排出権取引とは|活用方法・メリット・注意点を徹底解説

排出権取引は、脱炭素化に向けた重要な仕組みとして注目されています。企業がCO2などの温室効果ガスの排出を抑えるために導入する手法で、環境への貢献と経済的なメリットを両立させることができます。本記事では、排出権取引の意義と効果的な活用方法、そして注意すべきポイントについて解説します。

排出権取引とは

排出権取引とは、国によって定められた企業のCO2排出量上限(排出枠)に沿って、企業がCO2やその他の温室効果ガスの排出量を制限する取り組みです。排出枠を超えた部分については、他の企業などから排出権を購入することもできます。排出枠のことをキャップ、排出権の取引をトレードと呼ぶことから、「キャップ&トレード」とも呼ばれます。

排出権取引が重視される背景

排出権取引は、地球温暖化防止のため、自社でCO2排出削減が難しい部分について排出枠の購入をおこない、埋め合わせる仕組みです。この手法は脱炭素化をより具体的に推進する重要なものであり、近年は日本でも「キャップ&トレード」の導入が検討されています。

排出権取引において世界で先進事例を持つEUでは、2005年から欧州排出量取引制度(EU-ETS )を導入しました。2024年までにさらに目標を引き上げ、「1.5℃目標」と「EU全体で2030年までに、1990年比で55%以上のCO2排出量を削減する目標」に向けて制度の見直しもおこなわれています。

日本での排出権取引の現状

日本において、排出権取引制度は2026年の本格稼働に向けて準備している段階です。2022年からは東京証券取引所で「カーボンクレジット(排出量)市場」の試行取引が始まりました。この市場では、CO2排出枠を超過する企業と下回る企業の間で排出権を売買でき、 従来、基本的に相対取引で行われてきたカーボンクレジット取引において、より明確な価格相場で公正な取引ができるのではと期待されています。この市場で取引できるのは経済産業省が設立した「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ 」に参加する企業およそ700社で、これらの企業の実証取引を通して今後の方針が決まると考えられます。

排出権取引は炭素に価格をつけて排出者の行動変容を促す「カーボンプライシング」の手法の一つですが、もう一つの方法として「炭素税」もあります。各種燃料や電気の使用に伴ったCO2の排出について、その排出量に応じて税金を課す方法で、日本ではすでに2012年から始まっています。

カーボンプライシングについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

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炭素税についても別途解説しています。詳しくは以下の記事をご覧ください。

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排出権取引の流れ

排出権取引の具体的な進め方について詳しく解説します。

STEP1:CO2排出削減量を決めて排出枠を発行する

まず、企業はCO2排出量の基準となる年度と、CO2排出削減目標を決めます。例えば「2023年度は2018年度比で70%のCO2排出量まで抑える」と決めた場合、排出枠としては「2018年度のCO2排出量の70%」が発行されます。

STEP2:排出枠を分配する

企業全体の排出枠が決まったら、次は部門別・支店別などの細かい単位で排出枠を分配していきます。分配には3つの方法があります。部門や支店の過去の排出量をベースにして分ける「グランドファザリング方式」と、オークション(入札)によって各部門に有償で購入させる「オークション方式」、そして部門や支店が使っている技術や生産する物に着目して標準的な排出量(ベンチマーク)を決めて分配する「ベンチマーク方式」です。

 

STEP3:CO2排出量が排出枠を超える場合は、排出権を購入する

各部門や支店などは事業活動をおこなう中で、あらかじめ分配された排出枠を意識しながら自助努力によってCO2の排出量を削減します。しかし中には、十分な取り組みをしても排出枠を超えてしまう部門や、反対に排出枠が余ってしまう場合もあります。排出枠を上回った部門や支店については、余裕がある他部門から排出枠を移動させたり、他社の排出権を購入したりして排出枠内におさめるよう努めます。

