カーボンオフセットとは|メリット・注意点・事例を網羅的に解説

気候変動への対応の必要性が叫ばれる昨今、企業の脱炭素活動の一環としてカーボンオフセットを実施する企業が増えています。とはいえ、「カーボンオフセットって具体的に何をするの?」と疑問に思う方も多いでしょう。本記事では、カーボンオフセットの基本知識と企業が取り組むメリット、実践する際の注意点、すでに取り組みを始めている企業の事例について解説します。

カーボンオフセットとは

カーボンオフセットとは、CO2などの温室効果ガスを削減する活動において、再生可能エネルギー電源への切り替えや省エネ性能の高い設備の導入、ガソリン自動車から電気自動車への切り替えといった直接的な脱炭素の手法を主体的に取り入れつつも、企業の事業活動上、削減が難しい排出に対して他の方法で埋め合わせをする考え方です。

カーボンオフセットの目的

カーボンオフセットは、企業がおこなう事業活動や人々が日常生活で排出する温室効果ガスを削減し、地球温暖化の抑制を目的としています。企業1社や個人だけでは、急激に大幅なCO2削減をするのは難しいものです。しかし、他の場所で実施されている温室効果ガスの削減・吸収活動への投資などをおこなうことで、自社が排出する温室効果ガスと相殺・埋め合わせをし、総合的に見て排出量を減らそうというのがカーボンオフセットの考え方です。

カーボンオフセットの効果・メリット

企業がカーボンオフセットに取り組むことで、CO2削減による持続的な地球環境の保護実現に近づきます。環境への配慮をした取り組みは社会的に大きな注目を集めており、SDGsは今や多くの人にとってスタンダードになりつつあります。企業の環境保全活動に対する積極的な姿勢を対外的にアピールすることは、取引先・株主・お客様などのステークホルダーに加え、就職や転職で企業選びをする人にとってもイメージアップにつながり、事業活動・人材確保の両面でメリットがあります

日本における温室効果ガス排出量の現状

環境省の調査によると、2020年度の日本国内の温室効果ガス排出量はCO2換算で11億5,000万トン、前年度比ではマイナス5.1%となっています。2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大による経済活動の冷え込みの影響が減少要因として挙げられますが、排出量が最も多かった 2013年度から2019年にかけて年々減少傾向にあることが見て取れます。    

出典)環境省「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」

しかし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2021年に発表した内容では、2011年から2020年の間の世界の平均気温は工業化前と比較して1.09℃上昇しました。このまま温室効果ガスを排出し続けると、今世紀末までに3.3℃から最大5.7℃の気温上昇が予測されており、CO2をはじめとする温室効果ガスの削減は世界的に急務となっています。
参考)JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター IPCC第6次評価報告書(2021)に関するまとめ

カーボンオフセットとカーボンニュートラルの違い

カーボンオフセットによく似た言葉に、カーボンニュートラルがあります。前述の通り、カーボンオフセットは「温室効果ガスの排出を他の活動で埋め合わせること」を指します。一方でカーボンニュートラルは、そこからもう一歩進み「人間がおこなう生活や事業で排出される温室効果ガスを人間自身の活動で削減・吸収し、CO2排出量をプラスマイナスゼロにすること」を意味します。排出してしまったCO2を埋め合わせるのではなく、社会活動の中に温室効果ガスを削減・吸収する取り組みを備えた「脱炭素社会」が実現した姿がカーボンニュートラルです。

カーボンオフセットの流れ

上記の議論を踏まえると、直接的なCO2排出削減施策のうちの、選択肢の一つとしてカーボンオフセットがあることがわかります。企業活動を脱炭素経営に移行させるフロー全体を踏まえ、取り得る選択肢を知ることが重要です。
環境省の「 中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック~これから脱炭素化へ取り組む事業者の皆様へ~Ver.1.0」によると、脱炭素経営に向けた有効な対策の流れとして3つのステップがあります。

①知る
②測る
③減らす

この流れに沿って、具体的に何をすべきか解説します。
参考)環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック~これから脱炭素化へ取り組む事業者の皆様へ~Ver.1.0」

STEP1「知る」:情報を収集し、自社の目指す方向性を検討する

脱炭素の潮流や施策開発は急速に進みつつあり、数年前と今とでは状況が異なることもあるでしょう。まずは自社の産業を取り巻くカーボンニュートラルの動きや、自社への影響を捉えるために情報収集から始めます。
そのうえで自社ができることと、その施策によって自社の企業価値や商品価値を向上できそうかどうかを考えます。脱炭素経営の考え方そのものがまだ新しいことから、具体的なイメージを持つために、上記ガイドブックのような事例集やセミナー等で先行事例が発信されています。業界内外を問わず、事例を広くリサーチすることが大切です。

STEP2 「測る」:CO2(温室効果ガス)排出量を把握する

具体的な施策に移る前に、自社が排出している温室効果ガスの量を把握することから始めます。工場や社屋などで使用される各種機器やエアコンなどの電化製品から出るCO2を算出します。このとき、商品を輸送する過程などサプライチェーンにおける排出量も見逃してはなりません。温室効果ガスの排出量を自社で測定する方法もありますが、自社の事業規模が大きいほど専門知識が必要で、ツールの開発に時間や手間がかかるため、専門の会社に依頼して正確な数値を把握するのも一つの選択肢です。企業によるサービスだけでなく、公的な団体がツールを提供している場合もありますので積極的に活用しましょう。

