トランジションボンドとは|背景・今後の動き・国内の活用事例を紹介 | 自然電力の脱炭素支援サービス – 自然電力グループ

トランジションボンドとは|背景・今後の動き・国内の活用事例を紹介

トランジションボンドは、二酸化炭素の排出量が多い業界に属する企業が、持続可能な経営へと移行する際に支援を得るための新たな金融手法です。この記事では、トランジションボンドの背景や今後の動向、そして国内での活用事例について詳しく解説します。トランジションボンドの重要性について理解を深め、脱炭素経営の実現に向けた取り組みにお役立てください。

トランジションボンドとは

トランジションボンドとは、企業が脱炭素経営を実現する際にネックとなりがちな資金面の課題にアプローチする有効な手段です。企業はトランジションボンドを活用することで、環境負荷を抑えたビジネスモデルの実現が可能となります。

トランジションボンドはトランジションファイナンスの一部

トランジションボンドは、トランジションファイナンスという金融手法の中に含まれる資金調達方法です。トランジションファイナンスは、企業の脱炭素化を後押しすることを目的とし、再生可能エネルギーの活用や設備更新などといった資金投入を支援します。
日本では、金融庁・環境省が2021年5月にトランジションボンドの基本指針を策定しました。この方針は国際資本市場協会(ICMA)が2020年12月に発表し、2023年6月に改訂した「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」の国際原則をベースとしています。

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トランジションボンドが注目される背景

日本政府は、2021年4月にパリ協定に沿った温室効果ガスの削減目標を発表し、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを表明しました。しかし、まだ多くの企業は脱炭素経営への移行途中でありさまざまな設備や技術の更新を行う必要があるため、カーボンニュートラル社会へ一足飛びに発展することはできません。
そこで、企業の脱炭素に向けたトランジション(移行)段階を支える金融施策として、トランジションボンドをはじめとする資金調達手法が注目されています。さらに、従来は環境対策への関心が高い企業が融資の場面で優遇されることがありましたが、トランジションボンドは二酸化炭素の排出量が多い「ブラウン企業」も資金を得ることができます。これから脱炭素経営に踏み出す企業にとって、トランジションボンドが強い味方となることが期待されています。

トランジションローンとの違い

トランジションボンド(債券)は、機関投資家などが資金を提供するのが特徴です。一方でトランジションローン(融資)は、金融機関が資金を提供します。つまり、資金がどこから出ているかという部分でこの二つは異なります。

トランジションボンドをめぐる国内外の動き

世界でもトランジションボンド推進の動きは活発です。以下では世界および日本のトランジションボンドを取り巻く動きについてまとめます。

世界では推進の動きが高まっている

国際資本市場協会(ICMA)が2020年12月に発表した「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」を受けて、2021年に開催されたCOP26では、経済協力開発機構(OECD)がトランジションファイナンスのワーキンググループを立ち上げました。また、主要先進国による国際会議であるG20では、2022年10月にサステナブルファイナンスレポートを公表しました。この中で、日本の取り組みが先進事例として紹介されています。このように、世界においてもトランジションボンドへの注目度や推進の動きは徐々に高まっているといえます。


(出典)経済産業省(GFANZHP、NZAOAHPなど各イニシアティブHPより経済産業省が作成)

ファイナンスド・エミッションへの対応

トランジションボンドの問題点として、ファイナンスド・エミッションが注目されています。ファイナンスド・エミッションとは、投融資先の温室効果ガス排出量を意味します。金融機関・投資家から見ると、温室効果ガス排出量が多い産業への資金供給は、自らのネットゼロ移行計画にとってマイナス要素となります。そのために、グローバルな金融機関ほどGHG排出量が多い「ブラウン企業」への投融資をためらう現状があります。
しかし、資金供給が滞ればブラウン企業はいつまで経っても脱炭素経営に向けた移行が実現できません。この課題を解決するため、既存の枠組みやファイナンスド・エミッションの算定方法を見直す必要がある点が指摘されています。

国内では市場整備・検討が進められている

トランジションファイナンスは未だ草創期にある金融手法のため、日本でもまだ強化していく必要があります。今後はトランジションファイナンスの分野別ロードマップとして、自動車関連分野が追加される見通しです。企業は自社を取り巻く産業の動向やトランジションの状況に応じて、海外・国内のツールを参照しながら柔軟なトランジション戦略を策定し、公表する必要があります。投資家・金融機関・外部の評価者は、企業のトランジション計画や戦略を細かく参照しながら、企業との適切な対話を通してトランジションボンドの利活用を検討することが重要です。

日本企業のトランジションボンド活用事例

日本企業でも、すでにトランジションボンドを活用する事例がいくつか発表されています。以下では3社について紹介します。

JFEホールディングス株式会社

JFEグループは、2021年5月に策定した環境経営ビジョン2050の中で、2050年カーボンニュートラル実現を目指すと表明しました。これまでCO2排出量の多い産業として認識されてきた鉄鋼分野において、「超革新的製鉄プロセスの開発」を掲げ、CO2を回収・有効利用するカーボンリサイクル高炉の開発を目指します。また、CCU技術を組み合わせ、余剰CO2についても基礎化学品を合成し、別の化学製品を製造しています。鉄鋼事業における省エネ・効率化の技術開発を推進し、自社のCO2削減だけでなく社会全体に対する削減貢献についても戦略と目標を設定しています。

株式会社IHI

株式会社IHIは、バリューチェーン全体で2050年カーボンニュートラルを実現するためのトランジション戦略を策定しました。3か年を通しておよそ3,800億円の投資を予定しており、そのうち3割超を水素・アンモニア関連の技術開発に充てる方針です。また、これらの研究開発プロジェクトの進捗状況は可能な範囲で社外へ公表し、投資の透明性を保ちます。電気・ガス・化学・航空・海運といった幅広い分野を展開する企業として、再生可能エネルギーの利用を中心とした社会へけん引する役割を担うことを目指しています。

日本郵船株式会社

日本郵船株式会社は、グループ全体で達成すべき温室効果ガス排出削減目標を発表しました。この目標はパリ協定などの国際基準に整合した内容です。脱炭素に向けたトランジション戦略では、トランジションボンドで得た資金をLNG燃料船などの環境に配慮した「ゼロエミッション船」への移行などに活用します。加えて、水素・アンモニアといった新たなエネルギー源を開発する事業への挑戦も掲げています。

まとめ

トランジションボンドは、企業の環境に配慮したビジネスへの移行を支援する際に重要な役割を果たす新しい金融手法です。今後、企業の社会的責任として環境保護への取り組みが求められる中で、トランジションボンドがますます注目を集めると考えられます。金融手法としてはまだ整備段階のトランジションボンドですが、今回紹介した概要やメリットについてしっかり基礎を理解し、これからの動向の把握に努めるとよいでしょう。

【参考】