GX人材とは|定義・背景・企業が実践すべきリスキリング手法をわかりやすく解説

近年、企業に求められる新たな人材として「GX(グリーントランスフォーメーション)人材」が注目を集めています。GX人材とは、環境問題への取り組みをビジネスに生かし、持続可能な成長を推進できる知識・スキルを持つ人を意味します。気候変動対策やエネルギー転換がますます重視される中で、企業が競争力を維持しながら成長を遂げるには、GX人材の育成が欠かせません。本記事では、GX人材の定義とその背景に加え、企業が実践すべきリスキリング手法についてわかりやすく解説します。

>自然電力の脱炭素リスキリングプログラム

GX人材とは

GX人材とは、GXの背景や重要性を正しく理解したうえで、カーボンニュートラルなどの基礎知識をもとにGX実現のための一連の流れを実行できる人を指します。企業が取るべき方針や具体的な手法を定めたり、各種制度を活用したりして、企業の持続的な成長のためにGXをリスク・コストだけでなく成長機会ととらえて行動を選択できる人材です。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、石油や石炭といった化石燃料を中心とした従来の産業構造・社会構造を、クリーンエネルギー中心へと転換する取り組みです。化石燃料を消費する際に多く排出されるCO2により、地球温暖化がますます深刻化しています。その進行を防ぐため、GXによる脱炭素社会への取り組みを通じて経済社会システムを変革させ、持続可能な成長を目指すことを目的としています。

GX人材の4分類とは

2050年カーボンニュートラル達成と経済社会システムの変革を目指すため、経済産業省が中心となって産官学が連携する「GXリーグ」が2023年に発足しました。翌2024年5月には、GXリーグによって「GX人材」の定義が発表され、4つの分類で求められる役割などを公表しました。
GXの分析や計画立案・実行といったそれぞれのプロセスで人材類型を設定し、必要なスキルなどを定めています。未だ未定義の部分もあるものの、企業における今後のGX人材育成や採用・人事評価の場面では、この定義が一定の方向性となる可能性も考えられます。


出典:GX推進スキル標準 人材類型の定義(GXリーグ GX人材市場創造WG)p.55

GX人材育成のために重要なリスキリング

GX人材を育成するには、自社の人材をリスキリングし、キャリアアップ・キャリアチェンジを図ることが重要です。経済産業省の資料によると、リスキリングは以下のように定義されています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
出典:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流 p.6(経済産業省)

リスキリングは単なる学び直しではなく、業務を通じて価値を創出し続けるために必要なスキルを身につけることを意味します。GXに対応した企業へと変革するためには、GXに対する深い理解を持った人材を育て、その社員と経営層が旗振り役となって組織全体へGXの重要性を波及させる取り組みが求められます。

GX人材が重視される背景

地球温暖化による気候変動が急速に進行している今、カーボンニュートラルをはじめとする環境問題に対する企業の取り組みは重要性を増しています。しかし、まだまだカーボンニュートラルを起点とした組織改善の活動は目新しいものであり、その分野の経験者が社内にいない、または人材市場にも多く存在しないために、需要に対して供給が足りない状況があります。
このことから、社内でGX人材を育成することやリスキリングの実施が注目を集めています。GXを実行に移すためには、以下のような高度なスキルとコミュニケーション能力を持つ人材の育成が必要となります。
・社内制度への深い理解
・最新動向を学習し、社内にインプットしていく専門性
・各部署と協議する交渉力
・GXを具体的な取り組みに落とし込む計画力
・GXを実行に移す推進力

GXに関連する国の施策や国際ルール動向

GX推進のため、国はさまざまな施策を推し進めています。これを企業の戦略に置き換え、実行に移す過程においてはGX人材の存在が大きな鍵を握ります。ここでは、GXにまつわる近年の国内情勢の変化について、企業活動への影響が大きく、かつGX人材の活躍が期待されるものに絞って紹介します。

GX経済移行債

2050年カーボンニュートラルと、産業競争力の強化および経済成長を同時に実現するためには、今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要と言われています。そこで政府は2023年度から10年間で、20兆円規模の「GX経済移行債」を発行することを決めました。これは、個別銘柄の「クライメート・トランジション利付国債(CT債)」として発行されます。幅広い投資家からGX投資の資金を調達することに加え、GX政策への理解醸成、国内外のトランジション・ファイナンスの拡大における呼び水となることを目指しています。

排出量取引制度(ETS)

排出権取引制度とは、個々の企業に排出枠(温室効果ガス排出量の限度:キャップ)を設定し、排出削減の確実な実施を目指すものです。枠を超えて温室効果ガスを排出した企業は、枠に余裕のある企業から購入できる、排出枠の取引(トレード)が選択可能です。この制度は2026年度から開始が予定されており、中長期的な温室効果ガスの排出削減に向けて、公平かつ透明なルールの構築が進められています。

