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2022.12.16

自治体新電力が秘める可能性~取り組むメリットと成功事例をご紹介~

自治体新電力はSDGs未来都市や、ゼロカーボンシティなどの観点からも注目を集めている新しい電力供給のかたちです。この記事では、自治体新電力とは何かや、メリット、実際に活用されている事例などについて紹介していきます。

01自治体新電力とは

自治体新電力とは、自治体が出資を行い、限られた地域に電気供給をする小売電気事業のことです。太陽光やバイオマス、風力や水力など、地域の発電所で作られた電力を、地域の公共施設や企業、家庭などに供給します。

自治体新電力と並行して論じられるものに「地域新電力」があります。地域新電力と自治体新電力のちがいは、自治体が出資などの形で関わっているか否かです。自治体の関与がないものは地域新電力、そこに自治体が関与したものが自治体新電力になります。

自治体新電力や地域新電力が始まるきっかけになったのは2016年の電力自由化です。それまで電力は東京電力や関西電力、中部電力のような、それぞれの地域の電力会社だけが販売するものでした。なぜなら、これまでの電力は火力や大規模なダムを用いた水力、原子力のように大規模な設備で大規模な発電を行ったほうが効率がよかったからです。しかし近年、小型ガスタービン発電や太陽光発電のような、小規模でも効率よく発電できる設備が作られるようになりました。さらに情報技術の発達により、発電所が分散されても、需要と供給のバランスをみながら発電できるようにもなりました。加えて電力需要が増加し続け、電力が逼迫するなどの理由もあり、2000年から電力小売の自由化がスタート、2016年4月からは家庭や商店も含む全ての消費者が電力会社を自由に選べるようになったのです。電力の自由化は、電力の供給業者が増えることで、競争原理により発電コストが下がり電気料金が安くなるなどの狙いもありました。

こうした背景から、大手電力会社以外に新たに電気市場に参入してきた事業者を総称して「新電力」とよびます。この中でも電力の地産地消を目指し、地域に密着した事業を行っているのが「地域新電力」。そして地域新電力の中でもさらに自治体から出資などの関与を受けているものが「自治体新電力」になります。

02注目を集める自治体新電力に取り組むメリット

自治体新電力の利点は、自治体が主体となって地域経済循環や脱炭素に向かえることです。
自治体新電力には主に次の4つのメリットがあります。

・公共施設の電気代削減
・エネルギーの地産地消
・地域経済循環
・地域脱炭素化

自治体新電力は、この4つが同時に満たせるのが最大の特徴です。例えばエネルギーの地産地消は、自治体新電力だけでなく地域新電力にも共通するメリットです。また公共施設の電気代については、自治体新電力を使わずとも、電力自由化により参入してきた電力業者に対し入札などを行えば削減できます。しかし、地域経済循環や地域脱炭素化なども併せて同時に取り組もうと考えた場合、自治体新電力であれば、これが可能になるのです。

特に地域経済循環と地域脱炭素化を同時に行うことは、SDGs未来都市などで掲げられるような、経済、社会、環境のバランスをとりながら発展していく理念にもつながります。

03「自治体新電力」を始めた自治体の成功事例

2021年3月の時点で、自治体新電力には38の事業者が登録されています。その中から特に成功を修めている事例を2つ紹介します。

〈SDGs未来都市〉に選定された滋賀県湖南市の事例

滋賀県湖南市では自治体新電力の「こなんウルトラパワー」を中心にした地域活性化プランを推進し、SDGs未来都市に選出されました。

湖南市は以前から環境への意識が高く、1997年に京都議定書が締結された際に太陽光発電所を設置しました。この太陽光発電所は市民の出資により作られたもので、市民共同発電所のはじまりになりました。2012年には「地域自然エネルギー基本条例」を制定し、地域自然エネルギー地域活性化戦略プランがスタートしたのです。

2016年に電力が自由化されると、湖南市が50%程度の出資を行い、自治体新電力「こなんウルトラパワー」を設立。スマートエネルギーシステムの導入やエネルギーの地産地消により、地域活性化を目指す取り組みがはじまりました。

こなんウルトラパワーは太陽光発電を主とした市民共同発電所を設置、また家庭用太陽光発電による電力の買い取りを行い、それを利用者に供給している。さらにそこで得た利益を利用し、公共施設の照明のLED化したりエアコンを省エネ型のものに替えるなど、地域課題の解決を行っています。

こなんウルトラパワーの取り組みの特徴の一つが、電力を作って売るだけでなく、共同発電所への出資や太陽光パネルの設置なども、市民や市内の事業者など「自分たち」で行っているところです。湖南市の試算によれば、これまで湖南市でエネルギーを賄うために大規模電気事業者から電気を買うために支払われていた費用は、年間でおよそ153億円にものぼっていたといいます。湖南市ではこれを「市外に流出していた費用」と考えました。そこで、自治体新電力こなんウルトラパワーの取り組みなどにより、市外に流出していた費用を市内で循環させ、地域活性化につなげることを目指しました。

