2024.11.28
6次産業化とは?メリットや成功事例、注意点、補助金について紹介
6次産業化とは、1次産業である農林漁業を基に、加⼯などの2次産業、サービスや販売などの3次産業まで展開する取り組みです。地域活性化や収益安定化などを実現するための手段として注目されています。
一方で、関心はあるものの取り組むのは不安という方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、6次産業化について、メリットや成功事例、失敗しないための注意点、活用可能な補助金を紹介します。
CONTENTS
- 01 6次産業化とは
- 02 6次産業化のメリット
- 03 6次産業化の成功事例
- 04 6次産業化で失敗しないための注意点
- 05 6次産業化に活用できる補助金
- 06 起業促進プラットフォーム「INACOME(イナカム)」
- 07 まとめ
016次産業化とは
6次産業化とは、農林漁業を1次産業としてだけではなく、加⼯などの2次産業、さらにはサービスや販売などの3次産業まで含め、1次から3次まで⼀体化した産業として農業の可能性を広げようとする取り組みです。より具体的には、収益の向上・安定化、雇用の創出、地域活性化、持続可能な農業の実現を目指します。1×2×3=6のため「6次産業化」と表します。
026次産業化のメリット
6次産業化の主なメリットは、以下の4つです。
収益の多様化と向上を期待できる
6次産業化では、農業生産に加えて、加工や販売までを自ら行うことで、収益源の多様化・向上を期待できます。
従来の1次産業としての農業は、天候や市場価格に左右され、収益が不安定な側面があります。そこで農産物の加工品やブランド化した商品の販売を行うことで、価格の安定化や高付加価値商品の提供が可能となり、収益向上のチャンスが広がるのです。
また、自ら流通や販売を管理し、中間マージンを省いて直接消費者に届けるビジネスモデルを構築すれば、さらなる収益性アップを期待できます。
雇用を創出できる
6次産業化に取り組むことで、農業だけでなく加工や流通、販売といった新たな分野での雇用機会が増加します。農業に特化した地域ではその他の雇用が少ないことが課題になりがちですが、加工施設の運営や物流、直売所のスタッフ、観光農業の企画運営など、多様な職種が生まれます。
これにより、地元の若者や移住者の就労機会が増え、地域の雇用創出に貢献できます。また、加工技術や販売戦略を学んだ人材が地域に定着することで、さらなる産業の発展と人材の流出防止にも期待できるでしょう。
地域活性化に貢献できる
6次産業化は、地域の特産品を活かした商品開発や観光資源の創出によって、地域の活性化に貢献できます。
自ら生産した農産物を加工して商品化し、地元の直売所や観光客向けに販売することで、地域の農産物の価値を高め、地域経済を活性化させることが可能です。例えば、自家製のジャムや漬物のような加工品を販売することで、地元の消費者はもちろん、観光客にも農産物の魅力を直接届けることができます。
さらに、観光農園や農業体験プログラムを通じて都市部からの観光客を呼び込むことができれば、地域への新たな経済効果をもたらせます。このように6次産業化は、直接的な収益を増やす手段であると同時に、地域の活性化につながる取り組みといえるのです。
持続可能な農業の実現につながる
6次産業化は、持続可能な農業の実現にも貢献します。農業生産だけに依存するのではなく、加工や販売まで一貫して行うことで、収益の安定化が図られ、農業経営の持続可能性が高まります。通常なら青果として出荷できない農産物を加工にまわせば、食品ロスの削減にもつながります。
また、地域内で生産から消費までを完結させる「地産地消」を促進することで、輸送による環境負荷を低減したビジネスモデルを構築できます。これにより、環境保護と経済成長を両立させる持続可能な農業の推進が可能となります。
036次産業化の成功事例
6次産業化の成功事例を、4つ紹介します。
アレルギーフリーなど付加価値のある商品を開発・販売
福井県福井市のSFV生産農場は、これまで未使用資源であった里芋の親芋を利用して、アレルギーフリーなど付加価値をもつ商品の開発・販売に成功しました。
同農場は、でんぷん質がもち米に近く、限られた土地でしか栽培できない上庄産の里芋に着目して商品化を決意します。また、里芋は低カロリーかつ乳製品アレルギーの方でも安心して食べられる点にニーズを見出しました。
そこで生産段階で廃棄される里芋の親芋を活用して、でんぷん粉含有率が高い上庄里芋の特色を活かした低カロリーで食物繊維が豊富、かつ乳製品未使用のアレルギーフリーといった付加価値のあるゼリーやアイスを開発します。パッケージは子どもが関心をもつデザインにして訴求性を高め、安心安全を重視する顧客の多い生協ルートを中心に販売を展開して売上を伸ばしました。
こうした取り組みの結果、2009年には約30万円だった里芋加工品の売上を、2019年には約1,200万円にまで拡大することに成功したのです。
地元の食材を用いた切り餅の製造・販売
