LCA(ライフサイクルアセスメント)とは|意味・企業への影響を知って脱炭素経営に役立てる

LCA(ライフサイクルアセスメント)は、製品やサービスのライフサイクル全体を評価し、環境への影響を分析する方法です。企業が持続可能な経営を目指す上で、LCAは重要な意味を持ちます。LCAが企業に与える影響について理解し、脱炭素経営実現への第一歩を踏み出しましょう。

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは

LCAとは、製品やサービスの「原料調達・製造・流通・使用・廃棄・リサイクル」までを含めたライフサイクル全体で、どのような環境負荷が発生するのかを定量的・総合的に評価・査定する方法です。国際基準のISO14040/40に従って評価が実施されます。

LCAはなぜ重要?

近年、世界では気温上昇が深刻化し、パリ協定で掲げられた「世界平均気温の上昇を1.5℃に抑えるという目標」を上回る可能性も指摘されています。これは喫緊の課題であることから、産業分野における環境負荷を計測し、温室効果ガスの削減に努めることは必須の対策です。その中で、製品のライフサイクル全体を見渡してCO2排出量を計測するLCAが重要な意味を持ちます。

製品に関連するCO2排出量といえば「製造工程」のみが注目されがちですが、製品Aと製品Bを比較した場合、「製造工程に着目すると製品Bの方がCO2排出量が少ないが、原料生産や消費・処分などの工程も含むライフサイクル全体でみると製品Aの方がCO2排出量が少ない」という場合もあります。製造工程だけでなく全体的な視野でCO2排出量を評価できるのがLCAの特徴です。

LCAの実施フロー

LCAは以下の流れで実施します。

①LCA実施の目的と調査範囲の設定
  • 算定する事業モデルの決定
  • LCA実施の目的の設定
  • 対象影響領域(評価対象とする環境問題)の設定 など
②活動量データの収集・設定
  • プロセスごとのエネルギー消費量や、廃棄物の排出量を明らかにする
  • 原料や資材の輸送、製品の使用段階、処分プロセスも含まれる
③温室効果ガス排出原単位データの収集・設定
  • 化石燃料の燃焼に伴う発熱量や二酸化炭素排出係数などのデータを集める
④温室効果ガス排出量の評価
  • 温室効果ガス排出量を計算式で算出する
⑤レビューの実施
  • 組織内でレビューを実施し、算定結果の適切性、妥当性を評価する
⑥温室効果ガス排出削減効果等の表示
  • 温室ガス排出削減効果を製品カタログやWEBサイトで公表する

出典:再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン 第Ⅰ部 基本編(環境省)p.14-42

LCAとカーボンフットプリントとの違い

LCAとよく混同される概念に「カーボンフットプリント」があります。カーボンフットプリントとは、製品のライフサイクル(原材料の調達から生産・流通・使用・リサイクルまで)における温室効果ガスの排出量をCO2量に換算し表示するものです。

製品のライフサイクル全体を見渡す点ではLCAと共通していますが、カーボンフットプリントはCO2量として表示する点に特徴があります。一方、LCAは温室効果ガスだけでなく水資源への影響や騒音・貴重資源の枯渇といった幅広い範囲まで定量的に評価している点が異なります。地球温暖化を防ぐためにCO2排出量のみに着目するのではなく、生物多様性や森林保護の深刻化といった課題に対する取り組みを促すのがLCAの特徴です。

LCA(ライフサイクルアセスメント)を査定するメリットと課題

LCAを実施することで企業にいくつかのメリットがある一方、課題も残されています。以下ではLCAが企業に与える良い影響と、企業がLCAに取り組む際に注意すべきポイントを解説します。

製品・サービスの改善につながる

LCAを活用すると、企業が製品・サービスに関わるあらゆる活動を見直すことができます。製造のどのプロセスで環境負荷が高いのか、その解決のために何をすべきなのかを見つけることは、製品・サービスを環境に優しいものへと改善する第一歩につながります。各工程で資源や人的リソースの無駄を省くことで、環境を守りながらよりよい製品・サービスを市場に提供できる状態へと近づきます。

企業の環境への取り組みをアピールできる

LCAで企業がもたらす環境負荷を見える化し、今後の取り組みにまで落とし込んで情報発信すると、企業の価値と社会的信用を高めることにつながります。近年は一般消費者も環境保護への意識が高く、「似た製品・サービスならば、より環境に優しいものを選びたい」という人も増えています。LCAは消費者にとっても有益な情報であり、市場において環境負荷が低い製品が選ばれる好循環を生み出す可能性があります。

LCAの評価・査定は非常に複雑である

LCAは製品やサービスの環境負荷を定量的かつ多面的に数値化できる手法ですが、その評価・査定には製品のライフサイクル全体に関するデータを集める必要があります。製造プロセスが多岐にわたるものほどデータ収集は複雑になり、LCAを担当する社員への負荷増加も考えられるため、根気強く取り組む姿勢が求められます。自社のみで対応が難しい場合は、専門知識を持つ企業や機関に相談して現場の負担を減らすのも有効です。

LCA(ライフサイクルアセスメント)に取り組む日本企業

LCAに先進的に取り組んでいる国内の企業2社を紹介します。

花王株式会社

花王株式会社では全社的にLCAに取り組み、2009年に発表した「花王環境宣⾔」において、製品のライフサイクル全体のCO2排出量と⽔使⽤量を削減する⽬標を公表しました。LCAを算定した結果、特に製品の使用段階で環境負荷が高いことがわかったため、使⽤段階の環境負荷を低減する製品の開発・提供を続けています。顧客・ビジネスパートナー・社会とともにCO2排出量の低減に向けて取り組んでいます。

富士通グループ

富士通グループでは、環境に配慮した開発環境の強化を目指して、1998年からLCAを実施しています。サーバの運用・保守では、これまでオンプレミス(システム運用のためのソフトウェア・ハードウェアを自社で保有・管理する形態)が主流でしたが、クラウドサービスを活用することによって、高効率なサーバ運用・データ処理が可能となりました。富士通グループでは今後も製品のシェアリングやクラウド化が進むことを見据え、新製品の開発時にもLCAを活用し、製品の環境負荷低減に取り組んでいます。

まとめ

企業が提供する製品・サービスの環境負荷軽減が重視される昨今、ライフサイクル全体を網羅したLCAは今後さらに重要性を増すと考えられます。まずは自社の製品・サービスにおいて「どの製品・サービスからLCAに着手できそうか」を検討してみるのもおすすめです。本記事をきっかけにLCAを正しく理解し、脱炭素経営に向けた取り組みの一歩としてください。

【参考】