インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?メリットや企業導入事例を解説

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは、企業が独自につける炭素価格のことであり、脱炭素化を推進するカーボンプライシング手法のひとつです。

本記事ではインターナルカーボンプライシングについて、基礎知識からメリット、導入方法、実際の事例まで紹介し、わかりやすく解説します。インターナルカーボンプライシングについて学びたい方は、ぜひご一読ください。

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは

ここではインターナルカーボンプライシング(以下ICP)について、カーボンプライシングの基礎や、カーボンバジェットの重要性を解説していきます。

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、CO2を代表とする炭素の排出量に価格をつけ取引することで、排出者の行動変容を促し、企業などの脱炭素化を推進する政策手法です。さまざまな種類があり、以下のように分類することができます。

  • 明示的カーボンプライシング
    CO2排出量に対し明確に価格を付す手法で、「炭素税」や「排出権取引制度」がある。
  • 暗示的カーボンプライシング
    間接的に排出削減の価格を課す手法で、「エネルギー課税」や「非化石証書」など。
  • インターナルカーボンプライシング(ICP)
    企業が内部でCO2排出量に対して価格を設定する手法。
  • 民間セクターによるクレジット取引
    VCS、Gold Standard、ACR、CAR などのボランタリークレジットのこと。

カーボンプライシングについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

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カーボンプライシングとは|脱炭素戦略における導入のポイント

インターナルカーボンプライシングの目的

ICPは、企業が独自にCO2排出量価格を設定することで、脱炭素投資をより推進するための仕組みです。以下の5つが目的のポイントといえます。

  1. 脱炭素投資を推進するインセンティブを生み出せる。
  2. 自社の企業活動におけるCO2排出量を定量的に把握できる。
  3. 問題点が明確になることで、社内の意識醸成を促進する。
  4. 企業が柔軟に価格設定できるため、世の中の脱炭素の動きに合わせた柔軟な意思決定ができる。

カーボンバジェットの重要性

人為的な温室効果ガス排出量は増加し続けており、IEA(国際エネルギー機関)は2023年度、前年よりCO2排出量が4億1,000万トン増加し、過去最高の374億トンになったと報告しました。温室効果ガス削減はいまや一刻を争い、企業は削減活動をより有益なものにするために、積極的な取り組みを行う必要があります。そのためにはCO2排出量の上限値を把握するカーボンバジェットの考え方が重要です。

カーボンバジェットとは、地球温暖化の気温上昇の一定の目標に対して可能なCO2排出量の上限のことで、「炭素予算」とも呼ばれます。IPCC第6次評価報告書は、世界の平均気温上昇を1.5℃以内まで抑える場合、2020年以降に排出できるCO2 排出量は残り500億トン (中央推計値の場合)しかないと述べています。

カーボンバジェットは、過去の排出量と気温上昇率を元に、将来の許容排出量を算定可能です。企業はこれに即した温室効果ガス削減目標を定め、ICPを導入することが求められます。

インターナルカーボンプライシングのメリットとは

企業におけるICPのメリットは多くあります。ここでは次の4つのメリットをご紹介します。

投資をする際の判断材料

CO2排出1トン当たりの価格を明確に付与することで、企業の事業活動のコスト効率化や排出削減、あるいは低炭素技術への投資をする際の判断材料とすることができます。

脱炭素推進を視覚化

CO2に対して価格が付与されるため、目に見えないCO2排出量の投資額・コストを可視化することができます。それまではCO2排出量に対して曖昧な評価しか下せなかったのが、価格付けされることで定量的な判断が可能です。経済的成果と気候変動対策を両立するための指針となります。

脱炭素のイノベーションが促進される

日本は2023年には、産業革命以降の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換するための「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、「成長志向型カーボンプライシング構想」が打ち出されています。具体的には以下の3つの措置が講じられており、脱炭素のためのイノベーション促進が期待されています。

  • 「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策等)
  • カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
  • 新たな金融手法の活用

国際イニシアチブの評価取得に有効

ICPを実施することで、企業は以下のような国際イニシアチブによる評価向上につなげることができます。

TCFD

「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」は、気候変動関連に対するリスクや機会に関するさまざまな情報を、金融機関や企業に開示する機関です。気候変動関連に対する情報を開示する手法として、ICPの実施を推奨しています。

CDP

「CDP」は、企業の気候変動対策について投資家が正しく評価できるようにするために、企業に情報開示を促している国際的な環境NGO団体です。企業や組織に対して気候変動対策をはじめとした環境課題に関する質問書を送り、回答をスコアリングしています。気候変動に対する質問書の中には、ICPに関する回答が求められています。