STEP4:CO2排出量と排出枠の差分をチェックする

半期や年度末などの一定期間をおいて、CO2排出量と排出枠の差分を検証します。自社全体で見てCO2排出量が排出枠内であれば目標は達成となります。しかし、もしも排出枠を超過した場合は罰則を受ける可能性もあります。定期的なCO2排出量削減状況のチェックをおこない、思うように進まない場合はその理由をしっかりと検証して、次年度以降のCO2排出の削減計画に反映させることが重要です。 

排出権取引のメリット

排出権取引をおこなうことで、企業はさまざまなメリットを得られます。ここでは3つのメリットについて解説します。

CO2の排出量を削減した企業にとって経済的インセンティブになる

排出権取引は、各企業が自主的な取り組みによってCO2排出量を削減したうえで、排出枠の超過や余剰分を売買する仕組みです。排出枠が余った企業、つまりCO2排出量の大幅な削減に成功した企業にとっては、排出枠を販売した資金で新たな環境保護の取り組みをおこなったり、新たな取り組みへの投資を実行したりするきっかけが得られます。

温室効果ガス削減に向けたより安価な方法を選べる

これまでのカーボンクレジット市場では、クレジットの価格や取引が一部不明瞭で、初めて導入する企業にとって障壁になるという課題がありました。しかし、2022年から東京証券取引所で「カーボンクレジット(排出量)市場」の試行取引が始まったことからもわかる通り、排出権取引は日本政府の管理のもと、より公正でわかりやすい取引へと変化しようとしています。市場原理によって企業が安価なクレジットを選びやすくなり、効率的な温室効果ガス削減につながることが期待されています。

企業の経済活動に環境保護の観点が定着する

排出権取引が一般的になれば、企業の経営目標としてCO2排出量の削減がより高いレベルで掲げられるようになります。それにより、環境に優しい事業活動をおこなうという選択が社会のスタンダードになっていくと考えられます。環境保護活動に対する人々の関心と社会的機運がますます高まり、2050年の脱炭素社会実現に向けた具体的な行動が加速するでしょう。

排出権取引に関する今後の動きに注目

日本における排出権取引は、まだまだ検討・検証段階の部分が多く残されています。自社で排出権取引の導入をする際には、今後の社会の動きをきちんと把握することが重要です。

排出権取引の課題

排出権の分配は企業が立てた目標をベースにしておこなわれますが、このCO2排出量削減目標を正確に立てなければ、無理な目標のために現場に大きな負荷がかかる可能性があります。過去のCO2排出量の推移はもちろん、削減実績や社会の流れなどの複合的な要素を加味して正確性の高い排出枠を設定する必要があるでしょう。

また国際的に見ると、炭素価格が高い地域と低い地域の格差が存在します。将来的には、企業が炭素価格の高い地域から拠点を移し、炭素価格の安い国外に工場などの設備を設置することで炭素価格の負担を避けようとする動きも考えられます。これは「カーボンリーケージ」と呼ばれる現象で、世界全体でCO2排出量が増加してしまうことが懸念されています。

2026年の本格稼働に向けて状況を注視する

日本では経済産業省が中心となって排出権取引の検討や整備が進んでいます。現段階では、2026年に「カーボンクレジット(排出量)市場」での本格稼働が予定されています。しかし未だ検討中の内容や、細かな条件などの整備は準備段階のため、常に最新情報に注意を払う必要があるといえるでしょう。

まとめ

排出権取引は、あらかじめ割り当てられた温室効果ガスの排出枠に沿って、企業がCO2排出量を制限する取り組みをおこない、枠を超えた部分については売買でやりとりできる制度です。社会の脱炭素化を推進し、環境保護活動と企業が経済的なインセンティブを得ることを両立させる手法として注目されています。

排出権取引は日本でも国内市場の拡大に向けて検討が進んでおり、企業はますますCO2排出量削減に向けた積極的な取り組みが求められます。今回ご紹介した排出権取引の概要と現状をしっかり理解し、今後の脱炭素戦略を進める際にお役立てください。