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環境に対する企業の取り組みにおいて、カーボンクレジットが注目を集めています。本記事では、カーボンクレジットの概要と企業への影響、種類、導入時のポイントを解説します。地球環境を守りながらビジネスを成長させていくうえで、カーボンクレジットの仕組みがどのように関わるのかについて理解が深まります。
目次
カーボンクレジットとは
カーボンクレジット(Carbon Credit)とは、植林や省エネ機器の導入などによって生まれた温室効果ガスの削減・吸収量をクレジット(排出権)として発行し、取引できるようにした仕組みのことです。炭素クレジットとも呼ばれます。
企業がCO2排出の削減を最大限努力したうえで、どうしても削減できない温室効果ガスの排出についてカーボンクレジットを購入します。それにより、自社のCO2排出量を相殺して埋め合わせる行為をカーボンオフセットといいます。
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カーボンクレジットの役割と目的
カーボンクレジットが注目される背景には、2020年に当時の菅首相が国会で発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」があります。この高い目標に到達するには、国民一人ひとりの意識・取り組みももちろん重要ですが、とりわけ排出量に占める割合の高い産業活動における 取り組みが不可欠です。今やCO2排出削減への取り組みは企業の社会的責任となりました。そのような状況の中で、カーボンクレジットは、企業が環境を守りながら持続可能な経営活動を実施するための一つの手段として貢献しています。
カーボンクレジットの取引制度
カーボンクレジットの取引制度には「ベースライン&クレジット制度(削減量取引)」と「キャップ&トレード制度(排出権取引)」の2つがあります。
1)ベースライン&クレジット制度(削減量取引)
ベースライン&クレジット制度では、企業が温室効果ガスの排出を減らすプロジェクトの中で削減することのできたCO2の量がクレジットとして取引の対象となります。仮想的なベースライン(基準値)を設定し、その基準値との差分からクレジットを創出する制度です。例えば、製造現場で使用していた機器をエネルギー効率の高いものに入れ替えた場合、「古い機器を使い続けたときに出るであろう CO2排出量」と「新しい機器に変わった後のCO2排出量」には差が出ます。この差をクレジットとして取引するのがベースライン&クレジット制度の特徴です。
2)キャップ&トレード制度(排出権取引)
上述の「ベースライン&クレジット」方式で創出されたクレジットの他に、「キャップ&トレード」で取引される余剰排出枠も、一般的にクレジットとみなされ市場で取引されています。
キャップ&トレード制度は、「超過排出枠」を排出権(=クレジット)として売ることができる制度であり、企業にCO2排出枠が設けられている場合に有効な手段です。例えば、排出枠を100として、実際の排出量が60だった場合は40が余剰枠と考えられます。
「キャップ&トレード」で取引される余剰排出枠は、キャップという総量規制の中で使用するためのものです。単にCO2排出量を規制するだけでなく、余剰した排出枠を売買することで、CO2排出削減に成功した企業ほどメリットを受けられる仕組みです。原則として、企業の自主的なカーボンオフセットの取組に使用されるクレジットではなく、政府等によるカーボンプライシングの一手法として規制的な側面を持つことが大きな特徴です。
カーボンクレジットが企業に与える影響
カーボンクレジットの利用は、ESG経営の一環として企業の環境問題への積極的な取り組みを促進し、信頼を得るための一歩となります。顧客・取引先・投資家から評価を得ることは、市場における競争でも優位に働きます。環境にやさしい企業イメージにより、商品やサービスの選択にも良い影響を与えるでしょう。
さらに、カーボンクレジットは経済的な面でもメリットがあります。エネルギー効率の高い設備や再生可能エネルギーを導入することにより、長期的に見てコストの削減が期待できます。カーボンクレジットの積極的な利用は、企業が環境に配慮しつつ持続可能な成長を達成する助けとなります。
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットには、大きく分けて国や自治体が発行するものと、民間企業などが発行するものの2種類が存在します。それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。
日本国や国内の自治体が発行するクレジット
日本国の機関が発行するクレジットは「J-クレジット」と呼ばれます。省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によってCO2排出量を削減したり、森林の保護などによるCO2の吸収量を増加させた部分について、国が「クレジット」として認証する制度です。J-クレジットの発行側と購入側で資金が循環することで、社会全体でCO2排出量削減の取り組みに力を注ごうというものです。
この他に、各都道府県が独自に設けるクレジット制度もあります。東京都では、オフィスビルなどを対象とする世界初の都市型キャップ&トレード制度を独自に実施しています。2019年に策定された「ゼロエミッション東京戦略」をもとに、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを目指して、大企業への温室効果ガス排出量の削減を義務づけ、中小企業の省エネを促進しています。
民間企業や団体が発行するクレジット
国内で民間機関が発行するクレジットの例として「J-ブルークレジット」があります。これは、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が海洋植物などの保護・育成プロジェクトを対象に発行するクレジットです。藻場や干潟、マングローブ林などの海洋植物がCO2を吸収し、炭素として隔離・貯留すること(ブルーカーボン)に着目し、これらの植物と沿岸地域を守る活動により、気候変動の緩和を加速させようという取り組みです。
