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2025.1.16

垂直農法とは?日本での現状やメリット・デメリット、適した野菜を紹介

垂直農法とは、建物の内部や専用施設で、垂直に積み重ねた棚を利用して作物を栽培する農法です。その構造上、限られた面積でも導入可能であり、室内の環境制御によって生産も安定するため、日本農業が抱える課題の解決策のひとつとして期待されています。

そこで本記事では、垂直農法のメリット・デメリット、垂直農法に適している野菜、そして今後の展望について紹介します。

01垂直農法とは

垂直農法とは、垂直に積み重ねた棚を利用して作物を栽培する農法で、主に建物の内部や専用施設で導入されています。限られた土地を効率的に活用できるため、都市部や農地の少ない地域でも農業を行うことが可能となります。

具体的には、以下のような手法が用いられます

  • 土耕栽培
    一般的な土壌を用いて作物を育てます。土の重さやメンテナンスの難しさが課題です。
  • 水耕栽培
    水に溶かした栄養素を作物の根に直接供給する栽培手法。土壌が不要なため軽量です。
  • エアロポニック栽培(エアロポニックス)
    作物の根を空中に露出させ、霧状の水と栄養素を吹き付けて育てる栽培手法。水の使用量が少なく、成長速度が速いのが特徴です。
  • アクアポニック栽培(アクアポニックス)
    魚と野菜を同じシステム内で一緒に育てる生産手法。魚の排泄物を植物の肥料として利用し、循環型の持続可能なシステムを構築します。

アクアポニック栽培についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事アクアポニックスとは?メリット・デメリットや重要ポイントを紹介

02垂直農法のメリット

垂直農法のメリットを3つ紹介します。

限られたスペースで大量の作物を栽培できる

縦方向に栽培スペースを確保できる点は、垂直農法における最大の特長です。棚やラックを積み重ねる構造で作物を栽培するため、通常の農地に比べて必要な土地面積を大幅に削減できます。

この構造を活かして都市部や狭小なスペースでも高密度で作物を生産することが可能です。特に、土地資源が限られた地域や、住宅や商業施設が密集する都市部で効果を発揮しやすく、従来の農法では不可能だった場所での生産を可能にします。

これにより、食料生産の地産地消が進み、輸送にかかる各種コストや環境負荷が軽減されることで、フードマイレージの低減も期待できるでしょう。

室内の環境制御で安定的に生産を行える

垂直農法は室内での栽培が基本となるため、気温や湿度、光量、水分などの環境条件を細かく制御できます。これにより、天候や季節に左右されることなく、一年を通じて安定した生産が可能です。例えば、極端な高温や低温、干ばつ、豪雨といった気候変動の影響を低減し、作物の品質や収量を一定に保てます。

また、植物の成長に最適な条件を整えられるため、成長速度を高めたり収穫量を増加させたりすることも可能です。さらにエアロポニック栽培やアクアポニック栽培を利用した場合は、水の使用量も環境制御や再利用により抑えられるでしょう。このような安定した生産体制は、食品供給の安定化にも寄与します。

害虫が発生しにくいため農薬を低減できる

垂直農法は室内で管理された環境下で栽培を行うため、外部から害虫が侵入するリスクが大幅に低減されます。加えて、土壌を使用しない水耕栽培やエアロポニック栽培が採用されることが多いため、土壌由来の病害や害虫の発生も抑えられます。

その結果、農薬の使用量を低減し、環境負荷を軽減するだけでなく、安全で健康的な作物の提供が可能となるのです。農薬の使用を抑えることができれば、生産コストの削減や消費者の信頼獲得にもつながる点も垂直農法の魅力といえるでしょう。

03垂直農法のデメリット

垂直農法のデメリットを3つ紹介します。

設備投資とランニングコストを要する

垂直農法を導入する際には、高額な初期設備投資が必要な点はデメリットといえます。
例えば、LED照明、環境制御システム、栽培棚、水耕栽培用のポンプなど、専門的な機材やインフラを整備するためのコストが発生します。

また運用開始後も、電力代や設備のメンテナンス費用、消耗品の交換費用などランニングコストがかかります。

そのため、十分な資金計画がなければ経営を圧迫するリスクがあります。

栽培可能な作物が制限される

垂直農法では、主に軽量で成長が早い作物が栽培に適しています。例えば、葉物野菜やハーブ、イチゴなどは成果が得られやすい一方で、トウモロコシやジャガイモのような重量がある作物や広い面積を必要とする作物の栽培は難しいとされています。また、果樹などの長期間の育成が必要な作物も不向きです。

電力への依存と停電のリスクがある

垂直農法は、LED照明や自動制御システムなどの電力を必要とする設備に大きく依存しています。そのため、停電が発生した場合には、栽培環境が維持できなくなるリスクがあります。例えば、光や温度、湿度の制御が停止すると、作物の成長が滞ったり、品質が低下したりしかねません。停電が長期にわたれば、作物が枯れてしまいます。

こうしたリスクを軽減するためには、発電機や蓄電池などのバックアップ電源を準備する必要があり、さらにコストがかさむことになります。

04垂直農法に適した野菜

垂直農法に適した野菜を3種類紹介します。

葉物野菜(レタス、ホウレンソウなど)