兵庫県赤穂市の前川農産は、自家栽培の米と地元赤穂の塩をベースに地元食材を用いた切り餅の製造・販売に成功しました。
同社は区画整理事業で作付面積が減少したことを受け、収益確保のため自家栽培の米を加工した餅の製造・販売を開始します。米離れ抑制と地域の雇用創出に貢献したいという思いもありました。
そこで、地元赤穂産の食材を混ぜるなどして味にバリエーションをもたせた商品を製造。特に「赤穂みかん」を用いた切り餅は、地元みかん農家と3年の歳月をかけて開発したこだわりの商品です。少人数世帯や単身世帯、女性をターゲット層とした少量パックや、様々な味を楽しめるアソートパックなどを展開しました。
また、餅の成型機や包装機材の導入により、作業時間を削減し、営業時間を確保。納入先を訪問して陳列棚の交渉、売れ行きに応じた納品数調整、店舗販売を行うことで販売数をさらに延ばします。その結果、2016年には約552万円だった売上は2019年には約1,020万円にアップしました。
栗や米の生産・加工・販売の一貫体制を構築
熊本県山鹿市の株式会社パストラルは、栗や米を用いた洋菓子の生産・加工・販売の一貫体制を構築し、売上アップを実現しました。
同社はもともと地域農家が生産した農産物を原料としたアイス製造業を営んでいましたが、里山農業の衰退を憂いて自ら農業へ参入しました。こうして、生産から加工までを一貫して行える強みを活かし、栗本来のおいしさを味わえるモンブランや、米の選別時にできる中米を米粉にしたマドレーヌなどの焼き菓子を開発・販売しました。
「原材料の安定共有体制の構築と加工技術で、豊富な品ぞろえと高品質な商品の製造を実現」「広告宣伝費をかけずにSNSによる発信で広報を実施」などの工夫によって売り上げを伸ばし、2016年には約1億1,500万円だった売上が、2019年には約1億5,600万円になりました。
自家生産牛100%使用の加工商品の開発・販売
富山県氷見市の有限会社たなかは、自家生産牛を100%使用したレトルトカレーやビーフジャーキーなどを開発・販売し、売上アップに成功しました。
同社は、ブロック肉をカットする際にできる余剰肉を有効活用するために、加工品の開発・販売を開始します。加工品に使用する肉はすべて自社で肥育した和牛ブランド「氷見牛」であり、レトルトカレーを開発する際には、納得のいく味になるまで試作を重ねて氷見牛の柔らかい味わいを活かした商品に仕上げました。
販路は直営店にだけでなく、お中元やお土産品としての販売、ネット販売など、他業種と連携した販売を展開して売上を伸ばします。その結果、売上は2012年の約1億4,700万円から、2019年には2億7,000万円となりました。
046次産業化で失敗しないための注意点
6次産業化で失敗しないための注意点を、4つ紹介します。
ビジネスモデルが曖昧なまま見切り発車しない
6次産業化を成功させるためには、誰に(Who)、何を(What)、どうやって(How)価値を提供するかという明確なビジネスモデルが不可欠です。
ターゲットが地元住民なのか、観光客や都市部の消費者なのかを定め、そのニーズに合った商品に仕上げる必要があります。また、野菜を加工・販売する場合、製品自体の品質だけでなく、どのように消費者に届けるかが重要です。例えば、地元の直売所や道の駅で販売するのか、ECサイトを活用して広くアプローチするのか、販売戦略をあらかじめ決めておく必要もあります。配送方法も、信頼性の高い手段を確保しなければなりません。
さらに、製品やサービスを提供するだけでなく、顧客サポートやフィードバックの収集もビジネスモデルの一環として考慮すべきです。例えば、顧客からの問い合わせ対応を整えることで、消費者との信頼関係を構築でき、リピーター増加にも寄与します。このようにビジネスモデルを明確化して取り組んでこそ、先の成功事例のような成果を得られるのです。
需要・流通を考えずに賞味期限や販売シーズンが短い商品を作らない
6次産業化で加工品を作る際には、需要と流通を考慮する必要があります。例えば、賞味期限が極端に短い商品や、特定の季節にしか売れない商品を作ると、需要が限られてしまい、在庫を抱えるリスクが高まります。特に小規模な農家や事業者にとって、在庫管理や流通コストは大きな負担になるため、計画的に商品開発を行うことが重要です。
消費者が通年で購入できる商品や、長期間保存可能な加工品を提供することで、安定した売上を確保しやすくなります。
もし賞味期限や販売シーズンが短い商品を展開したい場合には、商品をどう流通させるか、どの販路を使うか、配送はどうするか、最終的な採算は取れそうかなどを綿密にシミュレーションしておくことが不可欠です。
具体的な営農計画無しに設備投資をしない
6次産業化に取り組む際、設備投資が必要になる場合がありますが、具体的な営農計画がないまま大きな投資をすることは避けるべきです。例えば、加工設備や冷蔵・冷凍設備などの導入は、初期費用が高額になるため、収益計画がしっかりしていないと経営が圧迫される可能性があります。