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炭素賦課金の導入

CO2排出量に価格をつけるカーボンプライシングの一環として、化石燃料の輸入事業者などを対象とした炭素に対する賦課金(化石燃料賦課金)の導入も検討されています。GXに集中的に取り組む5年の期間を設けた上で、2028年度から制度が開始される予定です。はじめは低い負担金からスタートし、徐々に引き上げる方法によって、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させる狙いです。炭素賦課金の負担率を決定する制度設計は、今後順次検討がなされる予定です。

GX人材育成のために企業ができること

GXの推進を行う際、多くの企業が抱える課題として「脱炭素化を推進できる人材が育っていない」「中途採用をしたくても市場に人材がいない」ことが挙げられます。GX人材は社内の複数の部署と対話や連携が求められるポジションのため、GX人材の育成とGXに対する社内の理解醸成(GXリテラシーの向上)は同時進行で行うべきです。ここではGX人材育成のために企業が具体的にできる取り組みをご紹介します。

 

社員研修の実施

GXの知識を社内だけで教育することは難しいため、社外の専門家から教わるのが効果的です。講義に加えて、自社で実施できるGXの具体策やディスカッションも交えた内容を選び、社員への知識定着が図れるものを選ぶとよいでしょう。
また、GX推進担当者はこれまで別の業務を担当していた社員が任命される場合が多く、今まで存在しなかったポジションのために孤立しやすい傾向があります。脱炭素経営の重要性を経営層や社員が広く認識し、全社で協力してGXを推進するためにも、社員向けにGX意識醸成の研修制度を整えるのもおすすめです。

自然電力では、脱炭素経営を加速させる企業向け「脱炭素リスキリング」プログラムを提供しています。本プログラムでは脱炭素に関する知識の習得に特化し、世界が脱炭素に向かう背景、企業が脱炭素経営やCO2削減活動で取り組むべき内容や取り組むことで得られるメリット、取り組まないことで起こりうるリスク、実際の他社事例など、参加者が短期集中で広く脱炭素を学べるよう設計しました。また、講師とのディスカッションを通じて、脱炭素の潮流が日頃の皆さまの活動とどうつながっているのか、知識を具体的な日々の企業活動へと紐づけていきます。

詳細資料はこちらよりダウンロードが可能です。ぜひご確認ください。

脱炭素アドバイザー資格の活用

環境省では、企業が自社のGHG排出量の算定や、削減策の実施、財務面を踏まえた設備投資の検討や資金調達のあり方など、脱炭素経営を進めるにあたって多様かつ専門的な知見を備えたアドバイザーが必要となることから、ガイドライン要件を満たす民間資格を「脱炭素アドバイザー資格」として認定しています。これからGX関連業務に配属される人や、すでに実務経験がある人など、それぞれの知識レベルにあわせて試験を選択できます。知識の習得レベルについての客観的な評価として、このような資格制度を活用することも有効です。


出典:脱炭素アドバイザー資格の認定制度(環境省)

GXリーグへの参加

経済産業省が主導し、産官学連携でGXを推進する団体である「GXリーグ」に参加すると、GXに関する各種セミナー情報や国内の最新動向を知ることができます。GXリーグ参画企業に求められる取組は以下の通りです。

①⾃らの排出削減の取組(⾃ら1.5℃努⼒⽬標実現に向けた⽬標設定と挑戦を⾏い、その取組を公表する)
②サプライチェーンでの炭素中⽴に向けた取組(⾃らだけでなく、サプライチェーン上の幅広い主体に働きかけを能動的に⾏い、サプライチェーンのカーボンニュートラルを⽬指す)
③製品・サービスを通じた市場での取組(グリーン製品の積極・優先購⼊等により、市場のグリーン化を牽引する)
出典:GXリーグ参画企業に求める取組に関するガイダンス(事業会社向け)(GXリーグ事務局)p.4

2024年度は合計747者がGXリーグに参画しています。先進事例をもとに自社の取り組みを決定したい、社内の意識醸成をより加速させたい企業におすすめです。

まとめ

GX人材とは、持続可能な事業活動の実現を目指し、環境保護とビジネス発展の両立を図るスキルを持った人材です。気候変動やエネルギー問題への前向きな取り組みが求められる中で、GX人材の育成とリスキリングは企業の競争力を維持するために不可欠です。本記事で紹介した企業が実践すべきリスキリング手法をもとに、ぜひGX人材育成の第一歩を踏み出してください。

【参考】