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カーボンネガティブの推進に向けて、ネガティブエミッション技術が注目されています。ネガティブエミッションとは、大気中のCO2を吸収・固定化する手法のことです。政府は脱炭素と、経済成長の同時実現を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)において、ネガティブエミッションを推進しています。
本記事ではネガティブエミッションの基礎知識や技術事例、そして今後の展望まで詳しく解説しますので、ぜひご一読ください。

目次
ネガティブエミッションとは
ネガティブエミッションの概要や意味、背景を解説していきます。
ネガティブエミッションの意味
ネガティブエミッションの「ネガティブ」とは、「マイナス」を意味し、「エミッション」は「放出」や「排出」を表す単語です。つまり「ネガティブエミッション」とは、「CO2排出をマイナスにする」という意味になります。
概要
ネガティブエミッションとは、大気中の CO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスを回収・吸収、貯留・固定化することで、結果として大気中のCO2排出量を除去する技術や取り組みの総称です。自然のCO2吸収・固定化の過程に、人為的な工程を加えることで加速させる技術やプロセスもネガティブエミッションに含まれます。
注目されている背景
ネガティブエミッション注目の背景には、カーボンネガティブの推進が挙げられます。カーボンネガティブとは、 CO2排出量をネガティブ(マイナス)にする取り組みのことです。CO2を最大限削減する努力をしても、最終的にCO2の排出(残余排出量)を避けられない分野もあります。特に重化学工業(鉄鋼、セメント、石油化学)部門、運輸部門にその傾向は顕著です。
世界の気候変動対策についてさまざまなデータの分析をもとに科学的な知見を提供する組織、IPCCの第6次評価報告書(AR6)のシナリオでは、日本の将来的なCO2の残余排出量は、年間約0.5~2.4億トンと推定されました。そのため残余排出量を相殺する手段として、ネガティブエミッション技術は非常に有効かつ必須と考えられており、注目が高まっています。
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多様なネガティブエミッション技術
ネガティブエミッション技術は「自然プロセス」、「工学的プロセス」の2つから成り立っており、さまざまな技術があります。ここからはネガティブエミッション技術について詳しく解説していきます。

自然プロセス
再生林やCO2を多く吸収する植物を選択し植林するなど、自然界によるCO2の吸収を人の手を加えることで早める手法のことです。
植林と再生林
植林は新規エリアの森林化、再生林は自然や人の活動によって減少した森林の再生・回復を行います。また地域に適した植物の品種の選択で、CO2固定化の効果や環境に良好な影響を及ぼすことが可能です。
農地に炭を撒くバイオ炭
バイオマスを炭化し炭素を固定する技術です。バイオ炭中の炭素は、難分解性であり、農地へ施用すると炭素が土壌中に貯留するとともに、土壌の透水性、保水性、通気性の改善などに効果を発揮すると言われています。
CO2を海洋生態系が吸収するブルーカーボン
ブルーカーボンとは、海藻などの海洋生態系に吸収・貯蔵されるCO2です。海洋への養分散布などで生物学的生産を促進し、CO2吸収・固定化を人工的に加速します。または海洋中で植物残渣に含まれる炭素を、半永久的に隔離して自然分解によるCO2の発生を抑制します。自然プロセスと工学的プロセスから成り立つ技術です。
| 【関連記事】 ブルーカーボンとは?グリーンカーボンと比較してわかりやすく解説 |
工学的プロセス
CO2の回収・分離を工学的プロセスで行う技術で、大気中のCO2を直接回収するDACやバイオマス発電を活用するBECCS、またCO2を貯留するCCS技術を組み合わせたDACCSなどを指します。
CO2を圧縮・貯留するCCSとCCUS
CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略であり、工場などから排出される排気ガスからCO2を回収・分離し、地下深くに貯留します。他にもCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)や、CCSとCCUを組み合わせたCCUSがあります。
炭素を大気から直接回収・貯留するDACCS
DACCSとは、DAC(Direct Air Capture)とCCS技術を組み合わせたもので、大気からダイレクトにCO2を回収し、貯留する技術のことです。
バイオマス発電とCCSとを組み合わせたBECCS
バイオマスとは「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」です。それらを活用して発電するのがバイオマス発電です。BECCS(ベックス)は「Bio-Energy with Carbon Capture and Storage」の略であり、バイオマス発電とCCSを組み合わせた技術のことです。
永久貯留・除去効果の検証が容易、持続可能なエネルギーの供給と、ネガティブエミッションの両立が可能という点から期待の高い技術です。
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世界と日本の動向と展望
ネガティブエミッションの世界や日本の動向と、将来的な展望を解説していきます。

