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眠っている耕作放棄地がお金を生む?問題点から解決策までご紹介

農業従事者の高齢化や若者の農業離れが深刻化していることで、現在「耕作放棄地」が増加しています。耕作放棄地が増えることで様々な弊害も起きてしまうため、問題視されています。

今回は、耕作放棄地の特徴からどのような問題を引き起こす可能性があるのか、さらに解決方法について解説していきます。

01耕作放棄地とは?

耕作放棄地は、遊休農地や荒廃農地と混同されてしまうケースも少なくありません。まずは、耕作放棄地・遊休農地・荒廃農地の違いや耕作放棄地の面積推移から解説していきます。

耕作放棄地・遊休農地・荒廃農地の違い

耕作放棄地と似たものとして、遊休農地と荒廃農地が挙げられます。違いを知るために、この3つがどのような意味を持つのかご紹介しましょう。

・耕作放棄地
耕作放棄地は、5年に一度農林水産省が実施している「農林業センサス」という調査で、今後耕作される予定がない土地を指して使われる言葉です。定義は「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地をいう」とされており、調査に対する土地所有者の意思で判断されます。

あくまでも所有者の意思による判断ため、現状は農地としては使われていないものの、耕作できる土地も含まれます。

・遊休農地
遊休農地は、農地法によって定められているもので、将来的に耕作される予定がないまま放置されている土地です。今後も耕作される予定が見込めない土地は1号遊休農地、周りの農地と比較して利用の程度が著しく劣っているような土地は2号遊休農地となります。各市町村に設置されている農業委員会が年に1回域内の農地を調査して判断します。自分たちが食べる分の野菜だけ作っているような農地も遊休農地に分類されます。

・荒廃農地
荒廃農地は、農林水産省により「現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」と定義されています。各市町村の農業委員会が農地を客観的に見て判断します。荒廃農地は耕作放棄地と異なり、そのままの状態では作付けできません。再生作業を行うことで作付け可能となりますが、再生できない土地もあるので注意が必要です。

尚、2021年に荒廃農地調査は、農地法に基づく遊休農地調査に統合されました。

図1:農地・荒廃農地について
出典:「荒廃農地の現状と対策について」(農林水産省)

耕作放棄地の面積推移

農林水産省の「荒廃農地の現状と対策について」によると、耕作放棄地の面積は、年々増加しており2015年には42万3,000haにまで上っています。2005年には38万6,000ha 、2010年には39万6,000haだったことから、増加傾向にあるのは事実だといえるでしょう。

図2:耕作放棄地面積の推移
出典:「荒廃農地の現状と対策について」(農林水産省)

02耕作放棄地が生まれる原因

耕作放棄地が生まれる原因はいくつか考えられます。続いては、どのような原因が挙げられるのかご紹介します。

高齢化・後継者不足

農業従事者の高齢化や後継者不足は、耕作放棄地の増加を加速させる要因となっています。農業は体力が必要になるので、高齢になると今まで通りに続けることが困難になってしまいます。

農林水産省の「農業労働力に関する統計」によると、現在、農業で生計を立てている人の中で65歳以上の割合は70%以上と非常に高くなっています。新規就農者の中でも49歳以下の人の割合が減っていることから、農業従事者の高齢化に歯止めをかけるのは難しい状態だといえるでしょう。

農業をこれからスタートする場合は、土地の確保や機械導入などでコストがかかります。初期投資が高額になることも、新規参入を阻む原因として挙げられます。自然災害などによる影響も大きいため、安定した収入を得ることが難しいなどのイメージもあり、農家の後継者を確保することは大きな課題となっています。

農作物の価格低迷や農業経営の状況悪化による縮小・離農

農作物の価格が低迷したり、農業経営の状況が悪化して規模の縮小や離農を余儀なくされ ることもあります。生産量が減ったり、価格が低下したりすると、農家が得られる利益は必然的に少なくなります。

農林水産省の「令和2年 農業総算出額及び生産農業所得(全国)」によると、2015年以降の農業総産出額は増加傾向となっており、生産農業所得は3兆円台で推移しているものの、1990年代が約5兆円規模であったのに比べると、減少は否めません。
農産物の価格が下がり、利益を向上させられる作物を作れないとなると、農業を続けていくこと自体難しくなってしまうのです。

自分自身や家族の生活を維持するため、農業を辞めてしまうというケースも少なくありません。

鳥獣被害など環境要因による離農

鳥獣被害など環境要因による離農も比較的多く見られます。農作物が鳥獣によって荒らされる被害は減少傾向にありますが、一切なくなったわけではありません。中間・山間農業地域では、被害額が今でも大きい傾向にあります。

被害額が大きくなると影響は深刻化し、離農を余儀なくされてしまうのです。鳥獣以外にも台風や日照不足、冷害など自然災害による被害が大きくなってしまう年もあります。

03耕作放棄地における5つの問題点

耕作放棄地が生まれることにより、日本社会、周辺環境はもとより、農家自身にも問題が 発生します。具体的にどのような問題点が挙げられるのか解説していきます。

農地としての質の低下

耕作放棄地になると農地としての質が低下してしまいます。土壌の質は適切な管理を行うことで保たれるためです。手入れをしなくなってしまった土地は、どんどん荒れていき作物を育てるために必要な栄養素が失われてしまいます。

