カーボンプライシングとは|脱炭素戦略における導入のポイント | 自然電力の脱炭素支援サービス – 自然電力グループ

カーボンプライシングとは|脱炭素戦略における導入のポイント

カーボンプライシングは、企業などが排出する炭素に価格をつけ、排出者の行動変容を促すための取り組みを指す言葉です。近年の脱炭素社会の実現に向けた社会環境の中で、国内外で高い関心を集めています。本記事では、カーボンプライシングの意義と具体的な導入ポイントについてわかりやすく解説します。

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、企業や国が排出する二酸化炭素(CO2)に対して価格をつけ、経済活動におけるCO2排出量の削減を促す仕組みです。企業の脱炭素戦略の中で注目される手法の一つであり、環境保護への貢献とビジネスの成長を両立させるために欠かせない取り組みです。

カーボンプライシングの目的

カーボンプライシングの主な目的は、CO2排出量の削減と持続可能な経済の推進です。排出されるCO2に価格を付与し、課税や取引の対象とすることで、企業や個人に対してCO2排出量を削減するためのモチベーションを提供します。企業に対しては、CO2排出量がより少ないビジネスモデルや製品の製造を促し、脱炭素経営に向けた具体的な一歩となります。個人に対しては、CO2排出量が少なく環境に優しい製品を選ぶ際の指標となります。

これらの取り組みを総合し、環境保護活動を社会全体で加速させることがカーボンプライシングの目的です。

日本と世界のカーボンプライシング

日本では、政府が「2050年までにカーボンニュートラル社会を実現する」という方針を示したことをきっかけに、国や企業が自主的にカーボンプライシングを取り入れる動きが進んでいます。

世界に目を向けると 、カーボンプライシングを導入している国や地域は多く、1990年にフィンランドにおいて世界で初めて炭素税が導入されて以降、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダと各国での導入が進みました。その後、EU(欧州連合)では2005年から世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」が導入されています。この制度は一定の条件下で企業などにCO2排出枠を割り当てるというものです。2015年に同様の制度を導入した韓国では、直近3年間で平均CO2排出量が12.5万トン以上の事業者をはじめ、約600社を制度の対象としています。これは韓国国内の年間CO2排出量の約7割をカバーする数で、環境保護への高い効果が見込まれます。

今後は日本においても、政府の政策や消費者の意識向上によってカーボンプライシングの普及が期待されています。

【出典】「カーボンプライシングとは?」(経済産業省 資源エネルギー庁)

カーボンプライシングの種類

カーボンプライシングには以下の3つの種類があります。

・政府によるカーボンプライシング
・インターナル(企業内)カーボンプライシング
・民間セクターによるクレジット取引

それぞれ詳しくみていきましょう。

図:カーボンプライシングの分類
出典:脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?(経済産業省・資源エネルギー庁)

政府によるカーボンプライシング

政府が法律や規制を用いて、企業に対してCO2排出の料金を課す方法です。明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングの2つがあり、それぞれが目指す目的と手法は異なります。

明示的カーボンプライシング

明示的カーボンプライシングは、排出される炭素に価格付けを行う手法で、主に「炭素税」と「排出量取引制度」の2つの手法があります。「 炭素税」とは、燃料や電気の使用に伴うCO2排出について、その量に応じた税金を課すことです。日本では2012年より「地球温暖化対策のための税(温対税)」が段階的に施行され、2016年までに当初予定された最終税率まで引き上げが完了しています。化石燃料を使用すれば税金の負担が多くなることから、より環境に優しいエネルギーへの切り替えを促進する働きがあります。

一方で「 排出量取引制度」は、企業にCO2排出量の上限(排出枠、キャップ)を設け、上限を超える分については他の事業者などから排出枠を購入(トレード)することで相殺し、社会全体で排出量を抑制することを目的とした取り組みです。企業はCO2排出量をそれぞれの排出枠内に収めるために、CO2排出削減の努力が求められます。それでも削減が難しい温室効果ガスについては売買によって排出枠を増やす選択肢もあることから、「キャップ&トレード」とも呼ばれます。

「排出量取引制度」について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

【関連記事】
排出権取引とは|活用方法・メリット・注意点を徹底解説 

暗示的カーボンプライシング

暗示的カーボンプライシングは、炭素排出量ではなくエネルギー消費量などに税や負担金を課す手法で、主に「エネルギー課税」と「固定価格買取制度(FIT)」があります。「エネルギー課税 」とは、揮発油税・航空機燃料税・石油石炭税などの総称で、すべての化石燃料に対してCO2排出量に応じた税率を上乗せするものです。企業が燃料の選択や利用方法を検討する際の判断材料になり得る税です。

「固定価格買取制度(FIT) 」は、再生可能エネルギーで発電した電気について、電力会社が一定期間、一定価格で買い取ることを国が約束する制度です。対象となるのは、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスのいずれかを使って、国の要件に沿った事業計画を策定したうえで発電をおこなった電力です。再生可能エネルギーの設備導入には高いコストがつきものですが、この制度によりコスト回収の目途が立ちやすくなり、導入の後押しになっています。一方、固定価格買取制度で買い取りに要した費用は、電気の使用者(需要家)全てが電力使用量に応じて再エネ賦課金として負担します。