葉物野菜は、垂直農法に非常に適した作物のひとつです。レタスやホウレンソウなどの葉物野菜は、軽量かつ比較的短い期間での収穫が可能なため、限られた空間で効率的に栽培できます。垂直農法は病害虫の被害を受けにくいため、害虫が着きやすい葉物野菜でも無農薬での栽培が可能となり、付加価値をつけつつ安定的に生産できます。

果菜類(イチゴ、ミニトマトなど)

イチゴやミニトマトといった果菜類も、垂直農法に適した作物です。特にイチゴは市場価値が高く、狭いスペースでも効率的に生産できるため、収益性の向上を期待できるでしょう。

また、ミニトマトは従来のトマトに比べて軽量で栽培が容易なため、多段式の棚でも育てやすいのが特徴です。さらにLED照明を活用すれば、糖度の調整や品質の安定化を図れます。

ハーブ類(バジル、ミントなど)

バジルやミントといったハーブ類も垂直農法に適しています。ハーブ類は収穫までの成長期間が短く、比較的小規模な施設でも効率的に栽培できます。また、ハーブは香りや鮮度が求められるため、収穫後すぐに出荷できる垂直農法の利点を活かせます。特にオーガニックや無農薬のハーブは、健康志向の高い消費者に人気があり、差別化を図る上でも有効でしょう。

05垂直農法の展望

垂直農法は比較的新しい農法であり、今後の展望に期待が寄せられています。以下では、垂直農法がどのような未来を描くかについて具体的に紹介します。

日本の垂直農法市場規模は成長する見込み

日本の垂直農法市場規模は、2024年から2033年までの年平均成長率は9.5%になると予測されています。特に人口密度の高さや農地の減少といった課題により、垂直農法の需要が増していることが背景にあります。

また、近年欧米や中国を中心に各国で垂直農法の研究開発や民間投資が加速するなか、日本においてもスタートアップ企業が一般的な植物工場の約5倍もの生産性を実現する完全閉鎖型植物工場の開発に成功していました。さらに、同工場の開発・事業化を推進することで垂直農業市場における国際競争力の強化を図ることも農林水産省が公表する資料内にて言及されています。

都市部での地産地消を実現

垂直農法は、都市部での地産地消を可能にします。メリットでも触れた通り、従来の農地に依存せず、ビル内や空きスペースを活用して栽培できるため、消費地の近くで農産物を生産することが可能です。

これにより、以下のような利点が期待されます。

  • 輸送エネルギーの削減
    長距離輸送が不要になることで、トラック輸送に伴う燃料消費量を削減できます。
  • CO2排出量の削減
    カーボンフットプリントの削減に貢献し、環境への負荷を軽減します。
  • フードマイレージの改善
    生産地と消費地の距離を短縮することで、地域内での資源循環が促進されます。

このように、垂直農法は都市部での持続可能な農業モデルを構築し、地域社会と環境への大きな恩恵をもたらすことが期待できます。

気候変動への対応策としての期待

農業においても温暖化や異常気象など気候変動による悪影響が問題視されるなか、垂直農法は新たな解決策の一つとして注目されています。従来の露地栽培は天候に大きく左右されますが、垂直農法は主に施設型の栽培システムを採用しているため、外部の気象条件の影響を最小限に抑えることが可能です。

再生可能エネルギーの活用

垂直農法は高い電力消費が課題として挙げられる一方で、太陽光発電のような再生可能エネルギーを活用することで、持続可能性の向上を期待できます。例えば、施設の屋根や壁面にソーラーパネルを設置すれば、栽培に必要な電力を供給可能です。

これにより、以下のようなメリットを得られます。

  • 電力コストの削減
    自家発電により、電力料金の負担が軽減されます。
  • エネルギー供給の安定化
    外部電力への依存度を下げ、停電時のリスクを軽減します。
  • 環境負荷の低減
    化石燃料による発電から再エネによる発電に切り替えることで、CO2排出量を低減します。

太陽光発電以外にも、風力発電やバイオマスエネルギーの活用なども想定されます。再生可能エネルギーを用いることで、垂直農法は環境負荷を軽減しつつ、経済的にも持続可能な農業モデルとして、農業法人や個人農家にとって魅力的な選択肢となるでしょう。

06まとめ

垂直農法は、限られた土地で効率的に作物を生産する新しい農業手法です。都市部や農地が限られた 地域での活用が期待されており、土耕栽培・水耕栽培・エアロポニック栽培・アクアポニック栽培など、さまざまな方式があります。

主なメリットには、「狭小スペースでの高密度栽培」「室内環境の制御による安定生産」「害虫リスクの低減による無農薬栽培」が挙げられます。一方、「設備投資や運用コストの高さ」「停電リスク」「栽培作物の制限」といったデメリットもあります。

適した野菜として、レタスやホウレンソウなどの葉物野菜、イチゴやミニトマトなどの果菜類、バジルやミントといったハーブ類が挙げられ、短期間で収穫でき収益性の高い品目が多い点が特徴です。

そして垂直農法は、持続可能な農業を実現するための有望な技術として、更なる発展と市場規模拡大が期待されています。とりわけ再生可能エネルギーの活用に関連して、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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【参考】
日本の垂直農法市場の将来動向と機会分析 2024年から2033年まで(PressWalker)
食料安全保障に資する完全閉鎖型植物工場の実現に向けた調査研究(農林水産省)

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