EUタクソノミーとは|意味・目的・日本および世界の動向を解説

EUタクソノミーとは、EU域内において「環境に配慮した持続可能な経済活動」を定義した分類のことで、企業に対してその要件に沿った行動を促すために適用されています。グローバルを視野に入れたビジネス展開が求められる近年、EUタクソノミーの動きは日本にも影響を与えつつあります。今回はEUタクソノミーの基礎知識について解説します。

EUタクソノミーとは

EUタクソノミーは、2020年にベースとなる規則が採択されました。タクソノミーは日本語で「分類」を意味します。EUは「環境にやさしく持続可能なビジネスを進めるための分類・要件」を示し、その明確な基準に基づいて企業が経済活動を行うよう求めています。

EUタクソノミーの目的

EUタクソノミーの目的は2つあります。

1)グリーン、サステナビリティの定義の一貫性、ハーモナイゼーション
EUタクソノミーは、2050年までにネットゼロエミッションを達成することを目標に、「サステナブルな経済活動とは何か」を明確にします。一定の評価基準のもとにビジネスの持続可能性を評価し、透明性の高い情報を投資家へ提供して資金を獲得することを狙いとしています。

2)グリーンウォッシュの防止
グリーンウォッシュとは、企業が商品や自社の取り組みについて環境に配慮しているかのように見せかける手法のことです。具体的な内容を明示せずに「エコ」などの言葉を使ってアピールし、消費者に誤解を与える行為がこれに当てはまります。EUタクソノミーによって明確な基準が示されることで、グリーンウォッシュの抑止に効果があると考えられています。

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EUタクソノミーと「サステナブルファイナンス戦略」

EUは2018年に「サステナブルアクションプラン」を採択しました。このプランに基づき、EUグリーンボンド基準の整備や、投資家がサステナブルな投資を行う際に必要な情報を開示するプロセスを整えています。

加えて、2021年にはサステナブルアクションプランをより加速させるために「サステナブルファイナンス戦略」を採択し、金融セクターの支援をさらに強化しています。EUタクソノミーはこの戦略に欠かせない「分類・基準」を司る部分であり、環境目的や判定基準は2019年から施行されています。

EUタクソノミーの規則と対象

EUタクソノミーには、6つの環境目的と4つの判定基準があります。また、情報開示が求められる企業規模も公表されているため、以下で詳しく解説します。

タクソノミー規則(Taxonomy Regulation)とは

タクソノミー規則は企業の環境活動へのポジティブな影響を評価するためのものです。6つの環境目的と4つの判定基準から構成されます。

6つの環境目的

目標 要件
1.気候変動の緩和 再生可能エネルギー生成・貯蔵・使用やエネルギー効率改善により、温室効果ガス排出の回避・減少、除去促進による安定化
2.気候変動の適応 現在または将来の気候による悪影響の減少、気候変動への悪影響増加の回避
3.水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全 水資源または海洋資源の良好な状態
4.循環経済への移行 循環経済、廃棄物抑制、リサイクル社会への移行
5.汚染防止・管理 汚染からの保全を高度化
6.生物多様性とエコシステムの保全と回復 生物多様性や生態系サービスの保全や改善

出典:EUにおけるサステナビリティ開示関連規則の策定の動き(グリーンファイナンスポータル/環境省)p.7

上記のうち「1.気候変動の緩和」と「2.気候変動の適応」は2022年1月から適用開始しています。残りの項目は2023年6月に基準案が公表され、今後順次適用開始となる見込みです。

4つの判定基準

EUタクソノミーを満たす活動は、以下の4つの基準に基づいて判定されます。

1)「6つの環境目的」の1つ以上に実質的に貢献する
2)「6つの環境目的」のいずれにも重大な害とならない
…著しく環境を害するような活動を行っていないこと
3)最低安全策に準拠している
…労働における基本的原則を守り、労働者の人権保護を行っていること
4)専門的選定基準(上記1および2の最低基準)を満たす
…ライフサイクル全体の環境への影響、および短期的・長期的な経済活動への影響を考慮しているか、またその科学的根拠があるか

