ボランタリークレジットとは?意味・メリット・種類を網羅的に解説

企業の脱炭素に向けた取り組みが加速する近年、環境証書・クレジットの一種である「ボランタリークレジット」が注目を集めています。主に海外の企業や団体が発行するボランタリークレジットですが、その導入にはどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では世界で取り引きされている主要なボランタリークレジットの概要、購入方法、具体的な活用方法を解説します。

ボランタリークレジットとは

ボランタリークレジットは、カーボンオフセットを実現するために、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減量を売買する仕組みの一つです。ボランタリークレジットは海外の民間企業や団体などが先行して販売しており、2017年から2018年にかけて大幅にボランタリークレジットの取引量が増加しており、注目度の高さがうかがえます。今後、日本国内でも普及する可能性があります。

出典:今、注目を集める、ボランタリー・クレジット~4 つのメガトレンドと、今後の行方を解説~(みずほ情報総研)

ボランタリークレジットが注目される背景

日本政府は2020年、「2050 年カーボンニュートラル宣言」を発表しました。2050年までにCO2排出量を実質ゼロとすることを目指し、その取り組みの一つとして産業分野での温室効果ガス削減を掲げています。そのため、温室効果ガス排出量の80%以上を占めるエネルギー分野の脱炭素化、再生可能エネルギーの活用、CO2回収技術の確立などを目指した政策が立案・実施されています。

こうした流れの中で民間企業にも脱炭素化に向けた行動が求められ、温室効果ガスの排出量 削減に貢献できるボランタリークレジットが注目を集めています。

ボランタリークレジットと国内で取り引きされる環境証書の違い

ボランタリークレジットは民間企業やNGO団体などが発行し、世界中で多種多様なものが取り引きされています。現在、日本国内で主に普及している環境証書(J-クレジット・グリーン電力証書・非化石証書)との違いは、政府や自治体が主導しているかどうかという点です。環境証書は、温対法や省エネ法関連での国や自治体へのCO2排出量報告やRE100やCDP,SBTなど国際イニシアチブでの活用において「自社が削減したCO2量の一部」として公的に明言できます。一方で、ボランタリークレジットはあくまでも「企業等の民間セクターが自主的におこなうカーボンオフセット活動」であり、公的な報告に使えない点には注意が必要です。

ボランタリークレジットを導入するメリット

ボランタリークレジットを導入するメリットは主に2つあります。
・国や地域の制度ではないため自由が利く
・削減の難しい温室効果ガス排出を相殺できる
それぞれ詳しくみていきましょう。

国や地域の制度ではないため自由が利く

ボランタリークレジットは企業の自主的な取り組みであるという前提があるため、行政による法令や規制が少なく、幅広い用途で活用できます。また、国や自治体が主導する証書と比較すると、CO2排出量の削減以外の効果が得られるというメリットもあります。例えば、クレジットの発行を通して海や川の水質保全、生物の多様性保全、雇用創出などにも貢献できる点において、ボランタリークレジットを活用する企業が増えています。

例えば、東京ガスでは、東京湾でアマモを保全する「アマモ場再生活動」に力を注いでいます。アマモは海の水質安定や生物多様性に寄与する植物です。加えて、アマモのようなCO2を吸収する植物の存在は「ブルーカーボン」として地球温暖化防止に役立つことが期待されています。東京ガスは、横浜のアマモ場で発行された「Jブルークレジット」を購入し、横浜ショールームにおけるガス消費に伴うCO2の一部オフセットを実施しました。

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削減の難しい温室効果ガス排出を相殺できる

ボランタリークレジットを活用するには、前提として各企業による脱炭素化に向けた具体的な取り組みがあるべきです。なぜなら、ボランタリークレジットはあくまでカーボンオフセットの手段であり、本質的なCO2削減の手段ではないからです。自社が定めた脱炭素化計画を実行し、徐々にCO2排出量を削減しながらも、事業活動上削減が難しい温室効果ガスの排出に対してのみボランタリークレジットで埋め合わせをしましょう。

ボランタリークレジットの主な種類

ボランタリークレジットには豊富な種類がありますが、ここでは主に世界で取り引きされている4つを紹介します。

VCS(Verified Carbon Standard)

2005年に持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD:World Business Council For Sustainable Development)や国際排出量取引協会(IETA:International Emissions Trading Association)などの団体が、温室効果ガスの排出量削減・吸収プロジェクトから発生するクレジットの品質を保証するための基準を策定したものがVCSです。世界で最も利用されているボランタリークレジットで、その信頼性の高さにより幅広い企業が導入しています。

