温対法で変わる自治体の仕事!温対法改正で自治体は何をすべきか?

温対法という法律が1998年に制定されましたが、2021年にその温対法は改正されました。この温対法の改正により、温室効果ガスの排出量を2050年までに排出実質ゼロにすることが明文化されたのです。また、改正された温対法では、企業や自治体に対しても具体的な対応を求めています。今回は、温対法について詳しく解説したいと思います。

温対法とは?温対法改正で何が変わった?

温対法の正式名称は、「地球温暖化対策の推進に関する法律」です。文字通り地球温暖化対策に関する内容を定めた法律で、「地球温暖化対策推進法」とも呼ばれています。この法律は温暖化の原因の一つである温室効果ガスの排出量に関するものです。そして、今回の温対法改正により企業のCO2排出データが公開されることになり、自治体には目標が設定されることとなりました。

気候変動の状況は年々深刻さを増しています。私たち一人一人ができることをやっていかなければ、子供の世代、孫の世代、それ以降の人類の生活に大きな影響を及ぼしかねません。そのような危機感の中で温対法の改正が行われたのです。

温対法と省エネ法との違い

同じく環境問題に関する法律で省エネ法というものがあります。正式には「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」といいますが、これは温対法とは異なるものです。

温対法と省エネ法は目的や対象者、罰則について内容が異なります。

目的

温対法と省エネ法の大きな違いにその目的があります。温対法は、地球温暖化対策の推進を目的にしていますが、省エネ法はオイルショックの時に制定されており、エネルギーを効率的に活用することを目的にしています。温対法はエネルギーの排出について、省エネ法はエネルギー使用について、と着目しているポイントが異なるのです。

そのため、温対法と省エネ法が取り扱う対象物質にも違いがあります。二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素、ふっ化硫黄などの温室効果ガスが対象となる温対法に対して、省エネ法では石油やガス、石炭などの燃料や燃料を熱源とした熱と電気が対象物質になっています。

対象者

温対法と省エネ法ではそれぞれ対象事業者が異なります。また、対象事業者に対する義務も違います。

温対法では、多量に温室効果ガスを排出する事業者が対象となります。例えば、全ての事業所のエネルギー使用量合計が年間1,500キロリットル以上の事業者や、車両の台数がトラック200台以上の事業者、年間3,000万トン以上の輸送を行う荷主などが対象者となります。こうした事業者は毎年温室効果ガスの算定排出量を報告することが義務付けられています。

それに対して省エネ法では、温対法と同じ対象事業者がエネルギー使用状況の報告義務を負っているのに加え、全ての事業者に省エネ取り組みを行う努力義務が課されています。報告義務を負う事業者はエネルギー使用状況の定期報告、エネルギー管理者の設置、中長期計画の提出が毎年義務付けられています。

罰則

温対法と省エネ法では罰則にも違いがあります。上記の対象事業者に課されている義務を履行できなかったときに発生するのが罰則です。

温対法の罰則では、温室効果ガスの算定排出量の未提出や、虚偽の報告があった場合には、20万円以下の罰金が発生します。

それに対して、省エネ法では報告の未提出や虚偽に対して50万円以下の罰金、省エネ担当者をおかなかった場合には100万円以下の罰金が発生します。さらに、国からの勧告や命令に従わなかった場合にも100万円以下の罰金が発生するのです。

改正温対法で変わった3つのポイント

温対法は制定以降に7回の改正がありましたが、今回の最新の改正で変わった点は3つあります。

基本理念の新設

2016年に行われた前回の温対法改正以降、パリ協定や2050年カーボンニュートラル宣言など、脱炭素化に向けた大きな動きが世界でも日本でも起こりました。改正温対法では、こうした世界の潮流を踏まえた記述が基本理念に追加されました。

地域の脱炭素化促進

温対法では、地球温暖化の対策をするために自治体に実行計画(地方公共団体実行計画)の策定を求めています。しかし、これまでの温対法ではそこに実際の目標などを設定することまでは求めていませんでした。それでは不十分だということで、改正温対法では地域の脱炭素化の促進を加速する目的で、計画期間・計画の目標・実施しようとする措置の内容などについて策定するように定められています。

これにより、自治体には今まで以上に実行力のある計画が必要とされますし、目標達成のために明確な責任が生じるものと考えられます。

<h3企業の脱炭素化促進>

温対法では、対象企業は温室効果ガスの排出量を報告する義務があります。しかし、これまでは報告が紙媒体で行われていたために公表までに長い時間を要していました。また、企業での報告義務はありますが、事業所単位ではなかったために詳細はよくわからない状態でした。

