれについて、もう少し詳しく解説していきましょう。
世界的な脱炭素の流れ
これまで私たちの暮らしは、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料を主なエネルギー源として営まれてきました。しかしこれらのエネルギー源は使用時にCO2を排出します。人類の経済活動の拡大に伴い、エネルギーの消費量はうなぎ上りに増加し、それに従ってCO2の排出量も増加してきました。ところがこのCO2は高い温室効果を持っており、地球温暖化の原因になってしまいます。近年多発する異常気象への対策などから、現在、世界では排出されるCO2の量を減らし、地球温暖化を食い止めようとする動きが行われています。これが脱炭素です。太陽光発電は発電時にCO2を排出しないため、これからの社会を支える新たなエネルギー源として高い期待を寄せられているのです。
また化石燃料の埋蔵量には限界があり、今のままのペースで燃料を使っていては、50年後には尽きてしまうという試算もあります。そのため、使ってもなくならない、消費しても比較的短期間に再生する、再生可能エネルギーが求められています。太陽の光は、昼になれば手に入る再生可能エネルギーの代表格です。
1990年頃から、環境問題は国際社会において「各国の協力のもと解決するもの」という認識が広まりました。またこれにともない、各国の環境問題対策に対する取り組み姿勢が、他国から評価されるようにもなりました。国際社会において日本が存在感を示し続けるためにも、環境問題への取り組みは非常に重要な要素になっているのです。
国際社会に対し、日本政府が率先して環境問題に取り組んでいる姿勢をアピールする意味でも、太陽光パネル設置義務化は重要であると考えられます。
日本のエネルギー安全保障
日本国内では、あまり多くの化石燃料が採掘できません。そのため日本では現在、燃料の多くを輸入に頼っています。しかし疫病の流行や戦争などがあれば輸入が停止してしまう可能性も少なくありません。つまり日本のエネルギーのサプライチェーンは、常に危うい状況にあるともいえるのです。
このような現状を鑑み、日本政府では国内で入手できるエネルギーとして再生可能エネルギーに期待を寄せています。太陽光発電もその一つです。太陽光パネルの設置が進み、そこから多くのエネルギーが得られるようになれば、安全保障という点でもメリットがあるのです。
災害時におけるエネルギー供給
日本は台風や地震など災害が多く、大規模で長期間にわたる停電に見舞われるケースも少なくありません。そのような場合でも、公共施設やその周辺で太陽光を用いた発電が行えれば、地域レジリエンスの強化につながり、災害対策にもなります。
実際に2019年9月に発生した台風15号による千葉県睦沢町の停電では、地元の太陽光発電などの電力を利用し、道の駅や町営住宅に電気が供給されました。これにより、電気を供給された公共施設が地域の防災拠点として機能しています。
災害時には公共施設は防災拠点として重要な役割を担います。太陽光パネル設置の義務化により、停電時にも防災拠点としての機能が失われないことが期待されているのです。
公共施設に太陽光発電を設置するための実践方法
公共施設における太陽光パネルの設置は「建物や土地に対して行う」と定められています。そのため、公共施設で太陽光発電を行うためには、主に次の3つのパターンが考えられます。
・施設建物の屋根に太陽光パネルを設置する
・施設敷地内の空いている土地に太陽光パネルを設置する
・駐車スペースにソーラーカーポートを設置する
立ち入りが禁止されている屋上は、活用の方法がないデットスペースです。そのため可能であれば、太陽光パネルを設置するスペースとして利用するのが望ましいでしょう。しかし2030年の太陽光パネル設置率の目標が50%に留まっている理由の一つに、施設の老朽化があります。2040年の100%達成までの間に建て替えられる計画がある施設や、古い公民館のように太陽光パネルの設置には耐えられそうにない老朽施設などを除いた数字として50%という目標値が掲げられているのです。このような施設では、急いで太陽光パネルを屋上に設置してもあまり意味がありません。敷地内の空いているスペースやソーラーカーポートを検討するほうがいいでしょう。
郊外ならば敷地内の空いている土地にソーラーパネルを設置するのも、さほど難しくはないかもしれません。しかし都市部では公共施設とはいえ、そのような空きスペースが十分に確保できないケースも多いでしょう。また地面に設置する太陽光パネルは、周囲の建物や木立の影になりやすいため、注意が必要です。
一方で、平置き型の駐車スペースをもっている公共施設にとって、ソーラーカーポートの導入はメリットが多くなるでしょう。デッドスペースが有効活用できますし、施設建物そのものの老朽化にも左右されません。比較的多くの公共施設で、導入しやすい方法と考えられます。とはいえ駐車場が建物の北側に位置しているなど、ソーラーカーポートの設置に向かないケースもあるため、注意が必要です。
実際に導入を検討する際の課題と解決方法
公共施設に太陽光発電を導入する際に課題となるのは、費用です。設置費用は税金などの形で、地域住民に影響するため、太陽光パネルの設置に関わる費用と、見込まれるメリットについて、あらかじめ十分な理解を得る必要があります。
費用面における課題の解決方法は、主なものとして次の2つが挙げられます。
国の交付金を利用する
環境省では地域脱炭素以降、再エネ推進交付金における重点対策加速化事業として、自治体や企業に対し交付金を設けています。そのうちの1つが自家消費型の太陽光発電です。これに加え、公共施設などにおける徹底した省エネや、建物の省エネ性能の向上などを合せることで、かかった費用のうち最大で2/3を交付してもらえる可能性があります。
民間業者の無償設置プロジェクトなどを利用する
民間の太陽光パネルの設置業者の中には、発電された電気のうち施設で使った分を電気代として支払い、余剰電力を売電することで収益を得、パネルそのものの設置は無料で行うプロジェクトを実施しているところもあります。そのような業者を利用するのも費用面における課題解決の1つの方法です。
2030年度までに国・地方公共団体が建築物屋根等の約50%に太陽光発電導入を目指すために
政府は脱炭素に意欲的取り組んでいる地方公共団体等に対し「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」などの支援を行っています。また脱炭素先行地域などの選定により、他の自治体のモデルケースとなる取り組みの例も取り上げています。
ひとくちに「太陽光パネルの設置」といっても、公共施設の使われ方や立地、地域住民の生活様式などにより、適した設置方法はそれぞれ異なります。SDGs未来都市に選定された自治体や、ゼロカーボンシティ宣言を行っている自治体の取り組みのうち、自分たちの住む地域と似たような条件をもつ地域での事例を参考に、太陽光発電導入をすすめてみるのもいいでしょう。
まとめ
日本では、2021年6月に、国や地方自治体が所有する公共施設の建物や土地に対し、太陽光パネルの設置が義務づけられました。まずは2030年度までに50%の導入を、そして2040年には100%の導入が目標になっています。そのため、現在太陽光パネルが設置されていない公共施設においては、今後、設置していく計画を作らなければいけません。国の交付金を上手く利用し、よく似た特徴をもつ地域の取り組み例などを参考に、太陽光パネルの設置をすすめていきましょう。
【参考】 ・公共施設への太陽光発電の導入等について(環境省) ・太陽光パネル、公共建築物は原則設置 住宅は義務化せず(日本経済新聞) ・台風15号、なぜ千葉県睦沢町は大規模停電を免れたのか?「電力の地産地消」が重要(Business Journal) |