GS(Gold Standard)

2003年に世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for Nature)などの国際的な環境NGOが設立した認証基準・制度です。温室効果ガスの削減や持続可能な開発に貢献するため、ボランタリークレジットの質を保証しています。GSはボランタリークレジットを発行するだけでなく、地球温暖化防止への貢献度が高いプロジェクトを審査・認証する役割もあります。

ACR(American Carbon Registry)

1996年にアメリカのNPO法人Winrock Internationalが設立した世界で初めての民間クレジット認証基準・制度です。温室効果ガスの排出削減活動を加速させるため、市場の力を活用して環境を改善するパイオニアとして情報発信をおこなうとともに、カーボンオフセット品質の基準を設定しボランタリークレジットの信頼性向上に努めています。

CAR(Climate Action Reserve)

2001年にアメリカ・カリフォルニア州の団体により創設された認証基準・制度で、透明性の高いボランタリークレジットを発行し、誰もがアクセス可能なシステムでクレジットの取り引きの公平性を担保しています。独自のオフセットプログラムでは、ボランタリークレジットによる温室効果ガスの削減を促進し、地球環境の保護と環境技術の成長を後押しします。

ボランタリークレジットの活用方法

ボランタリークレジットを購入した場合に自社の事業活動で効果的に活用するための方法を2つご紹介します。

事業活動におけるCO2排出量の自主的な削減

日本国内では、ボランタリークレジットの公的機関・公的報告への適用は未だ限定的です。しかし、事業活動において自主的にカーボンニュートラルへ取り組む場合の手段として、ボランタリークレジットは非常に有効です。金融機関・株主・投資家などのステークホルダーに向けてボランタリークレジットの活用をアピールすれば、企業価値を向上させる可能性があります。また取引先へアナウンスして環境活動の取り組みへの賛同を得れば、将来的に サプライチェーン全体でのCO2排出量削減につながる具体的施策を打ち出すことも可能でしょう。

自社の地球温暖化対策をPR

ボランタリークレジットを活用して、自社のイベント開催のCO2排出をオフセットしたり、自社商品のカーボンフリー化で付加価値を付けることができます。また、自社事業と地域的な関連性の高いカーボンクレジットを導入することで地域産業の活性化や教育的活動に貢献することができます。対外的に「脱炭素経営へ取り組む企業である」と広報できるとともに、環境意識の高い顧客層を取り込み、イメージアップ・信頼獲得につながることが期待できます。

ボランタリークレジットの購入方法

ボランタリークレジットを自社で導入する場合、2つの購入方法があります。ボランタリークレジットを活用したい方は、自社に合った方法で調達を検討してみてください。

他社から直接購入する方法

一つ目は、ボランタリークレジットを取り扱う民間企業・団体などから直接購入する方法です。ただし、アメリカやヨーロッパで膨大な数のボランタリークレジットが発行されているため、自社のニーズにマッチしたものを選ぶのが難しい場合もあることには注意が必要です。また、直接購入の際には英語でのやりとりが必要となるため、高い英語力と環境分野に詳しい社員の存在は欠かせないと考えられます。

取引所を通じて購入する方法

二つ目は、ボランタリークレジットなど環境証書の取り引きを専門とする会社を通じて購入する方法です。どのクレジットが信頼できるかわからない、自社の業種に合ったものを知りたいという場合は、取引所のプロに相談するのが一番の近道です。

自然電力株式会社では、ボランタリークレジットの「Jブルークレジット」の他、J-クレジットや非化石証書などの環境証書の購入をご支援するサービスを提供しています。自社で脱炭素化に向けた取り組みを加速させたい、具体的に環境証書の種類や導入方法を知りたい方は、以下のページをご参照ください。

まとめ:ボランタリークレジットの特徴・種類を整理しよう

ボランタリークレジットは世界中の民間企業やNGOなどの団体が発行するカーボンクレジットの一種で、CO2排出削減量を売買する仕組みです。日本政府が主導する環境証書との違いは、国や自治体が設ける規制がなく自由な活用ができることです。一方で、公的なCO2排出量の削減手段として報告書に盛り込むことはできない点には注意しましょう。
今回解説したボランタリークレジットの概要、導入のメリット、種類と購入方法・活用方法をしっかり整理して、自社のカーボンニュートラル達成に向けて行動の選択を開始しましょう。