環境分野のCDPとは|企業の脱炭素経営との関連性を解説

環境に対する取り組みがますます企業価値に影響を与える現代、環境分野の国際的なNGO団体であるCDP(Carbon Disclosure Project)が注目を集めています。企業の脱炭素経営を世の中に情報発信し、サポートするこの取り組みは、持続可能な未来に向けて重要な意味を持ちます。CDPが企業の脱炭素経営に与える影響と、すでに取り組みを開始している日本企業の事例もあわせてご紹介します。

CDPとは

CDPはイギリスで2000年に設立された国際的な環境NGO団体です。当初は「Carbon Disclosure Project」として脱炭素を働きかける団体でしたが、現在では森林保全や水質保護にまで活動の範囲を広げています。

CDPの目的と活動内容

CDPは環境課題に対する企業の取り組みを質問書という形でヒアリングし、各組織が環境に与える影響に関して情報開示をすることを促進しています。日本では2005年から活動を開始し、2022年には、東京証券取引所のプライム市場上場企業1,841社全社に対して調査の要請を行いました。CDPの目的は、企業の気候変動対策について情報開示し、投資家が正しく評価できるようにするための仕組みを構築することです。また、CDPはSBT(パリ協定と整合した温室効果ガスの削減を目指す国際イニシアティブ)やRE100(企業が事業活動で使用する電力を再生可能エネルギーで100%まかなうことを目指す国際イニシアティブ)の設立・運営にも携わる団体であり、環境保護に関する複数の国際基準の設定に関与しています。環境への取り組みという数値化が難しい部分について客観的な評価が得られるとして、CDPの活動は世界中の機関投資家から支持されています。

企業がCDPに参加する理由

企業がCDPの質問書に回答し情報開示をすると、投資家からの信頼獲得につながります。環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3分野に着目して投資先を決める「ESG投資」においても、CDPのデータを参照して企業の評価が行われています。企業のキャッシュフローや利益率のみで投資を決めるのではなく、近年は非財務情報である環境への貢献度合いも企業の価値をはかる一つの指標となりつつあります。

【関連記事】

ESG投資とは|企業にもたらす影響・メリット・具体的な取り組みを解説

また、CDPの質問書への回答を通して自社の環境への取り組みを開示すると、CDPスコアによる評価が受けられます。評価は全部で9段階あり、客観的な視点で気候変動対策の状況が可視化できるため、社会の中で自社の脱炭素経営の位置づけが明らかになり、環境保護への取り組みをますます促進するきっかけとなっています。

CDPの3つの質問書とスコアについて

CDPでは、世界中の企業に対して以下の3つの質問書を通して情報を集めています。

  • 気候変動
  • フォレスト
  • 水セキュリティ

「気候変動」では、企業のCO2排出量やカーボンプライシングの活用状況、事業戦略、ガバナンスなど幅広い内容で総合的に企業の温室効果ガス排出への取り組みをヒアリングします。

「フォレスト」では、森林を保全するために各企業がどのような取り組みをしているか、また企業が使用する木材や畜産物・農作物といった原材料の製造過程が森林減少に影響を与えていないかを調査します。

「水セキュリティ」では、事業計画が水に与える影響について質問を投げかけます。水資源の不足について、企業に改めて理解を促す役割を持っています。

CDPの情報を企業経営に活用するメリット

企業がCDPを通して情報開示することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは主に3つのメリットについて解説します。

持続可能な経営戦略の立案

CDPの質問書では、あらゆる側面から環境保護への取り組みが問われます。その問いかけを通して、企業は自社の脱炭素経営に向き合うことができます。取り組みが十分にできている部分と、 改善が必要な部分が明らかになることで経営戦略の立案にも役立つでしょう。特に気候変動の質問書ではエネルギー効率に着目していることから、省エネや再エネの取り組みを見直すことは、結果として持続可能な事業活動の推進につながります。

環境変化によるリスクを低減する

自社が事業活動を行ううえで環境に与える影響を正しく見積もり、環境変化に備えることはリスクマネジメントの観点からも非常に重要です。自社が将来直面する可能性があるリスクを見通し、今の時点からできる対策を講じることができれば、安定した経営が実現します。また、脱炭素経営が世界的にスタンダードとなった昨今、CDPの活動について消極的な姿勢を示すこと自体が企業にとってのリスクともいえるかもしれません。

ステークホルダーとの信頼関係の強化

CDPの気候変動の質問書では、「バリューチェーンで協働して環境保護に取り組んでいるか」という項目があります。もし取引先との協働がない場合は評価が下がる仕組みです。環境問題は1社でどうにかなるものではなく、目に見える成果を上げるためにさまざまなステークホルダーの協力が欠かせません。CDPへの回答をきっかけとしてバリューチェーンを見直し、ステークホルダーと信頼関係を深めながら共に環境問題に取り組む姿勢が重要です。

日本企業の事例

2022年のCDPの調査において、日本企業は75社が最高位のAランクを獲得しました。この数字は過去最多であり、世界でも日本企業のAランク獲得数が最も多いという結果になっています。以下ではAランクに選出された日本企業3社の取り組みを紹介します。

アサヒグループホールディングス株式会社

アサヒグループホールディングスでは、「おいしさと楽しさで“変化するWell-being”に応え、持続可能な社会の実現に貢献する」をコンセプトに掲げ、サステナビリティと経営の統合を進めています。2050年までにScope1〜3においてCO2排出量ゼロを目標とし、世界7カ所の工場では100%再生可能エネルギー由来の電力で製品を製造しています。さらにステークホルダーと協働して容器包装の製造や物流におけるCO2排出量削減も推進し、自然の恵みを次世代に残しつつ、持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。

株式会社NTTデータ

NTTデータでは、2022年度からの中期経営計画で「サステナビリティ経営」を掲げ、気候変動、自然保護、サーキュラーエコノミーを重要課題としています。温室効果ガス削減の取り組みでは、IT企業として電力使用量の大部分を占めるデータセンターのサーバー運用の省エネ化があります。サーバーの新しい冷却方式である「液浸冷却技術」の実証実験では、従来電力使用量に比べて最大97%の削減を達成しました。お客様やサプライヤーとの共創を通じ、サステナブルな社会の実現に全社的に取り組んでいます。

花王株式会社

花王では、2040年までにカーボンゼロ、2050年までにカーボンネガティブを目指して活動しています。製品ライフサイクルにおけるCO2排出量を2030年までに22%削減(2017年比)することを目標に掲げ、原材料の削減や天然原料の活用、製造過程での節水、包装容器のプラスチック使用量の削減などを推進しています。同社はCDPの調査で、2022年まで3年連続でAランクを獲得してきました。今後も社会全体のCO2排出量削減に貢献するため、製品・サービス・技術のさらなる発展を進めています。

まとめ

CDPは単なる企業の環境への取り組みをまとめたデータではなく、積極的な脱炭素経営の推進力ともなり得るものです。企業は透明性のある情報開示を通してステークホルダーとの信頼性を築き、持続可能なビジネスモデルを構築できます。CDPの活用は、企業にとって市場での競争優位性を生むことはもちろん、投資家からの支援を引き出し安定的な経営へとつながる重要な手段といえるでしょう。

【参考】