STEP3「減らす」:CO2(温室効果ガス)の排出を可能な限り削減する

STEP1で把握した温室効果ガスの排出量をもとに、どの部分から削減できそうかを検討します。このときに重要なのは、最も排出量が多い部分から着手することです。工場の機器の最新化など膨大なコストがかかる場合も少なくありませんが、将来のCO2削減量とコストが見合うかどうかをしっかり見極め、より効果の高い削減手法を選択することが大事です。

STEP2とSTEP3で温室効果ガスの削減を具体的に検討し、自社の事業活動に落とし込む中で「削減しきれない温室効果ガス」に対してオフセットを検討しましょう。次のセクションでは、企業がカーボンオフセットをおこなうための具体的な手段について解説します。

カーボンオフセットの具体的な手段

カーボンオフセットを実行するには、主に3つの方法があります。

クレジットの購入

企業のさまざまな活動で排出される温室効果ガスを埋め合わせるため、「クレジット」と呼ばれる排出権を購入する方法です。クレジットは、植林などの森林保護活動や省エネルギー機器の導入といった、温室効果ガスの削減・吸収につながるさまざまな取り組みによって生まれたCO2削減量を排出権として発行したものです。これを購入することで、自社が出す温室効果ガスを埋め合わせることができます。

自然電力株式会社ではJ-クレジットや非化石証書などのクレジット購入をご支援するサービスを提供しております。サービス詳細について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。

クレジット付き商品・サービスの提供

企業が販売する製品やサービスにクレジットを付与する方法もあります。その製品やサービスを買った消費者の日常生活で排出される温室効果ガスについて、埋め合わせを支援する取り組みです。例えば、ある新電力では同グループの旅行会社を通して提携先宿泊施設に滞在すると、旅行者が排出する1年分のCO2(約2トン)をオフセットできるキャンペーンを実施しました。こういった取り組みにより、環境意識の高い消費者の支持を得ることも期待できます。
参考)J-クレジット制度 旅行カーボン・オフセットキャンペーン(J-クレジット制度ホームページ)

寄付型オフセット

製品やサービスの販売、またはイベント開催時のチケット購入費用を寄付金として集め、カーボンオフセットに用いる手法を「寄付型オフセット」と呼びます。企業は売り上げの一部を地球温暖化防止活動に寄付することをあらかじめ明示し、一定の金額が集まった段階でクレジットを購入します。消費者は商品やサービスを購入するだけで手軽に環境保護活動に参加でき、企業側も環境を意識した経営をしている事例として広くアピールできるメリットがあります。

カーボンオフセットに取り組む際の注意点

カーボンオフセットに取り組む場合に注意すべき点は3つあります。

どうしてもCO2削減が難しいものだけカーボンオフセットを適用する

カーボンオフセットは、あくまでも「削減が難しい温室効果ガスの埋め合わせ」に用います。そのベースには企業自身のCO2削減の努力があるべきで、最初から何の活動もせずにCO2排出権(クレジット)を購入するのは誤りです。クレジットの存在を温室効果ガス排出の免罪符にするのではなく、まずは自社の経営活動で出てしまうCO2を正しく把握し、どうすればそれを減らせるのかを工夫しましょう。

CO2排出量・削減量の信頼性を担保する

近年のSDGsへの意識の高まりから、多くの企業がホームページなどで環境保護の取り組みをアピールしています。その一方で、温室効果ガスの排出量・削減量の算出方法が企業によって異なり、透明性や信頼性が担保されていないのではという懸念も広がっています。これについては環境省が各種ガイドラインの策定を随時おこなっているため、その内容に準拠した第三者機関に調査を依頼し、中立な立場で測定した情報を公開することが消費者や取引先の信頼獲得につながります。

専門家に相談し正しい情報を得る

カーボンオフセットは、初めて取り組む人には難しい内容も多く、何から手をつけるべきか悩む企業担当者も多いものです。インターネットでさまざまな情報を得られる時代とはいえ、それぞれの省庁から発表される情報は随時更新されています。正しい情報をもとに効果が得られる取り組みにつなげるには、専門家に適宜相談することが大事でしょう。

カーボンオフセットの取り組み事例

カーボンオフセットに実際に取り組む企業および自治体の事例をご紹介します。

全日本空輸株式会社(ANA)

航空会社のANAでは、プロペラ機材および提携航空会社の機材以外の便に搭乗した旅客が、航空便利用の際に排出したCO2排出量を対象としたオフセットキャンペーンを実施しました。キャンペーンの参加一口(500円)につき、60kgのCO2をオフセットできる取り組みです。
参考)経済産業省「カーボン・オフセットの取組事例」

神奈川県横浜市

横浜市では、2014年から2022年度まで海洋資源を活用した地球温暖化対策を実施していました。海洋生物や海藻などによって吸収されるCO2や、海洋エネルギー活用による低炭素化を22者の企業・団体がクレジットとして利用しました。
参考)横浜市役所 横浜ブルーカーボン・オフセット制度

株式会社ローソン

ローソンは「CO2オフセット運動」として、会員ポイントをクレジット(排出権)に交換したり、クレジット付き商品の提供を実施したりする活動をおこなっています。2022年2月末までにのべ3,875万人が参加し、オフセットされた累計CO2は30,122トンにものぼります。
参考)ローソン CO2オフセット運動

まとめ:カーボンオフセットの具体的な取り組みを開始しましょう

カーボンオフセットは、企業の事業活動上どうしても排出してしまう温室効果ガスに対し、現実的にできる方法として取り組みの可能性を広げます。今回ご紹介したカーボンオフセットの概要、注意点、取り組み事例をもとに、自社に合うものをぜひご検討ください。もし「色々調べてもよくわからない」という場合は、自然電力株式会社にお気軽にご相談ください。脱炭素経営に一歩踏み出しましょう。