湖南市ではさらに、自治体新電力を主とした「湖南市版シュタットベルケ構想」を掲げ、2020年度のSDGs未来都市にも選定されました。

湖南市版シュタットベルケ構想とは、エネルギーなどの公共サービスを地域で行う会社をドイツ語で表わす「シュタットベルケ(Stadtwerke)」からきています。湖南市が中心となって、エネルギーの供給の他、公共施設の管理や修繕、設備の利用受付などを行うシュタットベルケを作ろうという試みです。

湖南市は2020年にはゼロカーボンシティ宣言も行っており、カーボンニュートラルの実現とSDGs、両方の実現に向けての取り組みが進められています。

日本初!自治体同士で再生可能エネルギーの連携協定を結んだ福岡県みやま市の事例

福岡県みやま市の自治体新電力「みやまスマートエネルギー株式会社」は地域の電力供給のみにとどまらない、革新的な取り組みで高い注目を集めました。

みやま市もまた、早くから地域活性化などを目的に再生可能エネルギーの利用に着手していた自治体の一つです。みやま市は全国的に見て日照時間が長く、太陽光発電の採算性がいいのが特徴です。市の支援もあり、家庭用太陽光発電を行う家庭の割合も高い他、市でも、使い道がない土地を利用したメガソーラーの立ち上げに出資を行うなど、さまざまな取り組みが行われています。みやま市で再生可能エネルギーを利用して発電される電気の量は、市内の昼間の電力をまかなえるほどになっているそうです。

みやまスマートエネルギー株式会社の特徴は、その革新性にあります。まず、2016年に電力が自由化されると、他の自治体新電力に先駆けて一般家庭への電力供給を開始しました。他にも、高齢者の見守りサービスや、市内のお店の商品を利用者の自宅に届ける宅配サービスなど、さまざまな事業を展開していきます。一般家庭向けに、電気料金と水道料金とをセットにしたお得なプランを用意するなど、自治体と連携している電力会社だからこそ可能になるサービスもあり、市民への認知も積極的に行われています。それらの取り組みにより、みやま市の低電圧電気の販売量は、他の自治体新電力に比べると飛び抜けて高くなっています。

自治体新電力というと、地域活性や地域貢献などを軸に、活動やサービスの範囲も地域に限定される事業者も多い中、みやまスマートエネルギー株式会社では、鹿児島県肝付町(きもつきちょう)と全国で初めて再生可能エネルギーの相互融通の連携協定を結ぶなど、他の地域の地域新電力との連携も進めていきました。さらに電力の需給管理については、東京都の外郭団体である東京都環境公社の支援を受けるなど、外部との連携を積極的に行っていったのが大きな特徴です。

もちろんみやま市でも、これまで市外の電力会社に支払われていた電気料金は、市外への利益の流出と考え、売電による利益が高齢者見守りや子育て世代支援といった生活支援サービスへと還元される取り組みも行われています。

みやまスマートエネルギー株式会社は2015年~2017年の決算では赤字となり、債務超過に陥るなどもあり、厳しい批判を受けましたが、外部有識者にアドバイザーを頼むなど、外部との連携も活発に行い、経営を回復。2020年の決算では1億4000万円の純利益を上げました。

04自治体×民間の連携がカギ

地域新電力や自治体新電力は再生可能エネルギーを利用するケースが多く、脱炭素やカーボンニュートラルの実現を目指して導入するケースも多いです。また電気代の支払い先が地元の事業者になることから、地域活性化やSDGsなどの観点からもメリットがあります。

とはいえ自治体新電力は、ただ導入すれば簡単に上手くいくような、夢の仕組みでもありません。実際に、2022年には世界的な燃料価格高騰を受け、自治体に電力供給を行っていた新電力による供給停止などが発生しています。これは電力を大手電力会社が電気料金を引き上げたため、大手電力から供給されている電気を使用しながら発電を行っていた新電力が電気を作れなくなったことで起こりました。

自治体が再生可能エネルギーを調達する上でも課題は多く、自治体には情報や技術が足りないことがネックになりやすいです。また小規模の新電力ではサービス多角化に向けた体制が作りにくいなどの課題を抱えているケースも少なくありません。そのため自治体と地域新電力のみの閉じた関係で事業を完結させようとするのではなく、必要に応じて民間企業の力も活用していくといいでしょう。

05まとめ

2016年の電力自由化を受け、新たに電気事業に参入してきた事業者を「新電力」、その中でも地域に密着した業者を「地域電力」さらに自治体からの出資を受けているものを「自治体新電力」といいます。自治体新電力は、公共施設の電気代削減やエネルギーの地産地消だけでなく地域経済循環や地域脱炭素化といった課題を一度に解決できる手段として注目を集めています。

【参考】
地域新電力会社「こなんウルトラパワー」を核としたシュタットベルケ構築事業(地方創生サイト)
エネルギーとしあわせの見えるまちづくり(みやま市公式HP)
日本初、エネルギーの地産地消都市(環境省)
こなんウルトラパワーを通じた湖南市の取組(環境省近畿地方環境事務所)

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