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日本は、GHG(温室効果ガス)の排出を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年までに達成すると宣言しています。カーボンニュートラルへの動きは全世界的なもので、2021年11月時点で、154カ国と1地域が2050年などの年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しています。
この記事ではGHGの削減に向けて日本がどのような施策を実施しているのか、また、日本企業はどのように取り組んでいるのかを詳しく解説します。GHG削減へ取り組むメリットや手順などについても紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
GHGとは「温室効果ガス」のこと
GHGとは温室効果ガス(Greenhouse Gas)のことです。大気中に温室効果ガスが増えると、太陽光で温まった地表の熱の一部が放射されないため地表付近の気温が上がり、地球温暖化につながります。
温室効果ガスには、二酸化炭素以外にもメタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがあります。気体によって温暖化への影響力は異なり、メタンは二酸化炭素の25倍、一酸化二窒素は298倍の温室効果があります。
18世紀後半の産業革命以降、化石燃料の大量消費が始まったことにより、大量の温室効果ガスも排出されるようになりました。そして、20世紀半ば以降、世界の平均気温は上昇し続けており、陸域と海上を合わせた世界平均地上気温は、1880年から2012年の期間に0.85℃上昇しています。地球温暖化の進行により、氷河の融解や海面水位の変化、洪水や干ばつなどの気候への影響、陸上や海の生態系への影響、食料生産への影響など、すでに人間の生活や自然の生態系に影響を与えています。そのような状況のなか、国際的に温室効果ガス削減に向けた取り組みを実施することは急務だといえます。
「パリ協定」は温室効果ガス削減に関する国際的取り決め
地球温暖化を抑制するための温室効果ガスの削減は世界各国で行われています。温室効果ガスの削減は2015年に採択された「パリ協定」という国際的な取り決めを達成するように進められています。
パリ協定は、京都議定書に代わる温室効果ガス排出削減のための国際的な枠組で、先進国や発展途上国によらず、すべての締結国が対象となっているのが特徴です。京都議定書は先進国だけを対象とするもので、アメリカの離脱や当時は途上国とされた中国などの不参加といった課題が残りましたが、パリ協定はそれらを克服する枠組となっています。
パリ協定の主な内容としては
- 世界平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2°C未満に保ち、1.5°C未満にの抑える努力をする
- 主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新する
などが掲げられています。
気候変動についての各国の政策決定においては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)という組織の報告書が基礎情報となっています。IPCCは世界中の科学者が協力し、論文などの文献に基づいて気候変動に関する最新の科学的知見を評価する報告書を定期的に発表しています。IPCCには、2023年3月時点で195の国と地域が参加しています。
IPCCは2023年4月に、「第6次評価報告書(AR6)」を発表しています。その主な内容は以下が挙げられます。
- 人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がない
- 1850〜1900年を基準とした場合、世界の平均気温は2011〜2020年に1.1℃の温暖化に達した
- 2021年10月までに発表された各国の温室効果ガス排出削減目標である「国が決定する貢献(NDCs)」を基にすると、21世紀中に1.5℃を超える温暖化に達する可能性が高い
- 温暖化を1.5℃又は2℃に抑制できるかは、カーボンニュートラルを達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準が大きく関わる
- 温暖化を1.5℃に抑制するためには2035年には2019年比で世界全体で温室効果ガスを60%削減することが必要
日本政府が行うGHG削減の取組
それでは、日本政府はどのようにGHG削減に取り組もうとしているのかを見ていきましょう。
2050年にカーボンニュートラルを実現する
パリ協定においては、全ての国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに提出、更新することになっています。日本はNDCとして、2030年度に2013年度比での温室効果ガスを46%削減を目指し、さらに50%削減に向けて挑戦することを掲げています。
そして2050年には温室効果ガスの排出を全体でゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指しています。
地球温暖化対策推進法