EUタクソノミーの内容は毎年見直しが行われているため、上記の基準についても細かな軌道修正が入る可能性があります。

EUタクソノミーで情報開示対象となる企業

EUタクソノミーにおいて、情報開示の対象となる企業は以下の通りです。

・EU域内で500人以上の従業員を有する企業
・EU域内で金融市場に参加している企業

これまでEUでは非財務情報の開示が求められるのは従業員500人以上の企業のみでしたが、今後は250人以上の企業もその対象とする動きがあり、最新情報への注視が必要です。

加えて、EUが定めるCSRD(企業サステナビリティ報告指令)では、気候変動への取り組みなどの非財務情報の開示ルールを定めています。2028年にかけて対象企業は最大5万社まで拡大するとみられ、日系企業の子会社や支店も対象となる可能性があることから、日本企業もEU域内でビジネスをする場合はEUタクソノミーへの該当有無について開示の準備を進める必要があるでしょう。

EUタクソノミーの世界への影響

EUタクソノミーの採択に従い、世界各国でも環境保護に関する新しい動きが活発化しています。以下では世界および日本へのEUタクソノミーの影響について解説します。

EUタクソノミーに関連する国際的な動向

EUタクソノミーの始動を受け、世界でも気候変動情報の開示についてさまざまな議論や検討が行われています。例えば、アメリカの証券取引委員会では、気候変動情報の開示に関して現行のルールを見直す動きがスタートしました。また、イギリスではロンドン証券取引所のプレミアム市場上場企業に対して、TCFDに沿った情報開示を要求しています。今後はスタンダード市場の上場企業まで対象を拡大する方針も示されています。

またG20におけるサステナブルファイナンスの議論では、2021年にイタリアで開催されたサミットにおいて「G20サステナブル・ファイナンス・ロードマップ」が承認されました。このロードマップでは、5つの重点分野として以下の項目が挙げられています。

  • サステナビリティ目標に沿った投資を実現するための市場開発、アプローチ
  • サステナビリティに関するリスク、機会、インパクトについて、比較可能かつ意思決定に活用できる情報の収集
  • 気候リスクに加え、生物多様性その他のサステナビリティに関する金融リスクを検討
  • 国際金融機関、公的ファイナンスとの整合性確保
  • トランジションファイナンス(脱炭素化へ移行する際の資金供給)に関する原則の策定

G20では今後も各国の進捗状況を定期的にフォローしながら、国際的な協力体制のもとで環境保護活動を推進する方針が示されています。

EUタクソノミーに関連する日本の動向

日本では、国際資本市場協会(ICMA)が発表した「グリーンボンド原則」に従い、世界に先駆けてグリーンボンドガイドラインを策定しています。グリーンボンドとは、企業や地方自治体が環境問題の解決を目指す事業を行う際、それに必要な資金を調達するために発行する債権のことです。

ガイドラインは国際原則の動きや国内の政策動向にあわせて随時更新され、2018年からは環境省によってグリーンボンド発行に要する費用の補助事業が始まり、同時期に「グリーンボンド発行促進プラットフォーム」も設置されました。これにより、2021年には国内でのグリーンボンド発行額が1.8兆円を突破しています。加えて、2022年6月からは東証プライム市場の上場企業を対象に、TCFDに沿った情報開示が開始されました。2023年1月からは有価証券報告書等にTCFD提言に沿うサステナビリティ情報の記載がスタートしています。今後も国内では、環境問題に関する事業への注目度アップや補助の充実がますます進むと考えられます。

まとめ

EUタクソノミーは、EU域内での経済活動について「環境に負荷を与えない、持続可能な活動とはどういうものか」を定義し、企業に対してその基準に沿った行動を促します。一定の基準のもとにビジネスの持続可能性を評価し、企業には透明性の高い情報提供を求めつつ、投資家には環境保護活動に積極的な企業への資金提供を働きかけます。

企業は積極的に温室効果ガスの削減に取り組み、中長期的な戦略を社外にしっかりと示すことが必要となるでしょう。EUタクソノミーに関連する日本や世界の動向は今後も変化し、世界の投資やビジネスに革命をもたらす可能性があることから、最新情報への注視が重要です。

【参考】