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世界と日本の状況と今後の動向

ICPの、世界と日本国内の動向はどのようなものでしょうか。企業の具体的な取り組み事例を紹介しながら解説していきます。

企業事例

ここでは次の3つの企業事例をご紹介します。

大和ハウス工業株式会社

大和ハウスは、Scope3のカテゴリー11(商品・サービス)におけるCO2排出量を削減し、建物やまちづくりの脱炭素化でカーボンニュートラルを実現することを目指しています。不動産投資の判断材料にICPを加味した投資判断のために、ZEH・ZEBのCO2排出量を基準とし、投資対象建物のCO2削減量との差を金額に換算するなどを実施しています。

株式会社西武ホールディングス

CO2排出量の削減を長期目標で2050年度にネットゼロ、短期目標では毎年度、前年度比5%削減を掲げています。これらの目標を達成するためにICPの導入を実施し、ICP価格決定にあたっては外部価格や同業他社価格、TCFDシナリオ分析実施時を想定し、7,000円/tCO2の価格と決定しています。導入対象は、太陽光発電、バイオマスなどの再生可能エネルギーの自家消費、外部売却などです。

ANAホールディングス株式会社

施設・設備機器の省エネ化や再生可能エネルギーの活用などで、温室効果ガス削減を2030年に2019年度以下、2050年に実質ゼロを目指しICPを導入しています。持続的なICP運用のために国際情勢や市場動向などのデータを収集し、各施策の進捗や目標の達成度合いを確認して 必要に応じて見直しつつ、戦略や目標に反映させています。

世界と日本の導入状況

世界でICPの導入をしているまたは導入を検討している企業は、2020年時点で2,000社を超えており、さらに増加傾向にあります。これらの企業の時価総額の合計は、27兆ドルを超えており、2017年時点の7兆ドルから大幅に増加しました。日本も幅広い業種の企業が、ICPの導入を行い、2018年の75社から2022年の202社まで急速に増加しています。

将来的な動向

日本政府はGXリーグを設立し、企業が自主的に設定する排出削減目標に向けた排出量取引(GX-ETS)を2023年度より実施しています。将来的に排出量取引にかかる知見や必要なデータ収集を行い、公平性・実効性を高める措置を講じ、2026年度より排出量取引を本格稼働する予定です。その備えとして、ICPを導入する企業は今後も増加することが見込まれます。

インターナルカーボンプライシングのガイドライン

ここからは環境省のインターナルカーボンプライシングのガイドラインに沿って、価格設定や活用方法など、ICPの導入方法を解説していきます。

ICP導入方法3つのステップ

ICPの価格設定検討には以下の3つがステップとなります。

価格設定の検討

  1. 価格の種類を理解
    ICPをどのように活用したいかにより使用する種類は異なるため、ICPの価格の種類を理解することが重要です。
  2. 設定方法を検討
    価格設定の方法は①外部価格の参照、②同業他社ベンチマーク、③過去の社内討議
    ④CO2削減目標に基づいた分析の4つに分類されます。
    それぞれ難易度と温暖化対策の実効性が異なるため、自社が取り組みやすい方法を選択します。
  3. 社内の合意レベルを確認
    社内での脱炭素投資への合意状況を把握し、それらを踏まえた上で価格を決定することが求められます。

【価格種類は2つ】

名称設定方法設定例
Shadow price

(シャドープライス)

明示的:想定に基づき炭素価格を(演繹的に)設定外部価格の活用(排出権価格など)
Implicit carbon price

(インプリシットプライス)

暗示的:過去実績などに基づき算定して価格を設定同業他社価格のベンチマーク、脱炭素投資を促す価格に向けた社内討議、CO2削減目標より数理的に分析

活用方法

目的が業界ごとに異なるため、なぜICPを導入するのか企業内で意識を共有しつつ投資基準に照らし、現実的な展開の方向性を提示することが求められます。例えば将来的な炭素価格の影響の把握だけで良いのか、投資基準まで組み込むのか。ICPが影響する経営課題に対して適切な目標を設定するため幅広い議論を行い、活用方法を検討することが大切です。

社内体制と今後の取り組みの検討

企業の実態に沿った時間軸を伴う推進が重要です。そのためには次の5つをポイントとして社内体制を構築しましょう。

  • 主体となる組織をどこにするのか
  • 適用範囲を担当組織・事業部と話し合う
  • 推進の時間軸を決定(企業がICPの算定の際、気候リスクを勘案している期間)
  • 経営層のコミットメントを得る
  • 長期的な環境ビジョン・社内目標の素案を作成する

まとめ

企業の脱炭素化を推進するツールとして注目されているインターナルカーボンプライシングについてさまざまな角度から解説しました。国内においても2026年からカーボンプライシングの本格稼働が予定されており、インターナルカーボンプライシングはますます拡大することが予想されます。

ぜひ本記事でインターナルカーボンプライシングの知見を深め、有益な脱炭素経営推進の一助としてください。

【参考】