バーチャルPPAとは|仕組みと企業に与えるメリットをわかりやすく解説

バーチャルPPA(バーチャル電力購入契約)は、企業が環境価値を取引する新たな仕組みとして注目を集めています。脱炭素経営に取り組む企業がバーチャルPPAを導入することで、実質的にCO2排出量を削減することができます。本記事では、バーチャルPPAの基本的な仕組みとメリットをわかりやすく解説します。

バーチャルPPAとは

PPAは「Power Purchase Agreement」の略称で、日本語では「電力購入契約」と翻訳されます。PPAでは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電された電力について、発電事業者と電力購入者との間で売買契約を結びます。この契約により、電力購入者は太陽光発電施設を自ら保有しなくても再生可能エネルギーを利用できます。
一方でバーチャルPPAは、再生可能エネルギー発電所から供給される電力から、環境価値のみを切り離して取引する手法です。電力のやりとりが発生しないことから「バーチャルPPA」と呼ばれています。CO2を排出しない方法で発電した電力が持つ「地球環境に負荷を与えない価値」は、非FIT非化石証書(再エネ指定)という形で電力購入者に付与されます。

バーチャルPPAの仕組み

バーチャルPPAの取引の仕組みは、以下の通りです。

(出典)オフサイトコーポレートPPAについて(環境省)p.9

①発電事業者と電力購入者との間で、再エネ電力の価格および再エネ電力の売買に関する契約を締結する
②発電事業者は発電した電力を市場または電力会社へ売電し、収入を獲得する
③発電事業者と電力購入者は、合意した価格と②の市場価格の差額を精算する。該当発電所に由来する非FIT非化石証書(再エネ指定)は電力購入者へ移転される
④電力購入者は電力会社から通常通りに電力を購入する

バーチャルPPAは環境証書のみをやりとりするため、電力購入者は実際の電力の取引については従来通りの方法を維持できます。

バーチャルPPAとフィジカルPPAは何が違う?

PPAには「バーチャルPPA」と「フィジカルPPA」の2種類が存在します。バーチャルPPAはここまで述べた通り、実際の電力を購入しない取引で、環境価値という仮想的な概念のみのやりとりです。電力の市場価格は日々変動していますが、バーチャルPPAではその変動にあわせて電力購入者が支払う金額も変わります。
一方でフィジカルPPAは、実際の電力と環境価値の両方を取引します。契約期間は一般的に5年から20年ほどで、契約期間中に市場価格の変動があっても電力の価格は固定されます。電力購入者にとっては、再生可能エネルギー電力の購入費の固定化が実現できるというメリットがあります。

企業がバーチャルPPAを活用するメリット

バーチャルPPAを導入した場合、企業が得られるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。以下で詳しく解説します。

電力の調達先を変える必要がない

バーチャルPPAは実際の電力供給を伴わず、再生可能エネルギーが持つ環境価値のみをやりとりする取引です。そのため、企業は電力会社を変える必要がありません。取引によって得た再エネ電力証書を活用して、企業は電力由来のCO2排出量を削減できます。

自社で再エネ発電設備を保有する必要がない

一般的に、自社で再生可能エネルギー施設を保有するには一定の初期投資が必要となります。しかし、バーチャルPPAを含むPPAモデルを活用すると自社で大きな初期投資をすることなく、契約価格で環境価値を手にすることができます。

ステークホルダーに気候変動対策をアピールできる

バーチャルPPAの活用は、企業の環境保護への取り組みを示すものとして有効な手段です。近年は「企業が環境問題に対してどのような取り組みをしているか」を考慮して消費者が購買先を決める傾向があります。バーチャルPPAの導入は企業イメージやブランド力の向上に寄与します。加えて、投資家からの評価アップも期待でき、ESG投資の促進につながる可能性があります。

バーチャルPPAを取り巻く課題

バーチャルPPAは企業の環境課題への取り組みを後押しする一方で、一部課題も残されています。導入前にしっかり確認しておきましょう。

電力価格の下落に伴い、電力購入者の負担増大のリスクがある

バーチャルPPAでは、発電事業者の収益が一定になるよう、市場価格と契約価格の差額を電力購入者が精算する仕組みがあります。発電事業者にとっては、バーチャルPPAによる収益を安定的に得られるメリットが存在する一方で、電力の市場価格が下落した場合は差額の補填が「電力購入者から発電事業者への一方通行」になる可能性も考えられます。
特に太陽光発電が多く設置されている地域では、電力の供給過多が発生して市場価格の下落が起こりやすいことが指摘されています。これは電力購入者にとってはコストがかかり続けることを意味し、デメリットになり得ます。

会計処理が複雑になる可能性がある

バーチャルPPAには、「市場価格と契約価格の差額を電力購入者が精算する仕組みがある」と解説しました。このように市場価格に応じて発電事業者・電力購入者の双方向で決済が発生する取引では、金融庁への登録または届出に加え、特殊な会計処理が必要とされてきました。
しかし、内閣府が2022年11月に開催した「第24回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」では、バーチャルPPAはデリバティブ取引(市場などの動向に応じて相対的に価値が決まる取引)ではないという見解が示されています。これによって金融庁への届け出は免除されますが、会計処理の複雑さは課題として残るため、企業がバーチャルPPAを導入する際は税理士など専門家への相談が必須です。

バーチャルPPAの導入事例

脱炭素経営の実現に向けて、バーチャルPPAを導入する企業が増えています。以下では国内のバーチャルPPA事例について紹介します。

マイクロソフトコーポレーション

マイクロソフトコーポレーションは、自然電力とバーチャルPPA契約を締結しました。自然電力が愛知県犬山市に建設した大規模太陽光発電所の環境価値を20年間受け取る契約で、マイクロソフトにとって日本国内で締結する初めてのPPAです。ファイナンスクローズしたコーポレートPPA用の太陽光発電所としては国内最大級の取り組みであり、「2025年までに再生可能エネルギー100%」の達成を目指すマイクロソフトの活動をより促進するものとして期待されています。

花王 株式会社

花王株式会社は、みずほ銀行とのバーチャルPPA締結を発表しました。製品開発・製造・販売を担う「花王すみだ事業場」での活用を予定しています。すみだ事業場の使用電力は、トラッキング付FIT非化石証書によって100%再生可能エネルギー化を達成しています。今回のバーチャルPPAでは、さらに追加性のある再生可能エネルギーに切り替えることを目的としています。発電量はすみだ事業場の年間使用電力の108%にあたり、年間約7,336トンのCO2排出量削減に貢献できる見込みです。

株式会社JPX総研

株式会社JPX総研は、丸紅新電力株式会社とバーチャルPPAを締結しました。丸紅新電力が新設した太陽光発電設備で発電された再生可能エネルギーから、20年間にわたって環境価値を得る契約です。JPX総研は2024年度までに、グループ全体の消費電力すべてを再生可能エネルギーに切り替える「カーボン・ニュートラル達成」を目指しています。今回のバーチャルPPA締結によってさらなるCO2排出削減を実現し、持続可能な社会を支える証券市場の運営を目指します。

まとめ

バーチャルPPAは、企業が再生可能エネルギーの環境証書を得るための一つの手段です。環境への貢献はもちろん、ブランド価値と投資家の評価向上といったメリットが見込まれることから、企業の持続可能な成長を支えます。バーチャルPPAは、今後も日本国内で広く普及することが期待されています。今後の動向を注視しながら、ぜひ自社での導入を検討してみてはいかがでしょうか。

【参考】