改正温対法では、電子システムによる報告を原則とすることで、公開までの期間を短縮することが可能となりました。また、詳細を見るための開示請求などが不要となり、すぐに必要な情報を見ることができる、オープンデータ化が推進されるようになったのです。

温対法で自治体がすべきこと

地方公共団体実行計画の策定

前述の通り、改正温対法では、地方公共団体実行計画を策定することが自治体に義務付けられています。その地域の自然的・社会的条件に合った再エネ利用の促進のために、以下の4つのカテゴリーでの施策の設定と、その施策の実施に関して目標を定めることが求められています。

1. 再エネの利用促進
2. 事業者・住民の削減活動促進
3. 地域環境の整備
4. 循環型社会の形成

地域に根ざした再エネ事業の認定と推進

温対法で自治体に求められていることは他にもあります。地方公共団体実行計画を定めている市町村では、再生可能エネルギーの利用を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)のために、その促進区域の設定や地域の環境保全のための取り組み、さらに地域の経済的・社会的な発展につながる取り組みに関する方針などを決定することも求められています。また市町村から認定を受けた事業者は、手続きのワンストップ化や省略などの特例を受けることができます。

環境省が提案する温暖化対策の事例

環境省では、太陽光発電を導入するための支援サイトを作成しています。
このページでは、太陽光発電に関する導入方法や仕組みなども紹介されています。以下で具体的な内容を見ていきましょう。

初期投資0での自家消費型太陽光発電設備

太陽光発電設備をリースやオンサイトPPAモデルという仕組みで導入することで、初期投資を0におさえ、維持管理やメンテナンスの費用も発生しないようにできるというものです。

駐車場を活用したソーラーカーポート

環境省は、自家消費型のソーラーカーポートを駐車場に設置することを勧めています。まずは各自治体の役所や公的な施設の駐車場に導入することから着手し、自治体の姿勢を住民や社会に示していくことでより大きな取り組みにしていくことも期待できそうです。

政府による実行計画

自治体や企業だけでなく、当然のことながら政府も温室効果ガスの排出削減計画を立てています。主な内容は以下の通りです。

・設置可能な政府保有の建築物の約50%以上に太陽光発電設備を設置する
・今後予定する新築事業については、原則30~40%以上の省エネなどを図った建築物にする
・2030年度までに公用車はすべて電動車とする
・政府全体のLED照明の導入割合を2030年度までに100%とする
・2030年までに各府省庁で調達する電力の60%以上を再生可能エネルギー電力とする

温室効果ガス排出量の報告と非化石証書の利用

温室効果ガスの排出量の報告には、非化石証書を利用することができるようになりました。非化石証書とは、太陽光発電や風力発電などの非化石電源で発電した電気の環境的な価値を証書化し、取引できるようにしたものです。非化石証書をCO2排出量に合わせて購入した場合、使っている電気のCO2排出係数を実質ゼロにできます。

排出量の報告について

温室効果ガスを一定量以上排出する事業者は、温室効果ガスの排出量を報告する必要があります。それでは、温室効果ガスの排出量とはどうやって算定するものなのでしょうか。

温室効果ガス排出量とは、活動量×排出係数で計算されます。活動量とは生産量や使用量、焼却量など排出活動の規模を表す指標です。排出係数とは、活動量当たりの排出です。排出係数の一覧などは環境省のホームページで見ることができます。

・温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(環境省)
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/about

環境価値を見える化する非化石証書

非化石証書は、石油や石炭などの化石燃料を使わずに発電をした電気の環境価値を取引するために生まれたものです。電気は化石燃料を使って発電した電気も、化石燃料を使わずに発電した電気も混ざって送電されるため、実際にはクリーンエネルギーにより発電された電気だけを選んで購入(使用)することはできません。しかし、非化石証書という形で取引することにより、クリーンエネルギーにより発電した電気だけを購入(使用)したことにできるため、その環境価値を見える化することができるのです。

まとめ

ここまで、改正温対法についてまとめてきました。温対法により、企業や自治体の運営を行っていくうえで地球環境への配慮を避けては通れないということが明文化されました。さらに、今後はますます重要になってくると思われます。

一度に全ての対策を行うことは難しく、段階的かつ中長期的に取り組むことが必要な改正温対法への取り組み。第一歩としてできることから取り組むことが長距離を走りきる最初のきっかけといえるでしょう。環境証書で今の電力プランを少しずつ変えてみる、国の補助金を活用しながら駐車場をソーラーカーポートに変えてみるなど、今ある条件や設備を少しずつ変えてみる取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。

 

【参考】