どのような商品をどのくらい作り、どの販路でいくらの収益を見込めるのか、具体的な数値を基にした計画を立てた上で設備投資を判断すること求められます。無計画な投資は、後々の資金繰りに苦労する原因になるため注意しましょう。
パッケージなどブランディングばかりに注力しない
6次産業化では商品開発や販売にあたり、パッケージデザインやブランディングが重要になるのは確かです。ただ、そればかりに注力してしまうと本来の目的である売上や利益の確保や、販路・配送手段の確立などがおろそかになりかねない点には注意する必要があります。
見た目にこだわるあまり、製品自体の品質やコスト管理がおろそかになることは避けなければなりません。消費者は最終的に商品の価値を品質で判断するため、ブランドイメージとあわせて、製品自体の品質や価格のバランス、いかに品質を保持して消費者に提供するかなどを考慮することが重要です。
以上から、まずは消費者にとって価値のある商品を提供することを優先し、その後に適切なブランディングを施すことが成功のカギいえるでしょう。
056次産業化に活用できる補助金
6次産業化に活用できる補助金について紹介します。
各地域の6次産業化支援事業補助金
多くの都道府県や市町村では、6次産業化支援事業補助金を用意しています。これらは、国の「農山漁村振興交付金」に基づくものであり、「農山漁村における所得の向上と雇用機会の確保」「地域資源を活用した価値創出に取り組む優良事業体数の増加」を目的として、様々な支援策が提供されています。
とりわけ「地域資源活用・地域連携推進支援事業」については、「事業期間の上限は2年間、交付率は1/2(上限500万円)」を基本とし、下記の取り組みが対象となります。
- 2次・3次産業と連携した加工・直売の取組
- 新商品開発・販路開拓の取組
- 直売所の売上向上に向けた多様な取組
- 多様な地域資源を新分野で活用する取組
- 多様な地域資源を活用した研究開発・成果利用の取組
この他にも地域ごとに多様な支援策が用意されているため、まずは取り組みたい事業を想定した上で、自治体に問い合わせるのが良いでしょう。
事業再構築補助金
事業再構築補助金とは、新市場進出、事業・業種転換、事業再編、地域サプライチェーン維持など事業再構築に意欲を有する中小企業の挑戦を支援するための補助金です。背景には、今なおコロナによる影響を受けている事業者や、ポストコロナに対応した事業再構築を行う事業者を重点的に支援することで、日本経済の構造転換を促す目的があります。
実際に「生産した農産物を使用した商品の製造・販売」「廃棄処分してきた規格外品を原料とした商品開発」など、6次産業化を推進するための事業が数多く採択されています。
06起業促進プラットフォーム「INACOME(イナカム)」
農林水産省が展開する起業促進プラットフォーム「INACOME(イナカム)」は、農山漁村における起業やビジネス拡大を支援するための情報提供・サポートを行うオンラインプラットフォームです。特に地方で新しい事業を立ち上げたい人や、6次産業化や農業ビジネスに関心がある人を対象に、必要な情報やリソースを一元的に提供することを目的としています。
2020年には企業と地域課題のマッチングプログラムを実施。2023年からは、地域課題の解決を望む地方公共団体などに対し、コーディネーターを派遣し、 マッチングによる事業化を促す取り組みを開始しました。またプロジェクトの一環として、地域資源を活用したビジネスコンテストも毎年開催されており、出場すれば専門家によるアドバイスや協賛企業から支援を受けるチャンスを得られます。
6次産業化を検討している方は、INACOMEの登録・利用を検討してみてはいかがでしょうか。
07まとめ
6次産業化とは、農林漁業を1次産業としてだけではなく、加⼯などの2次産業、サービスや販売などの3次産業まで含め、⼀体化した産業として農業の可能性を広げる取り組みです。「収益の多様化と向上」「雇用の創出」「地域活性化」「持続可能な農業の実現」など様々なメリットがあります。
全国各地で数多くの成功事例があり、本記事でも4つ紹介しました。一方で「ビジネスモデルの明確化」や「慎重な設備投資」など注意点もあるため理解しておきましょう。6次産業化に活用可能な補助金や農林水産省が運営する起業促進プラットフォームも紹介していますので、あわせて参考にしてください。
また、6次産業化と同様に「持続可能な農業の実現」という観点から、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。
下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力
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【参考】
農林漁業の6次産業化(農林水産省)
6次産業化の事例集(農林水産省)
農山漁村発イノベーションの推進について(農林水産省)
事業再構築補助金とは(事業再構築補助金事務局)
イナカム|農山漁村の可能性を最大化する起業プラットフォーム (パソナ農援隊)