海外主要国の動向
2023年時点の主要国の動向は次の通りです。
| 国名 | 認識と方針 |
| アメリカ |
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| EU |
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| イギリス |
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日本の現状
日本では国際的な現状を踏まえつつ、グリーンイノベーション戦略推進会議において、ネガティブエミッションについての議論が行われました。技術開発や産業化に繋げていくための施策が必要であるとの結論のもと、2023年に「ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会」が設置されました。
また、政府が促進しているGX(グリーントランスフォーメーション)の一環として「グリーンイノベーション基金」のなかで、CO2の分離回収等技術開発に上限402.7億円の資金投入が計画されています。
ネガティブエミッションの展望
米英欧を中心とした支援策や制度整備を背景に、世界的にネガティブエミッション市場が形成されはじめています。将来的な需要の拡大と、炭素除去価値の上昇が予測されており、カーボンオフセットの活用や回収したCO2を活用したカーボンリサイクル製品・燃料の生産も期待できます。
また国内産業のサプライチェーンの脱炭素化・クリーンエネルギーの安定供給を通した産業基盤の安定化にも貢献する可能性があります。
ネガティブエミッションの課題
脱炭素に貢献する可能性の高いネガティブエミッションですが、以下のような課題もあります。
コストの問題
ネガティブエミッション技術は、自然プロセスにおいては低濃度のCO2を低コストで固定できる点がメリットです。しかし工学プロセス活用の場合、例えばDACCSの場合、日本のCO2除去コストは2050年想定で 80~210 ドル/トンになるといわれています。希薄なCO2の回収に多くのエネルギーを消費するため、コストダウンは大きな課題です。
市場創出に向けたルール整備
気候変動対策としてのネガティブエミッションには、さまざまな意味や技術が含まれているため、現段階で国際的に確立した概念や位置づけが存在していません。そのため市場創出に向けたルール整備が遅れています。 技術ごとの開発状況やデータの取得に加え、クレジット創出か排出量削減への貢献かといった目的を踏まえつつ、必要なルールを国際的に策定していくことが求められます。
企業取組事例
海外と国内のネガティブエミッション技術の企業事例をご紹介します。
米国:Charm Industrial
米国のCharm Industrialでは、セルロース系バイオマスを集めて高速熱分解を行い、バイオオイルに分解しています。バイオオイルを井戸に沈め、固化することで恒久的に貯留を可能にしました。また、一般消費者向け、企業向けにCO2を除去するプランを提供しており、ひと月にCO2を1トン600ドルにてカーボンオフセットとして販売を実施しています。
日本:株式会社クボタ
株式会社クボタは、持続可能なカーボンニュートラル・資源循環型農業の実現を目指しています。自動運転農機の作業効率化によるCO2削減や、スマート水管理による水田からのメタン削減、バイオ炭などによるネガティブエミッションなどを実施しています。農業残渣(稲わら、もみ殻など)の高温ガス化などによる炭素固定と、エネルギー回収技術も開発中です。
まとめ
大気中のCO2を吸収・固定化する手法ネガティブエミッションについて、基礎知識や技術、そして事例から展望まで詳しく解説しました。
ネガティブエミッションは、今後もさらに進展していく可能性が高まっています。本記事でネガティブエミッション技術の知見を深め、ぜひ脱炭素への一歩を踏み出してください。