2050年カーボンニュートラル宣言を基本理念とし、企業や自治体の脱炭素化を促進する事業を推進するための計画や認定制度の創設、企業の温室効果ガスの排出量情報のデジタル化やオープンデータ化の推進が定められています。
地球温暖化対策計画
地球温暖化対策計画は、地球温暖化対策推進法に基づいた政府の総合計画です。政府が掲げる2050年のカーボンニュートラルや、2030年度の温室効果ガス46%削減目標の達成とさらに50%削減に向けた挑戦に向けて策定されました。再生可能エネルギーの拡大や、建築物の省エネ基準の適合義務付けの拡大、水素・蓄電池などの研究開発や社会実装への支援などの計画が立てられています。
企業がGHG削減に取り組むメリット
企業単位でGHG削減に取り組むことにもさまざまなメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのか紹介します。
光熱費・燃料費の低減
脱炭素経営をすすめていくにあたっては、エネルギーを効率よく調達・使用できるように業務プロセスの改善や設備投資を進める必要があります。例えば、社用車をEV化すれば、燃料費はガソリン車よりも大きく削減できます。
自社の競争力の強化
環境への意識が高い企業では、自社内だけでなくサプライヤーに対してもGHG削減を求める傾向が強くなっています。たとえばApple社では、サプライヤーに再エネ電力の使用を求めています。環境に優しい企業であることがそのまま環境意識の高い企業とのつながりを生む可能性は今後ますます高まっていくでしょう。
また、GHGの削減や再生可能エネルギーの積極的な導入により、企業としてのイメージアップや認知度の向上にもつながります。
組織力の向上
環境への意識の高さを求めるのは、従業員や就職志望者も同様です。既存社員のモチベーションの向上や優秀な人材獲得をする上でもGHG削減に取り組むことにはメリットがあります。
GHG削減に取り組む手順
GHG削減への取り組みは、大きく分けて3つのステップがあります
1. 知る:現状を知り、方針を検討する
自社の産業を取り巻くカーボンニュートラルに向けた動きを知ることから始めましょう。なぜ自社が所属する業界でカーボンニュートラルが必要なのか、カーボンニュートラルを目指すことが自社にどのように影響するのかを知ることで、自分ごととして捉えられるようになり、行動にも説得力が増します。その上で、自社のできること、方針を検討しましょう。
2. 測る:CO2(温室効果ガス)排出量を測定する
自社のCO2排出量を実際に測定し、どの項目を削減ターゲットとするかを選定します。
CO2の排出量は、事業者が提供するCO2見える化サービスはもちろん、 電力や灯油、都市ガスなどのエネルギー種別に毎月の使用量や料金から算定できるツールも日本商工会議所や各自治体から公表されています。
3. 減らす:CO2削減対策・目標を立てる
CO2の排出量データから、削減対策をリストアップし、実行可能な削減計画を立てます。似た環境にある事業所や設備同士を比較して、不自然にCO2排出量が多いものがないかをチェックしたり、繁忙期や閑散期で比較したりするなど、現実的に減らせるところがあるかを確認し、計画を実行していきます。
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日本企業のGHG削減取組事例
この項ではGHG削減に対する、各企業の個別事例について紹介します。
事例1:加藤軽金属工業株式会社
取引先からCO2排出量の開示要請を受けるなど、従来の素材サプライヤーからの脱却が求められていることを感じ、製品単位のCO2排出量の開示やグリーンアルミなどの先進的な取組を実施しています。
自社のCO2排出量は電気使用量の比率が高いため、運用改善と設備の更新による削減計画を立て、サプライチェーン排出量においては取引先や同業他社なども巻き込んだ協業施策を企画し、実証実験に着手しました。結果として光熱費の削減、先進的な企業イメージの獲得による優位性の構築、新規事業の創出につながっています。
事例2:株式会社スタンダード運輸
電気の使用による排出量に対して、照明のLED化や再エネ電力への切替を実施しました。燃料の消費による排出量は、エコドライブの徹底やEVトラックの導入を検討しています。自社WebサイトではCO2排出量を開示し、毎月更新。荷主や協業事業者といったステークホルダーと協力して、余分な配車や移動の削減やCO2排出量と労働時間の両方を削減を目指し、輸送業の新しい将来像「カーボンフリー輸送」の実現に向けて取組を行っています。
事例3:株式会社NTC
脱炭素経営の取り組み事例が少ない情報通信業で、他社に先駆けて脱炭素経営に取り組むことにより新たな強みの創出を実現しています。具体的には、働き方改革の実施による電気の使用に伴うCO2排出量の削減に成功しています。また、テナントやパートナー企業とも協力することで、バリューチェーン全体のCO2排出量削減に向けて取り組んでいます。
まとめ
GHGの削減は、カーボンニュートラルの実現という国際的な大きな目標に対して重要な項目です。そして、GHGの削減を企業として行うことにも大きなメリットがあります。環境に配慮することでコストダウンや新規事業の創出につながった例も多くあります。
まずは、自社の産業を取り巻くカーボンニュートラルの動向を知ることや自社のCO2排出量の算定をするところから始めてみてはいかがでしょうか。