放置する期間が長いほどその影響は大きく、農地に戻すための時間がかかるようになります。

周辺農地への悪影響

農地を放置することで、雑草が生えたり鳥獣や害虫が現れやすくなったりします。雑草や鳥獣、害虫が発生したことで、周辺に悪影響を及ぼす可能性も大いにあります。放棄された土地だけに悪影響を及ぼしてしまうならまだしも、隣接している土地にも悪影響が出ることで隣人とのトラブルに発展するなどの影響も懸念されます。

周辺住民への悪影響

農地にある用水路が管理されていないと不法投棄が増える原因にもなりかねません。不法投棄は、自然界への悪影響が懸念されます。近隣の住民にも影響を与える恐れがあるため、耕作放棄地を防ぐことは重要だといえるでしょう。

食糧自給率の低下

耕作放棄地が増加すると食料自給率は低下してしまいます。2021年度の食料自給率は、38%という非常に低い水準です。この数字は、米の大凶作となった1993年度や2018年度に並ぶ過去最低の水準になります。

農地の減少だけではなく、新型コロナウイルスの影響や米の消費減退なども大きな要因となっています。しかし、耕作放棄地が増えたことで農地産物の生産量が減っているのは食料自給率に大きな影響を与える要因です。

災害時の危険性

農地には洪水を堰き止めたり、火災の延焼を抑えたりといった機能もあります。また、一時的な避難場所として活用することも可能です。しかし、管理されていない耕作放棄地は防災機能が失われてしまいます。

災害が起こった時のリスクを高めてしまうという点も、耕作放棄地が増えるデメリットだといえるのです。地域の安全を確保するためにも、耕作放棄地を減らすことは重要な課題となります。

04耕作放棄地を再生させるためには?

耕作放棄地を再生させるにはどうすればいいのか迷ってしまう人もいるでしょう。そこで、耕作放棄地を再生させるための解決策をご紹介します。

農地バンク

農地バンクは、農地中間管理機構を指し、2014年にすべての都道府県に設置されました。農地中間管理機構(農地バンク)は都道府県の第3セクターで、農地の有効活用を目的に、農地を貸したい人と借りたい人を結びつける役割を担っています。信頼できる農地の中間的な受け皿という位置づけです 。

農地バンクが利用されるのは、リタイアして農地を手放したいと考えている、利用権を交換して分散している農地をまとめたい、などのケースです。また、新規就農に際して農地を借りたいと思った時にも利用できます。

耕作予定がない農地を貸したい、ニーズに合う土地を借りたい、といった双方の願いを叶えてくれる魅力的な機関だといえるでしょう。耕作放棄地になる前の対策を講じるための相談窓口としても利用できます。

補助金制度

農業従事者が耕作放棄地で農業を再開しようとする場合、様々なコストがかかります。再生するための作業や土作り、設備や施設の整備などを支援するための補助金・耕作放棄地再生利用緊急対策交付金がありました。耕作放棄地再生利用緊急対策交付金は、耕作放棄地や荒廃農地を引き受けて作物の生産をしようと考えている農業従事者や農地バンク、農業に参入する法人などが利用できました。
現在は最適土地利用対策として、農山漁村振興交付金の交付を行っています。地域資源としての農地の有効活用や、粗放的な利用によるモデル的取り組みを支援することで土地利用の最適化を目指すものです。簡易的な農地の整備や蜜源作物に関する取り組み、生産性の検証などが支援の対象となります。
また、地方自治体の中には独自の補助金制度を準備しているところもあります。制度の有無や支給される補助金額などは、自治体によって違うのであらかじめ確認しておきましょう。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)として耕作放棄地を農地として再活用するという手段もあります。ソーラーシェアリングは、農地に支柱を立て、太陽光発電設備を設置するというものです。

太陽光パネルの下では農作物を育て、営農を継続できますので、作物の販売による収益にプラスし、売電による安定的な収入が期待できます。また、発電した電力に関しては自家利用も可能となるので、農作業機械の電動化が進む農業にとって導入するメリットは大きいといえるでしょう。

ソーラーシェアリングに関する詳しい内容は、下記のインタビュー記事をご参考ください。

関連記事馬上丈司さんに聞く!自らソーラーシェアリングを実践する理由とは?

05まとめ

耕作放棄地は、現在増加傾向にあります。増えてしまうと様々なデメリットが生まれてしまうため、できる限り減らすことが望ましいと言われています。

耕作放棄地を減らすには、農地バンクや補助金制度を利用するなどの対策が有効です。また、農業だけでは収入に不安があるという人にはソーラーシェアリングがおすすめです。ソーラーシェアリングを導入すると、これからさらなる高騰が予想される電気代の不安も軽減できます。

土地活用方法について悩んでいるなら、前向きにソーラーシェアリングを検討してみてください。

【参考】
「荒廃農地の現状と対策について」(農林水産省)
農業労働力に関する統計(農林水産省)
令和2年 農業総算出額及び生産農業所得(全国)(農林水産省)
食糧自給率(農林水産省)
農山漁村振興交付金(最適土地利用対策)(農林水産省)

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