インターナル(企業内)カーボンプライシング

インターナルカーボンプライシングとは、企業がCO2排出に対するコストを自主的に設定することです。環境への影響を経済的に評価し、社内でのCO2排出量の削減を推進します。インターナルカーボンプライシングは各企業が独自で設定する指標のため、一律の金額があるわけではありません。CO2排出量を1トン削減するために「1万円のコストをかけるべきだ」と判断する企業もあれば、「自社の状況を勘案して5千円におさめたい」と考える企業もあります。CDPが2023年4月に発表した日本のプライム市場上場企業1,056社を対象に実施した調査では、インターナルカーボンプライシングを導入済みの企業は202社(19%)で、2021年の調査よりも59社増加しています。また今後2年以内に導入予定の企業は289社(27%)あり、日本企業のインターナルカーボンプライシングへの前向きな姿勢が伺えます。

民間セクターによるクレジット取引

民間セクターによるクレジット取引とは、いわゆる「ボランタリークレジット」と呼ばれるもので、企業間でCO2排出クレジットを取引する方法です。自社の事業活動におけるCO2排出量を減らす努力を十分におこなったうえで、それでも削減できない温室効果ガスについては他社から購入したクレジットで埋め合わせるという考え方です。近年多くの企業が取り組むカーボンニュートラルに向けた一つの手段として注目を集めています。

民間セクターによるクレジット取引について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

【関連記事】
ボランタリークレジットとは?意味・メリット・種類を網羅的に解説

自然電力株式会社では、J-クレジットや非化石証書などのクレジット購入を支援するサービスを提供しています。より具体的な脱炭素の取り組みをおこなうために、クレジットの種類や導入方法について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。

カーボンプライシング施策の導入が企業に与える影響

カーボンプライシングを導入することで、企業にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは導入のメリットと注意点、脱炭素経営においてカーボンプライシングが果たす役割を解説します。

カーボンプライシング施策を導入するメリット

カーボンプライシングの導入により、企業には以下のようなメリットがあります。

  • 市場での評価向上:カーボンプライシングの導入により、企業は自社の温暖化対策を一歩前進させることができます。他社に比べて温室効果ガスの削減対策が進んだ企業は 顧客や投資家からの評価も向上するでしょう。
  • 新たなビジネス機会の創出:脱炭素化が進む社会では、再生可能エネルギーやクリーンテクノロジーへの関心がますます高まり、それらの技術を用いた新たなビジネスチャンスが生まれます。また、これまでの商品やサービスが他社より低CO2排出で提供されていること自体が競争力となるでしょう。カーボンプライシングの導入により、こうした市場への参入がスムーズになることが期待できます。
  • ステークホルダーの環境意識を高める:カーボンプライシングは、CO2排出量の削減に経済的な価値を持たせる仕組みです。企業がCO2排出量の削減に取り組む意向があるというシグナルを対外的に示すことは、取引先・社員・関連会社などのステークホルダーの環境意識をより高めることにもつながります。

カーボンプライシング施策を 入する際の注意点

カーボンプライシング施策を導入する際には、いくつか注意点があります。

  • コスト管理:施策の導入には新たなコストが伴います。企業内ではさまざまな設備導入はもちろん、CO2排出量がより少ないビジネスモデルへの転換に伴う戦略立案、また必要に応じて担当部署の社員の教育も業務工数としてのコストになり得るでしょう。また海外と取引のある企業では、EUが導入する「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」もコストの一部です。対象となる鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素などは費用の支払いが義務付けられているため、企業はこれらのコストを正確に把握してビジネス戦略に組み込む必要があります。
  • リスク管理:カーボンプライシングは日本ではまだまだ導入の検討が始まった段階であり、価格変動に伴うビジネスへのリスクの予見が難しいとされています。競合他社や社会全体の動向を見つめながら、事業に与える影響を考慮に入れた戦略立案が重要です。

脱炭素経営においてカーボンプライシングが果たす役割

カーボンプライシングは、脱炭素経営を推進する上で重要な役割を果たします。カーボンプライシングの導入により、企業はCO2排出量の削減に向けた動きを加速することができます。脱炭素経営実現の大きな推進力を得ることにもつながるでしょう。また、カーボンニュートラルに向けて環境規制が厳しくなる中で、カーボンプライシングの取り組みは企業にとって環境対策をアピールするツールとして有効です。企業が社会的責任を果たし、持続可能な事業を推進するために積極的な行動を取ることは、顧客や取引先・投資家にとってプラスの印象を与え、企業の価値向上に貢献します。

まとめ

カーボンプライシングは、企業の脱炭素戦略の推進において重要な意味を持つ取り組みです。顧客や取引先に選ばれ続ける企業になるには、持続可能なビジネスへの積極的な方向転換が必要不可欠です。環境への貢献とビジネスの成長を両立させるために、今回ご紹介した導入のポイントを参考にして戦略的に実行しましょう。