IPCCとは|組織の概要・活動目的・報告書の内容をわかりやすく解説

世界の気候変動対策について、さまざまなデータの分析をもとに科学的な知見を提供する組織「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、以下IPCC)」。IPCCが発表する報告書は、国際的な交渉や各国の環境問題への取り組み決定において重要な役割を担っています。今回はIPCCの基礎知識について解説します。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは、世界各国の科学者が発表する研究論文や観測データをもとに専門家が科学的な分析を行い、社会経済への影響や気候変動問題への対策などを盛り込んだ報告書を作成している組織です。

IPCCはどんな組織?

IPCCの目的は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な根拠を与えることです。人間の活動を起源とする環境変化とその影響、緩和の方策について科学的・技術的・社会経済学的な視点から評価を行うため、1988 年にWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)によって設立されました。
各国政府を通じて推薦された研究者が参加し、数年おきに気候変動に関する科学的知見をまとめた評価報告書を公表しています。2024年2月現在、195カ国・地域が参加しています。

IPCCを構成する作業部会とタスクフォース

IPCC は、総会とビューロー(議長団)、執行委員会があり、その下に評価対象ごとに分けられた3つの作業部会(WG)、そして国別の温室効果ガス目録に関するタスクフォースが置かれています。

作業部会(WG)

第Ⅰ作業部会(WG1) 気候システム・気候変動の自然科学的
自然科学的根拠 根拠についての評価
タスクフォース 第Ⅱ作業部会(WG2)

影響・適応・脆弱性

温室効果ガスの排出削減など、気候変動緩和のオプションについての評価
国別温室効果ガス目録(インベントリ・タスクフォース) 温室効果ガスの国別排出目録作成の手法の策定・普及・改定

出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(気象庁)

IPCCが発表する「報告書」とは

IPCCは、これまでおよそ5~6年に一度のペースで報告をまとめており、直近では2021年に「第6次評価報告書」が公表されました。IPCC報告書は世界中の政府が政策決定のために引用され、UNFCCC(気候変動枠組条約)をはじめとするさまざまな国際交渉の基礎情報にもなっています。地球温暖化という、これまで計測や科学的根拠の抽出が難しいとされてきたテーマに対して科学的根拠を与える重要な報告書です。

IPCC報告書の歴史

IPCCはこれまで、「第1次報告書」から「第6次報告書」までを作成・公表してきました。それぞれの報告書の概要は次の通りです。

第1次評価報告書(1990年) 人間活動に伴い温室効果ガスの大気中の濃度は確実に増加している
第2次評価報告書(1995年) 人間活動が歴史上かつてないほど地球の気候を変える可能性がある
第3次評価報告書(2001年) 過去50年間に観測された温暖化のほとんどが人間活動によるものである
第4次評価報告書(2007年) 全ての大陸とほとんどの海洋において、多くの自然環境が気温上昇の影響を受けている
第5次評価報告書(2014年) 温暖化の主な要因は、人間の影響の可能性が極めて高い
第6次評価報告書(2021年) 人間の影響が、大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない

「人間活動によって温室効果ガスの排出が増えていることは科学的根拠からみても明らかである」ことが、年を追うごとにIPCC報告書で明記されるようになりました。上記とは別でテーマを絞った特別報告書も毎年作成され、「第6次評価報告書」と同時期には、パリ協定で定められた「1.5℃目標」に関する分析や気候変動が海洋や氷雪圏に与える影響などがまとめられました。

IPCC報告書と世界の気候変動政策との関係性

IPCC報告書は、世界の気候変動政策に多くの影響をもたらしています。特に、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)とは密接な関係があります。COPは1994年発効のUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に基づいて開催される、世界最大の気候変動問題に関する国際会議です。2023年11月現在、198の国と機関が参加しています。
UNFCCCの採択には、1990年に公表されたIPCC「第1次報告書」が重要な科学的根拠となりました。また、パリ協定で設定された「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という国際合意も、IPCC報告書が科学的知見を提供したことから目標に盛り込まれました。

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気候変動対策のため日本が実施している政策

IPCC報告書やCOP決議の影響を受け、日本政府は近年新たな気候変動対策に踏み出しています。以下では日本が行う政策について紹介します。

地球温暖化対策計画

地球温暖化対策計画は2016年に閣議決定され、2021年に改正された、地球温暖化対策推進法に基づく政府の総合計画です。この中で掲げる目標として「2030年度において、温室効果ガスを2013年度比で46%削減すること、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けること」を表明しました。この内容は日本のNDC(国が決定する貢献)として国連気候変動枠組条約事務局にも提出されました。これにより、国の政策の継続性が高まるとともに、国民・自治体・企業がますます地球温暖化対策の取り組みを加速させることが期待されています。

革新的環境イノベーション戦略

革新的環境イノベーション戦略は、世界のカーボンニュートラルの実現と、過去のストックベースでのCO2削減(ビヨンド・ゼロ)を可能とする革新的技術を2050年までに確立することを目指すための方針です。2021年に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」では、日本の最終到達点に「脱炭素社会」を掲げています。その早期実現のため、内閣に設置された統合イノベーション戦略推進会議が主導となり、革新的環境イノベーション戦略において以下3つの構成で取り組むこととしています。

  1. 「イノベーション・アクションプラン」技術に関する5分野・16課題について、具体的なコスト目標等を明記
  2. 「アクセラレーションプラン」1の取り組みを実現するための研究体制・投資促進策
  3. 「ゼロエミッション・イニシアティブズ」社会実装に向けて、グローバルリーダーと共創・発信する取り組み

クリーンエネルギー戦略

クリーンエネルギー戦略は、日本政府が目指す「2050年カーボンニュートラル」や「2030年までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)」の実現を目指す中で、将来にわたって安定的かつ安価なエネルギー供給を確保し、さらなる経済成長につなげるための方策です。2021年に成立した「第6次エネルギー基本計画」に基づき、エネルギー政策の前提である「S+3E(安全性+エネルギーの安定供給/経済効率性の向上/環境への適合)」を追求しながら、日本がエネルギー需給において抱える課題を克服するべく、供給サイドだけでなく需要サイドのエネルギー転換の方策を検討しています。

まとめ

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気候変動に関する科学的知見を総合的に評価し、政策立案者や国際社会に提供する組織です。IPCCの報告書は世界的な気候変動の状況や影響、およびその対策に関する科学的知見をまとめたものであり、気候変動対策への正確な理解促進に役立っています。日本語訳された報告書は環境省のWEBサイトから確認できますので、興味がある方はチェックするとよいでしょう。

【参考】