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海外のカーボンクレジット
国連や政府が運営するクレジット には、主に以下の2つがあります。
・CDM(Clean Development Mechanism/クリーン開発メカニズム)
CDMとは、先進国が途上国に技術・資金を提供し、温室効果ガスの削減プロジェクトを実施して得られたCO2排出量の削減分について、先進国が「クレジット」として自国の削減目標の達成のためにカウントできる仕組みです。
・JCM(Joint Crediting Mechanism/二国間クレジット制度)
JCMとは、日本国内の低炭素技術や製品・サービス・インフラなどを発展途上国に提供することにより、発展途上国の温室効果ガスの削減に貢献し、その成果を二国間で分け合う制度です。
また、海外で民間セクターが運営するクレジット(ボランタリークレジット)が存在します。ここでは主な2つをご紹介します。
・VCS (Verified Carbon Standard)
VCSは世界で最も利用されている信頼性の高いボランタリークレジットで、幅広い企業が活用しています。世界ビジネス協議会(WBCSD:World Business Council For Sustainable Development)や国際排出量取引協会(IETA:International Emissions Trading Association)などの団体が、2005年に温室効果ガスの排出量削減・吸収プロジェクトから発生するクレジットについて品質保証をおこなう基準を策定したものがVCSです。
・GS (Gold Standard)
GSとは、世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for Nature)などの国際的な環境NGOが2003年に設立した認証基準です。GSはボランタリークレジットとしてはもちろん、環境保護活動への貢献度が高いプロジェクトを審査・認証する役割もあります。CO2をはじめとする温室効果ガスの削減に貢献することを目指し、ボランタリークレジットの質を保証しています。
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排出回避クレジットと除去クレジット
カーボンクレジットは、創出するプロジェクトの種類によって、「排出回避・削減由来」または「炭素吸収・除去由来」に分類することもできます。
排出回避・削減由来のクレジットは、化石燃料による発電から再生可能エネルギーによる発電に切り替えた場合や設備効率の改善、輸送効率の改善、廃棄物管理などによって、CO2排出量を削減した場合に創出されるクレジットです。
炭素吸収・除去由来のクレジットは、植林や耕作地管理、DACCS(大気中のCO2を直接回収し貯留する技術)、BECCS(バイオマスエネルギー利用時の燃焼により発生したCO2を回収・貯留する技術)、バイオ炭の使用などによって、実際にCO2を吸収・除去することで創出するクレジットです。
近年では、一部制度やイニシアティブによって排出回避・削減由来のクレジットの新規登録を停止したり、実際に温室効果ガスを削減する手法で生まれる炭素吸収・除去由来のクレジットがより重要視される傾向があります。
カーボンクレジット導入時の注意点
カーボンクレジットは国内でも広がりを見せていますが、まだまだ課題が多く残る制度です。ここではカーボンクレジットを導入する前に知っておきたい注意点についてまとめました。
利用範囲がクレジットごとに細分化されている
民間や海外のカーボンクレジットも合わせると多くの種類が存在する中、カーボンクレジットの種類によっては、温対法などの公的な申請に使えるものと使えないものとが分かれているのが現状です。そのため、どれを導入すべきかの基準が不明瞭な場合があります。もし自社で導入する際に迷ったときは、カーボンクレジットを専門に扱う企業に相談するといいでしょう。
品質基準が整備途上である
カーボンクレジットの中には、品質の粗悪なものや国際的な第三者機関からの認証を受けていないものが存在します。これらを安易に導入すると、二重計上などの問題が起こる可能性があります。この問題を回避・整備するためのイニシアティブがすでに立ち上がっていますが、特に民間セクターが運営するクレジットについては、認証された高品質なものを調達するように心がけましょう。
クレジットの導入が企業戦略として妥当かを検討する必要がある
カーボンクレジットの導入においては、「まず自社でCO2排出量削減活動に取り組む」ことが大前提であることを把握しておかなければなりません。もしもCO2排出量削減の努力をせず、クレジットだけで温室効果ガスの削減目標を達成しようとすれば、実質的な気候変動対策にはつながらないためです。クレジット購入ありきではなく、あくまでもCO2排出量削減の努力を最大限行い、どうしても削減が難しいものにだけクレジットを使うということを念頭に置いておきましょう。
政府による制度変更の可能性がある
政府は東京証券取引所において、2022年9月から2023年1月までの期間、J-クレジットの市場取引の実証実験を行いました。この結果を受けて、売買区分の見直しなど制度の再定義が進んでいます。今後、国内でどのようにJ-クレジットが取引されるようになるのか、動きを注視する必要があります。
まとめ
カーボンクレジットは、企業が気候変動対策に取り組むことで持続可能な経営を実現するために重要な手段の一つです。環境に配慮した事業活動が求められる現代においては、企業の脱炭素への取り組みを加速させる優れたツールだといえるでしょう。しかし、カーボンクレジットはあくまでも補助的なものであり、基本的には各企業のCO2排出量削減に向け、利用エネルギーの抜本的な変換が必要である点は忘れてはいけません。これから急拡大が予想される国内のカーボンクレジットに注目しながら、カーボンクレジット活用を一つのきっかけとし、自社でも可能な範囲で脱炭素に向けた活動を実行してみてはいかがでしょうか。